3.体育館の裏でクラスメイトに告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー テレビで告白するも失敗。
2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗
「・・・あや、昨日の生活指導の呼び出し、何だったの?」
お弁当を食べている際中に、やすこが尋ねてきた。
「・・・ああ、それ。例の件よ。学校内でいづらいんだったら、相談しろ。なんとかしてやるって」
「ふうん。で、あやは何て答えたの?」
「丁重にお断りさせていただきました。だって、なんとかなる筈ないもん」
「それもそうか・・・」
「大体、他の人がどう思うかなんて、私にはどうしようもないし。もし、そのことで先生に頼ったら、私のことますます悪く思うでしょ?だから、私は何と思われようとも構わないわ」
「あや、あんた強くなったね」
「それはもう、この何日かで鍛えられたわ」
「いざとなったら、王子様が助けてくれるもんね」
「ちえみ、そんなことはありえないぞ。あの件は全て幻なのだよ」
「でも、お互いの連絡先交換したんでしょ」
「・・・それはそうだけど。単に謝罪イベントのタイミングの打ち合わせだけよ。・・・それに声が大きい。誰が聞いているのか、わからないんだから」
ちえみの頭をぐしゃぐしゃと触る。
「はい、反省してます・・・」
うむ、わかればよろしい。
その夜、夜というのもおこがましい時間にあいつからのコールがあった。
たまたま起きていた私は3コール目で取った。
「こんな夜遅くに、何の用?」
私の声は低くなる。
「・・・悪い。今仕事が終わって、一人になったところでな。・・・おまえも起きていたんだろ・」
「それはそうだけど・・・。あんたにおまえって呼ばれる筋合いはないわ」
「じゃあ、何と呼べばいいんだ?」
「友達は私のことを『あや』って呼んでるわ」
「では、俺も『あや』と呼ぶことにするよ。・・・そうだ、シークレットライブの日程決まったぞ。あやの高校の次週月曜朝一は全校朝礼だな。そこから、3時間目までの時間を使わせてもらう。日曜日の午後6時にバスケ部・バレー部の練習終了後に機材搬入を始め、午後9時からマイクテスト、当日は朝6時入りだよ。全く何やってんだろな」
「自分の撒いた種でしょ、自分で拾いなさい」
「それもそうだな。・・・それで、あや、謝罪イベントをどこに挟むかを相談したくて、電話をかけたんだ。ライブ冒頭、ライブ中盤、本編終わり、アンコール冒頭、アンコール終わり、のどれがいい?」
「あんたが爆弾を落とすつもりがないのなら、どこでもいいわ。ライブの流れを阻害するイベントなんだから、アーティストとして、どこがいいのかをあんた自身で決めてちょうだい」
「わかった。ところで、俺もあやに『あんた』とは呼ばれたくないんだが」
「なんて呼んで欲しいの?どうせ月曜までの仲だから、あんたの望み通り呼んであげるわよ」
「つれない事言うなよ。・・・そうだな、ショーマと呼んでくれ。元の世界の名前に近いからな」
そうだった。こいつは転生者なのだ。『黄金の乙女』である私を狙って、この世界にやって来たのだ。だから、容姿も名前も仮初のものなのだ。
「わかったわ、ショーマ。話は変わるけど、私のまわりに何人の転生者がいるの?昨日も学校の先生に告白されて、迷惑だったんだけど」
「そうか。あやの周囲にいる転生者達は『紳士協定』を結んで、抜け駆けをさせない様にしていたみたいだな。だけど、俺はそんなの関係ないから。・・・あやの周囲に何人の転生者がいるかは俺にもわからん。ただ、俺が転生する以前に、既に200人が転生している、と聞いた事がある」
「転生者が・・・200人」
「俺の後にも転生を試みる者がいる筈だからな。今では200人なんてもんじゃないぞ」
「・・・」
「おい、言い寄って来る人間がうざったいなら、回避する方法があるぞ」
「そんな方法があるの?」
「ああ、あや、何も考えずとっとと誰かのものになっちまえばいいんだ。そうすれば誰も言い寄らなくなるぞ」
「・・・それはない。私は私自身に嘘はつけないな」
「流石。それでこそ、俺が惚れた女だな」
「そういう話は受け付けておりません!」
「・・・そうだな。それじゃあ、また来週だな」と言って、ショーマはいきなり電話を切った。ホントにバカなんだから・・・。
翌日。騒ぎは一日経つ毎に収束へ向けて落ち着いて来てはいるものの、まだまだ油断出来ない金曜日。
三時間目に一通のメールを受信した。
発信者は見城利幸、クラスメイトだ。
メールの内容は『放課後、体育館裏で』という素っ気無いものだった。
私は見城利幸の人となりを思い出そうとした。
見城利幸。違う中学出身だから、入学時に知り合ったのだが目立つ存在だった。まあ、イケメンだ。バスケ部所属で、気にしている女子は結構多い、と思う。
かたや私は容姿は人並み、残念なボディ、成績は普通という塩梅だ。
客観的に見たら、とても釣り合わない。
だとしたら、こいつは三人目なのか?
私はこんな不毛なもぐら叩きを続ける必要があるのか?
そして、ショーマの件で微妙なクラスの女子の関係性がますます微妙なものになるだろう。
ショーマの言葉を思い出す。『誰かのものになっちまえばいいんだ』
・・・駄目だ。そんなこと、私が私でなくなることだ。
私は私の気持ちに従って、未来を選択するだけだ。
私は覚悟を決めた。
「あや、帰りどっか寄らない?」
「ごめん。放課後用事があるんだー」
「大丈夫?へんな奴だったら、私達もついて行こうか?」
「ありがとう。でも、これはあたし自身の問題だから」
「・・・わかったわ。じゃあ、がんばんなさいよ」
二人の親友に送られて、私は体育館裏に向かった。
さて、問題の体育館裏であるが、マンガやラノベだと、告白の舞台かヤンキーの溜まり場である。我が校はどちらで使われているのだろう?人気者の見城君の指定場所なのだから、多分前者なのだろう。
しかし、私は告白される為に呼び出された、と安易に考え過ぎたのではないかと不安になった。
一週間前の私なら、もっと真剣に考えたであろう。ここのところの『黄金の乙女』問題で感覚がマヒしている気がする。誰も彼もが私に告白する、との思いが、知らず知らずに内に外に漏れ出しているのかもしれない。
だとしたら、見城君の名前を借りて、調子に乗っている九条あやめに制裁を加える、ということも考えられないか。
私は周辺の様子を見ながら、体育館裏へ進んだ。ここで囲まれたら、どっちに逃げようか。色々考えてはいたが、制裁パターンなら無傷では帰れないことを覚悟した。
体育館裏には誰もいなかった。しかし油断は禁物。進路と退路を断たれれば、私にはどうすることもできない。とりあえず、スマホで録音しておくべきか。
「悪い。待たせたかな」
本当に見城君は来た。
「私もさっき来たところだから」
私、何でこんなベタなこと言ってんだろ?
「なかなか教室では言えないことがあってな。・・・なあ、あいつはまだ九条さんに謝りに来ていないんだろ?」
いきなり尋ねて来た。黄金関係の確率80%というところか。
「バイバタの星野翔真のこと?うん、まだ来ていないわよ。どうして、そんなこと聞くの?」
「いや、九条さんも迷惑に思っているなら、俺の父親の伝手を使えば、あいつが謝罪に来るのを止められるが・・・」
どんな伝手だ?転生者達でギルドでも作っているのか?
「見城君、心配してくれてありがとう。でも、裏から手を回しても、校内の騒ぎは収まらない様な気がするのよ。だから、もし向こうから連絡があったら、皆の前で謝罪を受け入れるつもり」
まあ今度の月曜日なんだけど。困ったな。私自身にもサプライズだった、という体にする必要があるな。
「そうか、九条さんは強いんだな」
「向こうだって悪気があって、やったことじゃないし・・・。偶然って怖いね」
「九条さん・・・本当にそう思ってる?」
思ってない。本人から聞いたし。
「あいつとは面識ないし。信じるしかないでしょ」
面識はあるし、あいつがわざと告白したことは知っている。
「あいつなんかより・・・」
「あいつなんかより?」
「九条さん、俺とつき合ってくれ!」
見城君が告白してきた。さて、どうしたものか。お断りするのは最初から決めていたけど、まだ転生者かどうか確定じゃない。80%のままだ。
「ごめんなさい。私はまだ見城君のことを友達としか思えないの。『相思相愛』とは言えないので、つき合うというのは、私みたいな平凡な身としてはおこがましいわ」
キーワードを入れてみた。さあ、どうするのかな、見城君。
「・・・そうか、お友達か」
見城君は淋しそうな表情で呟いた。あれ?
「ええ、お友達」
「じゃあ、今後ともお友達としてよろしくな、九条さん」
「こちらこそ、よろしくね。見城君」
握手をして見城君とは別れた。あらら・・・。
結局、彼が転生者なのかどうか、尻尾を掴むことはできなかった。
私はボーイフレンドが出来たことを喜ぶべきなのか、それとも良物件をスルーしたことを悔しがるべきなのか、はたまた事故物件であることを隠されているのか。
全ては、保留である。
その夜、やすことちえみにチャットでさんざんいじられた。
さて、週末どうしよう。家にいるのも退屈だし、外に出るのも転生者共に狙われそうだ。
母さん、土日は夜のシフトだったっけ。
しょうがない。土曜の夜はやすことちえみを呼んで、オールでだべるかな。




