3話 垣谷紀香
教室に戻ると英語の授業中がはじまっていた。
几帳面そうな七三メガネ30代の男性英語教師村田が
「なんだ佐古。随分とゆっくりじゃないか」
「校長に呼ばれてたんです。」
村田先生は
「チッ調子に乗りやがって」と小さく吐き捨て授業を再開した。
授業が終わると村田先生に呼ばれる。
「佐古ちょっとこい」
嫌だなぁ、絶対いい話じゃないなぁ、と思いつつ教壇へいくと
「宿題」
とだけ言われた。
「すいません。明日提出します。」
そういうと村田先生が俺の耳元に顔を寄せ言った。
「今回の宿題は勘弁してやる。毎回あんなに上手くいくと思うなよ。フットボールはそんなに甘くない」
知ってるんかい!そう思ったけど、村田先生の表情にはあからさまな敵意がある。
教室を出ていく村田先生の持っているクリアファイルには磐田のマスコットが描かれていた。
…なるほど。と、納得する。
昼休みになり、友人とスマホのゲームをしながらパンを齧っていると、女子の声が聞こえてきた。
「…すいませーん佐古君いますか?」
教室の入口を見ると学年1の美少女垣谷さんがキョロキョロしている。会話した事はない。
俺と目が合うと美少女が笑顔になった。
「佐古君だよね?やっぱり大きいねぇ。昨日の試合みたよ!凄かった!」
美少女が俺の席に駆け寄ってきて嬉しそうに言う。
人生で体験した事のないシチュエーションだ。
今は12月なのに、そんなに足を出してて寒くないのだろうか。
「私、双子の兄がいてさ。川崎プロンタールに。知ってる?」
「もしかして天才高校生Jリーガー垣谷陽一!?双子なの?」
知らなかった。驚きだ。
垣谷さんはうんうんと頷く。
「いやぁ、凄い美男美女の双子だねぇ。」
俺がそういうと垣谷さんは顔を真っ赤にして返答する。
可愛すぎる。
「佐古君程じゃないよ!ハットトリックだなんて!凄すぎる!」
目の前に立っている垣谷さんの胸の膨らみに
「貴方の方がスゴイです。」
と心の中で呟く。かなりの大きさだ。
目の前のゲーム仲間の友人斉藤が話に入ってくる。
「ハットトリックって?昨日試合だったの?サッカー部。」
垣谷さんがかなりのハイテンションで大きな声で返答する。
「違うってJ2!J2の最終節に急に佐古君が出てきてハットトリックしたの!知らないの?」
目の前で大きな物が揺れている。
「やっぱり貴方の方が反則級にスゴイです。イエロー出ちゃう。」
と俺は心の中で呟く。
教室中がザワつく。
佐古ってプロなの?
佐古ってキーパーじゃなかった?
デカイしムキムキだもんなー。
とザワついている。
1番驚いていたのは前の席の友人斉藤だ。正に鳩が豆鉄砲。
「お、オマエ…なんか最近忙しそうだと思ってたらいつの間に…J2?マジか」
垣谷さんが頬を赤くして興奮しながら言う。
「ホント凄かったんだから。佐古君が決めた時スタジアムがシーンってなったあと15000人の歓声で地面が揺れるくらい。」
おーすげーな佐古。
段々人が集まってきて、更にクラス中がザワザワする。
「垣谷さん見に来てたの?J2の試合をわざわざ静岡まで?」
「うん。磐田のキーパー川本さんの引退試合だったから。」
「川本さん!代表にもいたもんね。ファンなんだ?」
「ファン…ってゆうか小学生の時にキーパー習った事があって。」
「俺も行ったことあるよ。川本さんのスクール。垣谷さんキーパーやってたの?」
「うん。小学生の時ね」
斉藤が口を挟む
「あぁ、垣谷さん身長大きいもんね。170くらい?」
垣谷さんが斉藤を睨む。
…ちょっと羨ましい。
「大きいって言わないで。168だし。」
高身長を気にしているらしい。
確かに斉藤は165くらいだから垣谷さんの方が身長が高い。細身だから体重は軽そうだけども。いや、胸の分…
そんな事を思っていると机の上のスマホが振動した。
画面に表示されたのは見覚えのない番号だった。




