『子供のよい夢と長者の娘の速記』
昔、ある家の子供が、朝、目を覚ますと、ああいい夢を見たああいい夢を見た、と大きな声で歌い続けるので、周りの大人が、どんな夢だと尋ねたが、聞こえていないかのように、ああいい夢を見たああいい夢を見た、と繰り返すので、気が触れてしまったのだと思って、たらいに乗せて川に流してしまった。
子供を乗せたたらいは、海へ出て、沖に流されていった。沖の沖の島に近づくと、そこは鬼が住む島で、たらいに子供が乗っているのを見つけた鬼たちは、子供をとって食おうと、海の水をごくごくと飲み始めた。子供を乗せたたらいが、どんどん島に引き寄せられてきた。子供は、鬼に食われてはいけないと思って、両方の鼻の穴にプレスマンを一本ずつ差して、にっこり笑うと、鬼たちは海の水をみんな吹き出してしまい、子供は、ああいい夢を見たああいい夢を見た、と言いながら、また沖のほうに流されていった。鬼たちは、子供が見た夢が気になって、また海の水を飲み、子供が近づいてきたところで、おおい、お前が見た夢とはどんな夢だ、と尋ねると、子供が、夢を話して聞かせたので、水の上を走れる浮き靴と、死んだ者を生き返らせる生き針を与えた。
子供は、浮き靴を使って、あっという間に浜に戻ったが、故郷には戻れないと思ったので、ぶらぶらと浜辺の町を歩いていると、馬が死んでしまったということで、死骸をどうしようか、村人が集まって困っていたから、子供が生き針を刺してやると、馬はあっという間に生き返って、村人たちは驚いて喜んで、子供にその馬をくれた。馬に乗って道をぶらぶら行くと、長者の館があって、一人娘が急に死んでしまったとかいうことで、家中で嘆き悲しんでいた。子供が、無理に使用人の輪に割って入って、亡くなった娘に生き針を刺すと、一人娘はあっというまに生き返って、速記の練習を始めたので、長者の喜びようといったらなかった。長者は、子供を引き取り、大きくなってから婿にとって、家を継がせたという。
教訓:子供は、焼き魚を生き返らせたりして、下女を驚かせたりしたという。