4.ライブでアイドルに告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白し、現在は電話で会話する仲。
2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗。
3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白し、ボーイフレンドの座をゲット?
土曜日。10時前に目を覚ました私は、パントリーをあさってカップラーメンを発見した。
まあ、いいか。これで朝昼兼用とした。
さらに、冷蔵庫をあさってプリンをゲット♪
お腹にそこそこ入れたところで、本日の予定を確認する。
16時にやすことちえみが来るので、それまでに諸々の準備をしておかねばならない。
さてと、そろそろ買い出しに行きますか。軍資金については、昨日の内に母さんからもらっているので大丈夫。あとは、どこで調達するか、である。できれば、誰とも会話しないで済む無人レジの店がいいなぁ、と考えている。レジ打ちの人は大方が女性なのだから気にすることはない、と思いたいのだが、ショーマから聞いた話は『黄金の乙女』と相思相愛になれば世界をものにできる、である。男性限定だとは聞いていない。意識しすぎかもしれないが、女性から告白されるシチュエーションは勘弁願いたい、という気持ちである。
ぐずぐずしてもいられないな。私は重い(気分的にであり、物理的ではない)腰を上げて、ドラッグストアに向かった。無事誰にも話しかけられる事なく、無人レジで支払いを済まし、足りないものをスーパーに買いに行く。
家に戻って、買ったものを再確認。食材の一部を冷蔵庫に入れ、棚から大皿を取り出し、オードブルの準備を始める。盛り付けに悪戦苦闘している時に、玄関ベルが鳴った。
15時45分、やすこの登場であった。やすこは近所への買い物といった雰囲気のいでたちであった。
「はーい、あや、来たよー」
「やすこ、いらっしゃい。まあ上がってよ」
やすこを無理矢理手伝わせる。とりあえず調理担当だ。
「あや、いい加減に料理くらい出来ないと、お嫁に行けないぞ」
「うるさいなぁ。私は自立した女を目指すのだから、家事は不要なのだよ、やすこくん」
「あんたねえ・・・」
流石はやすこである。私の言葉に呆れながらも、手際良く調理をしてくれる。やすこ、私のお嫁さんにならない?
16時05分、再びベルが鳴る。ちえみの登場だ。
ドアを開けた瞬間、ちえみの格好に私もやすこも爆笑した。
「ちえみ、何その恰好ー」
「二人共・・・違うのよ。『友達の家に泊まる』って言ったら、お母さんが勘違いして・・・」
「それで、彼氏とのデートみたいな恰好してるのか。そもそもあんた、彼氏いないでしょ」
「・・・それは大きなお世話」
「まあ上がって。そのへんてこな恰好もいじってあげるから」
こうして高一女子三人による女子会が始まった。
宴もたけなわ、私は二人に缶飲料を渡す。
「あや、ちょっと、これ・・・」
「ノンアルだからいいでしょ。・・・母さん、時々飲んでいるからストックされてるんだ」
私は缶を開けて、一口飲みながら言った。
「・・・まあ、あやにとってはとんでもない一週間だったからね」
「飲まなきゃやってられないか・・・」
「そーゆーこと」と言って、私はグイっとあおった。あら、これ美味しいかも。
「・・・で、実際のところどーすんの?」
「え、何のこと?・・・やっぱり、ショーマのこと?」
「ショーマ?」「呼び捨て?」
「「ちょっとどーゆーことなのか説明しなさい!」」
「わかったわよ。説明します。・・・ショーマが私の事を『おまえ』って呼ぶから、あんたにおまえって呼ばれる筋合いはない、って柄にも無くたんかきっちゃたのよ。その流れで、俺もあやから『あんた』ってよばれたくないな、って言うから、その・・・」
「はいはい、わかった。二人はラブラブという訳ね。・・・あや、愛しているぜ」
「私もよ、ショーマ」
「・・・殴るよ。この一週間、自分のことで精一杯だったけど、きっとクラスの女子の評判は悪いでしょうね」
「あや、それ本当に聞きたい?」
「聞きたい、という訳じゃあないけど、逃げちゃいけない、と思ってる」
「あや、あんたはメンタル強いと信じてるから言うけど、クラスの、ううん校内の評判は最悪よ。マイルドなところで『シカト』、ハードなところで『リンチ』ってところね」
「なんで?ショーマの件はもらい事故だよ」
「バイバタの星野翔真の件だけならね。・・・あんた、進藤先生と見城君ともやらかしたでしょ」
「それも誤解だって。そもそも二人が私に告白してきただけだから。私が何かした訳じゃあないから。これももらい事故よ!」
「それは私達じゃなく、学校の女子に言って。・・・納得してくれると思う?」
私は首を横に振った。これは『黄金の乙女』として甘受しなければならないのか?全くもって迷惑な話である。前世で悪い事でもしたのかな。
まあ、なるようになるわ。くよくよしてもしょうがない。私は『黄金の乙女』なのだ。きっと私を見守っている筈の何百人かの転生者が、私を守ってくれるだろう。
「私のことはこれくらいでいいでしょ。・・・それよりあんた達の話を聞かせなさいよ。高校に入ってから三ヶ月も経つのだから、好きな男の子の一人や二人いるんでしょ」
「あや、どうしても聞きたい?」
「うん。・・・まずはやすこからお聞かせ願おうか」
「しょうがないなあ。これは秘密だからね。誰にも言わないでね。私は学級委員の齋藤君と、二年の西崎先輩が気になっているかな」
「で、どうなの?」
「チャンスがあれば、勿論ものにするわ」
「やすこ、チャンスは待っていても来ないわよ。チャンスは自分で作らなきゃ。・・・ちえみはどうなの?」
「・・・私は見城君が好きなの!あや、今日からはライバルだからね」
「ちえみ、私は見城君と付き合うつもりないわよ。見城君は友達にしかならないわよ。・・・だから、がんばんなさい。応援するわよ」
「ありがと。・・・あやは見城君のこと、気にならないの?背高くて、まあイケメンなのに・・・。やっぱりバイバタなの?」
「ショーマは関係ないわ。・・・私にだって気になっている男の子はいるわ。だから、お気持ちを披露されてもねえ、応えられないわ」
「あや、誰なのよ?気になっている男の子は・・・私達に言わせたんだから、あんたも正直に話しなさい」
「えー、まだ言いたくないな。勿論、二人に話すことはやぶさかではないよ。でも、私自身もとまどっていると言うか、持て余しているのよ。こんな気持ちは初めてなのよ」
「あや、その気持ちを何と言うか教えてあげよう。人はそれを『初恋』と呼ぶのだよ。・・・で、誰?」
「・・・クラスの山崎君」
「へ?誰?」「・・・そんな男の子いた?」
やすことちえみの反応はもっともだと思う。山崎君はとにかく目立たない、地味な存在なのだ。
「それで、どんなとこが気に入ったの?あやにとっては、星野翔真よりも見城君よりもいい子なんでしょ」
私は頷いた。その後、やすことちえみにさんざん山崎君のいいところを言わされた。
「ふうん、聞けば聞くほど、山崎君はいい人みたいだね。友達にはいいけど、カレ氏にするにはねえ」
「でも、あやは山崎君をカレ氏にしたいんでしょ」
「ううん、私自身にもよくわからないんだ。山崎君のことをもっと知りたいと思うし、私のことも理解してほしい、と思う。だけど、その後、どうなりたいのか、どうあって欲しいのか、自分でもわかんないのよ」
「・・・あや、そういう場合、どうすればいいのか、教えてあげる。どうなるかはわかんないけど、一歩踏み出すのよ。一歩踏み出せば、二人の間の関係も変わっていくわ。あや自身の本当の気持ちもわかるようになるわ」
「・・・そんなものなのかなあ」
「そんなものなのよ。あや、こーゆーことは恋愛マスターのちえみ様に任せない」と言って、ぺったんこの自分の胸を叩いた。
「恋愛マスターねぇ、カレ氏もいないのに」
「あや、現状の問題じゃないのよ。経験値よ」
この食いしん坊にどんな経験があるのか、わからないが放置することにした。
この後も、恋バナに期末テスト対策や近所のグルメ情報等など詰まらない話題で有意義な会話をしたのだった。乙女の会話は尽きることなく、夜も更けていった。
翌朝、もう昼に近かったが、トーストを食べて二人は帰っていった。
恋愛マスターよ、お母さんには何にもなかった、と正直に言うのだぞ。
夜、私はなにやらもやもやした気分のまま、学校に向かった。
学校の体育館には煌々と明かりがつき、大型トラックが2台と、マイクロバスが1台停まっていた。
「よう、あや、どうしたんだ?」
サングラスをかけた長身の男が、なれなれしく近づいて来た。
「別に。なんとなく気になってね」
「なんとなく・・・か」
「うん、なんとなく」
体育館での準備の様子を見て、私は心に決めた。これだけの人が動いているんだ。明日、私はショーマの謝罪を受け入れよう。
「じゃあ、また明日」
「お、おう・・・」
ショーマは私のことを、突然来てすぐに帰る、変な女だと思っているだろう。だけど、それでいい。ショーマとは明日の謝罪で終わり、それまでの仲だ。
それはそれでなんか淋しいな、と思ったのも事実。
私はこれから先、どうなるんだろう・・・。
月曜日の朝、目覚ましの鳴る1時間前にベッドを抜け出した。
母さんにメイクしてもらおうかと思ったが、学校に行ったら『何かある』と匂わすことになる。
髪だけはしっかりといて、変なはねのないように注意した。
学校に無事登校し席に着いたが、ちょっと信じられない。
この学校のどこかにバイオレットバタフライが隠れているわけだ。朝練も普通に行われていたし、グラウンドにタイヤの跡もなかった。
校内放送で全校朝礼を8時40分より開始するので、定刻までに着席完了する様にと知らされた。私はやすことちえみと共に体育館に入った。
体育館にはパイプ椅子が並べられ(恐らく全校生徒分並べられているのだろう)、珍しく緞帳が降りており、舞台へ上がるステップが中央に設置されている。
生徒達は後ろと両端から座っている。
「やすこ、ちえみ、行くわよ」
私はずんずんと歩いて最前列中央の席に座った。中央部に通路があるので誰にも迷惑をかけないだろう。やすことちえみは何かを察したのか、黙って私の横に座った。
私の様子に何かを感じた者達が、何かを期待して私の周囲に座っていく。
定刻となり校長先生は、私の2m前に置かれたスタンドマイクを頼りにありがたい話を始めた。私はまるで聞いていなかった。いつ、舞台に引っ張り上げられるのか、うまく謝罪を受け入れられるか、ショーマがまた何かよからぬことをたくらんでいないか、不安でいっぱいだった。
校長先生の長い挨拶が終わり、一例して左側に整列している教師達の元へ戻った。
「本日は特別に来賓の方々の挨拶があります。皆さん、着席してお聞き下さい」
体育館の照明が消え暗くなり、その後舞台中央に向かってスポットライトが点灯する。
緞帳が1m程上がったところで、ドラマーがカウントを取り、演奏を始めた。
ギャーという悲鳴がこだまする。
パイプ椅子が蹴られ、前へ前へとの圧力がかかる。
「皆、オハヨー。俺達、バイオレットバタフライでーす。今日は短い時間だけど楽しんでくれー!」
ギャアー。皆頼むから落ち着いてくれ。
「ちょっとみんな落ち着いてくれ。必ず皆の元に行くから、その場で楽しんでね。事故が起きると、ライブを止めることになるからね。みんなでいいライブを作ろ―ぜ」
その言葉でようやく落ち着きを見せ始めた。
「それでは聞いて欲しい。・・・『Rainy Rainy Night』」
やすことちえみとの女子会で昨年秋のライブDVDを見させられていたので、大体の曲については対応できた。両端からリレーでサイリウムが渡された。生徒全員分を用意していたらしい。凄いなこの事務所、どれくらいの費用がかかっているんだろう。ま、私には関係ないか。
私は渡されたサイリウムを折って発光させた。ブルーだ。これってショーマのメンバーカラーだっけ?
ライブは春ツアーのセットリストを基本に、ツアーではカットされていたシングル曲をメドレーで挿入して、『バイバタ』初心者にも楽しめる構成にしていた。
中盤からは、いつ舞台にあげられるのかドキドキしていた。何もなく謝罪で済ませるのなら本編中に、何か仕掛けるならアンコール後のオーラスであろう。
ライブは開始から1時間後に怒涛の後半戦に突入し、アゲ曲を連続7曲休憩ナシMCナシで披露し、手を振りながらはけた。
さすがプロのライブってスゴいなあ、とアイドルライブ初体験の私は素直に感じた。
生徒達全員でアンコール、アンコールと叫ぶ。
本編修了から5、6分後に舞台のライトが再点灯し、バイバタ7人全員が登場し、一人ずつライブに対しての謝意を述べた。ショーマも私への言及も無く、スルーした。
やっぱりオーラスか。
アンコールとしてアゲ曲を1曲、バラードを1曲歌った。
『どうもありがとうございました。バイオレットバタフライでした』と言って、6人が舞台裏にはけた。
舞台中央に星野翔真一人。
ショーマはぽつりぽつりと語り始めた。
「一週間前、私の不用意な発言によってこの学校、特に一人の女子生徒に多大なご迷惑をかけることになりました。今回のライブについてはその罪滅ぼしを兼ねております。それでは、九条あやめさん、申し訳ありませんが、ステージまで上がっていただけないでしょうか」
ショーマが語り終わると、何故か私にスポットライトが当たった。ライブスタッフには顔バレしていない筈だぞ。まさか、学校側が私の写真を渡したのか?
しょうがない。私は舞台に上がるべく前へ進んだ。ステップの前で、スタッフからマイクを手渡された。
私は舞台に上がり、ショーマと対峙した。
まじまじとショーマの顔を見るのはこれが初めてかもしれない。あー、これは大したイケメンだわ。
「九条あやめさん、今回は本当に申し訳ありませんでしたっ!」
45度、いや90度に近い腰から曲がった丁寧なお辞儀である。5秒、10秒、・・・体育館がざわつき始めた頃、ようやくショーマは顔を上げ、私と目が合った。
「私の謝罪を受け入れて下さい」と言って、再び頭を下げた。
再び顔を上げた時、ショーマの口角がわずかに上がっていた。こいつ、何か企んでいるな、とは思ったが、受け入れるより他に無い。
「あ、あの・・・」
まいった。何と言っていいか、思いつかない。言葉が出ない。なにか喉につかえている感じがする。
「ちょっと待った!」
バイバタのメンバーが一人飛び出して来た。誰だろう?これは吉水・・・健吾だ。
「九条あやめさん、写真で見た時から、ずっと気になっていました。一目ぼれです。翔真の件は関係無く
僕と付き合ってください」
体育館が騒然としているのとは反対に、私は次第に冷静になってきた。何だ、この茶番は。『写真で見た』、いつバイバタに私の写真が出回ったんだ?ああ、そうか。ショーマの奴、タクシーのカメラの映像をプリントアウトしたな。成程、それでライブスタッフも私の顔を知っている訳か。で、この吉水の行為は何なんだ?新たな転生者か?いや、それならショーマが事前に止めるだろう。だとしたら、これはショーマの企みの一環か?
「ごめんなさい。私はただの高校生です。・・・星野さん、謝罪については受け入れます。それから吉水さん、私は芸能人の方とはお付き合い致しません」
私は二人にお辞儀をして、舞台を下りた。勿論、マイクはきちんとスタッフに返却した。
舞台に残された星野翔真と吉水健吾は観客に一礼して、袖にはけた。
こうして私を一週間悩ませ続けたバイバタ星野翔真による告白騒動は幕を閉じた・・・筈だった。
その夜、ショーマから電話がかかってきた。
「ショーマ、ライブご苦労様」
「おう。通常のライブより曲マシマシだ。俺の本気、わかってくれるかな」
「・・・で、あれは何の意味なのよ」
「ん、何の事だ?」
「吉水健吾の事よ。あれ、ショーマの仕込みじゃないの?」
「いいや。吉水の事は俺も驚いている。まさか、あいつがあんな大それた事をするなんて・・・」
「ショーマの仕込みじゃないとしたら、彼も転生者なの?」
「いいや、違う。転生者には、転生者だけにしかわからない独特の雰囲気があるからな。・・・吉水健吾は間違いなくこの世界の人間だよ」
「それなら、どういうつもりなの?」
「どういうつもりって・・・あや、それはあいつが言った通りだよ。あいつはあやに一目ぼれして、告白した。それをあやが振った、というだけだ」
「ええっ!あれ、本気だったんだ。私はてっきり、ショーマの仕掛けたいたずらだと思っていたから、悪い事したかな?」
「それがあやの本心なら仕方無いんじゃないか。・・・因みに俺は謝罪を受け入れてもらっただけで、正式に振られた訳ではないよな?」
「・・・バカ」
「いいか、あや、あやがどう思おうと、俺はこの騒動に巻き込んだ責任を感じてる。今更、俺を好きになれとは言わん。ただ、あやに対してよからぬ目的で近づく奴は俺が排除する。だから、安心して高校生活を送って欲しい」
「芸能人なんかやってて、小娘の子守りなんて出来ないでしょ。あてにはしないけど期待してるわ、星野翔真さん」
こうして、ショーマとの定時通信を終えて、私は眠りについた。その時の私は、翌朝起こる騒動について、全く予期していなかった。




