2.校舎の屋上で教師に告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
星野翔真の件は昨日の一日で終息する筈だった。
ところが、あいつの余計な一言で状況が変わってしまった。
昨日は私に対する嫉妬のような感情がまとわりついていたが、本日は私の側にいれば『星野翔真』に会えるという期待がムンムンとしていた。
さてどうするべきか。
クラスメイト達に迷惑をかけたとは思っていないが、(寧ろ話題というかネタを提供してあげた、との思いがあるが)なんらかのサービスがないと騒ぎは収まらないような気がしていた。
バイバタのシークレットライブぐらいかな。バイバタには失礼な話だけど、どれだけ需要があるのかわからない。少なくとも男子で見たいと思ってるのは少数派かな。
「あや、それでいつ来るの、バイバタ」
やすこがお弁当を食べながら尋ねてきた。
「そんなの知らないわよ。あいつがテレビで言っただけだから」
「・・・で、あいつの謝罪を受け入れるの?」
「断ったら、どうなると思う?」
「・・・それは、考えるだけでも恐ろしいわね」
「でしょ、そもそも私に選択権なんてないの。あいつが何日に謝りに行きたい、と言えば受け入れるしかないわ」
「・・・てことは、星野翔真はあやの連絡先、知ってるの?」
やすこの核心を突いた質問に、私はこくんと頷いた。
「じゃあ、もし星野翔真に本当に会った時に告白されたらどうするの?」
ふむ。その可能性はあるか。そもそも昨日あいつ、今度会った時にこたえをききたい、って言ってたっけ。
「ちょっと、あや、何顔あかくしてるのよ」
「さてはまんざらでもないな」
やすこにちえみ、そうはやしたてるな。私にも、親友にすら言えない秘密があるのだよ。まさかそんな秘密が昨日生まれるとは思わなかったけど。
「やすか、ちえみ、何か進展があれば、二人にはきちんと知らせるわ」
「あや、あたしたち親友だよね」
「うん、もちろん」
その夜、星野翔真から昨夜に続いて着信があった。全くどこで私のナンバーを入手したのかわからないが、私の知っている面々の中にも情報を売る者がいたとしても不思議ではない。中学の卒アルのように。
登録は『☆』としておく。いつどこで誰にスマホの履歴を見られるかわからない、注意が必要だ。
「私だけど、何か用なの?」
「ああ、昨日の件なんだが、考えてくれたか?」
「なんで、私があんたの謝罪イベントを考える必要があるの!」
「迷惑をかけたと思っているから、おまえの希望に沿おうと思っているだけんだが・・・」
「あんたに『おまえ』と呼ばれる筋合いはない!・・・そうねえ、ウチの高校でバイバタのシークレットライブくらいで手を打ってあげてもいいわ。もちろんマスコミには秘密でね」
「・・・なんだ、そんな事か。それでいいなら、オレはOKだ。・・・しかし、いいのか?そうなると、流れとしてはオレはおまえにステージ上で謝罪することになる」
「今回の件を終息できるなら、もう一回くらい表舞台に立ってもいいわ」
「もっと目立たせてやろうか?」
「・・・何かやってみろ。殺すからな」
「冗談だよ。・・・ここから先はおまえの高校と話をする。それでいいな?」
「・・・うん」
翌日、生活指導の先生に呼び出された。
放課後に校舎の屋上に来い、との事である。
生活指導・進藤君也 31歳・数学教師。
普通、生活指導と言えば55歳・社会科教師とかのイメージなのに、ウチの高校は何故か若い。
そして、見た目はそこそこ2枚目である。
先輩の女子達が何人告白しても片っ端から断っている、という逸話の持ち主。
確かに生活指導の教師が、女子高校生にほいほい手を出したら問題だろう。
「あや、大丈夫?一緒に行こうか?」
心配してくれるやすことちえみに私は笑顔で言った。
「うん、大丈夫。一人で行くわ。私が何か悪いことをやったわけではないし」
そうだ。私に何の落ち度もない筈だ。ただ、有名人がちょっとした悪戯で告白してみただけなんだから。
放課後、校舎の屋上、呼び出し。
これだけ揃ったらもうお腹いっぱいだ。
ただ、普通は呼び出すのは同級生か先輩であって、教師ではないはず。
何か悪い小説・漫画でも読んでいるのか?
屋上には誰もいなかった。ですよね、まだ5分前だもの。
私は待つことにした。
10分後、指定の時間より5分遅れて、進藤先生は現れた。
「九条、悪いな。ちょっと遅れてしまった」
「いえ、先生も色々忙しいでしょうから」
「ああ。今もバイオレットバタフライだっけ、あそこの事務所から今回の騒ぎのお詫びにライブをしたい、って言ってきて、色々相談しているところだ」
へえ。そうなんだ。あいつ、随分仕事が早いじゃん。
「九条も災難だったな。芸能人のいたずらに巻き込まれて・・・」
「もう、いいです。本人も記者会見でホントのことを話してくれましたし、学校の皆も落ち着いて来ていますし・・・」
「もし、息苦しく感じているのなら、先生に言ってくれないか。先生なら、生徒達を抑える事で出来るぞ」
「いえ、気にしてないですから。お気遣いは結構です」
「そんな事言うなよ。俺は御前の役に立ちたいんだ!」
へ・・・?何、ちょっとこの先生、おかしくない?と言うか、ちょいキモイ。
「・・・ちょっと先生?」
「ああ・・・もう!この際だから、はっきり言っておく。九条、俺は御前が好きだ。卒業したら、俺の嫁になれ」
何じゃそれ。30過ぎのおっさんが15歳の小娘にプロポーズ?
わけわからん。
それに私は既にこの手のことには耐性がついている。だから、動揺なんてしないんだよ、明智君。
「何それ?全然わかんないんですけど。何たくらんでいるの?・・・まさか」
私は星野翔真の言葉を思い出していた。
「流石、『黄金の乙女』。これくらいでは、落ちないか」
やっぱり、それか。
「あ、その件なら間に合ってますので」
つまりこいつも『あわよくば』を狙っているだけなんだ。私のことを好きでもないのに、どうして『相思相愛』になれると思っているのか。そんなことをして私が傷つかないと思っているのか、ちっともわからない。
「星野翔真から話を聞いたのか?」
私は頷いた。
「ちっ、余計な事を!」
「・・・余計な事・・・なの?」
「ああ、余計な事だ。いいか、俺達は『黄金の乙女』である御前の選択に任せよう、と遠くから何年も見守っていたんだ。あの男は俺達の暗黙のルールを破って、勝手に告白し、あろう事か御前に『黄金の乙女』の事を教えてしまった。これがどんな事になるか、わかるか?」
私は首を横に振った。
「あいつは開けてはならないパンドラの箱を開けたんだ。あいつは、『黄金の乙女』に関する紳士協定を破棄し、早いもの勝ちであることを宣言したんだ。これからは全ての転生者が御前の元に集まってくるだろう。それでもいいのか?」
ふうん。先生は私が子供の頃から(今もだが)私を見守ってくれていたんだ。かなりキモイんだけど、感謝すべき・・・なのか?
「先生、それなら大丈夫です。大事なのは私の気持ちであって、相手の気持ちなんかガン無視しますから」
「御前、強いな・・・」
「ここ二、三日で鍛えられましたので。不本意ですが」
「・・・なあ、改めて俺が告白したら受け入れてくれるか?」
「さぁ。その時の私の気分次第だと思う。・・・じゃあ、さよなら」
「お、おう・・・」
私は校舎を後にした。
先生がどんな様子だったか覚えていない。ただ、夕焼けがキレイだったなあ、という記憶は強く胸に残っている。




