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短編もの

最後の一枚が増える

作者: 秋乃 よなが


 私はスマホの写真をよく見返す。


 旅行にもほとんど行かないし、派手な友人もいないから、内容はだいたい高校の頃から付き合いが長い友人と、食べものと、会社の行き帰りの景色ばかりだ。


 たまに仕事の休憩中にふと見返す。何度も同じ写真を眺めては、『ああ、この日はこんな日だったな』と思い出す。


 今日も同じように写真を眺めていた。ランチの写真。撫でさせてもらった犬の写真。この間会ったばかりの友人の写真。


 その写真は、昨日も見たはずだ。なのに、友人の写っている位置が違っている気がした。


「……え? こんなのだったっけ」


 画面をスクロールして、別の日の写真を開いた。友人が、椅子から立ち上がっている。この写真は、ちゃんと並んで撮ったはずなのに。


 スマホの同期ミス? アプリのバグ? 頭の中で理由を探したけれど、納得できるものはない。


 そういえば先週の夜。残業のフロアで、自販機のガラスに誰かの影が映っていた。あれも、見間違いだと思っていたけど……。


 私は、もう一度写真アプリに戻った。


 今度は二週間前の写真を開いた。友人は……こちらを見ていた。


 あのとき、レジに並びながらおしゃべりして撮った。カメラを意識していないはずの顔。


 でも、画面に映る友人は、少しだけ首を傾けて、正面から私を見つめていた。


「なに? なんか、気持ち悪い……」


 私はスマホを縦にして、複数ある一週間前の写真を並べた。何度も指で拡大する。


 ふたりで写っている店の棚のラベル、同じ。後ろのポスターの折れ皺、同じ。なのに、友人だけが、少しだけ前に出ている。


 ――私の方に。


 私は他の写真も見返した。一緒に写っている写真は何枚もある。日付順に並べて比べてみた。


 ――全部、少しずつ、私の方に寄っていた。


 最初は、店のテーブルを挟んで座っている距離だった。別の日は、肩が触れているくらいになっていた。そして最後の写真では、私に背中を向けて、画面いっぱいに顔だけを寄せて撮っていた。


 撮った覚えが、ない。


 この友人とは、ついこの間に会ったばかりだ。


 久しぶりで、夕方から飲んで、駅前で別れた。そのときは特に違和感なんてなかった。だって――普通に笑っていたから。


 でも、ここでようやく気づいた。


 その日の最後の一枚は、私が先に帰ると言って歩き出したタイミングで自撮りしたはずなのに、画面には私の背後に彼女が写っていたのだ。


 どうやって、あの距離まで『寄ってきた』?


 念のため、帰宅後、その友人にLINEを送った。


『この日って、こういう写真撮ったっけ?』


 既読はついた。けど、返事はこない。


 なんとなく胸の奥がざわざわして、スマホをテーブルに置いて台所へ行った。冷蔵庫の水をコップに注いで飲んで、少し気を落ち着ける。


 戻ってきて、さっきのスマホ画面に目をやって、息が止まった。


 写真が、一枚増えている。


 今までなかったサムネイルが、アルバムの一番上に、ぽつんと追加されていた。撮影日時は、今さっきになっている。


 開いた。


 部屋の中だ。私の部屋。テーブルも、マットも、壁の時計も、全部そのまま。


 そして写真の中央には、さっきの友人――がいた。


 さっきの写真より、また少しだけ、私の方へ寄っている。


 翌日になっても返事は来なかった。既読はつく。けれど何も返ってこない。


 昼休み、また写真フォルダを開いた。増えている。昨夜よりさらに一枚。


 私の部屋の中。しかも、もう部屋の中央にいる。床の上で、俯いたまま、じっと立っている。


 ホーム画面に戻った瞬間、サムネイルが、ひとつ――増えた。


 ベッドの上の布団の端。そのすぐ手前に、あの友人の黒い髪が少しだけ映っていた。


 あと十センチ。


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