(18)
十八、
つり上げられた元店舗だった物を見送っている時、包囲していた鷺沼のバスが動き出した。
「しまった、作業に見とれちまった」
動き出すバスをとっさに転がって避けた広田は、さっと起き上がるとトレーラーの方へ走り出した。バスはトレーラーの前を横切り駐車場を出ようとしている。
「追うぞ、幸太!」
「追うって、トレーラーじゃ追いつきませんよ」
「大丈夫! ハガネ、頼む、逃げらられっちまう」
牽引車の窓から顔をのぞかせて様子を見ていたハガネの顔が引っ込んだ。
「ち、やっぱ駄目かな……」
そうつぶやいている広田の声が聞こえてきた時、牽引車のドアが開き、なれた動作で店舗との連結部に立ったハガネがトレーラーの中に入っていた。
「しめた!」
広田が叫んでトレーラーに乗り込んだ。幸太も急いで駆け上がり広田に続いた。
レジまで来ると、広田が、幸太のノートパッドとバーコードリーダを持って立ち止まっていた。
「幸太、これを持ってバックヤード奥へ行け。おれは得物を集めてから行く」
そういってレジそばの商品棚を物色し、ロケットランチャーと弾薬を両手に抱えようとしている。
幸太は手渡されたノートパッドとリーダーを持ってバックヤードに入っていった。突然トレーラーの後方で、爆発音がしてトレーラーが揺れた。バックヤードに煙が充満した。壁の一部が外へはがれ落ち、駐車場の光がバックヤードに差し込んだ。煙の向こうにバイクにまたがったハガネの姿あった。
「あんなもの、どこに!」
「奥の手ってやつだ。幸太バイクをスキャンしろ!」
後から入ってきた広田が幸太に声をかけた。幸太は彼女のまたがっているバイクをスキャンしようとした。
「あれ、バーコードはどこに……」
幸太がバーコードを探しているとハガネが自分の股の間あたりを指さして言った。
「ここ」
指さしているバイクのタンクの部分に確かにバーコードがあった。彼女のはいたスカートがぎりぎりまでめくれ上がってバーコードを半分隠していた。
「失礼……」
躊躇しながらリーダーをかざしていると。はやく!、とハガネにせかされた。
今まで聞いたことのない大きな声だった。リーダーをかざしバーコードを読み取るのとほぼ同時にハガネがバイクのエンジンを始動させた。
「早く乗る!」
ハガネが指さしたほうを見ると、サイドカーが連結されていた。広田がそこに店内から持ってきたロケットランチャーと弾を放り込んでいる。
「逃げられる、早く!」
幸太は荷物のすきまを探してサイドカーに乗り込んだ。広田がハガネの後ろにまたがった。ハガネがアクセルを開け、クラッチを接続する。
バイクが勢いよく空中に飛び出した。
幸太はノートパッドを腕に抱え込みながらサイドカーから振り落とされないように座席にしがみついた。
地面に着地し大きく旋回する。その間もバイクの加速度が落ちることがなかった。
「行け、ハガネ!」
後部座席で広田が叫んでいた。
今日はここまで。
読んで頂いてありがとうございました。