14.迎賓館で大統領に告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。
2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。
3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。
4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。
5.仁平茂樹 株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。
6&12.富永悠一 ファストフード店元アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。夜道であやめを襲うも失敗。
7.島畑和毅 塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。
8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。
9.清水良治 病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。
10.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。
11.内藤洋二郎 雑誌編集者 原宿であやめ達に声をかけたが失敗。
13.海道信哉 警視庁SP 監禁中のあやめを救おうとして失敗。重傷を負う。一時的に『黄金の乙女』の力を発動出来る様になる。
海道さんに起こされてこの部屋を出て、30分後私は戻って来た。
ドアが閉まり、施錠された。これは、監禁されたと言っていいだろう。
この30分で、私は『黄金の乙女』の力を得て、失った。
大統領のことなんか、どうでもいい。
ただただ海道さんの容態が心配であった。『生きて!』『元に戻って!』『元気になって!』何度願ったかわからない。しかし私の祈りは通じない。この国の医療技術に頼るしかないのだ。
私は海道さんから託されたものをジャージのポケットから取り出した。
菖蒲のブローチ。明らかに私宛のプレゼントだろう。いつ買ってくれたんだろう?
しかし、私にもらう資格があるのだろうか?
私が外務省からの要請を拒否していたら、こんなことにはならなかった。
私が海道さんに話しかけなければ、こんなことにはならなかった。
それに、『黄金の乙女』の力を得ながら、『無事に逃げる』ことを願っていれば、こんなことにはならなかった。
全部私のせいだ。私のせいで海道さんは生命の危機に陥っている。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
結局眠れぬまま朝を迎えた。とは言っても、窓のない部屋に閉じ込められているので実感はない。部屋の時計が示す時刻から朝だと思うだけだった。
6時になったが、誰も来ない。昨夜外務省の小田原さんの言っていた『カリキュラムの追加』が嘘であることが明らかになった。
7時に朝食が支給された。菓子パン1個と牛乳200mlであったが、手をつけなかった。
8時に部屋から連れ出され、メイクを施され、本番時の衣装を着させられた。
何もやる気にならない。相手のなすがままだ。
9時頃に小田原さん現れた。
「さっきはご活躍してくれたみたいだな。・・・認識したまえ。我等の意に沿わぬ行為をした場合、君の友人達の安全は保証しかねる」
なんて卑怯な・・・。
私は大事な人を危険な目に遭わせてばかりだ。海道さん、母さん、やすこ、ちえみ、齋藤君、見城君、・・・。もう誰も酷い目に遭って欲しくない。
それならばどうすればいい?
転校しよう。そうすればクラスメイトの四人は安泰だ。
一人暮らしをすれば、母さんは無事だ。
海道さんは?海道さんの為に私は何が出来るの?
わからない。海道さんが何を望んでいたのか。
わからない。海道さんが何を望んでいるのか。
わからない。私は何をしたらいいのかわからない。
12時に昼食が支給される。内容を確認するのも億劫だ。
14時頃連れ出され、レセプションパーティーの会場に行く。そこでスケジュールだとか場所の確認を受ける。わかりやすかった。今のポンコツな私でも何とかなりそうである。
特設ステージでバイオレットバタフライがリハーサルをしていた。ああ、そうか彼等も呼ばれたんだ。どっかで聞いた事がある曲だなあ。ああ、そうだ。学校でシークレットライブを開いたんだ。何か随分昔の様な気がする。
何故かバイバタのメンバー全員が私を見ている様な気がした。どうでもいい・・・。
会場の下見が終わると、控室へ通された。広さは約3畳、机とパイプ椅子が4脚という素っ気無い部屋であったが、別に構わない。私は椅子へに座ると、机に突っ伏した。
一人きりでいるというのは、どうにもままならぬもので延々と同じことばかり考えてしまう。そして、そこから抜け出すことは困難だ。
堂々巡りを繰り返す。私はどこで間違えたのか?どうすればよかったのか?
外務省の要請を断ればよかったのか?話しかけなければよかったのか?それとも、・・・。
控室がノックされて、私が返事するより先に、中へ入って来た。
誰だろう、こんな私に用があるのは?
私は顔を上げて、入室して来た者を確認する。よく見えないから、右手で涙を拭う。ああ、知った顔だ。
バイオレットバタフライの二人だ。星野翔真と吉水健吾だ。
二人共私の顔を見て、驚いている。と言うか引いている。
「おい、何故ここにいるのか、今更俺は聞かない。どうせ、全ては発端である俺が悪い、って事になるからな。だけど、もう謝らないぜ。そんなんじゃ、俺もケンゴも次のステップに進めないからな」
星野翔真が何を言っているのか、よくわからない。
星野翔真の演説は続く。
「どうせ下らない事を考えているんだろ。『もう死にたい』とか『私のせいで』とか」
ああ、その通りだ。
「御前が死んで喜ぶ人間がいる事も確かだ。だけど、その何倍もの人間が御前の幸せを願っているんだ」
こんな私の幸せを願っているのか?そんな奇特な人間がいるのか?
「現に安河内と齋藤が、君の行方を追っているんだ。君にはまだ帰る場所があるんだ」
やすこと齋藤君が?そんなこと・・・。
「とっておきな事を言ってやる。いいか御前は世界の不幸を一身に引き受けている様な顔をしているがな、失恋なんて誰でも経験する普通の事だ」
この気持ちは・・・誰でも経験する・・・普通の・・・ことなの?
「だから、御前は特別じゃない。普通の女子高校生だ」
そうか普通でいいんだ。それなら私は元に戻れるのだろうか?
私は二人に言った。
「ありがとう。・・・見舞いに来てくれて。・・・今すぐは無理だけど、必ず、必ずいつもの私に戻るわ」
「それならいい。・・・流石は俺の嫁」
「ソレハナイ」
二人は私の控室を出て行った。で、ケンゴは何をしに来たんだ?
首相主催のレセプションパーティーを私は決められた場所で過ごした。カメラで抜かれたかもしれない。
さていよいよ、私にとっての本番である。
外務省というか日本の意志としては、私を娼婦として大統領に差し出す、ということである。
15歳の小娘をそういった目的で使った事が発覚する事は、政府が倒れる程のインパクトはあるが、恐らく私が証拠を持って告発しても、表沙汰になることはないだろう。政府はあらゆる媒体に緘口令をひくだろう。マスコミのことを100%信じる程今ドキの高校生は甘くない。
私としては大統領に対面し、問われれば『黄金の乙女』について誠心誠意話すだけである。力ずくで来たら、断固拒否。抵抗出来る限り抵抗する。そうでなければ、海道さんに申し訳が立たない。国益については考えない事にしよう。もし国益を大きく毀損することがあれば、私は国によって制裁を受けるだろう。でも、さっきまで死ぬことを考えていたんだから、そんな事態になっても諦めることは出来るだろう。
パーティーは定刻通り終了した。大統領の公式行事は明日の朝まで無い。
外務省の職員が私を誘導する。何を考えているのか。ロリコン大統領への貢ぎ物とでも思っているのか。
携帯型翻訳機を渡されるが、これは使えない。この機械はインターネットを介して、どこかのサーバで翻訳するシステムである。絶対に話した内容が流出するだろうし、きっと中には盗聴器が仕込まれているだろう。なんという下衆い考えであろうか。
同時に大統領について考える。確か年齢は60代。転生者なのだろうか?転生者だとしたら、どんなつもりなのか?私との未来を諦めているのなら、仁平茂樹と同じ様にさっさと部下に命じて私を殺すべきで、わざわざ私に会う必要も無いだろう。もしワンチャン期待しているのなら、そんな酷い目に合うこともないだろう。転生者じゃないとしたら、ロリコンでHなことを望んでいるのなら全力で抵抗してやろう。諦めて全てを受け入れる人形よりは、相手も満足するだろう。
廊下を歩いた最も奥の部屋に入り、ここで待つ様に言われた。私の住んでいる家よりも広い部屋で、天蓋付きの寝台があった。やっぱり、そういう認識なんだ。私を連れて来た男は、にやついた表情を浮かべながら去って行った。顔は覚えた。次の恋愛の時、必ず殺す!
私の入って来た扉とは別の、部屋の奥にある扉から男が一人入って来て、私に近づいて来た。テレビで見た顔、間違い無い、大統領だ。大統領は、私に握手を求めながら言った。
「Good Evening,Miss Kujo.」
やはり英語か。私は考えていた対応を実施する。
「お招きいただき、ありがとうございます。九条あやめです」
怪訝な表情の大統領、そりゃあそうだよな、何を言っているのかわからないだろう。
大統領はスタッフを呼び出し、通訳を連れて来るように命じた、のだと思う。
新たに入室して来た男はやはり通訳の様で、大統領の話を聞いた後、私に言った。
「申し訳ありませんが、もう一度言って下さい。それから何故その翻訳機を使わないのですか?」
「お招きいただき、ありがとうございます。九条あやめです。と先程は言いました。この翻訳機を使わない理由は、翻訳時にはインターネットを使いますので情報流出の危険性があることと、政府支給ですので盗聴器が仕込まれている可能性があります」
私はそう言って翻訳機を通訳さんに渡した。
通訳の言葉を聞いて、大統領はにやりと笑った。
「報告通り、君が聡明な少女で安心したよ。それで、君は何故我々の求めに応じて来たのかね。断る選択肢もあった筈だ」
「私につきまとっているストーカーが、私の友人達に危害を加えない様に対策して欲しい、と政府にお願いしました。あなたとの対面はそのバーターです」
「面白い事を言うお嬢さんだ。私の気分を害することが日本の国益にならない事は理解しているだろうな」
「それは理解しています。しかし、選挙権もない人間に国益を理由に行動を強制するのは間違っている、と思います」
「じゃあ、君は何の目的でここに来たのだね?」
「先程申しましたバーターが主目的です。もし、大統領に何か言われたら、正直に本心を話す気でいました。結果、暴力的な手段に出ようとされた時には、全力で抵抗する意志を示します」
「その話ぶりなら、どうやら本当らしいな」
「ええ。私も半信半疑だったのですが、今朝能力を使えましたので本当ですよ。尤も今はその力は使えませんが・・・」
「それはどうして?」
「パートナーが警察に狙撃されて、意識不明になりました。だから、前提条件を満足しておりません」
「そうか、必ずしも幸せな境遇という訳ではないのだな」
「インターネットで私の名前を検索してください。誹謗中傷しか書かれていませんから。・・・それで、どうしてわざわざ私を呼んだのですか?噂の真偽を確認する訳では無いでしょう」
「私には17歳の孫がいるんだが、その子が言うんだ。『日本には『黄金の乙女』と呼ばれる女性がいる。僕が告白したら、付き合えるのかな』と」
「それでは、お孫さんにお伝え下さい。『そういうことは直接本人に聞きに来い』と」
「それはそうだな。孫に注意しておくよ。・・・ところで、もし私が『付き合いたい』と言ったら、どう答えるかね?」
ついに来たか。ここをうまく答えないと、私は殺されるだろうな。でも、心にも無いことを言ってまで生き延びようとも思わない。
「お孫さんのライバルになるおつもりですか?・・・まあ家庭の問題には立ち入りませんが。私はいつも言っているのですが、よく知らない人とはお付き合いしません」
「じゃあ、私にはもうチャンスは無いのかね?」
「さあ、それはご本人の心掛けの問題もあります。中には、電話で近況を報告し合う人もいますし、二度と会わない人もいます。・・・大統領がどちらに進むのかは自由です。私の電話番号くらい、すぐに調べられるんでしょう?」
「そうだな孫のライバルになるとするか。『御前より先行しているぞ』と。・・・いや、楽しい時間を過ごさせてもらった」
「そうですか。・・・では、私はこれで・・・」
立ち去ろうとした私を大統領が留めた。
「待ってくれ。君は不安では無いのか?私が日本に何を要求するのかを」
「それは、あなたが国益を考え抜いた結果でしょ?私に口出しする権利はありません。尤もそれは日本が私を断罪する結果になるかもしれませんが・・・」
「それでも構わない、と言うのか?」
「ええ、大統領、あなたの思った様に会談していただいて結構ですよ。・・・私は怒っています。日本政府のやり方に。15歳の女の子を政治家の寝室に送り込む様なやり方に。こんな方法が成功してはいけません」
「確かにそうだな。考えてみれば、随分おぞましい事だな。・・・わかった。私は私のやり方で進むとしよう。その時、君はどうなるのかね?」
「それは日本政府の考えることですから、わかりかねます。但し、今朝日本政府は『黄金の乙女』の危険性を認識したと思いますので、大統領との会談が成功しようが失敗しようが命を狙われるんじゃないでしょうか?」
「私の国に来るか?永住ビザならすぐに発給するが・・・」
「結構です。先程も申した通り、今朝私のパートナーだった人は政府によって重傷を負いました。おめおめと引き下がることは出来ません。私は、運命にも政府とも戦います」
「・・・君は強いな。流石、未来の私の嫁・・・」
「気が早いですよ、大統領。・・・それでは失礼します」
私は一礼して、部屋を出た。あの大統領はただの人間だったから、私は助かった。もし転生者だったら、次の『黄金の乙女』を期待して、とっとと殺したであろう。しかし、大統領にこの件を吹き込んだ孫については注意が必要だろう。
政府の職員に手を引かれて、私は宿泊スペースに戻された。3畳、ベッド・便座付きの施錠されたスペースである。ここで、首相・大統領共同の記者会見終了時までここで待機して欲しい、とのことであった。要は監禁である。記者会見修了予定時刻まで後20時間。
朝食も昼食もパスし、私はベッドの上で菖蒲のブローチを眺めていた。これをもらう資格が私にあるのだろうか。
備え付けのテレビは、生中継で首相と大統領の記者会見をしていた。内容についてはよくわからないが、この後の記者からの質疑応答が終われば、私は無事解放される筈である。
記者会見が終了して数分後に、施錠されたドアが開かれた。政府の人間だった。
「九条さん、御苦労様でした。今から家までお送り致します。今回の件での御協力に際し、何か御礼を差し上げたいのですが、何か御希望は御座いますか?」
「それでしたら・・・」
帰宅の際、私はジャージ姿のままでいることを希望した。海道さんの血が付着しているジャージの方がいい、と何となくそんな気分だった。
用意されたのは普通の乗用車だった。もう終わったことなので、リムジンを使う必要は無いってことね。私は一人で乗り込む。SPなんて付く筈も無かった。
1時間半ほどかかって、自宅に到着した。
24時近くだというのに、門の灯りが私を迎えてくれていた。
不用心なことに鍵は空いていた。
ダイニングにいつもと同じように母さんは座っていた。
「ただいま、母さん・・・」
「お帰り、あやめ」
向かいの席に座ろうとする私を押しとどめて、母さんは天井を指差しながら言った。
「晩御飯より先に、いっぱい心配かけたんだから謝っておきなさい」
ここで母さんに逆らうべきではない、と判断して私は階段を上がり、自室に向かう。
灯りがついていた。
やすことちえみが座っていた。
その瞬間、涙腺が崩壊した。
私は二人の肩を抱きながら泣いていた。深夜にも関わらず、幼児の様な大声で。
そこからの記憶はなかった。
目が醒めた。
私はやすこの膝に頭を載せて眠っていたらしい。
私は起き上がり、同じく目を醒ました二人にいった。
「・・・ただいま」
「おかえり、あや」




