6.ファストフード店でバイト店員に告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。
2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。
3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白し、ボーイフレンドの座をゲット?
4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。
5.仁平茂樹 株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。
さっき命を狙われたにも関わらず、不思議と私は落ち着いた気分で四人に合流出来た。
『黄金の乙女』のことは忘れて、ただの九条あやめに戻れる時間を大切にしたい、と思う。
「進藤先生、レポートの提出期限はいつですか?」
「提出の締切日は来週の金曜日、遅れる事を連絡した場合については翌日の午前中までは待ってやる」
「でも、これって成績に影響しないですよね」
「まあな。但し、大学の推薦入学を狙っているのなら、きちんと提出することだな」
「じゃあ、私達おばか三人組はおいといて、齋藤君、見城君は頑張ってね」
「こら、やすこ、あんまり男子をからかうと嫌われちゃうぞ、私みたいに」
「あや、それ、シャレになってないよ」
「コホン。ともかく分担を決めましょ。それを持ち寄って、まとめればそこそこ様になるんじゃない」
「じゃあ、まず個々人で自分のプレゼン内容と指摘事項、指摘事項を受けての改善案をまとめておいて下さい。昼食時の社長へのインタビューについては僕がまとめておくから。それから、午後の実習については皆の感想、学んだ事を書いておいて。日曜日に学校でまとめよう」
「ちょっと急ぎ過ぎじゃない。来週の放課後にちょっとずつ進めればいいんじゃないの?」
「ごめん、平日の放課後は部活があって時間が取れない。土曜日も同じ。僕も見城も部活の休みの日曜日しか時間がないんだ。三人は部活に入ってないの?」
そういえば、私もやすこもちえみも帰宅部だった。
「特に家族での用事があるなら仕方ないけど、日曜日の9時に教室に集合してほしい」
「9時じゃ普段と変わらないじゃない。もうちょっとゆっくりしたいんですけど」
「わかったよ。じゃあ10時集合で、宜しく!」
「ふぁ~い」
「先生、日曜日の登校は私服で・・・ハイ、ダメですね、わかりました」
こうして解散となったが、流石は我等三人組の結束は固い。
「あや、明日の晩泊めて頂戴。一緒にレポート仕上げようよ」
「ちえみ、今週は晩御飯準備して来てね。やすこはどうする?」
「愚問だよ。もちろん、あっしも一緒にするに決まってるわよ」
土曜日の夜から日曜日の朝まで二週連続での女子会となった。
何故、私の家で開催されるかというと、土曜の夜は一人っきりになることが多いからだ。私は一人っ子だし、母さんは夜勤のシフトに入っていることが多い。父さん、何それ、美味しいの?
約束の時間になり、二人は現れた。
「ちえみ、今日は普通の格好じゃん。お母さんに何か言われたの?」
「先週、帰った時、ボロクソに言われた。『期待ハズレ、カイショナシ』って」
「すごい恋愛マスターね。まあ、入ってよ。夕食のミッション、忘れてないでしょうね」
「あたぼうよ。この夕食マスターにお任せあれ♪」
駄目だ。不安しかない。
今夜の女子会の目的は齋藤君の依頼に応えて、会社見学のレポートの担当分を仕上げることだ。そして、そのまま登校して班としての完成を目指すのだ。
「あや、先週みたいにノンアルないの?」
やすこのリクエストに応えて、私は手渡しながら言った。
「お母さんに言われたわ。ほどほどにしなさい、って。お母さんが6缶入りパックを冷蔵庫に入れておいてくれたから、一人二缶ね」
「え~、もうちょっと飲みたいんですけど」
「やすこ、それならちえみと交渉しなさい」
「やすこ、このノンアルマスターのちえみ様の分を横取りする気なの?」
全く二人共何を考えているのやら。
「・・・そう言えば、二人は進展があったのかなぁ?せっかく、二対二になれるシチュエーションがあったのに・・・何で二人共横を向くのよ!」
どうやら二人共進展はなかったようだ。『恋愛マスター』の称号は剥奪だな。
「ところで、何で社長に呼ばれたんだ?」
「ああ、その件ね。大したことじゃないわ。単にこの2週間に起きた騒動を当事者から聞きたかったみたい」
「ふうん、じゃあ実習とは関係なかったんだ」
「何でそんなこと聞くの?」
「あやが一人で社長室に行った、と聞いた進藤先生が血相を変えて走り出したから、何かあったのか心配だったのよ。あやはほら、進藤先生とも色々あったし・・・」
進藤先生は昼休みの時点で仁平茂樹が転生者であることに気付いていた。午後のカリキュラムでは私と社長が一対一になる機会はないだろうと安心していただろう。実習終わりに呼び出す事は想定外だった筈だ。アイドルの告白でもなびかなかった私に75歳のお爺ちゃんが告白しても、成功する確率は間違いなくゼロだ。その時、仁平茂樹は何をするか。ためらうことなくゲームのリセットを企てるだろう。進藤先生は瞬時に判断して、私を助けに来てくれたんだ。
仁平茂樹で確定している転生者は3人目。見城君についてはどちらか不明。ケンゴについては単に私のことが好きだったようだ。全くいつまでこんな騒動が続くのやら。私と相思相愛となることを夢見ている奴等は適当にはぐらかしておけばいいけど、諦めた奴はちょっと厄介。ゲームのリセット、即ち私の命を狙って来る。どうやって回避するか、進藤先生が来てくれた様なラッキーは望めないだろう。
ショーマの言う通り、誰かのものになっちゃおうかなぁ。
「ちょっとあや、どうしたの、ぼーっとして。あ、ごめん。ぼーっとしているのは、いつもだっけ?」
「えと、何の話だったっけ?・・・そうだ、社長室に行ったことだったっけ?まあ、社長室でこの間の騒動について色々と聞かれたけど、答えられないことが多かったかな。だってそうでしょ?イケメンのアイドルが何で私のことを好きなのか、なんてわかる訳ないし」
「そうよねえ。あやのどこをとっても平凡だもんね、顔も身長も成績も・・・。あ、ごめん。胸は、平均以下だわ」
ちえみ、平均以下はあんたも一緒だろ。
「でも考えたら凄いことよね。あのバイバタの二人があやのことを好きだなんてね・・・。ショーマとは連絡を取り合ってるの?」
私は指を横に振りながら言った。
「ショーマとは火曜の記者会見終わりにかかって来たのが最後よ。ショーマにとって厄介事が減ったと思ってんじゃない?」
「なんだ、あや、結局連絡が無くて寂しいんじゃないの」
「な、何言ってるのよ、やすこ。そんなんじゃ、そんなんじゃないわよ」
「まあ、それはいいとして、吉水健吾とはどうなっているの?」
「ケンゴとは何も無いわよ。電話もかかって来ないし」
「ちょっと、いきなりケンゴ呼び?」「電話番号もう教えたの?」
「二人同時に喋らないで。あんた達のことを信用してるから、正直に話すけど、ショーマが『ケンゴって呼んでやれ』って言うから呼んでいるだけで他意はありません。電話番号についてはショーマが『教えてもいいか?』って聞くから、『いいよ』って答えただけよ」
「・・・あや、気付いている?あんたの話しぶり、ショーマに未練たらたらよ」
「まさか、そんなこと・・・」
「それにしてもかわいそうなのは吉水健吾ね。おーい、君は星野翔真と九条あやめに騙されているぞー」
「よしてよ、人聞きの悪い。まあ、今更だけど」
「ねえ、吉水健吾は本当に来年、ウチの高校に入るのかな?」
「そんなの知らないわよ。ケンゴ自身が選択して試験に受かったら、入学するんじゃないの」
「あや、吉水健吾には随分と冷淡だわね」
「それはしょうがないじゃない。初対面でいきなり好意を告げられてもね・・・言った方はもやもやが吐き出せてすっきりするかもしれないけどね、言われた方はつらいよ。ましてや訳のわからない人に、ケンゴの芸能界引退の責任まで背負わされてもね・・・」
「そりゃあそうね。・・・でもその言葉はショーマにもまるまる当てはまるんじゃないの?」
「確かに。・・・何でだろ?」
「あや、しっかりしなさいよ。いい加減な気持ちでいると、寝首をかかれるわよ」
「わかった。気をつけることにするわ」
「わかればよろしい。・・・でもケンゴが入って来たら、校内のイケメンの勢力図が大きく変わるわね。あや、どうする?」
「・・・どうもしない。客観的に考えてみて。20歳過ぎの男が惚れた女と同じ高校に通う為に仕事を辞める、キモくない?」
「確かにキモいわね」
「でしょ。だからこの話もうやめない?どうせ何か月も先のことなんだから。・・・それよりレポートを進めようよ。あんた達、ちょっとは進めているの?」
「あや、私は常に新鮮な気持ちで事に臨む事をモットーにしているのだよ」「右に同じ」
「あんた達ね~」
その後、ほぼ徹夜に近い状態でレポートを仕上げた。齋藤君や見城君に、私の親友のやすこにちえみがだらしない人間だと思われたくないのだ。
翌朝、寝ぼけ眼で三人分の朝食を準備した。トーストにスクランブルエッグにミルクティーといった至ってシンプルなものだ。
時計をちらちらと見る。もうあまり余裕が無いのは事実だ。
私は幼稚園児の世話をする母親の様に家事をこなし、二人の世話をした。
何とか家を出て、高校の前に辿り着いたのが約束の10分前だった。
校門から中に入ろうとする私の前に二人が仁王立ちで阻んだ。
「あや、昨日の夜は私達をさんざんディスってくれたわね」
「なんのこと?」
「齋藤君と見城君に何でアプローチしないのかとか、何で告白しないのとか」
「そんなこと言いましたっけ?」
「だ・か・ら、もし今日、山崎君が来ていたなら、あやも告白しなさい。それとも、星野翔真のことが好きなのを白状する?」
なんてことを言うのだ、この二人は。まあ、いいわ。私もこの二週間で度胸をついた。
「わかったわ。もし山崎君がいたら、告白するわ。じゃあ、教室へ行こうぜ。もたもたすると遅刻するわよ」
教室にいたのは、齋藤君と見城君の二人だけだった。
「女子三人、遅い!」
いきなり見城君に言われた。これはうん、不条理だな。
「まだ9時58分。ギリギリセーフでしょ」
「社会では10分前行動が常識だからね」
齋藤君もやたら厳しい口調だった。
「以後、気をつけます」
その後はそれぞれのタブレットのデータを共有し、一つのレポートへと仕上げてゆく。齋藤君をリーダーにさくさくまとめてゆく。その中で我々女子の担当分のてにをはや漢字変換のミスが指摘された。ほぼ徹夜で仕上げたものだから、致し方無い。これは言い訳かな。
まとまったレポートは担当教師と株式会社『あすなろ』に提出したら、ミッションコンプリートとなるが、齋藤君はまだ提出しない、と言う。
あんまり早く提出すると、やっつけで作成したと思われるから、しばらく熟成させる、との事だった。ふうん、頭のいい人はそこまで考えるのね。私なら、完成したと思ったら読み返すことなく提出するだろうなぁ。
こうしてレポートはリーダー齋藤君に一任することにして、私達の仕事は終わった。
時刻はお昼を過ぎ、13時近くになっていた。
「折角だから、どこかで昼ご飯食べないか?」
見城君の提案に、一同賛成した。ただ、ここで男女の好みが別れる。男子は安くて大量に食べられる中華系を主張し、女子は安くて長時間いられるファストフード店を主張した。当然ながら、多数決でファストフード店に決まった。
私はやすこに自分の分のセットメニューを伝えると、2階の空席を確保すべく階段を登った。
二対二のシチュエーションにしてあげないとね。
お昼時をちょっと過ぎているので、お客さんは少なくなりつつあったので、運良く6人掛けの場所を見つけ、その席を確保した。
何度も私の前を客室の清掃担当のバイトの人が通る。ちらちらと私の方を見ている様に感じるのは、自意識過剰なのだろうか?何か注意されたら、連れが今下で注文しています、って言おうと身構えていた。
階段を登っている途中なのか、やすことちえみの声が次第に大きくなる。あいつら、カップルにならないのか。折角私が気を利かせているのに。
私は立ち上がって、四人に合図を送ろうとした時、さっきのアルバイト店員がそっと白い紙片を渡して来た。やはり私の自意識過剰ではなかったんだ。同時にこれは『黄金の乙女』案件だと確信した。私は四人に向けて手を挙げて存在をアピールすると同時に、アルバイト店員の様子を探った。年齢は20歳前後で長身、容姿や表情は帽子に隠れてよくわからないが、恐らくは告白パターンではないか、と思われる。四人を巻き込まない様に対処しなければならない。今の私にできるだろうか?
「あや、お待たせー」
私はやすこから依頼したセットを受け取ると席に座った。
心の中でやらねばならないことを確認する。まず、メモを確認し、対処が必要なのか、無視するかを決める。そして、対処するのならば、さりげ無く四人と別れる方法を考えねばならない。それを明るく皆とランチしながら実行する。これは難事業だぞ。
私は隣に座るやすこに「ごめん。ちょっとお手洗い」と耳打ちして席を立った。
トイレの中で、私はアルバイト店員から渡された紙片を開いた。
『九条あやめ様
折り入って話したい事があり、時間をいただけないでしょうか。
食事の後、一人で店舗左側の路地におこしください。
よろしくお願い致します。 富永悠一』
と記されていた。
まず間違いなく、『黄金の乙女』案件だろう。『一人で』という点が気になるか。星野翔真は衆人環視の元告白したぞ。仁平茂樹は二人きりの時に殺そうとした。若い男だけに告白パターンだろうと思うが、自分のものにならない時に逆上して殺意が湧く可能性がある。力ずくでこられたら、太刀打ち出来ない。何か保険になることはないか。ショーマに連絡する?ダメだ。今からかけつけてくれることはありえないし、星野翔真と私が街中で会うことはできない。進藤先生に?これもダメ。先生には金曜日に助けてもらったばかりだ。もういい。この件は私一人で引き受ける。
あんまりトイレに長居すると、四人に怪しまれるから、戻るとするか。
私は席に戻り、座りながら皆に言った。
「ごめんなさい。お母さんからメールが入ってて、すぐに帰る用事が出来たの。これ食べ終わったら、先に帰るから」
私は猛然とハンバーガーにぱくついた。
「皆、また明日」
私はトレーを持って四人の元を離れた。ダストボックスに一気に捨てて、階下へ降りる。
富永悠一が指定した場所へと足を運ぶ。さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・。
「お待ちしていましたよ、九条あやめさん」
「どうして私の名前を知っているの?」
「我々の界隈で『黄金の乙女』の情報は出回っておりますので」
「私をどうしようって言うのよ!」
富永悠一は私の目の前で土下座した。
「頼む。九条さん、一瞬でいい。ほんの一瞬でいいから俺の女になってくれ。不治の病で寝込んでいる妹を助けたいんだ。『黄金の乙女』、あなたなら妹を助けられるんだ!」
私の心はぐらついた。不覚にも、一瞬くらいならいいかも、と思ったのも事実だ。
しかし、私の中の不信感の方が上回った。もし、妹さんを助けたいと本当に思っているのなら、転生してすぐに私への接触を試みた筈だ。どうして、星野翔真が告白してから慌てて私に接触しようとしたのか?それは紳士協定が破られて、他の人間と同じく早い者勝ちの競争に参加しているだけだ。だから、妹さんの件は嘘だ。
「妹さんの件は可哀想だと思うわ。本当ならね。・・・本当なら、星野翔真の宣戦布告を待たない筈よ、富永悠一さん」
富永悠一はゆっくりと立ち上がりながら言った。
「やっぱり同情を買うのは無理だったか。かくなる上は・・・」
富永悠一はにじり寄って来た。私は思わず後ずさる。
「あれ、九条さん、家に帰るんじゃなかったの?」
背後から、見城君ののんびりとした声が聞こえた。
「見城君、ちょっと込み入った状況なのよ」
私が振り返って言うと、見城君と富永悠一の目が合ったらしく、見城君の表情が一変した。
「てめえ、九条さんに何をした!」
見城君がずんずんと近づいてくると、富永悠一は慌てて逃げて行った。取り敢えずの危機は去った様だ。
「見城君、ありがとう、おかげで助かったわ」
「全く、どんな事情があるかは知らないが、こんな所にのこのこ入る方も悪いと思うぞ」
「面目ない・・・」
これでめでたしめでたしとはならなかった。さらなる危機が私を襲う。
「あや!こんな所で見城君と何やってるのよ!」
「あや!見城君とは友達じゃなかったの?私を裏切るの?」
「安河内さん、千枝さん、待ってくれ、誤解だ」
「やすこ、ちえみ、違うのよ!」
やれやれ、ちえみの誤解を解くのは一筋縄ではいかないぞ。
本当に誤解だから!




