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理不尽フットボール~ただボールを蹴っただけなのに  作者: 砂糖水色
6章

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56/71

6話 時間

あの絶望的な怪我をしてから1年と少しが経過した。

町田は終盤に減速し、それでも3位でシーズンを終えた。ACLの出場権を得て、数名の戦力補強も行われた。

 

俺は20歳になった。

 文字通り?脛に傷を持った男になってしまったが、心配された感染症や後遺症等はなく、日常生活には問題ないレベルまで回復した。

だが、プロのレベルでプレーするのは話が違う。

走れる。

ジャンプも出来る。

ボールにも触れる。


日常生活で困ることは、もう何もない。

 それでも――

全体練習には参加していない。

メニューは、個人練習とフィジカルのみ。

 コーチが横に立って、淡々と声をかけてくる。

「今日はここまでにしよう」

「無理はするな」

「焦らなくていい」

 優しい言葉だ。

  ありがたいとも思う。

 でも、同時に胸の奥がざわつく。

俺は、まだ「守られている側」なんだ。

 グラウンドの端で、チームメイトの全体練習を眺める。

 ボールがテンポよく回り、声が飛ぶ。

すぐ横のピッチの中が遠い世界に感じられる。

そこに混ざれない自分がいる。

 練習後、コーチが水を渡しながら言った。

「剛、やることが無さすぎるだろ」

 図星だった。

「免許でも取りに行ったらどうだ?気分転換だ。どうせ今は、練習漬けにも出来ない」

最初は冗談かと思ったが、周りにも勧められて教習所に通い始めた。

ハンドルを握ると、不思議と頭が静かになる。

アクセルも、ブレーキも、ルール通り。

 無理をすれば、止められる。

サッカーとは、違う世界だった。

 夜は、颯馬や富士夫と飯に行くことも増えた。

他愛もない話をして、酒も飲んだ。

気がつけば、あれほど重かった胸の奥が、少しずつ軽くなっていた。

 8月。メディカルから、ようやく許可が出た。

「少しずつ強く蹴っていい」

 その言葉を聞いた瞬間、

嬉しさより先に、怖さが来た。

――本当に、出来るのか。

飛距離、コントロール。

戻らなければ道は閉ざされてしまうだろう。

グラウンドに立つ。

スパイクの感触。

芝の匂い。

ボールが転がってくる。

右脚で、止める。

感覚は……少し違う。

でも、ゼロじゃない。

俺は、深く息を吸った。

まだ、完全じゃない。


どっかのSGGK〇林君が、言ってた。

「怪我した足を軸足にするより蹴った方がマシなんだ」

 

俺は一年ぶりにしっかりと左足を踏み込んだ。

 

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