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(1)

一、

 山上幸太はコンビニのバックヤードの奥にある事務室でパイプ椅子に座って、店長の広田の話を聞いていた。面接だということで、幸太は広田の話をできるだけちゃんと聞こうと思っていた。しかし途中から、なんて胡散臭いヤツなんだと思うようになり、あまり内容を理解していなかった。ポケットの中のキーホルダーについているメモリカードが気になってズボンの上からその感触を確かめていた。

 幸太は最初から勤めるつもりはなかったので、どう断ろうかと考えていた。話の最後、広田に「やるか」と聞かれた時、自分に質問された言葉なのかどうかよくわからなかった。

 一〇秒ほど沈黙が続いたあと、広田が店内のほうへ声かけた。

「おーい、煙草たのむ。いつもの」

 思いのほか大きな声だったので、幸太は、今、面接に臨んでいることをはっきりと思い出した。

「440円です。店長」

 事務所のドアの隙間から、煙草を持った手が差し出された。少し低いハスキーな女の声だった。広田は煙草の箱をその白い手から取って封を切った。手は何かを待っているようにドアから差し出されたままになっていた。

 差し出された手に気がつかないのか、広田はそのまま煙草を一本取り出して火をつけた。深く吸い込みゆっくりと煙を吐き出した。

「いいか、これ」

 広田は火のついた煙草を指に挟み幸太のほうへわざわざ断った。今さらと思った幸太は答えなかった。

「440円です。店長」

 ドアの外から声の主がもう一度言った。

「そんなけちくさい事言うなよ。それにお前までその呼び方ぁ。ないぞ全く」

 広田は煙草を吸いながらそんな事を答えている。

「お金が無い。それでは窃盗ですね。通報しますか、店長」

 声の主は声のトーンをほとんど変えずにさらりと続けた。

「はいはい、まったく、なぁ、けちくさいったら……」

 広田は、じゃらじゃらいうポケットから小銭を出して手渡した。

「お、今日もいいね、ぴったりだ。はい、440円……。そんでどうする?」

 広田は手にしたお金を白い手に握らせながら幸太に聞いた。

「すみません。やっぱりやめます」

 広田の顔を正面に見てそう答えた。広田は、残念もがっかりも、そういう感情を表情に出さなかった。ただ、次の言葉が出てくるまで少し時間がかかった。

「そうか、ま、それじゃ、しょうがない。次は客として来てくれや。今日は楽しかった、じゃ!」

 広田はこう言い、幸太をバックヤードから店内に送り出した。

 丁寧に別れの挨拶をして幸太は店をあとにした。


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