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第31話 料理人と幼馴染 2

公開になっていませんでした!

遅れてすみません。


 賑やかで活気のある店内だが、それが慌ただしさに繋がらない。店員たちがてきぱきと客の注文や片づけを行っているのだ。

 それを作り出しているのが店の中央で微笑む男。

 長い髪を後ろに結いまとめた男は自身も動きながらも手早く指示を出す。彼の采配が上手いため、多忙ではあるが慌ただしい雰囲気を作らないのだろう。

 スマートな印象のその男のファンも多いようで、目が合うと微笑みを返している。


「やはり、引き抜きと言うのもあり得る話だな……エレナ? 聞いているのか?」

「うん! このスープ、美味しいね。野菜の甘さとお肉の風味が合うの! あ、もちろん、ジュリの料理も最高だよ!」


 ここには食事を楽しみに来たわけではないのだが――という言葉をジュリは飲み込む。たしかに仕事で訪れてはいるが、料理を味わい、楽しむことは悪いことではない。

 同時にイーサンの腕が確かなのも事実だと知れたのだ。

 

「接客は無駄がないし、料理の味も抜群だ。おまけに値段は手頃、これは繁盛店になるのも頷けるな」

「そ、そうだよねー。……あ、あのですね……」


 そう言ったあと、メニュー表を見たエレナの視線は、ちらちらとジュリにも注がれる。軽くため息をついたジュリは笑ってエレナに頷いた。

 思っていたより、良心的な価格であり、財布には十分に余裕があるのだ。

 

「あぁ、まだ注文しても問題ないぞ。せっかくの外食だからな」

「いいの!? あたし、頑張って働くからね……!」

「いや、それとこれとは別問題で……」

「ジュリ―! なんて優しいの!! やっぱりあたし頑張るねぇ!」

「ちょ、エレナ! 声が大きいぞ!」


 感激するエレナをたしなめようとジュリもまた大きな声で注意する。

 賑やかなその様子ににこやかに笑みを浮かべながら、近付いてくる者がいる。


「二人は仲がいいね。姉妹? 友達かな」

「友達なんです」


 こちらに来た店長フィンにエレナは即答するが、その様子にジュリは少々驚く。

 友人だと即答されたことに気恥ずかしさも感じたのだ。


「僕にも友人がいてね。ここの経営者で料理人なんだよ」

「で、その友人をあなたはどう思っているんだ?」

「ジュリ! もうすみません」


 単刀直入に尋ねるジュリだが、フィンは不快に思った様子もなく穏やかな笑みを返す。この柔和さが店の人気にも一役買っているのだろう。


「いや、いいよ。彼が作った料理は最高なんだ。僕と彼は幼馴染でね、いつも助けられてきたんだよ」


 ちらりと厨房に視線を送ったフィンは再びジュリとエレナを見ると、微笑みながら話し出す。


「そんな彼の力になりたいと思ってね。いろいろ学んで今がある。街の商人を観察したりね、ときにはじろじろ見るなって叱られたものだよ」

「ふふ、じゃあこのお店は二人の夢なんですね」

「そうだね。本当に彼には世話になってきたんだ。彼と共に店をやりたいと思って今日があるんだ。そうでなきゃ、日の当たる道を歩けなかったかもね」


 冗談めかして話すフィンにエレナもくすっと笑う。周囲の客すらもそんな会話に微笑んでいるくらいだ。

 しかし、ジュリはなにかが引っかかる。

 一瞬、調理場に送ったフィンの視線は真摯なものであった。真剣なその表情は先程まで見せていた穏やかなものとは異なり、どこか鋭さがあった。

 にこやかに会話を交わすフィンとエレナ、柔和な彼だがそれだけなのだろうかとジュリはかすかな疑問を抱くのであった。



「また近いうちにあの店に行った方がいいかもしれないな」

「え、どうして?」


 帰宅後、リラックスしていたエレナはジュリの言葉に目を瞬かせる。

 『バッグアレイ』は良い店であった。

 優れた料理に居心地の良い空間、それはイーサンとフィンの組み合わせが生み出したものである。幼馴染の二人が作り上げた店、そこからフィンが旅立つのはイーサンにとっては辛いことだろう。

 けれど、彼はフィンを送り出すことを決めているのだ。

 てっきり、エレナはジュリがすぐにでもイーサンの依頼を引き受けるものだと思い込んでいたがそうではないらしい。

 

「たとえばもし、エレナが他の場所に行きたいと言ったら私には止める権利がない。今以上に良い場所がエレナにある可能性もあるんだからな」

「そ、そんなことないよ!」


 ジュリの言葉をエレナは立ち上がって否定する。

 

「ここに来てから毎日凄く楽しいよ! 食事や安心して寝れる場所だけじゃない。ジュリと話したり、一緒になにかするのが嬉しいの。だから、そのときはちゃんと引きとめてよ! 友達でしょ?」

「……そ、そうか。それはそうだな」

「引きとめてくれなきゃ、寂しいでしょ? 私はここに必要ないって言われてるみたいじゃない……」


 あくまで仮定の話なのだが、エレナはしょんぼりと落ち込んでしまう。

 その様子に慌ててジュリが駆け寄る。おまけにシリウスまで心配してエレナの元へと走ってきた。

 

「そんなことはないぞ! エレナはここに必要だ」

「そうです。エレナがいるから主は動こうとするのです。私と二人の時にはもう、必要最低限のことしかしませんでしたから」

「な……、いいだろう! 私しか迷惑しないんだから!」

「それです! 自分のことに主は無頓着すぎるのです! 大体、主は昔から――」


 エレナを心配した二人だが、なぜかジュリの今までの生活態度についての言い争いが始まってしまう。

 どうやら、ジュリは自分のことにあまり関心がないようだ。

 以前、シリウスから聞いた話ではエレナがよく食べるのでジュリも凝った料理を作るようになったという。

 山を降り、街へ行ったこと、そして相談所を始めたこと自体がエレナの影響でもあるのだ。

 言い争うジュリとシリウスの様子にくすくすと笑っていたエレナはふと気付く。

 

「もしかしてフィンさんも同じ気持ちなんじゃないかな?」

「そ、そうだ! 私が言いたかったのはそれだ! たとえ、イーサンがフィンを送り出す気持ちであっても、相手が本当にどうしたいかを確かめていないんだ。だから、それをきちんと確認する必要があると思ったんだ!」


 ジュリのたとえ話をエレナは少々本気になって考えてしまったが、あくまでこれはイーサンとフィンのことである。

 

「そう、そうだよね! つい、自分のことに置き換えちゃった……。それでまたお店に行こうってジュリは思ったんだね」

「あぁ、そうだ。イーサン自身は聞くのが辛いかもしれない。私達がフィンに引き抜きの話が本当か聞いてみよう」

「うん、そうだね!」


 イーサンがフィンに直接聞くのをためらったのは、彼の将来を応援する気持ちと同様に直接本人の口から引き抜きの話を聞きたくはなかったのだろう。

 強面で大柄なイーサンが繊細で優しいことはシリウスの態度や細部まで配慮された料理からも明らかだ。

 

「……問題が解決してしまえば、依頼もなくなってしまうのにお二人とも人がいい」

「ん? シリウス、どうかしたか?」

「いえいえ、なにも。それより、そろそろお休みになった方がいいかと。二人ともお疲れでしょうから」

「今日は本当に楽しかったもんねぇ」

「あぁ、そうだな」


 エレナは久しぶりに、ジュリは初めて料理店に入ったのだ。楽しさがある反面、疲れてもいるだろう。

 シリウスの言葉に促され、二人は寝る準備を始める。

 お互いの存在がそれぞれに良い影響を与えている――ジュリとエレナの姿はシリウスにはそのように映る。自分のスペースに丸くなったシリウスは、まだ続く二人の会話に目を細めるのだった。



 





いつも読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんで頂けるように書き進めていきますね。

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