11話 攻
「鶴田はなんでも出来るから自由を与えてやれ」
監督からそう言われてたけど、ここまでとは思っていなかった。
鶴田ヤバい。
多分天才ってやつだ。
陽一も天才だと思うけど陽一はもっとプレーが感情的で直線的だ。
鶴田はかなり俯瞰視点でゲームを見ている気がする。
もしかしたら、ファンタジスタってやつかもしれない。
高校生で雨の中あの技術レベル。
前半キックオフ直後の青い顔してた鶴田と同一人物には思えない。
「鶴の倍返し」なんて聞いたことない言葉が浮かんでくる。
身長180ちょいあるし、筋肉質だからCBって言われて違和感無かったけど、どう見てももっと前の方が適性がありそうだ。
鶴田のゴール…じゃなかった。富士夫さんのゴール後、富士夫さんはすぐにゴールからボールを取り出してコートに戻った。
あと1点。
アディショナルタイム入れて10分程度。
だけど、鹿島はなかなかゲームをスタートしない。
なるべく時間を使う。
なんか雰囲気的に行ける感じになってたけど相手は王者鹿島だ。
油断すれば一瞬でやられる。
この1点を守り切れるから王者なんだ。
「ここ!集中して行きましょう!」
そう皆に声を掛ける。
審判に促され、鹿島が試合を再開する。当然のように時間を稼ぐため、後ろでパス回しを始める。
俺は最終ラインを上げ、猛烈なプレスをかける。
ここでトラオンにロングシュートを決められれば、優勝は不可能になる。
俺と戸田さんが、すぐトラオンを抑えられるようにポジションを取る。
鹿島のカウンターは速かった。
ハーフライン付近で高木が一瞬の隙で前を向き、仲川さんが外を追い越す。
――来る。
ボールを受け取った仲川さんに鶴田がパスコースを切りながら対面する。
俺も遅れて挟み込みに行く。
仲川さんのドリブルは鋭い。
だが、今日は雨だ。
タッチが少しだけ長くなった。
鶴田が体をぶつけ、俺が足を伸ばす。
二人がかりで、ギリギリボールを引っかけた。
転がるボール。
仲川さんが倒れ込み、笛を待つ。
――鳴らない。
観客がどよめく。
俺は、もう前を見ていた。
ボールが完全に止まる前に、左足を振り抜く。
縦に、一直線。
雨を切り裂くように、ボールが走る。
富士夫さんがボールを収めた所に、鹿島のディフェンダーが無理やり体をねじ込む。
富士夫さんのパスなのか弾かれたのか曖昧になったボールを、セブンが触る。
ワンタッチで戻す。
富士夫さんが、シャツを引っ張られながら、無理な体勢で足を振る。
早田が左手1本で弾く。
鈍い音。
早田の弾いたボールはポストに当たって跳ね返る。
そのボールを拾ったディフェンダーが苦し紛れのクリアをする。
落下地点は俺の目の前。
こぼれ球。
25m。
体勢も良くない。
でも、関係ない。
ディフェンスが飛び込んでくる。
俺は左足を踏み込む。
ズドン。
右足を振った。
ただ――
ゴールに叩き込むための一撃。
ボールは低く、速く。
雨粒を弾き飛ばしながら、一直線にゴールへ向かう。
ディフェンスが足を伸ばすも届かない。
GK早田が反応する。
間に合わない。
届かない。
ネットが揺れた。
一瞬、音が消える。
次の瞬間。
スタジアムが、爆発した。
後半40分
――4-2。
信じられない。
誰もがそう思っている。
俺はゴール裏に走って右腕を突き上げる。
富士夫さん達が子供のように抱きついてくる。
「俺達は強い!マジで強い!」
無意識にそう叫んでいた。
もうこのまま終了でいいよ。
そう思うけどやはりそうもいかない。審判に促され自陣に戻る。
ベンチが慌ただしく、交代を準備している。
残り数分。
守備に徹していた王者鹿島の猛攻が始まる。




