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第40話 ジュリと新たな出会い 2

いつも読んでくださり、ありがとうございます。



「しかし、魔道具と言ってもなぁ……」


 テッドの話を聞いたジョーは顎に手を置き、考え込む。


「ジョーじいちゃんでも難しいの?」


 エレナがジョーに尋ねるが、そこには驚きの響きも混じる。

 このリディルの街で魔道具と言えば、ジョーの店である。

 皆が彼を信頼し、困ったときには彼を頼るのだ。少々値は張るが、満足いく品を作り上げると街の皆の信頼は高い。

 そんなジョーが迷う姿はエレナにもテッドにも珍しい姿なのだ。


「意思疎通をとる魔道具と言ってもだな、相手がこちらの言語を理解しているかどうかによるだろう? そもそも、こっちの言葉と相手の共通言語が違うのか、それとも話したくないか、その違うも大きいしな」

「そっか……。もしかしたら、理解してても話したくないだけかもしれないもんね」


 エレナの言葉にジョーは頷く。

 共通言語が違う場合、通訳としての機能を持たせる必要がある。だが、それにも限度があるのだ。

 もし、誰とでも意思疎通が図れる魔道具であれば、それこそ動物とでも会話が出来ることになる。そんなことは現実的ではない。

 魔道具というと皆、難題を解決できると思うようだが、魔道具は万能ではないのだ。


「そうだ。もし、相手が心に傷を負い、口を開きたくない場合は魔道具なんて無意味だろう?」

「その可能性が高いのかなって、俺は思う」


 お茶を飲んで少し落ち着いたテッドはぽつりと呟く。

 テッドの言葉に皆の視線は自然に彼へと向く。


「船から出て貰う様子を俺も見たんだけど、表情がないって言うか……。管理人の部屋でスープを飲んで貰おうとしたけど、口にしなかったって。一時的な保護を考えて、街の長に相談しに行くって言ってた」

「そうか……。特殊な身の上だからな、保護者が必要だ」

 

 そう言ったジョーは魔女とエレナの日々を思い起こす。

 ジョーは魔女に魔道具を使い、森を迷いの森にするよう依頼された。

 その時代の価値観ではジュリを守るために必要なことであったのだが、それから数十年経ち、人々の価値観は大きく変わった。

 保護法も出来たこともあり、少数種族の権利も存在も守られるようになったのだ。


「ジョーじいちゃん?」

「おぉ、すまない。テッド、言ったように今回の場合に魔道具が適当かはわからん。なにより、魔道具を作るにしろ、それなりに時間もかかる。そいつらにも伝えておくが、今回は難しいだろうな」

「そっか……。そうだよね」


 ジョーの返答に、エレナもテッドも目を伏せる。

 彼の言う通り、魔道具は万能ではないし、そのハーフエルフの少女が心を塞いでいる場合、無理強いはするべきではない。

 むしろ、その少女に必要なのは休養であることは明らかなのだ。

 三人とも同じ考えのため、自然に皆、口を閉ざす。重い空気が広がる中、今まで口を開かずにいたジュリが話し出す。


「私は……その子に会ってみたい」

「え、ジュリ!? ……大丈夫なの?」


 同じハーフエルフの少女の状況に、ジュリが心を痛めるのではとエレナは案ずる。手を重ね、顔を覗き込むエレナに、ジュリは口元を緩めようとするが上手く笑顔は作れない。

 しかし、その紫の瞳には強い意志が宿る。

 

「……港の管理人達に相談はしてみるが、無理はするなよ?」

「ありがとう、ジョーさん」


 自分に集まるジョー、テッド、エレナの視線は案じ、労わる心が伝わってきて、ジュリはやっと口元が自然な弧を描く。

 自分と同じハーフエルフの少女に、何が出来るのだろうか。そんな不安を抱きながらもジュリは彼女と会うことを決意するのだった。



*****


 翌日、ジョーから話を聞いた港の管理人達はジュリの申し出を歓迎した。

 管理人室には宿泊できる部屋が幾つかあり、彼らの妻達が少女の世話をしているという。少女は保護した日と同様、口を開くことはなく無表情で、皆がどう接するべきかと頭を悩ませているらしい。

 そんな中、同じハーフエルフのジュリの存在は希望のように感じられたのだ。

 

「こっちに彼女はいるんだ。昨日からスープを一口飲んだくらいでね。体まで弱ってしまうんではないかと皆、心配してるよ」


 少女のいる部屋へと案内する男は港の管理人の一人のようで、昨日からの様子を説明してくれる。

 案じていた通り、少女の様子は昨日から変わらないらしい。


「ジュリ、いいか? 無理はするなよ」

「……あぁ、大丈夫だ」


 大丈夫だと言うジュリは緊張で表情が強張っている。

 ジョーは軽く彼女の肩にぽんと手を置き、気を少しでも逸らそうとするが、ジュリの気持ちは目の前の部屋へと移っているようだ。

 エレナも心配して、ジョーに目で尋ねるが、彼は首を振る。

 少女がジュリと出会ってどのような反応を示すか、またジュリが少女を見てどのように思うか、それはジョーにもわからない。

 ただ、どのようなことがあっても、ジュリをフォローしなければという気持ちだけがジョーにはある。

 ジョーにとって、ジュリは魔女から託された存在でもあるのだ。


「では、人数が多いと驚かせるかもしれない。このドアをそっと開くから、お嬢さんと俺だけが部屋に入るがいいか?」

「……あぁ、その方がいいだろう。いいか、もう一度言うぞ。無理はするなよ」

「うん、なにかあったらすぐにあたしたちがいるからね!」


 こくりと頷いたジュリは管理人の男と共に、部屋へと足を進み入れる。 

 その背中がいつも以上に小さく見え、エレナは胸が締め付けられるような思いを抱く。

 自分以外のハーフエルフの少女に会うことは、ジュリにとっても緊張をもたらすはずだ。だが、ジュリは見知らぬ少女の不安を取り除くために、自分の心ではなく、相手の状況を汲み取ったのだ。

 遠ざかるジュリの背中に、エレナは何度もエールを送るのだった。



 部屋に足を踏み入れたジュリは少女の姿にドキリとする。

 自分とよく似た銀の髪、紫の瞳の少女に鏡の中を見ているような心持ちになったのだ。

 しかし、よく見ると少女とジュリの顔立ちはまったく異なる。それは当然のことなのだが、どこかでジュリは安堵する。同じハーフエルフという身の上の自分と少女、異なる者同士なのだと実感できたのだ。

 ジュリより幼い顔つきの少女はジュリを見ると、一瞬驚きなのか目を見開いた。


「おぉ、初めて反応を見せてくれたな!」

「このお嬢さんとなら、お話してくれるかしら?」


 初めて見せた反応に管理人の男も、世話をしていた彼の妻も表情が明るくなる。

 だが次の瞬間、再び少女は今まで通りの無表情へと戻ってしまう。

 二人の口からはため息が零れる。

 彼女に話しかけようとしたジュリも、少女の反応に臆したように目を伏せた。

 もうこちらを見ない少女に、ジュリと管理人の男は部屋を後にするのだった。



 帰宅したジュリは朝と同じようにスープを作り、皿に盛る。

 それをエレナがてきぱきと食卓に並べ、夕食が始まる。


「このスープも美味しいねぇ! 流石、ジュリだよね!」

「……そうか?」


 朝以上に張り切った様子のエレナはスープの味を絶賛する。

 どうやら、落ち込むジュリをなんとか励ましたいらしい。

 不器用な気遣いが今のジュリにはしみじみと嬉しく感じられ、口元を緩める。

その反応にエレナもホッとしたように微笑む。

 

「魔女が教えてくれたスープなんだ。野菜、肉、なんでもいいから煮込めば食べられる――そう魔女が教えてくれた」

「ふふ、大胆だけどその通りだね。……ってあたしはそれでも上手く出来ないんだけどさ」

「まぁ、魔女もあまり得意ではなかったぞ。切った野菜も大きさがバラバラでな、繋がっていたりもしたな」

「あ! あたしと一緒だ!」


 なぜか喜ぶエレナに、床に丸くなるシリウスが微妙な表情を浮かべている。

 魔女はジュリに様々なことを教えてくれた。

 それがあったからこそ、ジュリは魔女の亡き後もこの家で一人暮らすことが出来たのだ。家の権利や財産などを残してくれたことも、ジョーに聞くまでジュリは知らずにいたのだ。

 ジュリが負担なく過ごせるよう、配慮する一方で、ジュリが誰かと生きる未来を魔女は諦めることはなかった。

 そうでなければ、今こうしてエレナとも食卓を囲み、笑うことは出来なかったのだ。


「彼女は魔女と出会わぬ世界の私の姿なのかもしれんな」

「ん、なに?」

「……いや、なんでもない。ただ、エレナの口元にたまねぎがついてるだけだ」

「大問題だよ! もう!」


 ごしごしと口元を拭うエレナの姿に、ジュリもシリウスも吹き出してしまう。

 この穏やかな日々もエレナ達との出会いも、魔女の願いであり、計らいなのだとジュリは思う。

 同時に、やはりあの少女に何か出来ることはないのかと、ジュリはどこかもどかしさも感じるのだった。

 

 


 

楽しんで頂けていたら嬉しいです。

明日は朝6時に更新します。


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