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十二、

 お前は昼間ゆっくり休んで着替えてから、夜、うちのコンビニに来い。

 広田にこう言われたので、幸太は昼間、自宅でゆっくり休んだ。こうなった以上倉田の店には戻るわけにはいかなかった。夜になって着替えをすまし外に出た。

 深夜二時前。あたりは静まりかえっている。広田のコンビニまでは自転車で五分ほど。半径10kmの間に無いって言ってたな、店から遠い人にとっては面倒なことだな、などと考え事をしながら自転車をこいでいたので、すぐ間に広田のコンビニに着いた。

 広田のコンビニは深夜営業のコンビニにあがちな光の溢れた空間を作り出していた。

 駐車場のマークされた自転車駐輪場に乗ってきた自転車を止めた。前に来たときより店内の様子が違って見えた。

 外から店を眺めていると開き戸から、以前、倉田の店で幸太に話しかけてきた女の子が学校の制服の上にコンビニのユニフォームを着て出てきた。やっぱりここのバイトだったのか、と幸太は思った。

「来たんですね、警告したのに、もう後戻りはできませんよ」

 女の子は抑揚のない声で話した。

「いや、後戻りって……そうなるのかな……」

 女の子はそれきり一言も話さず、じっと立って幸太を見ている。

 視線に耐えきれなくて幸太は改めて店内を見てみた。前に面接できたときよりも確実に店内が小さくなっていた。奥行きが半分になってしまっている。店に一歩入ると、すぐに奥の壁に行き当たるという感じだった。右奥の飲み物を並べておける冷蔵庫も半分の幅しかなかった。

 広田がどこにも見つからず店内に入ろうとした時、店の裏手から大きなエンジン音が響いてきた。何かが動きはじめたようだった。幸太は5mほど後ろへ下がった。

 入り口から見えている店内には変化がなかった。ただエンジンの振動によって商品が小刻みに揺れていた。店内が小さく見えたのは気のせいではなかった。店舗の奥行き半分が、屋根ごとスライスしたようにせり上がってきた。およそ2mほど、元の店舗より高くなったところでそれは止まった。浮き上がった建物の左側にトレーラーの牽引車がくっついていた。日本であまり見かけない型の物だった。牽引車は地下の格納庫のような所から出てきたようだった。

 牽引車が少しバックしせり上がった店舗部分と連結したような音がした。接続のショックで大きくせり上がった部分が揺れた。

 牽引車が前に動き出した。牽引車に引っ張られて店の奥半分が横に移動しはじめた。店舗の横幅分を移動した時トレーラーは止まった。動いた部分は前と後ろに大きなタイヤをいくつもつけた台車のようなものに固定されているようだった。元の店舗とくっついていたところは、白く塗られた壁になっていた。所々にドアの境目のような線とドアレバーのようなものがついている。牽引車との連結部側は店舗の外壁と同じ状態なので、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアがそのままあって、そこから中に入ることができそうだった。裏側は幸太が立っている位置から見えなかったが、恐らく店舗の壁のままなのだろうと幸太は思った。

 幸太がトレーラーを眺めていると、牽引車のドアが開き高い運転席から広田が降りてきた。

「こっちだ、打ち合わせをしよう」

 広田は、牽引車とトレーラーの連結部分にに近づき、階段状のフラップを設置した。それを上り、広田は『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアを開け中に入っていった。幸太も続いて中に入った。

 ドアから入ったそこは、コンビニのバックヤードスペースだった。入ってすぐ横にドアがあり事務所部分となっていた。さらに進むと店内に出た。このコンビニの残り半分部分だった。元の店舗とくっついていた部分は全て壁になっていて窓はなかった。バックヤード側は冷蔵庫やデザートを入れておく什器などがあって、商品もそのまま陳列されていた。レジ側は事務所スペースがある関係で壁となっていて、インフォメーションボードや販促ポスターなどがそのまま貼られていた。元の店舗とくっついていた部分と事務所部分の壁に挟まれた部分にカウンターがわずかにあってレジが一台置いてあった。店内にある商品棚にもお菓子やパンなどがそのまま陳列されているものもあったが、一つだけ何か銃器のようなものが並べられていた。天井の電灯はいつもの半分の量に抑えられていた。エンジン音と細かい振動がなければ、節電しているコンビニといってもおかしくなかった。

 この残り半分になった店内に広田と、ほかに数人が並んで待っていた。

「なんですか、これ」

「すげぇだろ、コンビニ半分を改造したんだ。この部分で移動できるようになってるんだぜ。移動式コンビニエンスストアだ。今日はこいつで奴らの所へ行くんだ」

「行くってこれでですか。どんな意味が……、役に立つんですか」

 幸太は店内の様子を眺めながら聞いた。広田の考えが全くわからなかった。普通の車で行けばいいのにと思った。この移動式コンビニで、なかったことにするということがうまく結びつけられなかった。

「まぁそう言うな。夢だからさ形にしてみたんだ。ロマンだよ。こいつは凄いことになってるんだぜ。それはおいおい、な。さて、まずは」

 広田はそう言って店内にそろっていたスタッフに幸太を紹介した。

「こいつが山上幸太だ。前に話したろ凄腕だ。今日どっかでその技を披露してもらおうかな」

 今日の切り札だ、と広田は紹介を簡単に締めくくった。


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