表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ダンジョン・ジオグラフィクス~ケンタウロスの貴重な交尾シーンの撮影に成功したら、アホほどバズってしまいました~

作者: 長谷川凸蔵

 ダンジョンに籠もる事3ヶ月。

 用意した食料はとうに底を尽きた。

 現地調達した謎の虫を炙ったものを齧りながら、俺は撮影スポットに潜み続けている。

 素焼きだが、ナッツのような風味がする。

 味は悪くない。

 カメラを構え、射撃の姿勢でいうところの『ブローン』、つまりうつ伏せになり、肘で支えながら上半身を軽く反らした姿勢を保持したまま既に九時間が経過していた。


 俺の調査だと、この場所で正しい筈だ。

 奴らの群生地近くに、ここより人目を忍びつつ、それなりのスペースが確保できる場所はない。


 しかしこんなにも撮影できないとなると、もしかしたら時期が問題なのかも知れない。

 彼らの発情期はまだ解明されていない。

 幾人もの研究家達が撮影に臨んだが、まだ誰も果たせていない偉業。


 この3ヶ月、ほぼ一日中ここにジッと動かず身を潜め、タイミングを見計らっているものの、空振りの日々が続いている。

 俺の忍耐もそろそろ限界だ。


 カメラを構えている間は考え事しかできない。


 せっかく両親に学費を出して貰い、迷宮探索者(シーカー)養成学校を首席で卒業したというのに、この体たらくだ。


 同期のライバルたちは、有名パーティーやギルドに誘われ、既にシーカーとして一線で活躍している者もいる。

 なのに俺ときたら地面に這いつくばり、ジッとするだけの日々を過ごしているのだ。


 一流の探索者なら食うものに困る事もなかろうに、俺は今食うものに困り果て、虫を齧っている。


 ただ、みじめさは感じない。

 好きなことをやっている、それだけで贅沢な時間だ。

 仮に今回がダメでも、次があるさ。


 プロペラ音の関係で、撮影用ドローンは使用できない。

 ただただ、カメラのファインダーを覗き続ける。


 しかし、何の動きもない。

 今日も空振りか⋯⋯と、諦めかけたその時──。


 パカラッパカラッ。



 この3ヶ月で、この場所では初めて聞く蹄の音だ。

 だが、まだ標的だと決まった訳ではない。

 もしかしたら雄同士や、別の魔物の可能性も⋯⋯。


 パカラッパカラッ。


 先ほどより、少し軽めの音が追従するように、ダンジョン内にこだまする。


 やがて──二頭は姿を見せた。

 上半身は人間そっくり、下半身は馬。

 その構造上、服を着ているのは上半身のみ。

 

 といってもキチンとした布を作る技術は無いのだろうか? 二頭とも簡単なシャツを羽織っているといった感じだ。


 ケンタウロスの(つがい)だ!

 カメラの電源を入れ、バッテリーを確認する。

 フル充電、よし。


 カメラに接続されたタブレット端末を操作し、配信モードに切り替え、自分のチャンネルにログインする。


『ダンジョン・ジオグラフィクス公式チャンネル』


 まあ、公式もクソもない。

 俺が勝手に名乗っているだけだ。


 チャンネル紹介文はシンプル。


『私、芝勇人がダンジョン内の地理や不思議な現象、モンスターの生態などをお届けするチャンネルです!』


 これまで、ダンジョン内散歩配信や、貴重なスライムの群生地での分裂シーン、ゴブリンの繁殖など幾つか投稿してきたが、どれも殆ど視聴されなかった。

 コメントも全く無い。


 個人的にはどれも貴重な映像だと思うが、やはり『画』のインパクトが弱いのは否めない。

 だが、今回狙っているのは違う。


 細かい生態がまだ報告されていない、ケンタウロス、その交尾シーン。

 きっと迫力のある映像になるハズ、需要はあるだろう。


 ⋯⋯もしかしたら、馬の交尾とそんなに変わらないかも知れないが⋯⋯いや、上半身人間だし、きっとインパクトがある⋯⋯と信じたい。


 ファインダー内に『Liveモード』の文字が表示される。

 よし、これで配信開始だ。


 俺が準備している間も、ケンタウロス二頭は何か話しているようだ。


「※※☆※&¥※=☆」

「×&¥☆☆※※@=」


 独自言語の為、内容は一切わからない。

 ただ、雄のケンタウロスが雌ケンタウロスの頬を優しく撫でた。

 人間と同じなら、これは親愛の表現だろう。


 これは、始まりそうだ⋯⋯。

 そうこうしていると、ファインダー内にコメントが流れた。


『初見⋯⋯って、ケンタウロス!? 初めて見たぞ!』


 カメラに接続した端末のタッチパネルを操作し、コメントに返事をする。

 本当なら声か、物理キーボードの方が利便性が高いが、この状況では僅かな音も出せない。


『3ヶ月張って、ようやくです!』

『3ヶ月wwwwww執念凄い! これかなり貴重な映像だろ!』


 ケンタウロス自体警戒心が強く、ドローンの音で姿を隠してしまうようで、姿を捉えた映像は少ない。

 こんな風にLiveで配信されるなんて、異例も異例だろう。

 Live中は『動くサムネ』といった感じで、どんな動画か確認ができる。

 ケンタウロス効果なのか、視聴者数の表示が2、3と増えると同時に、ふたたびコメントが流れた。


『うわ、本物のケンタウロスじゃん!』

『上半身だけ美男美女で草』


 コメントが盛り上がり始めたその間も、ケンタウロス達は独自言語で同じように盛り上がっている⋯⋯ように見える。


 視聴者がポツリ、ポツリと増え、二桁を超えたころ、二頭の盛り上がりは加速していた。


 雌ケンタウロスが、雄ケンタウロスのシャツをビリビリと引き裂いたのだ。

 

 そのまま、雄の胸の辺りを手のひらで刺激していた。

 どうやら雌の方が積極的に見える。


 ⋯⋯そういえば、ケンタウロスは人間部分だけでなく、馬部分にも乳首があるのだろうか?

 カメラを僅かに動かすと──あった。


『おー! ケンタウロスって上にも下にも乳首あるんだ!』

『いや、どうやって使い分けんのこれwww』

『雌はどっちで授乳するんだ!』


 おお、その疑問は無かった。

 次はそれを撮影したいな、新たな発想をくれる良いコメントだ。


 二頭はどうやら雌が攻め、雄が受けのようだ。

 ケンタウロスは全てこうなのか?

 それともこのカップルだけがそうなのか?

 これも追加調査が必要そうだ。

 

 二頭の盛り上がりはそろそろ最高潮のようだった。

 もう我慢ならない! といった感じで、雌ケンタウロスが、雄ケンタウロスの胸を強く押した。

 すると、雄ケンタウロスは棹立ちしたのち⋯⋯なんと「ころん」と転がり、背中を地面につけた。


 なんかスッゴい苦しそうな体勢!

 人間と馬の接続部分が裂けちゃいそう!


 ⋯⋯と思ったが、雄ケンタウロスは意外な柔軟性を見せ、地面に仰向けに寝転んだ。


 そして──雌ケンタウロスは、雄ケンタウロスに跨がるようにして⋯⋯腰を下ろした。


 瞬間、コメントが一気に流れた。


『ちょwwwwwwまさかの体位wwwwwww』

『これが本当の騎乗位!(錯乱)』

『そこはバックでええやろw』

『雄めちゃくちゃ苦しそうで草ァ!』



 たまたまインフルエンサーでも混ざっていたのか、視聴者数が凄まじいスピードで増えていく。

 ケンタウロス達のプレイが盛り上がるのと同時に、視聴者だけでなくチャンネル登録者数も3人だったのが、10、20、50、100⋯⋯と加速度的に増えていった。







 ──この動画は瞬く間に拡散され、俺は人気配信者の仲間入りを果たしたのだった。


 

もし面白いと感じて頂けたなら、ブックマークや下の☆で評価お願いします。

創作のモチベーションになります、是非ご協力ください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] かつては日本のTV界にも、このくらいブッ飛んだ発想を誰もが面白がり、僅か数分の映像に引くくらいの金をかけて実写化しては各局が地上波ゴールデンに毎週流して数字を競うという、時代があった。だが、…
[良い点] ジャンルは配信盗撮裏ですね
[良い点] 長谷川センセぇ凸りスギィ!wwwwww  まったく、ナニ書いてんすか!w 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ