3話 二重の極み
ダイゴ
「佐古選手。さすがにあれはCGですよね?」
佐古剛は苦笑いをみせた。
レアルホワイトのマルロロが投稿した動画が天文学的なインプレッションを叩き出して数ヶ月。
佐古選手がハーフラインから5本連続でバーに当てるのは100万歩譲って理解出来る。
現実的では無いと思うけど。
だけど、そのあと跳ね返った4つのボールが綺麗に同じ地点に並んだ。
それは流石にありえない。
そんな事できる訳が無い。
マルロロとガルバパールがリアルだと公言しているが、世界中の人が信じきれずにいる。
ダメ元で本人にYouTubeに出てくれないか?とオファーを出したらあっさりOKが出て、撮影が始まった所だ。
俺たちは「リズム」。
俺事、ダイゴとハヤ、ノブの3人組、登録者50万人のサッカーYouTubeチャンネルだ。
3人とも少しだけプロでプレーしていた経歴がある。
それなりの技術はあるつもりだが、あれは全く理解出来ない。
「CGじゃないですよ。マジです。」
「またまたー。じゃ見せてくださいって言ったら出来ます?」
俺は少し挑発的に言った。
事前に佐古選手には伝えてある段取りなんだけど。
「モチロンですよ。勝負しますか?」
佐古選手は中々の大根役者ぶりを発揮する。
俺たちリズムの3人から5本ずつ蹴っていく。
結果は俺が1本バーに当てただけで終わった。
佐古選手の番。
5本中4本がポストにあたりペナルティエリアの半円の所にほぼ並んで止まった。
言葉を失う俺たち。
ちょっと引いた。
なんてコメントしたらいいのかマジで分からない。
「あの外れたボール、古いのかな。変な感じしましたね。」
スタッフがそのボールを拾い佐古選手にパスをする。
佐古選手は転がってきたボールを足先で擦り上げて右手の人差し指の上に乗せた。
既にボールには回転がかかっていて、指の上でボールが回る。
左手でボールを加速させながら
「ホラ、少し歪んでるんですよ。」
確かに。そのボールは少し歪んだ回転をしている。
―だけどそれよりも
「いやいや、おかしいですよ。佐古選手なんでこんな事出来るんですか?一体どんな練習を?」
俺たちは人工芝の上に座ってインタビューに入った。
佐古選手は器用に指先でボールを回しながら答える。
「練習方法かぁ…。正しい方法なのかは分からないけど。
俺の場合はですね、フェンスの中だけボール蹴っていい公園てあるじゃないですか。フェンスの周りに遊具とかある感じの」
「ありますね。」
「父親とそーゆー公園で遊び半分の夜練してたんですよ。
工事用のバッテリーライトとか置いて」
「お父さんに教えて貰ったんですね。」
「小学校3年の時かな。最初はマーカーの上にボール置いて蹴ったりしてたんですけど、段々強く蹴れるようになって。
テンション上がってフェンスにシュートしてたら苦情来ちゃって。うるせぇ!って。」
「夜やってたらそうなりますよね。」
「そしたら父親がフェンス超えるように蹴れって無茶言うんですよ。
そこでインステップからインフロントキック覚えて。少し練習したら出来るようになって。」
「出来るようになっちゃうんだ」
「でもフェンス超えると大変じゃないですか。毎回ボール取りに行かないといけないし。
草むらに入っちゃったりして大変。暗いし」
「それは確かに大変ですよね」
「それでも面白くて、蹴りまくってたら、たまたまフェンスの向こうにある鉄棒の柱に当たって、コートの中に戻ってきたんですよ。」
「ミラクルですね。」
「そうですね。でも子供なんでそれを毎回狙うようになって。サッカーの練習してるってよりキックの練習ばっかりするようになって。」
「…狙って出来るんですか?無理だと思いますが」
「当然最初は全然でしたね。そこまで30m近くあるし、4メートルくらいのフェンス越さなきゃいけないし。でもたまーに出来るんですよ。
父親はドリブルとか練習して欲しかったみたいですけど、とにかく蹴るのが楽しくて。」
「夢中になったんですね。」
「そうですね。ある程度出来るようになったら今度は滑り台の手すりに当ててみたりして」
「佐古さんその話ホントですか?にわかに信じ難いんですが、小学生ですよね?」
ノブが横から口を出してきた。
そんな事言って不機嫌にならないか心配になる。
「全部ウソです。」
佐古選手は悪びれもせずに言う。
「冗談ですよ。まじです。ほんとにホントっす。学校使える時はゴールポストに当てて遊ぶようになりましたね。蹴ってばっかりだから全然サッカーは上手くならなくて。」
佐古選手は指の上でのボール回しに飽きたようで、座ったままリフティングを始めた。
座ったままのリフティングはそこそこ難易度が高いけど安定している。
「これ視聴者みんなが気になってると思うんですけど質問良いですか?」
今度はハヤが質問する。
「はい。俺なんかで良ければ」
「キックのコツって何かありますか?」
今度はおでこの上にボールを乗せたまま答える。
「コツっていうか感覚的な話なんですけど、強くボール蹴った時に2回インパクトするような感覚ありません?」
俺は全く分からない感覚だ。
ノブも首を横に振る。
「うん。わかるかも」
3人の中で一番キック力の強いハヤが同意した。
「二重の極みじゃん。」
ノブがツッコミを入れる。
懐かしい。
「その2回目に指とかでコントロールしているような感覚です。」
おでこでボールを弾ませてハヤにパスをした。
ハヤは手でそのボールを受け取った。
「それは…全くやろうとしたこともないですね。マジで二重の極みだ」
ハヤもお手上げな感じで返答する。
「佐古選手と言えばロングキックですが曲げる系も蹴れるんですか?」
「そう!今めっちゃ練習してて。無回転とかアウトとかめっちゃ楽しいっす。」
そう答える佐古選手のキラキラした表情でこの動画は終わり。
町田にも許可をとってアップロードする予定の前日。
佐古選手が大怪我。
本人のメンタルを考慮して自粛していた。
約1年半後、佐古選手の華々しい復帰戦の翌日この動画をアップロードした所、なんと1晩で100万再生を越えるモンスター動画になった。
佐古選手はあの大怪我でも感覚を失わなかったのだろう。
そこにどれだけの努力があったのか。
俺には分からない二重の極み。
指の上でクルクルボールを回しながら質問に答える佐古選手は、どうみても普通の18歳の少年にしか見えなかった。




