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12.夜道で元アルバイト店員に告られる

『黄金の乙女』

世界にたった一人の至高の存在。

その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。

伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。


これまで

1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。

2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。

3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。

4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。

5.仁平茂樹 株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。

6.富永悠一 ファストフード店アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。

7.島畑和毅 塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。

8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。

9.清水良治 病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。

10.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。

11.内藤洋二郎 雑誌編集者 原宿であやめ達に声をかけたが失敗。


「今日、原宿で変な男に声を掛けられたらしいな」

久し振りにかかって来たショーマの第一声がこれである。もっと他に言い方はないものだろうか。

どちらがショーマに話したのか。恐らくやすこであろう。

「ショーマには関係ないでしょ」

「あやのこと、これでも心配しているんだぞ」

「・・・あ、ありがと」

何故私がショーマにお礼を言わなくてはならないのか、解せぬ。

「ショーマ、ちょっと聞きたいんだけど、転生者達は私のプロフのどこまで知っているの?」

「どうしてそんな事を聞くんだ?」

「この間は母さんに接触して来たわ。今日は友達といるところに接触して来た。私はいい、私はいいけど他の人を巻き込みたくないの!」

「あやの情報については、俺が転生する際に知っていたことは、この世界の九条あやめという名前と生年月日だけだった。・・・すまない。俺が告白したばかりに・・・」

「ショーマのせいだとは思っていない。・・・ただ・・・最初は単なる告白だった。途中から、暴力に訴える様になり、次は母さんとか友達をネタに・・・何か流れがあり、転生者が情報を共有している気がするのよ」

「あや、進藤君也が言っていた事を覚えているか?」

「進藤先生?何か言ってたかな?」

「確かあやの成長や恋愛を見守っていた、と言っていただろ。そのグループがまだ続いているんじゃないか?そこで、誰がこんな状況で告白し、失敗した、この情報をアップデートしているんじゃないか?」

「わかった。進藤先生に聞いてみるわ」

「あや、気をつけろよ。転生者達は人生を賭けて、この世界に来ているんだ。自分が死ぬ以外の事は何だってするぞ」

「肝に銘じておくわ。ありがとう、転生者さん」

ちょっと嫌味が過ぎたかもしれない。しかし、発した言葉は取り戻せない・・・。


翌日、私は四、五日振りに制服に袖を通し、登校した。

ショーマの提案もあり、進藤先生から情報を聞き出す為だ。

教室ではなく、今日は職員室に向かう。

「進藤先生、今日は折り入って教えていただきたいことがあります」

私が言うと、先生はPCを操作して、面談室の予約状況を確認する。夏休みの午前中なので、全ての面談室が空いていた。

「とりあえず面談室1で待機していてくれ。面談の準備をしてから向かう」

「わかりました」

私は面談室1で進藤先生を待っていた。面談室とは、教師と生徒、教師と生徒・保護者といった面談の際に使うスペースだ。職員室や教室で話しにくい話題の場合に活用される。しかし、密室となることから、目的外使用の恐れは多分にあり、全室防犯用カメラが備えられている。

5、6分遅れて進藤先生が現れた。PCを持って来ただけだ。何の準備をしていたのだろう。

「九条、夏休みに何の相談があるんだ?」

「先生、私は相談をしに来た訳ではありません。教えてもらいに来たんです」

「どんな事だ?俺に答えられる事なら答えるが・・・」

「ええ。先生にしか答えられないことです。先月、先生は屋上で、『俺達は『黄金の乙女』である御前の選択に任せよう、と遠くから何年も見守っていたんだ』って言いましたよね」

「そんな事、よく覚えているな・・・」

「あの時の私は猛スピードで流れていく事態を把握するだけで精一杯。そんな時、『私を守る』と言った先生の言葉は響いたわ。それを先生には言わなかったし、その時の選択が間違ったとは思わない。・・・それで教えてもらいたいのは、あの時、『俺達は』って言いましたよね?つまり転生者同士は面識があるの?そして私についての情報を転生者間で情報を共有しているの?」

「・・・」

進藤先生は無言だった。余程話したくない内容らしい。

「先生、さっき言いましたよね。『俺に答えられる事なら答える』って、答えて下さい!」

先生はしばらく考えた後、決心したのかきっぱりと言った。

「・・・わかった。話すよ。確かに御前の推測通り転生者間で御前の情報は共有していた。だが、俺は星野翔真の告白騒動でグループを抜けたんだ」

「どうして?」

「・・・簡単な事だ。多分、俺が最も『黄金の乙女』に近い場所にいるんだ。早い者勝ちになったゲームで、わざわざ敵に塩を送る必要は無い」

「それもそうね。・・・それで先生が抜ける時、グループに何人所属していたの?」

「・・・217名だ・・・」

「メンバーのリストはないの?」

「ない。我々はお互いをハンドルネームで呼び合ってたからな。因みに俺は『数学教師』を名乗っていたな。他にも、大統領とかCEOとか警察官、消防署員、雑誌編集者、弁護士、SP、プリンスなんてのもいたかな」

「わかったわ。ありがとう」

「おい、どうするつもりなんだ?」

「教えてくれた御礼に、今の私の考えを説明します。誰がどう考えても『相思相愛』の状態が永遠に続くものではありません。元々『黄金の乙女』の能力は期間限定のものと言えるでしょう。つまり、転生者達は私に好きな人が出来て、『黄金の乙女』の能力を得たとしても、アタックを止めないでしょう。最悪、私か私の好きになった人を殺そうとするでしょう。転生者達に対し、私はあまりにも無力です。なので、私は『黄金の乙女』の能力を行使して、全ての転生者を亡き者にします」

「九条、御前・・・」

絶句する進藤先生をよそに、私は面談室を後にした。

進藤先生に尋ねても、現在機能しているギルドがあるのかどうかわからなかった。ならば、他の転生者に尋ねるか。仁平茂樹、島畑和毅、内藤洋二郎、ダメだ、誰とも話したくない。

わかったことは少なくとも217名が密かに私の情報を共有していた、ということだけだ。それにショーマの騒動でマスコミのせいで顔バレしている現状を考えれば、私の求める平穏な生活なんか当分無理だと思われた。

それにしても、進藤先生、役に立たねーな。


家に戻り、簡単な昼食を摂った後、やすこの家に行く準備をする。

夏休みの宿題を円滑に終わらせる為に、昼は各々の家で宿題を助け合う事になっている。月・火はやすこの家に、水・木はちえみの家、金・土は我が家となっている。因みに日曜日についてはデート推奨日ということで、宿題の進捗は予定していない。

やすこの家は、私の家からはちょっと距離があり、自転車で行こうかなとも思ったが、夕方から雨との予報があったので、諦めて歩いて行くことにした。

やすこの家に着き、エアコンの効いた部屋で涼んだ後、私は読書感想文に取り掛かった。折角市民プールにまで行って、中学生からの告白をなだめてまで読み進めたのだ。記憶のはっきりしている内に、感想文を書かないと全く割に合わない。

私は猛然と原稿用紙に書き始めた。指定は原稿用紙5枚。何とか1601字以上に引き延ばすのだ。

格闘すること

三時間、1996文字で書き終わった。ほぼ指定の文字量なので、先生から文句を言われることもあるまい。

次に数学の宿題に取り掛かる。指定された問題集の前から順に3分の1の分量を解いたノートを提出する、という課題であった。問題集には予め解答が付いているので正解を求めている訳ではない。あくまでも、どうやって正解を導いたかをノートに記すという課題である。これは地味に辛い、時間のかかる課題であった。そしてこの三人組では私が先陣を切るより他に無いだろう。これに約二時間没頭したところで、外の様子を見る。

日が暮れようとしている。ケータイを見ると19時近かった。

「やすこ、私、もう帰るわ」

「もうすぐママが帰って来るから。ママに頼んで、クルマで送る様に頼むけど・・・」

「いいっていいって。そんな歩けない距離じゃないし・・・」

「気を付けなよ。この辺り、最近物騒になってね、夜になると出るらしいし・・・」

「出るって、何が?」

「・・・ユーレイ」

「それなら私も会ってみたいな。じゃあね、やすこ、ちえみ、またあした」

私はやすこの家を後にした。


やすこの家から歩き始め、少々足が痛くなってきて、そろそろ我が家迄あと5分という時だった。

家の近くであるという油断があったのだろうと思う。その点については反省しなければならない。

突然羽交い絞めにされ、口を手で塞がれた。

抵抗したが、その甲斐無く路地裏に引きずり込まれた。

狭い路地裏であったのが幸いしたのか、体の小さい私の方が体を動かせる余裕があった。強引に男を振りほどくと、距離を取った。

私は男の顔を見た。

「あなたは・・・富永悠一!」

「そうだ。御前のせいで・・・バイトをクビになった富永だ」

「逆恨みもいいところ・・・警察に突き出されないだけ感謝しなさい!」

「言いたい事はそれだけか!大人しく俺のオンナになれ!『黄金の乙女』!」

手を前にして私を追い詰め様とする富永をかわすと、私は富永の股間を思い切り蹴った。

股間に手を当てて、のたうち回っている富永を無視して、私は家に逃げ帰った。


家に着くと、母さんは帰宅していた。

帰宅の挨拶もそこそこに、自分の部屋に引き籠った。

夕食を告げる母さんの声にも、「食欲が無い、いらない」と答えた。

何か汚された様な気がする服を脱ぎ捨てて、パジャマに着替えた。

そしてベッドにダイビングして,泣いた。

思い切り泣いた。

私が何をしたと言うのか。

何でこんな目に遭わなければならない。

もうどうだっていい。

『黄金の乙女』なんてどうでもいい。

お願いだから戻してよ!

私を普通の女の子に戻してよ!


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