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第33話 マリーの再会 



「ジュリ、エレナー! 大変なの、聞いて聞いて!」

「相談したいことがあるのー!」

「わ、わっ! どうしたんだ二人とも」


 ジョーの家に訪れたジュリとエレナが扉を開けると、アンバーとメイジーがいきなり抱き着いてきた。そんな姉妹の様子にジュリとエレナは顔を見合わせる。

 アンバーとメイジーは酒場の店主アレックスの誕生日に、ジュリ達に依頼をしてきた子ども達である。二人はアレックスの姪に当たるのだ。

 戸惑うジュリとエレナの様子に、ジョーが姉妹に声をかける。


「おいおい、それじゃ二人が部屋の中に入れないぞ。こっちに戻ってこい。ジュリとエレナも寒いだろうしな」

「本当だ! どうぞ、入って!」

「うん! 二人にもお話を聞いてもらわなきゃ!」


 ジョーの言葉にハッとした姉妹はジュリとエレナを部屋へと招き入れる。

 室内に入った二人はマフラーを取りながら、席へと着いた。

 それを確認したアンバーがさっそく、二人に話し出す。


「あのね、大変なの! マリーのお姉ちゃんがうちに来たの!」

「マリーさん、お姉さんがいるんだね。ん? でもそれの何が問題なの?」


 マリーは酒場ロルマリタの歌姫である。

 美声と美貌が自慢のこの歌姫にもエレナはもちろん、ジュリも面識がある。

 だが、姉が訪ねてきたのがどう問題なのだろう。そう思うエレナにジョーが説明を加える。


「俺にもそれがさっぱりわからなくってな。なんだか問題があるらしいが、この子らがこんな感じでな。お前さんらを呼べと聞かなくって」

「もう! さっきから言ってるでしょ? マリーのお姉ちゃんが来て大変なの!」

「そう、大変だったの!」


 アンバーとメイジーは真剣な表情だが、慌てているようで話が整理できないらしい。以前のこともあり、相談事といえばジュリとエレナと思ったようでジョーに呼び出してほしいと頼んだのだろう。

 

「だった、っていうことはもうお姉さんは帰ったのね」

「そう! さっき、マリーが追い返したの!」

「びっくりしたの! すっごく怒ってた!」


 どうやらそれは今日起きたことで、慌てて姉妹はここへ来たらしい。

 エレナはジョーとジュリに視線を送ると「わかったよね?」と言うかのように頷くので、二人も頷いて同意を示す。

 根気よくこうして一つ一つ確かめていくのが一番だろう。

 どうやら長くなりそうだと判断したテッドは、ジュリとエレナの分のお茶を入れ始めるのだった。

 

「なるほど、マリーさんと姉は長い間会っていなかったのか。そして突然訪れた姉にマリーさんが怒りをあらわにして追い返したと……」

「まぁ、家族と言えども色々あるもんだ。仕方のないことかもしれんな」


 姉妹の話を聞いたジュリとジョーの言葉に、アンバーもメイジーも納得出来ぬ様子で頬を膨らます。普段、おおらかなマリーが感情的になったことは、二人にとって一大事であったのだ。


「二人はいつでも仲良しだもんね。でも、大人になるといろいろあるんだ。アンバーもメイジーも今はマリーさんをそっとしといてあげてね」

「……わかった。私もメイジーとケンカするときあるもん」

「うん。このあいだだってお姉ちゃんがねぇ――」

「あー、はいはい。続きは俺が聞くから二人とも帰り支度して。きっとアレックスさん心配してるからさ」

 

 アンバーとメイジーが言い争う前に、テッドが会話を止める。姉妹もその言葉に帰宅の準備をし始めた。

 姉妹とテッドを送り出したジュリ達はふぅとため息を溢す。

 

「姉妹喧嘩という範囲じゃなさそうだな、これは」

「長年会っていないならそれなりに理由がありそうだもんねぇ。そもそも、マリーさんに依頼されたわけじゃないんだもん」


 マリーの様子に驚いた姉妹がなんとかせねばと慌てただけで、マリー本人が姉との関係を修復したいと考えているわけではないのだ。

 なにより、長年会っていないにはそれなりの理由もあるはず。他人がそこに介入してよいのかもジュリ達が悩む点である。

 

「明日、様子を見がてらロルマリタに行ってみよう。マリーさんはもちろん、アンバーとメイジーのことも気になるしな」

「そうだね。二人ともびっくりしてたみたいだし」


 マリーと姉の関係はまだよくわからないジュリとエレナには、アンバーとメイジーと言う身近な姉妹の様子の方が気にかかる。

 まだ幼い姉妹にとって、共に暮らすマリーのことを案ずるのは自然なことだ。

 そんな姉妹の動揺もアレックス達に説明できればとジュリ達は思うのであった。



*****


「もう来ないでって言ったでしょう! 姉さんは帰ってちょうだい!」

「待って! お願いだから少しだけ話を聞いてちょうだい! マリー!」


 翌日、ロルマリタに顔を出したジュリとエレナが目にしたのは、マリーに追い返される女性の姿だ。バンと閉まった酒場のドアを見て、悲し気な表情を浮かべる女性がマリーの姉だろう。

 目元が少しマリーに似てはいるが、落ち着いた印象の実直そうな女性である。ほっそりとした長身の体、纏う服は質素で堅実だ。

 

「あなたがマリーさんの姉なのか?」

「ちょ、ちょっとジュリ! いきなり失礼でしょ。すみません!」


 慌てるエレナにジュリは不思議そうに小首を傾げる。


「なんだ? まだ依頼を受けると決めたわけではないし、守秘義務はないだろう? そうか! たしかに今の光景を見れば、マリーの姉なのは明らかだな。うん、聞く必要はなかったかもしれん」

「うー……、そういう問題じゃないでしょー?」


 ジュリの言う事はもっともなのだが、まだ挨拶も交わす前に不躾だとエレナは思うのだ。しかし、目の前の女性は気を悪くした様子もなく、ぱあっと明るい表情へと変わる。


「まぁ、あなた達はマリーの知り合いなの? こんなに可愛らしいお嬢さん達とマリーは仲良くさせて貰っているのね」


 少々警戒しつつ、軽く口角を上げるエレナだが、女性の言葉には嘘がないように思える。マリーより一回りほど年嵩に見える女性はニコニコとこちらに微笑むとある提案をする。


「じゃあ、せっかくだからお茶をしましょ?」

「……まだ会ったばかりですし! ね? ジュリ」


 にこやかな女性の様子についつい安心してしまったエレナの警戒が再び高まる。


「そうだな、エレナの言う通りだ」

「でしょ、でしょ?」


 肯定するジュリの言葉に嬉しくなったエレナは笑みを浮かべた。


「街を案内しがてら、話をすればいいだろう。開けた場所なら安全だぞ」

「ジュ、ジュリ? えっとですね……」

「問題ない。なにかあったらその力で解決するんだ」


 小声で言うジュリにエレナは頬を膨らませる。なにかあることが問題であるし、暴力を振るうのもまた問題なのだ。

 問題しかない提案だが、たしかに開けた場所や人通りの多いところであれば安全ではある。

 渋々ながら、ジュリの提案をエレナは受け入れるように頷くが、マリーの姉だと言う女性に軽々と心を許さないと決意を固めるのであった。


 

 


 

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