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顔の色 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 うーん、休みの日に飲むお酒は、また格別だな!

 こいつが次の日が休みと決まった、前日の晩とかなら最高なんだが、その瞬間はけっこう限られている。こうなったらノーマル休みの日にも幅を伸ばすしかないわけで、自分が心地よく思える時間は、自分で作っていくしかないのよなあ。


 ――ん? 顔真っ赤だぞ? 飲みすぎじゃないのか?


 ああ、平気平気。俺はどうも、少しでも飲むとすぐに顔を赤くしちまう体質らしくてな。たいていのやつには心配されるのさ。アルコールに限った話じゃないんだけど。

 お前は顔に色が出やすいタイプか? 顔の血管が太いとか皮膚が薄かったりすると、そのあたりが表に出ると聞いたことがあるが、実は他にも意味があるんじゃないかと俺は思っていてな。

 俺の昔の話なんだけど、聞いてみないか?


 家族の話によると、生まれたときの俺の肌はめちゃくちゃ白かったらしい。

 そのせいか、喜怒哀楽に顔色が敏感に反応して、赤みを帯びることたびたびだったとか。

 一度泣き出すと、肌の色からしてまるきり火の玉小僧か何かでな。どうにか色を引っ込めようと大騒ぎだったらしい。

 冷えた水とかにつけて、どうにか落ち着かせようとするも、肌そのものはなかなか赤みが引かなかったようだ。

 それだけなら、まだある話なのかもしれない。だが、俺の肌のバリエーションは赤以外にもあったらしいのさ。


 いわく、青くなる時もあったとか。

 ほれ、自分の腕とか見るとところどころ青い血管が走っているのが見えるだろう?

 こうして見える血管は、多くが老廃物を運んでいる静脈とのことだ。かといって、血管そのものがその色をしているわけじゃなく、光の関係らしいがな。青い光の方が赤い光よりも肌の浅いところで反射しやすく、赤に比べて色合いが目立つようになっているのだとか。

 俺はな、リアル青ざめも平気であったらしい。

 はじめに気づいたのがお袋で、俺が何やら怖い思いをして泣き始めてしまったときに、気づいたんだとか。

 顔が赤く成るどころか、肌に走る青い血管たちがどんどん濃さを増し、そこかしこに浮かび上がりはじめる。

 赤みが引くときほど時間がかかったわけじゃなかったが、はためにも水色のゴムを薄く張ったんじゃないかという染まりよう。

 こいつは赤みに比べると、引っ込むのが早い。病院で診てもらおうと思っても、お医者様へ連れていくと色がなくなってしまっているのだとか。検査もしてもらったが、特に病気しているわけでもないらしかったのさ。


 そうこうしているうちに、俺も幼稚園、小学校と共同生活を経験する歳を迎える。

 このころには自分の体質について、俺も自覚が芽生えていたさ。一度、赤面するとなかなか引っ込まずにいる。意識したもの、しないものに限らずな。

 そろそろ「恥」の文化ってやつにも触れる年代でもある。他人にできることが、自分にできないとなると、そいつに劣等感を覚えて恥ずかしくなるんだ。そうやって顔を赤らめるたびに周りにからかわれるのが、子供心にしんどかったのさ。

 特に苦手だったのが、国語の音読の時間。

 俺は漢字は読めこそするんだが、いざ発声する段になると、どうにも舌を噛みがちになる。うまく回っていねえんかな。

 こうして、少人数相手に会話するときは平気なんだがな。大人数を前にして、ひとりでことを遂げるとなると、ちょいと不安になる。そうしてミスると、また失笑の的だしな。

 いやでいやでたまらない時間ではあったが、あるとき俺の顔色の変化に意味があるんじゃないかと思い始めた、朗読があった。


 うちのクラスは出席番号で朗読していく人が分かる。

 その日に読む複数人の中に、俺も入っていた。しかも先生のいつも通りの区切りであれば、ちょうど俺が読むところの箇所が長い。

 俺は深呼吸して、名指しとともにその箇所を読み進めていく。

 あらかじめ頭の中で何度か先読みしたところで、しばらくはすんなりとすすめられたんだが、ふと会話文の途中に差し掛かって、人の名前の部分だかを盛大に間違えたんだな。

「間違えた」と思うと、自分の顔がみるみる熱を帯びていくのが分かったし、周りの生徒たちも何人かがくすくす忍び笑いを漏らすのが聞こえた。

 それでも、まだ読むところは残っていると、口を開きかけたところで。



 ダダダ、と何かが駆けるような音がした。

 廊下からじゃない。とっさに教室のみんなが天井を見るも、階上からでもなかった。

 壁側。黒板のすぐ左手の部分。

 この教室は列を成すクラスたちの一番端っこにあたる。あとは教材室をはさんで、校舎の最端の壁を背にするだけだ。

 その教材室側の壁をダダダ、と駆けるように打つ者がいる。

 先生が確かめにいく間もなかった。

 ほどなく、音を立てて教室の壁が破られる。人の顔面がちょうどはまるかという大きさの穴だ。穴の真正面にあたる窓際から3列目に並ぶ生徒たちは、声をあげて驚きをあらわにしていたよ。

 だが、それとほぼ同時に。

 俺の顔のほてりが、急激に冷めていくのを感じたんだ。思わず指で触れてみて、その先に凍りそうな冷たさが走るのを覚える。

 これも俺は知っていた。俺の顔が青ざめるときに、陥る状態だ。事実、先ほど笑っていた連中の目が、こちらを向いて見開いている。


 もう、音はしない。

 席からずり落ちたりしている3列目の生徒たちを助け起こしていくと、彼らは一様にあの穴の向こうに、3つの光を見たと話したさ。

 結べば逆三角形になるであろう位置に浮かぶそれらは、黄金色の光を放ち、蛇か何かの眼のように見えたんだとさ。

 先生が教材室を見に行っても、この教室まで貫通する穴以外に生き物の姿はなかったのだとか。


 それ以来、俺が顔を赤らめると、ときおりあのダダダ、と駆ける音が聞こえるようになる。

 皆の注意が向くものの、俺の顔がまた青ざめていくと、音はぴたりとやんで気配を殺してしまうんだ。

 どうやら俺の顔の色は、信号機のようにして奴らの進退を調整しているらしい。

 もしこれが乱れて、そいつらがこちらへ止まらずにやってくることになったら、なにが起こるのか、少し気がかりではあるのさ。


 ほーれ、俺の顔もすっかり青くなっているだろう?

 話を聞いてて、例の足音が近くまで来ていたの、気づかなかったのか?


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