11.原宿でスカウトに告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。
2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。
3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。
4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。
5.仁平茂樹 株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。
6.富永悠一 ファストフード店アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。
7.島畑和毅 塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。
8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。
9.清水良治 病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。
10.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。
「このままではまずい、と思うのよ」
反省会の席でちえみが言った。
「まずい、って何が?ここのパスタ、美味しいわよ。ちえみも食べる?」
ミートソーススパを食べながら私は答える。
「そうじゃなくて!・・・ほら、あやだったら、何が起きるかわからないスリルがあるじゃない。だけど私達には妙な安定感があると言うか・・・」
「・・・確かに意外性はないかもしれない」
「そうでしょ。だからオトコのコが放っておけなくなるような、危なっかしさが必要だと思うのよ、私達には」
ちえみよ、危なっかしいのはあんたの体形だぞ。
5人でプールに行った後、女子3人組でのイタリア料理チェーン店での反省会である。昼に何か食べた記憶はあったのだが、それぞれがっつり食べながら、こうして次回へ向けての課題出しと反省をしている訳である。
「だけど、意外性って言われても、あやじゃあるまいし・・・」
「言っておくけど私はごく普通の女の子なんですけど」
「バイバタのメンバー二人から告白される様な子は普通じゃありません」
それはそうだ。
「それで、一体何を企んでるの?」
「内面というか性格が地味なのは仕方が無いわ。ならば外見よ。ファッションを派手派手にして意外性を出すのよ!」
ちえみ、気は確かか?
「という訳で、この街では誰も着ていない様な最新のファッションを取り入れる事にします。やすこ、あや、明日つきあってもらうからね」
「それで、どこへ行こうって言うのよ」
「そんなの決まってるじゃないの!東京よ、東京!ナウなヤングの聖地よ、渋谷、原宿、代官山に下北沢よ。やすこ、あや、返事は?」
「わかったわよ。行けばいいんでしょ、東京でも、LAでも、地獄でも」
「しょうがないなあ。・・・でも、ちえみ、あんたわかっているの?見城君が彼女にどんな格好をして欲しいのか」
「それは、まあ、なんとなくだけど・・・わかるわよ」
「まあ、それならいいんだけどね。・・・それで、明日何時なの?」
「9時、・・・いや8時に駅に集合よ!」
反省会が終わり、解散となった。明日の予定が決まり、ちえみは上機嫌で帰っていく中、私はやすこを呼び止めた。
「やすこ、サングラス持ってなかった?明日貸して欲しいんだけど」
「それはいいけど、何で?」
「私、顔バレしているから。同世代の女の多い場所に行くのは、ちょっと怖い。バイバタのファンがいたら、何をされるかわからないし」
「それなら・・・」
やすこが何かを言おうとしていたが、私は遮って言った。
「ちえみは親友だからね」
夏休み期間中とは言え、月曜日の午前8時である。部活や予備校の夏期講座に行く高校生や通勤途上のサラリーマンでごったがえしている駅で、私はやすことちえみを待った。
今日もマスク着用で、親友のおつきあいである。程なくして二人が現れた。
「やすこ、例のブツ、持って来てくれた?」
「あや、これでいい?」
「ありがとう、これでいいわ」
私はやすこから受け取ったサングラスをかけてみた。
「ねえ、これ似合っているかな?」
「似合っているかどうかはわからないけど、安心して。ちゃんと怪しい人に見えるから」
「あや、何でマスクにサングラスなの?」
「ちえみ、今日は九条あやめだとバレると、色々危ないと思うのよね。・・・自意識過剰だと笑ってもいいわよ」
「あや、ありがとう」
「いいって、親友だからね・・・ほら、さっさと行くわよ、東京へ!」
8時過ぎの電車に乗って、何回か乗り換えて原宿に到着したのは10時半頃だった。
夏休みのせいか、キャスター付きのバッグを転がしている同世代の女子が多かった。
「ちえみ、どこか目指しているお店があるんじゃないの?」
「うん、一応チェックはして来た」
「じゃあ、さっさと行きましょ」
「待って。その店、オープンが11時だから、まだ開いてないのよ。ねえ、折角だからクレープでも食べない?」
ちえみは原宿に来ても、ちえみのままだった。
クレープを食べる時は、ちょっとばかり逡巡した。
折角付けているマスクを外す必要があるからだ。サングラスだけで正体を隠せるのか不安だった。
しかし、手に持ったクレープを食べない訳にはいかない。
意を決してマスクを外し、クレープを食べ始めた。
周囲のざわつきが気になる。何を言っているのだろうか?九条、バイオレットバタフライ、星野、吉水、と言った言葉が聞こえた様な気がする。
何だか座り込みたくなった。やすこがすっと私の前に立ってくれたのが有難かった。
ありがとう、やすこ。私は負けない!私はちえみの手を取って言った。
「そろそろ11時、ちえみ、行くわよ。・・・それで、お店はどこなの?」
チェックしていた店に入るや否や、ちえみは試着を繰り返した。ちえみのファッションショーに対して、最初はノリノリで感想を言っていた私達も、何着目かになると「ああ、うん・・・」「いいんじゃないの」といった投げやりな感想しか言えなくなっていた。
気がつくとちえみは支払いを済ませていた。彼女は何着目の服を買ったのだろうか?
私はやすこに言った。
「やすこ、折角だからやすこも一着くらい買ったら?」
「私はいいよ」
「何で?折角原宿まで来たのに」
「多分だけど、齋藤君はここにある様な服は好きじゃない様な気がするの。だから、私はいい」
「そう、やすこがそう言うんだったらいいけど」
やすこ、いい判断だと私は思うぞ。
「ちえみー、次の予定はどこなの?」
「えーと、お昼を食べてから、靴と小物を買うつもり」
「私はあんまり食欲無いから、お昼はパス。あんた達が食べているのを見ているわ」
「しょうがないなあ。じゃあ、私があやの分も食べるわ」
ちえみ、それはやめておけ。
「ちえみ、お昼の場所の目星は付けているの?」
「勿論!お任せあれ」
ちえみがピックアップした店は行列の出来るラーメン店で、店舗は2階にあり、階段に行列が形成されていた。店内の様子を見ると、カウンター席が殆どで、4人掛けの席は相席で座っている様だ。
「二人で食べて来なよ。私は外で待っているからさ」
私は行列から離脱した。
さて、どこで時間を潰そうか。夏休みの真っ昼間にマスクをしている為に、ひどく暑い。どこか冷房のあるところを探さないと・・・。100m先にコンビニを見つけて、そこで涼を取った。
一時間弱コンビニで過ごすと、私は二人が列に並んだラーメン屋に戻ると、二人は店の外で待っていた。
「あや、どこに行ってたの?」
「何度かラインで何度か連絡したんだよ」
「ごめんね。あまりに暑いんで、コンビニで涼んでいたのよ。それに私がまだラインを見られる状況にないことは知っているでしょ」
「あ、ごめん、そうだったね」
「まあ、いいわ。さっさと靴と小物を買いに行くわよ。・・・で、どこなの?」
「じゃあ、案内するからついて来てね」
私達が歩き始めてしばらく経った頃、背後から声を掛けられた。
「お嬢さん方、ちょっといいですか?」
「はい?」
私達が振り返ると、サングラスを掛け、カメラを持った怪しい男が立っていた。
「怪しい者ではありません。私はこういう者です」
男はそう言って、名刺を差し出した。三人の内、真ん中にいた私が仕方無く受け取る。
いや、どう見ても怪しいんですけど。
名刺には
『株式会社〇〇社
月刊☓☓編集部
内藤 洋二郎』
と書かれていた。阿保らし。こんなもの、誰でも作れるレベルだ。
「え~、私でも知ってるあの雑誌の編集さんなんですか。すごいですね」
ちえみ、ダメだ、そんな簡単に騙されちゃ。
「悪いけど、今忙しいから。他の人をあたって」
私は言ったが、内藤は食い下がった。
「そんな事言わずに話だけでも聞いて下さいよ。私達の雑誌で今、『ゴールデン・メイデン』を探せ、という企画をやっておりまして、それにふさわしい子を探しております」
『ゴールデン・メイデン』?まんま『黄金の乙女』じゃないか。だとすると、こいつは転生者か?私はどうするべきなのか?まずはこいつが転生者かどうか確認する。次にやすことちえみの安全を確保する。今考えることはそれだけでいい。
「『ゴールデン・メイデン』って?」
「さあ、輝くような美少女、ってことじゃないの」
ちえみの問いにやすこが答えていた。やすこ、ナイス。ちょっとの間でいいから、ちえみの相手してやって欲しい。
「あなたは何者なの?」
「さっき名刺を渡した通り、雑誌の編集者ですよ」
「そういうことを聞きたいんじゃあない。・・・何が目的で私達に、私に声を掛けた」
「あなた方を見た時に確信したからですよ。あなたが『ゴールデン・メイデン』だと」
「ふうん。それで何が目的なの?見つけ出して、めでたしめでたしじゃあないでしょ」
「『ゴールデン・メイデン』を見出し、手中におさめる、男のロマンじゃないか」
「あなたの安いロマンの為に、犠牲になるつもりはないの。知っていると思うけど、手中におさめる為には私の意志が最も重要なのよ」
「そんな事は、付き合い始めれば、どうとでもなる!」
「あなたは、この世界の女の子のことを全然わかっていない!そんなあなたの言いなりになるつもりはない!」
「大人しく俺と付き合えよ」
「ようやく本心が出たわね。だけど、私は私の生きたい様に生きる。例えここにいる皆から嫌われる様な生き方だったとしてもね。だから、手を引きなさい」
「俺は、こいつの為に命を懸けているんだ。手を引く条件は安くないぞ」
「あなたのこの世界での立場を保証する、悪い条件じゃないでしょ」
「小娘に何が出来るって言うんだ」
仕方無いな。私は小声で内藤に言った。
「以前、私を殺して、リセットを試みたお爺ちゃんがいたのよ。失敗したけどね。そのお爺ちゃん、会社のお偉いさんだったから、今の地位を守る為に私の言いなりになっているわ。あなたを殺すことは、私にとって電話一つで済むことなのよ。躊躇はしないわ。あなたが二人目だから」
「わかったよ。俺にもこの世界での立場があるからな。それに生きていれば、チャンスが巡って来るかもしれないしな」
「確率は低いと思うけどね」
「最後に君達の写真を撮らしてくれないか。マスクとサングラスは着けたままでいいから」
「それくらいなら・・・」
内藤は私達の3ショット写真を撮って、去って行った。こちらも連絡先を教えたりしなかったので、さっきの写真が雑誌に載ったとしても芸能事務所から問い合わせが来ることは無いだろう。ちえみ、残念だったな。
ちえみの目指す店に向かって歩きながら、やすこが不安そうに尋ねてきた。
「あや、さっきの男、なんだったの?」
「あの男、私の正体に気付いていたみたい。素顔を見せろ、ってうるさかったのよ。何とか説得して、諦めてもらったけどね」
「マスクとサングラスをしていてもバレるなんて、怖いね」
「大丈夫、やすことちえみには危害が加わらない様にするから」
「あや・・・」
「ちえみー、いつまで歩くのよ。お店は一体どこにあるのよ」
私達の原宿探索はまだまだ続いていた。
二ヶ月後、例の雑誌に私達三人の写真が載り、学校でちょっとした話題になった。
『田舎から出てきた三人組。元気いっぱいでした』とのコメントが添えられていた。




