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理不尽フットボール~ただボールを蹴っただけなのに  作者: 砂糖水色
1章

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7/71

7話 伊藤潤哉

3本目の残り30分。俺がピッチに入ると、休んでいたプロンタール14番・伊藤潤哉も同時に出てきた。

「よろしく、有名人。お手柔らかに」

貼りつけたような笑顔で声を掛けてくる。


スコアは1-4。ここから勝つのは難しい。

そもそも結果より内容が大事な試合だ。

だからこそ、この劣勢で何をできるかが問われる。

俺は左サイドバック。与えられた仕事はただ一つ、目の前の伊藤を止めることだ。


再開直後、プロンタールの鋭いパス回しであっさりと自陣に侵入される。

「抜くぞぉ。抜いちゃうぞぉ」

そう言いながら伊藤がボールを持って直線的に迫ってきた。

俺は腰を落とし、低い姿勢で構える。

だが伊藤は笑みを浮かべ、軽く横へ流す。

ワンツーでボールが前に出た瞬間、俺は必死に並走する――たった10メートルのスプリント勝負。

伊藤に触れることすらできないまま、ダイレクトでニアへセンタリングを出されてしまった。

だが最後は怪我明けの守護神GKジジマールが飛び出してキャッチ。

 

元ブラジル代表ベテランGKがこっちに向かって怒鳴っている。

が、ポルトガル語?なのでまったく分からない。

簡単にやられんなよ!的な感じだろう。

うちの攻撃は右サイドから展開され、ハーフラインを超えたあたりで相手のプレスに潰される。

 プロンタールの選手が俺の裏にロングボールを蹴る。

滞空時間の長いボールだ。

先に落下地点に入れた俺はCBの宮元さんにヘッドで落とす。

その瞬間宮元さんと俺の間に黒い影が横切った。

 伊藤がそのボールを狙っていた。

伊藤は勢いそのままにペナルティエリアに入りボールの下に足を入れボールを浮かせた。

 ボールは飛び出しの遅れたGKジジマールの頭の上を超えてネットに吸い込まれる。

ジジマールが何が怒鳴っている。

やっちまった。

 自陣に戻りながら伊藤が俺を嘲笑うように大きな声を出す。

「右サイドザルや!もっとボール出してーな!」

バカにされて俺はやる気が漲る。

けれど、伊藤と俺の差はやる気で埋められるような物ではなかった。

本来一緒に守備をするはずの左サイドハーフの32番は前線でチェイスはするが戻って守備をする気は無いらしい。

 文字通り俺のサイドの守備はザルで伊藤は躍動した。

俺は常に後手に周り、レベルの差を痛感させられる。

CB宮元さんやGKジジマール達が踏ん張って失点に繋がらなかったのが幸いだが、俺の評価は最悪だろう。

「佐古!やられっぱなしか!そんなもんじゃねぇだろう!」

 宮元さんが俺に熱い激を飛ばす。


…俺はまだ2種登録選手だ。

結果を出し続けなきゃプロにはなれない。

俺の実力じゃプロなんて無理。

中学時代を半分以上棒に振ってしまった俺に、諦めかけていた俺に、巡ってきたチャンス。

多分もう二度と来ないチャンスだ。

このまま終わる訳にはいかない。

「なんや今更やる気出しちゃって。もうバレてんのよ。佐古クン。」

 目の前に立った伊藤が嘲笑う。

「キミ目の前に立たれるだけで何も出来ひん。そやろ?」

「大正解」

 そう思ったけど、無視してプレーに戻った。

自陣低い位置でのパス回しでも俺にボールが渡るタイミングでは必ず伊藤が目の前にやってくる。俺にロングを蹴らせないと同時にミスをねらっているのだろう。

俺はCB宮元さんにリターンし、コートのセンター寄りに位置どった。左サイドにいた俺と伊藤が真ん中に寄ったためCBから左サイドのFWへのパスコースが出来る。

偽サイドバックってやつだ。

宮元さんからハーフライン付近にいるFWへ早い縦パスが入る。

伊藤が俺のマークを外してボールを追いかけて行った。

 …よく走る。良い選手だ。

そう感心する。

結局ハーフライン近くで攻撃は停滞し、中盤の選手を経由して最終ラインまで戻ってきた。

 俺は自陣ペナルティエリアの横で今日初めてフリーでパスを受ける事に成功した。

相手キーパーの位置は確認済み。ゴールまで約80m,

いつものように左足を踏み込む。

ドン!

最高のインパクト。

ボールが綺麗に回転しながら青空を飛んでいく。

「アホか届くわけないやろ」

伊藤がそう言ったのが聞こえた気がした。

ペナルティエリア付近にいたキーパーはダッシュでゴールへ戻ろうとした。

ゴールの手前でバウンドしたボールはGKに触れられることはなくゴールネットを揺らした。

ベンチや報道陣から

 おぉ!と歓声があがる。

伊藤の口から小さな言葉が漏れた。

「マジかよ。…バケモンや」

 




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