(2)
二、
山上幸太は家から結構離れた所にあるコンビニエンスストアで、昼間バイトをしていた。
家から遠く離れているのは、地元の人間と極力会いたくなかったからだった。
大学を中退し家に引きこもりつつもこうやって外で働いているのは、単純に小遣いが必要だったのと、家族に迷惑をかけたくないという思いからだった。
大学を中退したのには理由があった。正確には、やめさせられた、退学させられたというのが正しい言い方だった。
山上幸太は大学の工学部の学生だったが、それは単に数学がよくできたのと、親の望むままに勉強をし受験をしてきたからだ。小学生のころから勉強はよくできた。成績はかなり優秀で、いつも学年の五位以内には入っていた。第一志望の学校には間違いなく入学していたし、成績を落とさずに、問題も起こさずに過ごしてきた。運動は得意ではなかったが理系にありがちな非力さはなかった。むしろ、ほどよく鍛えていたほうだったので、運動部の連中からもそれなりのヤツといいう見られかたをしていた。ただ才能が運動方面にはなかっただけだった。大学は工学部に入った。それはそれで悪くない選択だと思った。専門的な知識を得ようというのが当初の目論見だったが、はっきりいって期待外れだった。大学に飽きてきた頃、仲の良かった先輩がゼミの教授に理不尽にいじめられているのを見て、その先輩を助けてやろうとした。
山上幸太はハッカーだった。小学校のころからコンピュータでプログラムを組んでいた。中学では匿名で一般向けのプログラムコンテストなどで優勝していた。高校ではすでに世界の主要な公共団体セキュリティを突破していた。こういった技能は表に出すことはなかった。幸太は自分の技術を表に出さないように神経を使い、巧妙に隠した。理由は二つあった。ひとつにはアクセスしている相手がいろいろとまずくて明るみに出てしまうのがちょっと憚られたからだった。こういった所に入るのは幸太にとってはあくまで遊びの一環で、自分の技術を試すいい機会というだけだった。そして、もうひとつは、単純で馬鹿な同級生達にいろいろと聞かれたり便宜を図れと言われるのが煩わしかったからだった。
表向きには優等生を演じ、裏では高等なハッキング技術を使った優秀なハッカー、これが山上幸太だった。
その幸太は、先輩を助けるためにその技を使った。そして、先輩を助けるためにはじめて他人に見せたその技術は、助けたはずの先輩が教授に告げ口をすることで他人に知られることになった。
幸太は裏切られた。それまで挫折を知らなかったが退学処分という屈辱を味わった。
しかし退学しても、なんとかなるだろうと幸太は思っていた。
このまま就職してもつまらなそうだったし、大学も惰性で通っていたから退学させられたところでどうでもよかった。ハッキングの技術そのものの技にも飽きていた。自慢の技術で人に裏切られたのだ。だから、今はあまり使っていなかった。他にこれといった趣味を持っていなかった山上幸太は、やりたい事がなくなってしまった。
大学を辞めた後、家にいてだらだらと過ごしていた。見かねた母親が、外で働いたら、と言ってくれた。親の言うことばかりきいていた幸太は、今回も母親の言うとおり外に働きに出た。そうして昼間、家から遠く離れたところで働いていた。
そこは最近の業績が最も良く、急速に有名になりはじめたコンビニだった。




