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9.レストランで義父候補に告られる

『黄金の乙女』

世界にたった一人の至高の存在。

その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。

伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。


これまで

1.星野翔真 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。

2.進藤君也 三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。

3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。

4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。

5.仁平茂樹 株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。

6.富永悠一 ファストフード店アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。

7.島畑和毅 塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。

8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。


「お待たせ」と言って、私が部屋に入ると、やすことちえみが二人でノリノリの様子で歌っていた。

二人共、そんなことをする為に、あんた達を先に行かせた訳ではないのだよ。

「私、お昼まだだから、ここで食べるね」と言って、タブレットでラーメンと唐揚げを注文した。どうせこの店の費用はワリカンだ。後から来た私が少々多く食べたからと言って文句はあるまい。

数分後、注文したメニューが私の前に並べられる。

私はラーメンを片付けるべく、いつもより若干豪快にすすった。四人が唖然とした表情で、私を見ていた。

「あや、あんたねえ・・・男子の前なんだから、もう少しおしとやかに食べなさい」

成程、そういう考え方もあるか。

「何を言ってるの。ラーメンはこうやって一気にすする方がおいしいの。性別は関係ないよ」

うん、ここの男子二人にどう思われても、私には関係ないかもしれないな。見城君は幻滅したかもしれないな。ごめんね、こんながさつな女で。

ラーメンと唐揚げをたいらげると、ちょっとばかり胃が重い。しょうがない、ちょっと腹ごなしに歌うとするか。この為に、テスト勉強中もエンドレスで流していた曲を入力した。

バイオレットバタフライ『Rainy Rainy Night』

あれ、おかしいな。バラードなのに変な盛り上がりしているぞ。

「流石、あや、手取り足取り教えてもらったの?」

「やっぱり、会いたいのね」

そんな訳ないだろ、バカ。ショーマとはシークレットライブ以来、会ってねーし。

残り10分を告げる電話が入ったので、私達は慌てて退室の準備をした。

カラオケ店の前で男子二人とは別れた。

「バイバーイ」

「また、日曜日」

日曜日?もうデートの約束を取り付けたのか、よし、今からねちねち聞くとするか。


パーティー用の食糧を買って、私の家に向かう。

やすことちえみは何週連続で私の家に泊まっているのだろうか?

何分にも我が家が都合がいいのだ。

私は母さんとの二人家族で、母さんは夜勤が多い。つまり夜は私一人の時が多いのだ。

パーティーは防犯対策の一環なので、決して私がパーティー好きな訳ではない。

やすことちえみのパジャマや下着がストックされているのも、防犯対策だ。

今日はスタート時間が早いので、私はおやつを食べながら、お風呂の準備をした。

「やすこー、ちえみー、お湯湧いたから、先にお風呂に入って」

「ちえみ、時短だよ、時短。二人で入ろう」

「えー、ちょっと恥ずかしいな」

「誰もあんたの貧相な胸なんか注目していないから安心しなさい」

「ちょっとは注目してよ。胸以外はナイスボディなんだから!」

「・・・角界でな」

二人がお風呂から出てパジャマに着替えたので、交代して私が入る。

浴槽を見ると、湯が殆ど残っていない。あいつら二人同時に入ったらしい。仕方が無いので、シャワーで済ますことにした。流石名コンビ、私の入浴時間まで時短するとは・・・。

全員すっぴんで、若干上気した顔で、期末テスト打ち上げパーティが始まった。

「・・・ところで、あんた達」

私が言うと、二人が若干緊張した様に思われた。続けて私は言った。

「カラオケ屋で男子と別れる時、変なこと言ったよね。『また、日曜日』?私、日曜日の予定無いんですけど、どういうことかな?」

「先週、テスト勉強している時、あや、言ったよね。テストが終わったら、告白しちゃいなよ、って。その言いつけを守って、私達勇気を出して告白したんだよ。そうしたら、パンパカパーン、二人共付き合うことになりました!」

「へえ、それでどんな風に告白したの?後学の為に教えてよ」

「それが、私一人で告白するのは勇気が出なくて・・・」

「だから二人同時に告白したんだ♪それで二人ともOKもらったのよ♪それで日曜日に水族館に行くことになったの」

なんだよ、それ。それってグループ交際じゃないの。日曜日に、やすことちえみ、齋藤君と見城君のカップリングになりそうな予感がしてならない。

「あんた達、大丈夫。相手とり違えてない?」

「その点は大丈夫。私は齋藤君と握手したから」

「その点は大丈夫。私はとり違えても問題ないから」

「ちえみ、何言ってるのよ。・・・もうすぐ夏休みだからと言って、浮かれ過ぎない様に。変なところに行って、変なことをしたら、退学処分になるんだからね。男なんていざという時、責任なんか取らないからね。どうしようもない時は私に言ってね。母さんと相談して、いいお医者さん紹介するし、学校側は進藤先生に圧力かけるから」

「流石、あや先生、頼りになるわ」

「これで安心して、見城君と変なことできるわ」

「さっきのはやすこに対する注意。恋愛マスターは自分で責任取りなさい」

「ふぁーい」

「・・・ところで、あや、昼間の用事って何だったの?」

「ああ、それ。黙秘します」

「私達にも言えないようなことなの」

「それは個人情報に関することなので、回答致しかねます。・・・なんてね」

「・・・でしょうね。それで?」

「また告白されただけよ」

「ふうん、またね。・・・で、相手は誰なの?」

「隣の席の下田君。よく知らないオトコのコよ」

「ふうん、それで?」

「どうもしない。よく知らない男子と付き合うつもりないから」

「・・・色々大変ね」

「まあね。仕方無いと諦めている。・・・全てこの美貌がオトコを狂わせるのだから」

「「どこが!」」

「冗談はともかく、私の本命はゆるぎないのに、いつまでたっても告白出来ないじゃない!」

「あや、元気を出して。あやに一つ格言を授けよう。愛は障害が多い程、熱く燃え上がるのよ」

「黙れ、このリア充」

乙女の恋バナは際限なく続くのである。

翌朝、ファストフード店で朝昼兼用の食事を摂って、二人と別れた。

やすこ、ちえみ、明日はうまくやるんだよ。陰ながら呪って、じゃない祈ってるわ。


昼過ぎに母さんが戻って来た。

こういう日は、コンビニでお弁当と酒の肴を買って帰ってくる。

買って来た肴をあてにノンアルを飲むのが平常だ。

どうして普通のビールを飲まないのか、以前尋ねたことがある。母さんは、もし病院から動員をかけられた時に酔っていたら仕事にならないから、と聞いた。大変だな、看護師って。

私もノンアル1缶開けて、母さんの前の席に座る。

「あやめ、期末テストは終わったの?」

「うん、昨日終わった」

「それで手応えの方はどうなの?」

「あんな事があった割には、そこそこ出来たんじゃないかな」

「ふうん、そこそこね」

「うん、そこそこ」

「あやめ、あんたに相談があるんだけど、お父さん欲しくない?」

ブーッ。口にしていたノンアルを思い切り吹いた。そして、むせた。

何を言ってるの、母さん。

「母さんに彼氏の二人や三人いてもいいと思うし、再婚するのだって反対はしない。だけど、私は九条っていう苗字にも愛着があるので、苗字が変わるのは何かイヤだな。それから、二人の邪魔はしたくないので、今すぐ結婚したいのなら私の一人暮らしを認めて欲しい。さもなければ、大学に進学して一人暮らしするまで結婚は待って欲しい」

「苗字の件は安心して、婿養子ということでOKもらっているから。あなたは『九条あやめ』のままでいいの。一人暮らしについては、あなたを信用しない訳ではないけどまだ高一だから、ちょっと心配だな。

一度会ってみてから、決めてくれない?」

母さんの言うことも尤もだ。会ってもいないのに毛嫌いするのは、ちょっと失礼かな。

「・・・わかった。一人暮らしの件は会ってから決めることにする。それから、もし母さんがその人と結婚したとしても、私はその人を『父さん』とは呼ばないよ。私にとってのお父さんは一人しかいないから」

「そうね。あなたにとってのお父さんはあの人だけよね」

いかん、雰囲気が暗くなってきたぞ。ここは明るく、朗らかに。

「ねえ、母さんの恋人ってどんな人なの?」

母さんはバッグの中から写真を取り出し、私に差し出した。スーツを着てメガネをかけたおじさんの写真だった。齋藤君が大人になったらこんな風になるのかなあ。

「名前は清水良治、34歳。母さんと同じ病院で働いている内科医よ」

「凄いね。どうしてこんな肩書の人が『年上、こぶつき、没一』のところに婿養子で来ようと思ったんだろう?私の家、お公家さんに繋がる家系でもないのにね」

「それは素直に私のことを好きになったからじゃない?恋愛は理屈じゃないから」

「でも、母さんは真面目で、責任感が強いことが取り柄の『フツーの看護師さん』でしょ。ねえ、騙されたりなんかしていない?」

「安心して。同僚に結婚詐欺を働く馬鹿はいないわよ」

「それもそうね」

「じゃあ『善は急げ』だわ。明日にでも清水君と会ってくれない?何か用事があるなら、別の日でもいいけど・・・」

畜生。何の用事もない。親友たちはデートで私のことなんて眼中に無いだろうし。

「母さん、いいよ。明日でも」

「わかった。清水君に連絡するわ」

母さんはバッグからスマホを取り出し、件の清水さんと明日の予定を話している。母さんの口調に、何か女を感じて嫌だった。ダメだ。聞いちゃいられない。私はノンアルを飲み干すと、自室に籠った。

私はベッドで大の字になって、天井を見ながら考える。

父さんが死んでからは、母さんが女手一つで私をここまで育ててくれたことは、勿論感謝はしている。

だから母さんが別の幸せを求めることには反対しない。

だけど、私自身の感情は母さんを知らない男に取られるみたいでイヤなのだ。

まして一つ屋根の下で母さんの別の面を見せつけられるのは、多分耐えられないだろう。

私はどうするべきなのだろう。娘として母の幸せを祝福すべきなのはわかる。

誰かに相談したい、というよりもこのモヤモヤを吐き出したい。

スマホを手に取り、電話帳を開く。あいうえお順に並んだ名前をスクロールしていく。

見城君、齋藤君、進藤先生、ちえみ、やすこ、どれも違うような気がする。

電話帳の最後に現れるのが★、星野翔真だ。

私は今、星野翔真で電話をかけようとしているの?そして、ショーマに私の話を聞いて欲しいと思っているの?

いいや、違う。そんなことはあってはならない。

私は諦めて、スマホを枕元に置いた。

よくよく考えれば、私は徹夜明けなのだ。夕食まで眠ったとしても、罰はあたるまい。

オヤスミナサイ。


翌日の午前11時、私は母さんに合格祝いの名目で買ってもらったワンピースを着ることとなった。母さんの勧めだから従ったが、姿見に写る私はどう見ても、お盆に帰省する中学生のようだ。アクセサリーを付けて、申し訳程度であるがメイクを施しても高校生に見えるかどうか疑問だ。

まあ仕方無い。何かの呪いで、こんな童顔、幼児体形になったのだから。

ポーチにスマホ、財布、ハンカチ、ウェットティッシュ等を入れて準備完了。何か忘れている気もするが、母さんのものを使えば何とかなるだろう。

やすこやちえみがこの姿を見たら、きっと爆笑するんだろうな。

「母さん、お待たせ。準備できたよー」

「あやめー、もうちょっと待って。今化粧中だから」

数分後、母さんが私の前に現れた。いつもの薄いメイクで疲れた表情の母さんとは大違いだ。

「母さん、お相手の人は母さんって認識出来るかな?」

軽く頭を叩かれた。解せぬ。

玄関に難関があった。靴ずれ必至のヒールである。母さんが絆創膏を持っていることを確認して、履くことにした。

おお、これが身長160センチの視界か。いつもと、ちょっと視線が変わって、何か新鮮♪

私は慣れぬヒールに手こずりながらも、母さんの後ろを歩いた。


目的地であるレストランには待ち合わせの時刻の10分前に到着した。

中に案内されると、予約席と書いたプレートのある席に写真の男が座っていた。

写真のスーツ、ネクタイとは異なるものだった。

私が会釈をすると、清水さんは立ち上がり、笑顔を見せながら私達に近づいて来た。思わず母さんの陰に隠れてしまった。

「こら、あやめ、何してるの。清水さんに失礼でしょ。・・・こちらが娘のあやめです」

「初めまして、あやめちゃん」

初対面の男の人に見つめられて、私の顔はなぜか紅くなった。

「あやめです。よろしくおねがいします」

「あやめ、こちらは清水良治さん。母さんと同じ病院で働いている内科の先生よ」

こうして三人での昼食会が始まった。

テーブルマナーに関しては自信が無いけど、ここまで来たらしょうがない、食べるとするか。

母さんと清水さんは打ち解けて話していた。時折、私に話が振られると、「はい」とか「そうです」とか答えるだけだった。二人の間で結婚は規定の事実で、この昼食会もその為の1ステップという扱いなのだろう。これでもまだ気を遣ってもらっている、と感謝すべきなのかもしれない。

母さんが御手洗へ行く為に席を立った時、清水さんが私に話しかけて来た。

「あやめちゃん、学校の方は落ち着いたかい?」

「・・・あの騒動のこと御存知なんですね。ええ、まあ学校の方は徐々に落ち着いて来ました。だけど、まだネットやメール、ラインは怖くて使えませんけどね」

「尊敬するよ。俺だったら、少なくとも登校拒否にはなっているよ」

「母からの忠告なんです。今日休んだら、明日はもっと行きにくくなるから、って」

「・・・それは誰にでも合う考え方ではないけど、あやめちゃんにとっては適した考え方なんだろうね。あやめちゃんは可愛いから、学校ではもてるだろう?」

「そんなことありませんよ。母に似て、顔の造りも人並みですから」

「そんな事はないだろう。なにしろ・・・」

あれ?この人、何かおかしいぞ。脳内で警報が鳴り響いた。

「『なにしろ』、何ですか?」

清水さんは無言だった。もう間違いないだろう。

「あなたは母を利用して、我が家に入り込もうとしている。その目的は何なの?」

「ああ、そうだよ。御前をものにする為に、御前の母親に近づいたんだよ」

「私を手に入れたいなら直接私の処に来なさいよ!母さんを利用しないで!」

「仕方無いだろ。御前と恋愛関係になるには、俺は年をとりすぎている。だったら搦手から攻めるしか無いじゃないか」

「母さんから手を引きなさい。さもなければ・・・」

「さもなければ?お前に何が出来ると言うんだ」

せせら笑っている清水を前に、私はポーチの中からスマホを取り出した。

「もしもし、株式会社あすなろさんですか。私、三崎東高校の九条と申します。先日は会社見学でお世話になりました。お忙しいところ申し訳ありませんが、社長に繋いでいただけませんか。九条あやめからの電話だと言えばわかりますので。・・・仁平社長、お久し振りです、九条です。先日はお世話になりました。ねえ、頼みがあるんだけど。〇〇病院の内科医の清水良治という男を殺してもらえない?出来ないなら先日の件で、警察に被害届を出すわ。あら、殺ってくれるの。できれば、三日以内にお願いするわ」

話している間も、私は清水の様子を観察する。清水の表情は青ざめていった。

「待ってくれ!母親からは手を引く!だから殺さないでくれ!」

「本当に?」

「本当だ!約束する!」

私は耳にあてていたスマホを、清水に見せた。

「残念でした。私は電話なんかかけていませんでした。只のお芝居よ。・・・でもね、これは嘘やはったりじゃないのよ。その気になれば、他の転生者を脅してあなたを殺す事は出来るのよ。・・・後、このやり取りも録音しているから」

「流石だな、『黄金の乙女』」

「どう致しまして。残念ながら転生者の扱いには慣れて来たのよ」

「じゃあ、俺は消えるよ。金は払っておくから、二人でデザートまで楽しむといい」

清水良治は席を立ち、去って行った。


その後、母さんが御手洗から戻って来た。

「あやめ、良治クンは?」

「それが病院から連絡が入って、急患の対応で病院へ向かう、って言ってたよ。大変ね、お医者さんって」

母さんは自分のスマホの着信履歴を確認した。

「私の方には入ってないわ」

「じゃあ、折角なので料理を食べましょ。お金は払ってくれたみたいだから」

母さん、ごめん。母さんの恋を潰しちゃって、ごめんなさい。

私は心の中で何度も何度も謝った。そして、少しの間、母親の言いつけを守ろう、と思ったのだ。




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