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10.プールで中学生に告られる

『黄金の乙女』

世界にたった一人の至高の存在。

その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。

伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。


これまで

1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。

2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。

3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。

4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。

5.仁平茂樹 株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。

6.富永悠一 ファストフード店アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。

7.島畑和毅 塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。

8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。

9.清水良治 病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。


楽しい日曜日の次の日は何故か憂鬱な月曜日なので、仕方無く登校することにした。

今日から先週の期末テストの答案が続々と戻って来る筈である。

しかし、私には期末テストの結果よりも大事なミッションがあった。

それは、やすことちえみの初デートの結果を聞くことである。初めてのデートなのだから、キスまでは難しいだろうが、手を繋ぐ、とか、腕を組むとかの段階まではステップアップして欲しいものである。

私が定刻通り席に着いて数分後、やすことちえみが登校して来た。

御両人、あらら浮かない顔をしているぞ。これは一大事、詳しく聞き出さなければ。

「ちえみ、やすこー、おはよー。ねえ、昨日はどうだったのよ?」

「あや、いきなりそれを聞く?私達には、まだ状況を整理する必要があるの。詳細については昼休みに話すわ」

一体何が起きたのだろうか。


昼休みとなった。私の席にお弁当と椅子を持って集まるのが通例であったが、場所を変えたい、とのやすこの要望により、中庭のベンチに座ってお弁当を食べることとなった。

何故だろうか。どうやら齋藤君や見城君に聞かれたくないことがあるみたいだな。

「それで一体何があったのよ。折角の初デートで」

「あの二人、ことあるごとに『九条さん』『九条さん』って。私達を見ていない。私達の向こうにいる『九条あやめ』を見ているのよ」

「やすこはともかく、ちえみはそうなる可能性があることはわかっていたでしょ。・・・不満があるのだったら、直接言葉で本人に言わないと」

「でも・・・何回もそれとなく匂わせたんだけど・・・」

「『匂わせ』は気付かない男子も多いわよ。もっと普段から自分をアピールしないと。一緒に登下校するとか」

「他の女子に恨まれたりしないかな?」

「そんなこと言っていたら、他の女の子に取られるよ。取り敢えず次の日曜日にもう1回デートしてみたら。・・・会話が続きにくいのだったら、映画館にでも行けば?」

「そうね。わかった。チャレンジしてみる」

「別に映画館で手握っていてもいいし、なんならチューしてもいいのよ」

「あや、あんた・・・経験あるの?」

「ある訳ないでしょ!・・・そう、これは『乙女の妄想』って奴よ。とにかく、夏休みの間に、恋人の座をゲットしなさいよ。2学期になって泥棒猫が現れたって知らないからね」

「あやが一番怪しいんですけど」

「私、ないない。二人共眼中に無いわ。・・・でも、相手がどう思うかは保証出来ないわ。だって私は『魔性の女』だから♪」

「あや、それは私達にとって、シャレにならないのよ・・・」


夜、塾から戻ると、母さんが戻って来ていた。

表情が暗い。酷く落ち込んでいる。

「どうしたの、母さん、何かあったの?」

「昨日会った清水君なんだけど・・・」

「清水さん、どうかしたの?」

「昨日の夜、お父様が倒れたそうなの。それで、お父様のクリニックを引き継ぐ事を決めたんだって。今月末で退職して、故郷に帰るんだって」

「それで、母さんはどうしたいの?」

「あやめ、あなたをおいて、ついていける訳ないじゃないの」

「この際、私のことはおいといて考えてみれば?」

「それでも、今じゃないわ。少なくともあなたが高校を卒業するまではね・・・」

「でもね、母さん、田舎の病院の院長先生と言ったら、ちょっとした名士じゃないの。きっとお見合い相手がひっきりなしに来るんじゃないの?母さん、遠距離でそんな相手に勝てるの?」

「・・・自信無い」

「じゃあ、清水さんを諦めるの?」

「そうなったら、縁が無かったと思って諦めるわ」

「母さん、今回の件、私のせいだとは思わないでね」

「あなたのせいだなんて、全然思っていないわ」

「なら、いいんだけど」

どうやら清水良治は私の要望をきちんと果たしてくれそうだ。転生者とて命は惜しいのだろう。

私は『黄金の乙女』の件で母さんを利用したことを許しはしない。


期末テスト答案返却ウィークの2日目である。

私は登校して来たやすことちえみを掴まえた。

「・・・それで、次のデートは決まったの?」

「日曜日に映画観に行かない?って誘ったら、今週は観たい映画が無い、って見城君が言ったの」

「ふうん、それで?まさか諦めた訳じゃあないでしょうね」

「うん。じゃあ、皆で市民プールに行かないか、って齋藤君が言ったのよ」

プールは悪くない選択だ。

「ねえ、あやも一緒に行かない?二人が、なんか仲間外れにしているみたいで気が引ける、って言うのよ」

二対二のカップルに私がついて行くのか?何たる地獄図・・・私にとってこれは罰ゲームか。

「それって、日曜日よね。じゃあ、ダメ。その日は体調悪くなるから」

「あや、私達に気を遣って、仮病を使う必要は無いのよ」

「そうじゃなくって、プールに入れなくなる体調になるの」

「あっ・・・そういうこと?」

「そう、そういうことよ」

「じゃあ、プールに入らなくてもいいから、一緒に来てちょうだい。プールサイドで本でも読んでいればいいから」

「何で私が・・・あんた達の保護者でもないのに・・・」

何故二人の見守る必要があるのか。親友が男子といちゃついているのを観察するのはちょっと気恥ずかしい。いや、この展開は敢えて見せつけようとしているのか?

「あや、親友の頼みが聞けないって言うの?まさかそんな薄情なマネはしないでしょうね」

「わかったわよ。ついて行けばいいんでしょ」

何で男子二人に私の周期を教える必要があるのか。当日はマスクを着用し、夏風邪ということにしよう。

「それから、今日水着を買いに行くから、つきあってね」

「あいよ」

今日は塾に行かなければならない。二人につきあうと、一旦家に帰って夕食を摂る時間は無くなるな。もうどうにでもなれ、だ。


「あや、どんなのが似合うと思う?」

やすこに尋ねられ、私はやすこの体形をイメージする。スレンダーな体形のやすこなら基本的に何でも似合うと思う。真面目な齋藤君を意識させるのは、挑発的なビキニじゃなく敢えて大人しく見えるワンピースの方がいいのではないか。はっきりした色でボディラインを強調するのもいいかもしれない。

「赤のワンピースなんてどうかな」

「わかったわ。考えてみる」

「私はどんなのが似合うかな?」

ちえみについては難しい。体の色々なところからお肉を寄せて胸に集める必要があるだろう。ちえみ、残念だがビキニは諦めろ。

「水色のワンピースなんかがいいと思うよ」

「え~、ビキニが着たかったのに」

ちえみ、それは自爆だと思うぞ。


期末テストの成績は中間テストとさほど変化なく、そこそこであった。

高一の一学期のテストはあんまりいい成績をとらない方がいい、と私は思う。

保護者様は前回のテストと比較して一喜一憂するものだ。高一の一学期は、まだクラスの中での自分の序列が本人も親もわかっていない。だから、叱られる可能性は少ない。同時に褒められる可能性も少ない。ここで無理をして(頑張って)いい成績をとると、それが基準になってしまう。二学期はそれ以上の努力でそれ以上の成績を修めないと叱責されるはめになる。だから、最初はそこそこの成績でいいのだ。

尤も私の母さんは成績について、あれこれ言わないので助かっているが、私のがつがつしない、のほほんとした性格は母さんの性格が反映したものなのだろう。

終業式を終え、私にとって激動の一学期が終わった。さあ今から約6週間の夏休みだ。


夏休み最初の日曜日、私は四人との待ち合わせ場所である駅に立っていた。

メガネをかけ、マスクをしている。パーカーにデニムにスニーカーという格好だ。荷物はカバンにビーサンと文庫本を一冊とパラソルといったところ。注意したのは、いつもより香水を多目につけたことかな。

「おはよー、ちょっとあや、なんて格好なの」

「あや、TPOって知っている?」

ひどい言われ様だ。私は二人に反論した。

「今日の私は夏風邪をひいているの。・・・何で男子に私の周期を知らせなくちゃいけないのよ」

「ごめん、あや」

「うん、配慮が足りなかった」

友よ、わかればよろしい。

遅れて男子二人が現れた。二人共Tシャツにデニムという出で立ちだった。

「あれ、九条さん、どうしたのその恰好」

「ごめん、夏風邪でちょっと体調悪いのよ。残念だわ、皆にナイズバディを見せつけられなくて」

「あや、冗談はそれくらいにして。じゃあ、行きましょうか」

市民プールは電車で3駅程行った郊外にある。自転車でも行ける距離であるが、親友のデートのサポートとしては電車で行く方がいいと思った。自転車だと汗も出るし、会話が大声になりロマンチックじゃない。


市民プールに到着すると、男子二人に親友の水着のお披露目だ。やすこは赤のワンピース、ちえみは水色のワンピースだ。ちえみは今日に備えてダイエットを頑張ったのだろう、ちょっぴり成果が表れていた。

男子はちょっと顔を赤らめていた。へえ、かわいいとこあるじゃん。

男子二人はそれぞれパートナーの手を取って、プールへ向かっていた。ちょっとはステップアップしてる様だ。もう私があれこれ言う必要ないんじゃないかな。

安心した私はプールサイドを見回す。プールで遊ぶ子供達の保護者の方々が座っている。中にはお母さん同士で会話に夢中になって、子供を監視することをすっかり忘れている面々もいた。私は空きスペースを見つけて座り、カバンの中から文庫本を取り出した。読書感想文のネタ本である。時間の有効活用として、この時間で読んでやれ、と思ったのだ。子供達の声で、集中力が切れるのが問題ではあるが。

私が本を読んでいると、どうも視線を感じる。それも至近距離からの。

本から目をはなすと、私の目前に誰か立っている。誰が何の用事なんだ?どうやらプールの利用者らしい。海水パンツ一丁だ。身長は多分私よりも低く、体つきもまだまだ筋肉の付き方の乏しい子供のように思われた。多分この子は中学生だろう。

はて、中学生が私に何の用だろう?私は少年を更に観察した。直立不動といった姿勢で、両手は拳を握り、ぶるぶると震えている。そして全体の雰囲気が、私に何か話したいということを伝えていた。

ああ、またか、と思う反面、年下の男の子を無碍にはできないな、と思った。

私はマスクを外しながら、男の子に言った。

「私に何か用?」

私の言葉に彼はますます緊張したらしく、若干上ずりながら言った。

「あ、あの、三崎東高校の、九条先輩でしょうか」

「そうだけど、・・・君は?」

「僕は、三崎二中の野村正貴です」

「その野村君が私に何の用かしら?」

「九条先輩のことが好きです。付き合って下さい」

「ごめんなさい。私はよく知らない男の子とはお付き合いしないのよ」

「それは僕が年下だからでしょうか?」

「そうじゃないって。だって、私はあなたと初めて会って話しているのよ。あなたは初対面の男にほいほいついて行く様な女のことをどう思うの?」

「それは・・・あまりいい気はしませんね」

「でしょう!そういうことよ。年下って言っても、そんなに年は離れていないんじゃない?私は15だけど、あなたは何歳なの?」

「今14歳です」

「1コ下かぁ。受験で大変な時期じゃないの?」

「いえ、僕は中二で、九条先輩の二学年下です」

「そっか、もう誕生日が来たんだ、そっかそっか」

「でも、僕には九条先輩と親しくなる機会はありませんよね。僕は九条先輩を諦めなければならないんでしょうか?」

「学校以外にも私はこの街をうろちょろしている訳だしさ、別に接点がないとは思わないけどね。それにあなたが三崎東高校に入学すれば、退学処分にでもなっていない限り私は三年生で在学してるわ」

「でも、二年も先なんて、九条先輩は誰かと付き合っているかもしれないじゃないですか」

「それはあなたも同じことよ、野村君。あなたも同級生の女の子と付き合っているかもしれないわよ。・・・それに、あなたは彼氏がいるぐらいで、好きな女の子のことを諦めるの?」

「九条先輩、恐ろしいことを言いますね」

「ふふふ。軽蔑した?」

「いえ、ますます好きになりました。頑張ります、九条先輩!」

「頑張ってね」

走り去る野村君の後ろ姿に私は手を振っていた。下田君と同じく、『黄金の乙女』と関係の無い告白だったのだろうか。あれ、私ってひょっとしたらモテるのだろうか?

「あやー、お昼食べに行こうよー」

ちえみの元気な声が聞こえた。

「わかった、今行くよ」

私は重い腰を上げる。

「あや、何かあったの?」

不安そうに尋ねるやすこに、私は答えた。

「ううん、なんでもないよ。なんでも・・・ね」





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