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5.豪邸でお爺さんに告られる

『黄金の乙女』

世界にたった一人の至高の存在。

その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。

伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。


これまで

1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。

2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗。

3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白し、ボーイフレンドの座をゲット?

4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー ライブ終わりに告白するも失敗。


一週間続いたバイバタ星野翔真の告白騒動も昨日のシークレットライブで終息する筈だった。吉水健吾の告白騒ぎはそのちょっとしたスパイス(バイバタの悪ふざけ)と思い込む事もできるだろう。

これで私は普通の生活が送られる、と思っていた。

そうは問屋がおろさなかった。

私がテレビをつけると、芸能ニュースをしていた。『バイオレットバタフライ』の話題だった。何だ何だ。新曲か、新アルバムか、アリーナライブか?

残念ながらグッドニュースではなかった。バッドニュース、私にとっては超々バッドニュースだった。

『バイオレットバタフライのメンバー、星野翔真及び吉水健吾が秋のツアーファイナルを持ってバイオレットバタフライを脱退。脱退にともない、二人は芸能界を引退する模様』

・・・最悪。私は頭を抱えた。血の気も引いていたかもしれない。

私が昨日のライブで吉水健吾に何と言ったか。『私は芸能人の方とはお付き合い致しません』まさかそれを真に受けて芸能界を引退するのか。

私が昨夜の電話でショーマに何と言ったか。『芸能人なんかやってて、小娘の子守りなんてできないでしょ』まさかこの言葉に腹を立てて芸能界を引退するのか。

二人には申し訳ないが、私の方が今窮地に立たされている。今から学校に行く訳だが、生徒全員、私が吉水健吾に言った言葉を知っているのだから、彼の引退の原因は私にあると思っているだろう。そして、私にはそれを否定する材料は無い。

ショーマについては、テレビでも告白騒動の責任を感じた為、とか言っているし、これもまた信じられてしまうだろう。

気になるのは、昨日のシークレットライブの件である。だれかがスマホで撮影し、マスコミに提供しないだろうか。もし流出したら、私九条あやめはバイバタメンバー二人を引退に追い込んだ女として断罪されるだろう。全くもって理不尽である。

さて、本日をどう生き延びるか。取り敢えず校内の吉水ファンに詰問されたらどうしよう・・・。


その時、電話が鳴った。ショーマからだった。

「あや、悪い、マスコミに気付かれた。今晩、記者会見を開いて騒ぎを抑えるから、何とか今日一日しのいでくれ」

「記者会見は何時からなの?」

「19時からだ。俺と吉水の二人で対応することになる」

「・・・そこで何を言うつもりなの?」

「まだ、考えはまとまってないが、まあ今回の騒動で未熟さを痛感したので、もう一度修行した上で、芸能界にもう一度チャレンジするか、別の世界に進むかを決める、という感じだな。安心しろ。再告白めいたことはまだ言わないから」

「まだ?・・・まあいいわ。それで吉水健吾の方は何を言うつもりなの?」

「・・・わからん。あいつ相当思い詰めてるみたいだし・・・」

「そもそも、どうして私の写真を見せているのよ。それに、いつ写真を撮ったのよ」

「メンバーには俺の恋愛感情から告白した、と説明したら、『どんな子なのか写真を見せろ』と言われたのでな。タクシーに設置されたカメラで撮っていたあやの映像の中から、一番いい表情をしたところをプリントアウトした。丁度あやが好きな男がいる、と言ったところだ。その時の表情は、どんな芸能人にも負けない可愛さだった。少なくとも、それを見た吉水健吾が恋に落ちる程な」

「よしてよ。気持ち悪い。・・・私は身の程を知っているつもりよ」

「あや、少なくとも吉水の本気だけは受け止めてやって欲しい」

「わかった、そうする」

私の命運は吉水健吾にかかっている訳か。そして私には、彼の恋心を止める権利はない。


学校内の雰囲気は先週よりも更に悪いものになっていた。下には下があると改めて感じた。

私はバイオレットバタフライのメンバー二人を引退にまで追いやった女なのだ。どれだけ非難しても、彼女達の気が収まる事は無いだろう。私には二人の自爆だと思えるが。

「あや、バイバタどうなっちゃうの?」

「やすこ、そんなこと私に聞かれても困るんだけど」

「翔真君からは何か聞いてないの?」と小声で聞いてくるちえみ。

「ショーマにとっても、吉水・・・さんの件は予想外の事だったみたいで、驚いていた」

「そうか、バイバタ内部でも知らない事だったのか・・・」

「ねえ、昨日のライブ、私達は最前列にいたからわからなかったけど、絶対、スマホで盗撮した人いるよね?」

「そうねえ、いると思う。ただ、ライブは突然始まったし、盗撮したとして多くは途中でバッテリー切れになったんじゃない。知らんけど」

「・・・そう願いたい。最後の場面がマスコミに流出したら・・・」

「この学校だけでなく、日本中であやへの非難が溢れるでしょうね」

「先週も言ったけど、私は何にもしていない。これは『もらい事故』よ。しかも二重の」

「あや、女の敵は女なのだよ」

承服しかねる意見ではあるが、そういう事なのだろう。

休み時間の度にネットニュースで、昨日のシークレットライブの件が映像付きで流出している事を知った。吉水健吾の件は映像は無く、文章だけだった事は不幸中の幸いである。

学校の女子生徒達は昨日のライブの参加者でもあるので、私への直接の非難はないものの、冷ややかな目が私を取り囲んでいた。なんでこの女が・・・と思っていることだろう。それは私も同じ。なんで私がこんな目に、と思っているのだから。


午後のホームルールにおいて、金曜日に行われる会社見学の説明会だった。

各班5名で近隣の会社で職業体験の他、社長に色々とインタビューしたりするというカリキュラムである。

班分けについては各自で決める事とし、男子3女子2または男子2女子3である事がルールだった。クラスは男子21名女子19名だから、男子3女子2の組合せが5班、男子2女子3の組合せが3班となる。すったもんだの末、私の所属する班には、くされ縁のやすことちえみ、男子2名は齋藤君と見城君ということになった。やすこにちえみ、二人と仲良くなれるといいね。

引率は進藤先生で、100円ショップを起業し、店舗を急激に増やしている『あすなろ』という会社である。当日までに新商品を考案し、当日プレゼンするという課題が出されていた。

100円でこんなものがあるんだ、と驚きの商品のプレゼンである。コスパのいい商品にするか、これまでなかったアイディア商品にするか、考えるのは楽しいかもしれない。プレゼンは面倒だけど。


放課後となった。

私は、先週に引き続き、進藤先生に呼び出され、職員室に向かった。

「九条、家まで送ってやるから、先生の車に乗れ」

「え・・・」

何言ってんだろ?この人は転生者で、『黄金の乙女』である私を狙っていたのだ。うっかりクルマに乗ってしまったら、どこへ連れていかれるやら、わかったものではない。

思わず不審の目を先生に向けると、ため息をつきながら進藤先生は言った。

「御前が不信の目を向けるのはわかる。だが、これは生徒指導の一環だ。気になって、昼休みに御前の家の様子を確認しに行ったら、既にマスコミのカメラマンとレポータが何十人と来ていた。先週本校に来た人数の比ではない。・・・悪い事は言わん。俺に家まで遅らせろ。お母様が戻って来るまで、敷地内にマスコミが入って来ない様にしてやる」

進藤先生は声をひそめて、私だけに聞こえる様に言った。

「安心しろ。これは『黄金の乙女』関連じゃない」

「わかりました。よろしくお願いします」


家の中にはマスコミにもみくちゃにされながらなんとか入ることはできた。

玄関には進藤先生が睨みを利かせている筈なので、中に入って来ることはないだろう。

「九条あやめさーん」「二人の引退についてどう思われてるんですかー」

なんか色々と外から声が聞こえるが、意味のない騒音だと思うことにしよう。

全くもってどうかしている。

いくらイケメンとは言え二十過ぎの男が十五の小娘とオープンにつき合う筈がないではないか。

何かあったら犯罪者だぞ。本当に私のことを考えているのなら、少なくとも後三年、私が十八になるまで待つ筈だ。せかされる様にほいほい告白する男なんて、何か下心があるに決まっている。

私は着替えてベッドに寝転んだ。取り敢えず7時に記者会見をチェックするまで、何もする気にならない。オヤスミナサイ・・・。

18時45分。目が覚めた。スマホを確認する。メール・着信履歴共に異常なし。

私は何をすべきなんだろう。しばらく考えて、私はショーマに『ガンバレ』とショートメールを打った。ラインはグループ登録していないし、メアドは知らない。ショーマとの繋がりは11桁の数字だけなのだ。

インターネットで検索すると、19時からの記者会見を生配信するYouTubeチャンネルを見つけた。私はそこにアクセスしてショーマと吉水健吾の登場を待っていた。

定刻になった。スマホの小さな画面の中ではフラッシュの嵐の中、ショーマと吉水健吾が入場して来た。

覚悟を決めた凛々しい表情のショーマと憔悴しきった吉水健吾と対照的だった。

二人は報道陣の前に立ち一礼した後、椅子に座った。彼等の前には何本ものマイクが置かれ、わずかな舌打ちや独り言すら拾われるだろう。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。先般の報道にあります通り、私星野翔真と吉水健吾はこの秋のツアーファイナルをもってバイオレットバタフライを脱退し、芸能界から引退することを決意致しましたので、ここに報告させていただきます」

ここでまたもフラッシュの嵐。司会者が二人に発言を促す。

「それでは二人に脱退を決意した経緯について説明お願いします」

「私はおよそ1年程前から、脱退の機会を模索しておりました。歌うこと、ダンスをすること、演技をすることで生きる活力を皆さんに感じてもらうことは尊い役目であると思っております。だけどそれは星野翔真という人間でなければならないのか、という迷いがあったのも事実です。そんな迷いがあるにも関わらず、何をやっても許されると増長しておりました。それが表に出てしまったのが、先日の事件です。自分の何気ない一言で、多くの人々を巻き込み、何の落ち度も無い少女を混乱に陥れてしまいました。先日謝罪に赴き、彼女の許しを得ましたが、この様な未熟な私が何の反省も無く仕事を続ける事は許されるべきではない、と考えました。とは言え、この先の決まっている仕事に対して穴を空ける事は本意ではありません。そこで秋のコンサートを一区切りとしてバイオレットバタフライから脱退し、一人で自分を見つめ直したいと考えております」

「私は16才の時から、今まで約4年バイオレットバタフライのメンバーとして活動して参りました。デビューから1年後、急に人気が出てきて、忙しさのあまり高校を自主退学しました。その事について、十八歳を過ぎたあたりから後悔する様になっていました。忙しさにかまけて楽な道を選ぶような人間が、人前に立つ仕事をしていいものだろうか、と終始考えておりました。先週の星野翔真の騒動をメンバーとして見て、自分達は知らず知らずの内に誰かを踏み潰しているのではないか、と恐怖しました。ネット等に流出した被害に遭われたお嬢さんの写真を見ました。笑顔の素敵なかわいらしいお嬢さんでした。私達の冗談でその笑顔を消す事は許されない事です。私も星野と同じく自分を見つめ直す必要があると考えました。秋のコンサートでバイバタを脱退後は来春の高校入学を目指して勉強したい、と思います」

ふうん。ショーマの理由はまあわかるとして、吉水健吾のは訳わからん。何か肝心なところを隠している様な印象だぞ。

「それでは各社、記者の方の質問をお受けします。挙手された方を指名致しますので、会社名と名前を名乗ってから、質問を述べて下さい」

「〇〇社の☓☓です。ネットに流出している情報だと、昨日、問題の三崎東高校でライブをしたというのは事実ですか?」

「個人情報の関係もあり学校名については今後申す事はできませんが、バイバタ7人で赴き、謝罪を兼ねてライブを開催しました。尽力された学校関係者の皆様、ありがとうございます」

「これもネットに音源が流出しているのですが、吉水さん、あなたは被害に遭われた女性に告白したのは事実ですか?」

「はい、事実です」

「そんな事をすれば、ますます彼女が混乱する、とは思わなかったんですか!」

「はい、その点については承知しておりました。だけど、『恋』は制御出来ないのです。ご理解下さい」

おい、吉水、おまえは何を言っているんだ。

「もう少し詳しく説明して下さい」

そりゃそう言うよな。

「被害に遭われたお嬢さんの写真を眺めている内に、俺にもこんな時代があったんだなあ、それを俺は自分で捨てたんだよな、という猛烈な後悔が押し寄せて来たのです。もう一度やり直せるなら。この少女とならやり直せるのではないか、と勝手に考えてしまいました。相手の事も考えない早まった行いだったと反省しております」

吉水健吾は涙ながらに語っていた。結局、高校中退について後悔しており、やり直しを漠然と考えている時にショーマの持っていた私の写真がトリガーとなり、昨日の騒ぎを起こした、という訳か。吉水健吾クン、私なんかと付き合っても何もいいことなんてないよ。『九条あやめ』と書いて『平凡』と読む、そんな女なんだから。

その後は秋ツアーの概要等と私には関係のない質疑が続いていた。そして、予定していた1時間もそろそろ終わろうというタイミングで、司会者が最後の質問を促した。

「△△社の◎◎です。吉水さん、来春高校を再受験する予定だそうですか、志望校はありますか」

「そうですね。今迷っているところです。まずは、退学した高校に再入学するのか、昨日伺いました高校の雰囲気が非常によかったものですのでそこにするか・・・いずれにしても、受験前に学校側に『20歳を越えた元芸能人のおっさんが受験して問題ないか』問い合わせるつもりです」

この男、最後に爆弾を放り込みやがった。三崎東高校は県立だから、少なくとも県民だったら拒むことはないだろう。二十歳を越えて、制服での登下校とは何たる罰ゲーム。私なら到底無理だ。吉水健吾は地位も名声も捨てて、そんな過酷な環境に飛び込もうとしている。その点については、敬意を持つべきではないか、と思った。

外からは「九条さーん、二人の記者会見を聞いての受け止めをお願いしまーす」などと言われているが無視することにした。マスコミの中では私は『スポンサーに影響を与えない潰してもいい素材』なのだからこうして傍若無人に振舞うのだろう。もしこれ以上近所迷惑になるのなら、学校を通じ声明を出し、警察に相談することにしよう。


その夜もショーマから電話がかかった。

「あや、メッセージありがとう」

「あなたが変なコト言わないかひやひやしたわ」

「俺はTPOをわきまえる男だぞ」

「TPOをわきまえるなら、いきなりテレビで変なコトはわめかないわ」

「それはごめん。あれはあやと知り合う為の口実だったから・・・本当に心配していたのは吉水健吾の方だろ?」

「まあね。吉水・・・さんのことよく知らないから」

「あいつも俺と同じケンゴ呼びでいいぜ。その方があいつも喜ぶだろうしな。あいつ、記者会見が終わった後、俺に言いやがった。『これからはライバルだからな』って」

「へ?バイバタって以前から仲良しこよしのグループじゃないでしょ。お互いがライバルじゃないの?」

「ったく、そーゆーことじゃない。・・・いいか、俺はまだあやの事を諦めた訳じゃないからな」

「あっ、ごめんなさい。・・・そっち系?」

「そう、そっち系の話。なあ、あや、この電話番号、ケンゴに教えてもいいか?」

「あなたは勝手に入手したでしょ。どうしてケンゴに知らせる必要があるの?」

「ライバルだからな。俺だけがあやと連絡できるのはフェアじゃない」

「ショーマがそう思うのならそうすれば?今更芸能人の一人や二人増えたところで、ごたごたは収まらないでしょうから」

「・・・そんなに酷いのか?」

「ショーマが気にすることじゃないわ。ケンゴが入学するとなったら、少なくとも校内の一、二年生は鎮静化すると思うし。今後もイケメンが集まってくるのなら、その意味で大事にされるかもしれないし・・・」

「あや、気をつけろよ。『黄金の乙女』の伝説を字面通りに理解するんじゃないぞ」

「どういう事?」

「俺達は王道で挑戦している。そして勝者は一人だけだ。そこには多数の敗者と、邪道の攻略法を目指す者がいる、という事だ」

「ありがと。注意する様にするわ」


金曜日、会社見学の当日である。

私達五人は進藤先生の引率で、株式会社『あすなろ』の会議室にいた。

今から模擬開発会議として、100円ショップで売る新商品のプレゼンをするのだ。

私はカレースプーンにらっきょうを刺せる機能を追加したスプーンを提案し、撃沈した。

やすこは浴槽に貼って、お湯がたまったら鳴るブザーで轟沈。

ちえみは靴ずれ防止用クッションで大破。

齋藤君は消せるボールペンの頭に消しゴムを付けたボールペンで爆沈。

見城君はスプレー缶の一部を透明化して残量がわかる機能を付与したスプレーを提案して沈没した。

総評として言われたのが、我々はアイディア商品も求めている訳ではない。寧ろ機能を削減し、本質に肉迫する発想が欲しかった。足し算よりも引き算の方が100円ショップという業態では考えるべきことである、との事。やはりプロのハードルは高いな、と思い知らされた。

その後、あすなろの創業者の社長と、進藤先生と私達5人の昼食会である。高級そうな仕出し弁当が用意されていた。社長の名前は仁平茂樹といい、75歳らしい。お爺ちゃんより年上なんだと思い、ちょっとびっくりした。お弁当を食べながら、私達は起業した時の想いや、今後の展望等色々質問させてもらった。食べながらメモを取るのは行儀が悪いと思ったので、ボイスレコーダーを動作させた。一週間以内に今回の見学と実習内容をレポートとしてまとめ、学校と見学させてもらった会社に提出する必要があるので、熱心に質問したつもりだ。

午後は店内の清掃や商品の補充、バックヤードでの在庫確認、ポップの製作、無人レジでの補助作業等を短時間ではあるがローテーションで行った。成程、店舗の運営って色んな仕事があるんだな。

更衣室で店内の制服から学校の制服に着替えている時に、社長の秘書の方から連絡があった。『九条さん、社長がお呼びです』へ?私、何かしでかしたかな?学校の代表として失礼のない様にしなくては・・・。

社長室のドアをノックする。

「入りたまえ」

「三崎東高校の九条です。お呼びになられたとお聞きしましてうかがいました」

「実習とは関係ないことだから、そんなに緊張することはない。・・・この二週間色々と大変だっただろ」

「社長も御存知だったのでしょうか」

「私も色々とニュースは見ている。この町で起きた大ニュースだからね」

「まあ、そうですけど別に私が引き起こした事件ではないですし、先方からも謝罪の言葉をいただいたので、事を荒立てるつもりはありません」

「それで、あの二人と付き合うつもりなのか?」

は?何を言っているんだ、このお爺ちゃんは。私の中で警戒アラームが鳴り響いた。

「それは社長には関係ない事です」

「・・・そうか、やっぱりつき合うつもりだな」

社長は抽斗から黒い物体を取り出した。何だろう。拳銃だ。そして、銃口を私に向けた。

おいおいどういう事だ。『黄金の乙女』とは私の好意を得る為のゲームじゃないのか?私を殺してどうする?

「私を・・・殺してどうするつもりなの?」

「儂は転生して『黄金の乙女』との年齢差に愕然としたんだ。こんな年齢差では、『黄金の乙女』と相思相愛となるなんて、土台無理な話だ。それなら、今の『黄金の乙女』を殺し、次の『黄金の乙女』、次の転生先に懸けるべきだろう。悪く思わないでくれ」

悪く思う。絶対に、悪く思うから。ショーマの言っていた邪道の攻略法と言うのはこういうことか。

「『黄金の乙女』よ。苦しまない様に一発で仕留めてやるからな」

社長は拳銃を構え、安全装置を外した。

「九条!伏せろ!」

背後からの声に、私は思わず従った。

消音器が付いているのであろう、銃弾が発射された感覚は私には無かった。

社長室に飛び込んで来たのは進藤先生だった。

「仁平茂樹、元の名前で呼んで欲しいか。御前もわかっていた筈だ。転生先での年齢・容姿については恨みっこなしだと。そのルールを御前は破った。二度と『黄金の乙女』に近づかない、と誓えるか。さもなければ、御前を殺す!」

進藤先生は社長の右手をねじりあげ、拳銃を取り上げた。社長ががっくりとうなだれていた。

「誓う・・・誓うよ。二度と『黄金の乙女』には近づかない・・・」

「九条、これでわかっただろ。これが星野翔真の犯した罪だ。我々の相互監視のルールを破った為に、早い者勝ちの世界にしちまった。望みの薄いと思った奴等は、この世界をこいつの様にリセットを図ろうとする。星野翔真は御前を危険な世界に陥れたんだ」

確かに先生の言う通りだ。命がけで転生したのなら、私を手に入れられないと思ったら、私を殺す事を躊躇わないだろう。

「進藤先生、ありがとうございました。お蔭で助かりました」

「教師が生徒を守るのは当然の事だ。それに、俺はまだワンチャン諦めてないしな」

「さて、それはどうでしょうか。さあ、皆も待っているだろうし、学校に戻りましょ」

私と進藤先生は社長室を後にした。やすこ、ちえみ、二対二になるチャンスをうまく使ったか?アプローチの一つでもかけたのかい?




 

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