手に入れた力
日付を跨いでしまいすみません。
よろしくお願いします。
熊の魔物は、先程とは様子の違う俺に対し、攻撃するべきかの判断を逡巡している様子だった。
その隙に、俺は、一歩、また一歩と距離を詰める。
一触即発。
その間合いが、両者の攻撃が届く範囲へと到達したその時、痺れを切らして動いたのは熊の魔物だった。
「グゴアアァァァァァア!!」
熊の魔物は、自分を鼓舞するかのように雄叫びを上げながら、爪を振るう。その姿に先程までの余裕は無く、攻めているのにまるで追い詰められているようだった。
「フッ……」
俺は熊の爪を、危なげなく剣で受け止め、そのまま受け流す。その際、動かした腕の感覚に違和感を覚えた。
「聖剣……ではないよな」
弟が両親に自慢していたスキル、聖剣士は、聖剣を扱うことができる。聖剣は使用者を導く効果があり、幸運を呼ぶ選択から、剣の太刀筋まで、ありとあらゆるものが使用者の都合のいいように導かれると言われている。
先程のように剣筋に違和感を覚えたものの、俺の持つこの剣は、禍々しいオーラを放っている。抜けば輝かしい光を放つ聖剣とは似ても似つかなかった。
「次は、こっちの番だな」
握っているだけで力が溢れてくるようなこの剣。ひとたび魔物を斬れば、どんな感触が返ってくるだろうか。
俺が攻勢に出ると踏んだのを感じ取ったのか、熊の魔物は怯えた様子を見せる。
「俺を騙した報いは受けてもらうぞ」
熊の魔物は、焦ったように爪を振るう。俺は、それを払うように大きく剣を振るい、弾き返す。その隙に出来た一瞬の隙に、剣を刺し込む。
剣に導かれるまま、頭に思い浮かんだ線を辿るよう、流れるような動作で剣を滑り込ませると、熊の胴体に、深い傷ができる。斬った手応えと同時に流れてくる、確かな力に、俺はこの剣がどういうものであるかを理解する。
「斬った相手の力を吸収するのか……」
「グググ……」
攻撃を受けた熊の魔物は、一度後退し、低く唸る。俺がそのまま攻めに出ようと剣を構えると、熊は再び爪を振るってくる。先程よりはあまりにも緩慢なその攻撃に対して、俺は余裕の笑みを浮かべながら受け止める。
「これが、力を奪う側の感覚か……」
なんとも愉快な気持ちを抱えながら、悠然と歩を進め、そのまま熊の頭部に剣を深く突き立てる。
「これで俺の勝ちだ……」
熊はついに倒れ、俺は勝利の余韻に浸りながら、剣を一振りし、熊の血を落とした。
「これで俺は、更に強くなれる」
この剣を手にした時から感じる、強さへの飢餓感。踏みにじられた怒り。そして、勝利への恍惚とした感情。
この日、ダンジョンの最下層にて、一つの魂が息を吹き返した瞬間だった。
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