1話 サポーター
斉藤
佐古が怪我をしてから、俺は村田先生と一緒にサポータークラブに入った。
正直に言うと、最初は軽い気持ちだった。
「現地で声出したら、少しは元気出るかな」
それくらいの感覚。
でも、気がついたらガチになってきている。
ジャンブしながら声を張り上げるのも気に入った。
大学生の俺は金が無い。
アウェイは正直きつい。
交通費だけでかなりの金額が飛ぶ。
だから基本はホーム。
ゴール裏の、少し年季の入ったエリア。
若い人たちもいるが、仲良くなるのはおじさんばっかりだ。
ビール片手に、気持ちは熱い。
最初は俺達浮いてたと思う。
でも、何度か通ううちに自然と話すようになった。
「兄ちゃん、学生か?」
「佐古の知り合いなのか?」
「心配だよな、あいつ……」
よく、佐古の話が出る。
「去年、あの順位で終われたのは、佐古のおかげだろ?」
誰かがそう言った。
「数ヶ月だったけどさ、アイツのあの鬼パス、鬼クロスだよ」
「あれで、チームの基準が変わった」
確かにそうだった。
佐古が出てきてから、
町田は変わった。
速くて、質の高いボールが当たり前になった。
コーナーも、クロスも、縦パスも。
自然とチームは、
縦に速く、連動する形になっていった。
誰かが言ってた。
「なんかさ、リバプールっぽくなったよな」
笑ったけど、
あれは冗談じゃなかったと思う。
結果として、町田は踏ん張った。
終盤に落ちながらも、3位をキープした。
そして夏の移籍で、十田が加入した。
正直、最初は空気が張りつめた。
例の試合のことがある。
でも、十田は逃げなかった。
インタビューで、はっきり言った。
「町田の力になりたい」
「戦術オタクな俺が、一番佐古を生かせると自負しています」
「一緒にプレーするのが、楽しみです」
スタジアムが、少しざわついた。
でも、ゴール裏では拍手が起きた。
9月。
あの怪我から1年4ヶ月。
残り10節。
相手は湘南ビスマーク。
2点差で勝っている。
後半40分。
ベンチに佐古の名前があった。
アップを終えて、ピッチサイドに立つ。
それだけで、歓声が起きる。
「……来るぞ」
誰かが呟いた。
俺の周りで、
嗚咽が聞こえた。
泣いてる。
声を出そうとして、
声にならないおじさんたちがいる。
タオルで顔を覆う人。
空を見上げる人。
俺も、喉が詰まった。
あの足だ。
まだ出場はしていない。
ただ、立っているだけなのに。
それだけで、
ここまで来た時間が全部、胸に押し寄せる。
「……帰ってきたな」
誰かが言った。
俺は、何も言えなかった。
ただ、ピッチサイドに立つ佐古を見ていた。




