(15)
十五、
レジの前に立っていると、天井のスピーカーから広田の声が聞こえてきた。
「じゃ、出発するぞ。幸太ちょっと動くから椅子にでも座っとけよ」
「幸太さん、これ」
山田が幸太に椅子を勧めた。簡単なパイプ椅子だった。トレーラーが動き出した。ゆっくりと左にカーブしている。パイプ椅子に座っていても固定されているわけでは無いので椅子ごと右の方へ流され、山田に幸太はぶつかってしまった。
「すみません」
「いえいえ大丈夫ですよ、最初はこうなっちゃうんですよね」
「山田さんは何回かこれに乗ったことあるんですか?」
山田はレジカウンターを掴みながら椅子で踏ん張っている。
「ええ、一回だけ。自分の店舗の時だけですけど」
トレーラーは直線道路を移動しているようで横に振られるようなことはあまりなかった。
「凄いもんですよ広田さんは。想像を絶している」
「確かに、こんな事、誰も想像できませんよ」
「いや、このこの事ではなくて、この事態の事です」
山田は人差し指を一本立ててグイと幸太の方へ身を乗り出した。
「こういうふうに実行にまで来れば、もう広田さんの勝ちです。段通りが凄い。今日も、私の時と同じだとは思うのですが、あっという間ですよ」
トレーラーは順調に進んでいる。
「ほら、道路を走っているはずなのに信号に止まらないでしょ」
山田は天井を見ているのか顔を上げてしゃべっている。トレーラーが時々跳ねるときに陳列されている商品が揺れる。ばらばらと商品が落ちないか心配しながら、山田に幸太は質問した。
「そういえば、深夜組の方々はどこに?」
「あの二人はバックヤードです。多分出撃の用意をしているのでしょう」
用意ってなんですか、と聞こうとしたとき、バックヤードから深夜組の二人が荷物を抱えて出てきた。長いケーブルを束ねた物やダイナマイトのようなものを持っている。彼らはその荷物をレジの棚に無造作に置いた。
「はじまったらたのむ」
そう言って、筋肉質の方はもう一度バックヤードの方へ引っ込んだ。もう一人の細身の方は指を二本だし、額の横で立てて幸太にウインクしてからついて行く。二人ともなんだか楽しそうだった。
そろそろ着くぞ、という広田の声が聞こえてきた。トレーラーがゆっくりと減速している。
「じゃ、やりますか」
山田が立ち上がりながら言った。再びスピーカーから広田の声が聞こえてきた。
「では二分後作戦を開始する。現地組いいか!」
『店長、リストたのんます』というくぐもった声がスピーカーから聞こえた。広田と無線かなにかで話している声だ。
「あ、そうだった、ハガネ、リストのスキャンたのむ……、おいハガネ」
「わたしは、今日何もしない。そう言ったはず。ただの傍観者」
スピーカーからあの女の子の声が聞こえてきた。
「ちぇ、つれないなぁお前は。しょうがない、幸太、リストまわすからスキャンたのむ」
幸太は何の事かわからなかった。リストってなんだ。
「あー、お前の端末に送る。それをレジでスキャンしてくれ」
と言っているそばから幸太のノートパッドに項目とバーコードのついたリストが並びはじめた。
足場一式、防塵防音シート一式、重機貸し出し2機、アスファルト、砂利、ロードローラー、荷揚げフック、大型飛行船一式、公的文書の抹消一式……等々。
リストはおよそ今まで見たことも無いものだった。
「幸太さん、さ、早く。深夜組のお二人も待ってますよ」
ノートパッドから顔を上げると、深夜組の二人がにやにやしながら待っていた。二人は道具を更に担いで来たようだ。山田さんはパイプ椅子を立ってバックヤードに消えた。
幸太はレジに立って、リーダーを使ってリストをスキャンした。
レジのディスプレイにリストの内容が一つ一つ表示されていく。あまりなじみのない額の金額が表示されている。リストの一式のスキャンが終わって深夜組の物品のスキャンをはじめたとき、スピーカーから広田の声が、再度聞こえてきた。
「じゃ、行くぞ。作戦スタート」
「ほれ、頼む、もうすぐ着くぞ」
深夜組が手に持ったダイナマイトの束をだした。どこでこういう商品が売られているのだろう、ダイナマイトにはバーコードがきちんと印刷されていた。
幸太は手に持ったリーダーでスキャンした。
レジに、ダイナマイト一式と表示された。
「なに売ってんだ、この店……」
幸太は深夜組の顔を見た。二人がにやりと幸太に笑いかけた。