(13)
十三、
幸太を簡単に紹介したあと、並んでいるスタッフを広田は紹介した。
「まずは深夜組。こいつらはいつもこの時間の店を任している凸凹コンビだ。おもにメカと武装を担当している」
深夜組と呼ばれているのは二人の男だ。一人は1m90cm近い筋肉質の大男で、太い腕がTシャツから生えていた。鍛え抜かれたボディビルダーのような体つきだ。武装担当なのかと幸太は思った。もう一人は筋肉質の男より少し背が高く、油で汚れただぶだぶの白いつなぎを着ていた。体つきはよくわからないが、頬のこけ方から見て痩せているように思えた。つなぎの袖をまくった腕から筋張った細い腕が見えていた。二人とも指先の切れた赤いグローブをしていた。
「そして、エックス。オレもこいつにだけはなかなか会えないんだ。いつもすれ違いでな。だからエックスって呼んでる。謎の男エックスだ」
エックスはどこにでもいそうな学生のような身なりだった。身長は幸太よりも少し低いぐらいで、服の上にコンビニの制服を着ていた。
「で、こいつは、今日何やるんだっけ?」
深夜組に広田は確認した。
「やだなぁ店長、店番ですよ。こいつは」
「でも、ハガネのやつが今日は……」
「無理矢理替わってもらったのよ……」
幸太が入ってきた入り口に、さっきレジにいた女の子が立っていた。
「ハガネです、よろしくお願いします。今日はなじみのコンビニの最後の日なので、同行します。ええ、わたしは眺めているだけですから」
ハガネはこう言った後は一言もしゃべらなかった。
「そか。じゃあ、エックス、留守番たのむ」
店内に入るドアを出ようとするエックスに声をかけた。
「おい、本当にあいつがエックスなのか、深夜組。前見た時とちょっと雰囲気違ってたぞ」
広田は疑いの目を深夜組に向けた。深夜組の二人はにやにやしながらうんうんとうなずいている。
「ま、いいか。そんでオレと、この人だ」
深夜組の後ろにいた初老の男が顔を出した。エックスより小柄で痩せた体格だったので深夜組の後ろにいることに幸太は気がつかなかった。
「この人は、あの倉田の店と、あの店より近いところにあった店舗のオーナーだった人だ」
「山田です」
山田と挨拶した男は、幸太へ近づき頭を下げた。
「山田さんはあそこのコンビニを経営してたんだが、本部のやり方が急に変わってな、つらい状態になったそうなんだ。あった売り上げが無くなってしまったり、商品の発注が無茶苦茶になったり、酷いお客さんが来るようになったりとかで、店の経営がおかしくなってしまったんだ。そこで……」
「そこで、私はここの広田さんに相談したんです」
山田が口をはさんで言った。
「ここの噂は他のコンビニの人から聞いていました。なんといってもいろいろなオーナーさんがいなくなって、店がなくなっていってしまいましたからね。次はうちかもなどと思っていました。でも、悪い噂じゃ無い。他の場所でがんばってるとか別の事業をなさっているとか、ここの直轄工場をまかされているとか。みなさんいろいろな条件でこの広田さんと契約しているという噂でした。私は、当時本当に苦しかったのでそんな噂を信じて思い切ってこの広田さんに相談しました」
「で、オレんとこに来た山田さんの話を聞いて、いろいろ調べたらあいつらのことがわかったんだ。山田さんの売り上げが故意に曲げられたり、した覚えのない発注がされていたりな。そんなことがわかったら今度は、幸太、お前が大学を退学させられたことや、あいつらの使っている手段っていうのがわかってきたわけだ。あいつらお前の使ったハッキングプログラムをかなり悪用してるぜ」
幸太は自分のプログラムがそんな事に使われているなんて信じられなかった。
「本当ですか、それ?」
「ああそうだよ。オレが調べたんだから、間違いない。探るのに結構な抵抗にはあったがな。まぁ、あとは自分で確認しろよ。できるだろ」
「そんな、もう、それでいいです。今日、なかったことにしちゃうんでしょ」
まあな、といったあと、広田は出発の段通りをしはじめた。