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理不尽フットボール~ただボールを蹴っただけなのに  作者: 砂糖水色
7章

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4話 キャプテン剛

いつものホームのロッカールーム。

今日は妙に静かだった。

いつものメンバーが居ない。

J1最終節。相手は1位アンタラーズ。

「改めて確認するぞ。」

白田監督の声で全員が顔を上げる。

 俺の隣には真っ青な顔をしたユースから上がってきたばかりの鶴田が座っている。

「今この場に居ない者は今日出場出来ない。颯馬も今朝発熱したそうだ。」

聞いてはいたけど、やっぱりインフルだったか。

先日のアウェー遠征のバスの中でインフルエンザが大流行してしまった。

今残っている選手はもう1台のバスに乗っていた選手達。

リスク面から一応主力メンバーを半分に分けているはずだが、メインのCBが全滅してしまった。

なんとか死力を尽くしてここまで来たのにこの状況はかなりキツイ。

「わかってるな。今日は2点差を付けて勝つ必要がある。

 今日のスリーバックは十田、鶴田、佐古の3枚でいく。」

「はい!」

「普段あまり出れてない選手、この試合はチャンスだぞ。」

なるほど。

俺もスタメンはかなり久しぶりだし、ここで結果を出してスーパーサブから脱却したい。

それに鹿島からしたら大事な1戦に情報を持ってない選手が数人いるだけでも嫌かもしれない。

監督がキャプテンマークを渡したのはベテラン亀田さんだ。

ボランチが主戦場だが、サイドもセンターバック。更にはトップ下まで、やってる人だ。

一時期は和製ミルナーとまで呼ばれていた。

流石に35歳となった今、スタメンは少なくなったが、間違いなくチーム内で尊敬されているプレーヤーだ。

その亀田さんが立ち上がってこっちを向いた。 

「こーゆー大事な試合こそ若者が引っ張っていかなきゃな。」

 そう言って渡されたばかりのキャプテンマークを俺に渡してきた。

え?

一瞬、頭が真っ白になった。

キャプテン?

俺が?

 思わず亀田さんの顔を見る。  冗談だろ、という顔をしている自分に気づいて、慌てて背筋を伸ばした。

「え、俺っすか……?」

「うん。剛。」

あっさり言われた。

軽すぎるくらいに。

その瞬間、後ろの方からわざとらしい声が飛んでくる。

「おいおい、佐古で大丈夫かよー」

 振り向くと、案の定、富士夫さんだ。

腕を組んでニヤニヤしている。

「最終節だぞ? 鹿島相手だぞ?お前、キャプテンて柄じゃねーだろ」

 図星すぎて言い返せない。  ロッカールームに小さく笑いが起きる。

 でも、その空気を一瞬で切ったのは白田監督だった。

「富士夫」

「……はい」

「佐古でいく。サポートしてやれ」

それだけ。 短く、強い一言。

 富士夫さんは肩をすくめて、 「はいはい。監督が言うなら文句はねぇっす」

と笑ったが、その目は真剣だった。

 俺はキャプテンマークを受け取る。

布切れ一枚のはずなのに、やけに重い。

不安が胸の奥でじわじわ広がる。

この状況で、この相手で、この役目。

正直、逃げ出したかった。

 

 ロッカールームを出て、ピッチへ向かう通路。

いつもより歓声が近く感じる。

その時、横に並んできたのが亀田さんだった。

「なあ剛」

「はい」

「今日さ、俺、あんま目立ちたくないんだよね」

「……え?」

 思わず足が止まりそうになる。

「鹿島相手に? この状況で?」

「うん」

 亀田さんはあっけらかんと笑った。

「CBもやるし、ウイングも顔出すし、たぶん途中でポジション入れ替えると思う。試合中にゴチャっとした方が鹿島は嫌でしょ?」

理屈は分かる。  分かるけど——

「それ、めちゃくちゃ難しくないですか?」

「難しいねぇ」

 即答だった。

「だからさ、ただでさえ目立つ剛がソレつけてりゃ、俺はコソコソ出来るっしょ」

 軽すぎる。軽すぎて、逆に怖い。

「あとさ」

 亀田さんは歩きながら、肩をポンと叩いた。

「気合い入れすぎんなよ」

「……はい?」

「剛、気合い入れると全部一人で背負おうとするだろ。マジメだからさ。今日はとにかく攻めないと。」

 スタジアムの光が、通路の先に見える。

歓声が一気に大きくなる。

 不安は消えない。

むしろ増えている。

この人、本当に大丈夫なのか。  この試合、こんなノリで。

 でも——

キャプテンマークの感触を、もう一度握りしめる。

 逃げるわけにはいかない。  誰も諦めていない。

俺も、ここまで来た。

ピッチに足を踏み出す直前、  俺は深く息を吸った。

絶対に、先制点だけは許すな。

鹿島は逃げ切るのが上手い。

3点必要になる展開だけは、作るな。

そう自分に言い聞かせて——

俺はキャプテンとして、ピッチへ向かった。

 

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