14話 優勝
ベンチから選手やスタッフ達がコートに入ってくる。
スタンドを見回すと、中央スタンドの上段から打田と伊藤、それに垣谷陽一が立ち上がったところだった。
陽一は相変わらずファッションセンスが無くてド派手な赤い革ジャンにサングラスをしている。紀香が一緒に観戦したくないと言っていたのを思い出して苦笑する。
打田と伊藤はシンプルにオシャレな感じだ。俺は3人に大きく手を振った。
みんなでゴール裏に行って挨拶をする。
多くのサポーターが泣きながら喜んでいる。
1番グズグズに泣いてるのが最前列にいる七三メガネの村田先生だ。
鼻水まで垂らして涙をボロボロ流している。紀香と斎藤もいる。よく見るとシレッと川本さんまでいる。
富士夫さんが拡声器を持ってサポーターを煽る。
「やったぜ!」
ただそれだけで大騒ぎだ。
散々盛り上げた所で
「じゃ、あとキャプテンから」
わざわざ拡声器で宣言して俺に拡声器をわたす。
「お、俺?」
「今日はお前がキャプテンだろ?庄司も颯馬もいないしな。」
そういいながら俺の左手に付いたキャプテンマークをポンと叩いた。
俺は生唾を飲み込んで拡声器を構える。
「えーっと。こんばんはー」
爆笑と共に団長っぽいおじさんが太鼓でリズムを取り
「こんばんはー」
みんなで声を合わせてくれる。
何その技術。
凄いんだけど。
と思いつつノーリアクションで拡声器を口に当てる。
「皆さんのお陰で優勝出来ました。ほんとにありがとうこざいまふ」
…噛んだ。
噛んだ瞬間、太鼓が一拍止まった。
一瞬の静寂。
次の瞬間だった。
「噛んだー!」
誰かが叫び、そこから笑い声が跳ねる。
「噛んでもいいぞー!」
「キャプテン最高ー!」
「もう一回言えー!」
無茶言うな。
俺は苦笑しながら、もう一度拡声器を握り直す。
「えーっと、ほんとに、皆さんのお陰です」
今度はゆっくり。
一語一語、確かめるように。 「正直、何度も心が折れそうになりました」
ゴール裏が静かになる。
「それでも、この景色を見たくて、ここまで来ました」 スタンドをぐるっと見回す。 泣いている人、呆然と立ち尽くしている人。
「今日、この瞬間を一緒に迎えられて、本当に嬉しいです」 少し間を置いて、息を吸う。 「町田ゼインツは――」 自然と声が大きくなる。 「ここから、もっと強くなります!」
一瞬の間。
ドン、ドン、ドン!
太鼓が鳴り、歓声が爆発する。
喜びを噛み締めていると背中をポンと叩かれる、スタッフに呼ばれ後ろ髪を引かれる思いでコート中央に連れていかれる。
コート中央ではインタビューが行われていた。
白田監督が淡々と受け答えしている。
本人が気づいているかは分からないけど口元が緩みっぱなしだ。
監督から俺にインタビューがバトンタッチされた。
「優勝おめでとうございます。感想お願いします。」
多くのカメラとマイクが向けられその迫力に少し驚く。
「俺は優勝って縁が無かったのでとても嬉しいです」
「今日の試合、王者鹿島相手に2点差での勝利が必要。しかも主力メンバー数人が欠場というかなり厳しい条件でした。
さらに前半2失点からの奇跡のよう大逆転勝利です。
要因は何だと思いますか?」
俺は一瞬考えて
「富士夫さんも亀田さんも凄かったけど、やっぱり鶴の倍返しでしょうね」
「つるの…あぁ、鶴田選手ですね。前半PKを与えてしまってからの1得点1アシスト。正に鶴の倍返しでしたね。」
「佐古選手といえば大怪我からの復活ですね。その想いを1つお話頂けますか?」
思い返すと自然と涙が溢れてくる。
鼻を啜るとサポーターが太鼓で応援してくれた。
「本当に沢山の、たくさんの人に支えて貰いました。ありがとうございました。」
インタビューに答えていると、アナウンスが入った。
表彰式が始まる。
ピッチ中央に簡易的なステージが組まれている。
スーツを着た偉い人たちに挨拶を済ませ、メダル貰ったり握手して、ステージに上がる。
ステージの上に選手が揃う、後列にいたら富士夫さんに真ん中に引っ張り出される。
亀田さんが
「キャプテン仕事だぜ」
富士夫さんが
「最高のタイミングでキャプテンになったな!お前。」
鶴田が
「佐古さんカッケェっす!」
なんか俺いじられキャラになってない?と不安になる。
準備が整う。
チェアマンからシャーレを手渡されると場内アナウンスが
「町田ゼインツJリーグ優勝です!」
ぉぉおおおお!
俺は両手に掴んだシャーレを掲げた。
歓声と共に紙吹雪が舞い、花火が上がる。




