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理不尽フットボール~ただボールを蹴っただけなのに  作者: 砂糖水色
7章

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5話 悪夢

鹿島ボールでのキックオフ。

センターサークルに立つ赤いユニフォームが、やけに強そうに見えた。

 俺は鹿島には苦い思い出しかない。打田はいないけど。

最終節。

2点差以上で勝たなければ優勝はない。

分かっている。


笛が鳴る。

鹿島は、最初から迷いがなかった。

前に蹴らない。

無理に攻めない。

時間を使いながら、こちらの出方をじっと待つ。

開始一分。

左サイドでボールを受けたスペイン人フォワード、トラオンが一瞬スピードを上げた。

ラグビー選手を思わせるムッキムキの体躯に信じ難いスピード。


その一歩に、鶴田が反応する。

速い。

若さゆえの反応。

ペナルティエリアに差し掛かった所で

「危ない!」

声を出した瞬間だった。

トラオンが身体を当てに来る。

鶴田の足が絡む。

倒れる。

主審の笛が、やけに大きく響いた。

「……PK」

スタジアムが凍りつく。

鶴田は、その場に立ち尽くしていた。

顔色は、さっきよりもさらに白い。

唇が震えている。

「大丈夫だ」

声をかけたつもりだった。

でも、自分の声がどこか遠い。

ボールを置いたのは高木だった。

鹿島のエース。

俺の方を、ちらりと見る。

視線が、外れない。

分かってる。

お前のロングだけじゃ、勝てない。

そんな目だった。

助走。

迷いのない一歩。


ゴールネットが揺れる。

0―1。

開始、わずか2分。

歓声とため息が、同時に降ってくる。

ベンチを見る余裕なんてない。

俺たちは、もう後がなかった。

「切り替えろ!」

誰かが叫ぶ。

分かっている。

切り替えなきゃいけない。

3点。

今度は、3点差をつけなきゃならない。

町田は、前に出た。

全力での前プレス。

無理を承知で、ラインを上げる。

鹿島は慌てない。

一つ、二つ、ワンタッチでいなす。

焦っているのは、こっちだ。

前半十二分。

右サイドで奪いに行ったボールが、こぼれた。

一瞬のズレ。

「戻れ!」

叫んだ瞬間、

トラオンが振り向いていた。

距離、約50メートル。

普通なら、選択肢には入らない。

でも――

振り抜かれた。

高すぎず、強い弾道。

風を切る音が、はっきり聞こえた。

GK田仁が下がる。

懸命のダイブも届かない。

ゴールネットが揺れた。

信じられない軌道で、ボールは吸い込まれた。

0―2。

スタジアムが、ざわつく。

いや、違う。

ざわついているのは、俺の頭だ。

4点。

今度は、4点が必要になった。


高木が近づいてきて、耳元で低く言った。

「な?」

笑っている。

「お前だけの武器じゃねーんだよ」

胸の奥が、ぐっと重くなる。

言い返せなかった。

分かっている。

この展開は、鹿島が一番得意な形だ。

前に出た相手を、冷静に潰す。

焦らせて、心を折る。

俺は、キャプテンマークを握りしめた。

まだ時間はある。

でも、正直に言えば。

今、この瞬間。

状況は、絶望的だった。

 

「…いやぁー理不尽だなぁ。剛こんなの決めてるんだなぁ。」

亀田さんが他人事のように呟く。

更に俺の背中をポンと叩きながら笑った。

「ほらほら剛。顔上げろよ。どっかの先生が言ってたぜ。諦めたらそこで試合終了ですよ。って。

大丈夫、大丈夫、今日ウチのチーム火力サイキョーだから。」

 

 

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