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プロローグ

明日、6時に続きを更新します。

当面の間は、土日水の6時に更新予定です。

よろしくお願いいたします。


 その森には年老いた女性と小さな女の子が暮らしていた。

 まだ幼いその子は女性を「魔女」と呼ぶ。

 そう呼ぶようにと言われていたし、またその子にとって彼女はそう呼ぶにふさわしい不思議な存在でもあったからだ。

 その子の名前はジュリという。

 であれば、本来はジュリエットという名前なのかもしれないが、ジュリにはわからない。

 森で放置されていたところを魔女が見つけて、保護したらしい。

 なんでもよく知っている魔女がそういうのなら、そうなのだろう。そうジュリは考えた。


 魔女はジュリに生活に必要な様々なことを教えた。幼いジュリの風貌もあり、他の者が目にすれば厳しさにも見えただろう。

 だが、この家の周囲には誰かが訪れることはほとんどないし、ジュリもまた他の者の生活を知らない。

 特に不満に思うこともなく、時は流れていく。

 そんな日々の中、ジュリは多くのことを自分自身で出来るようになっていった。


 ある日、キイチゴを摘んでジュリが森から帰ると、魔女が倒れていた。慌てるジュリだが、抱き起こされた魔女は魔道具で通信を始める。この魔道具はジュリも扱い方を教わってはいたが、使用は禁じられているものだ。

 数日後、尋ねてきた男とジュリに魔女はこれからの話をした。


「私はもう長くはない。ここで一人で生きていくか、彼について街で暮らすか。自分の道を選ぶといい」


 ジュリをじっと見つめた魔女の黒い瞳からは表情が見えない。

 ゆるやかな黒髪もその瞳の色も自身が魔女である証明なのだと彼女は言っていた。

 だが、彼女の黒髪も黒い瞳もかつてより色と艶を失っていることに今更ながらジュリは気付く。

 ジュリは迷わず、ここで一人で生きていくと答えた。

 魔女に多くのことを教わったジュリは一人で生きていく術を身につけていたし、何よりハーフエルフである自分が街で生きるなど考えられない。 


「そうか……。この家にあるものは全てお前のものになる。好きに使うといい」


 そう呟いた魔女は訪ねて来た男にこれからのことを託した。

 事務的な処理などがあると言っていたが、ジュリにはよくわからない。

 ただ黙って魔女のことを見つめていた。


 数日後、魔女の魂は旅立った。

 訪ねて来た男は魔道具を使い、他の者と通信を行うと、魔女の遺体も魔道具に収納し、街へと向かった。

 男は最後までジュリを案じ、何かあればここに連絡するといいと連絡先も渡された。だが、ジュリは一人で何もかも出来るため、困ることはないと思った。

 そう、実際魔女がいなくなった家で一人きりの日々でも、ジュリの生活はいつも通り順調だ。

 なぜか、ぽっかりと胸に隙間が出来たような思いになったが、それでも一人で生きていくことは出来るのだ。


 何かが欠けたような感覚を抱きながら、日々を過ごすジュリはある日、魔道具で森を見回していた。

 通信機器である魔道具は、森に置いた子機の映像も見られる。

 そこでジュリが見つけたのは一匹の狼である。

 怪我をし、衰弱した様子の狼をジュリはなぜか家へと連れ帰ってきた。

 魔女の家には必要なものはなんでもある。

 ジュリは狼の治療を始めたのだ。

 三日三晩、寝ずに介抱した結果、命を取り留めた狼はジュリを仲間と思ったようでよく懐いた。

 狼である以上、危険ではあるのだが、その存在はぽっかり空いた自身の心を埋めてくれるようでジュリは手放すことが出来なかった。

 それからジュリは森の中で一人と一匹でずっと暮らしてきたのだ。


 今日、彼女に出会うまでは。

  


 

皆さんに楽しんで頂けたら嬉しいです。

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