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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
99/194

少年の想い

「動け!イーヴィル!!」


ブゥン!!ガリッ!!


「ほう……」

「――ッ!?ギリギリ……セーフ!!」

 主人の悲痛な声に応え、銀竜は再起動する!

 毒に蝕まれた身体に鞭を打ち、撃ち下ろされた白髪鬼の手刀から持てる力の全てを使い、離脱した。

「アルザングのウイルスを受けて、こうも早く動けるようになるとは」

「ウイルス使いがウイルスにやられちゃカッコつかないだろ……イーヴィルにだって対ウイルス用のワクチンプログラムぐらい積んでいる……!」

「ふん……同じ力を持つ者同士これぐらいできて当然と宣うか……僕には、そうは見えないけど?」

 イーヴィルの身体には縦に大きく抉られた傷痕が刻まれていた。もちろん先のアルザングの手刀によるものであるが、銀竜にとって万全の状態ならば、来るとわかっている攻撃を一切触れさせずに回避するなど容易い。

 だが、そうはならなかった、できなかった、その身を今も蝕むウイルスのせいで。

(出力……50%か……この分だと、待っていたら回復するなんてことは、奇跡でも起きないと無理そうだ。ただでさえスペックで負けているのに、さらに差をつけられた。しかも……)

 ディスプレイに映るErrorの文字を恨めしそうに睨む。しかし、いつまで経ってもそれが消えることはなかった。

(……駄目だ。いい手が何も思いつかない……こうなったら……!!)

 イーヴィルは手を帯電させて、姿勢を低くした。

「……性懲りもなくか?」

「性懲りもなくだ!!」


ジュワアァァァァァァッ!!


 再び手を新雪に突っ込み、水蒸気の目眩ましを発生させる!銀色のボディーは白いモヤの中に消えて行った。

「……君がすでに見せた手、しかも初見の相手にしか通じないような子供騙しを繰り返すとは……」


ガシッ!!


「あの銃を召喚できなくなったか?」

「――ッ!?」

 ジンを二重のショックが襲う!

 背後からの蹴りをあっさり受け止め、足首を掴まれた上で、自身の置かれている状況を、隠しておきたい状態を一目で看破し、わざわざ説明してきたのだ!

「図星のようだな」

「……よくわかったね……!」

「あれだけ接近戦で痛い目に会っておきながら、懲りずに向かってくればね。本来の君なら絶対にしない選択だ」

「本当にこんなこと……したくないんだけど!!」


ギュル!!


「おっと」

 イーヴィルは身体全体で回転し、足首を掴んでいる手を振り払った。

 そして地面に降り立つと同時に雪を蹴り出し、再度突撃した!

「ウラアァァァァッ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 イーヴィル自暴自棄ラッシュ炸裂!鬼をただひたすらがむしゃらに殴りつける!

(ランチャーだけでなく、ドレイクダガーの召喚もできない今のイーヴィルにはこれしかない!これしか……)

 すぐに希望は潰えた。銀竜の拳をいくら食らおうとも白髪鬼には傷一つつけられなかったのである。

「またマッサージかい?」

「この……!!」

「予想よりもパワーダウンがひどいようだね。このまま殴り続けても、むしろ自分の拳を痛めるだけだよ」

「くっ!?なら!!」

 イーヴィルがその場でターン!ご存知、彼が切り札を使う時の動きだ!

「イーヴィルテイル!!」


ガシッ!!


「――な!?」

 けれども、それも不発に終わる。首を薙ぐように放たれた尻尾をアルザングはいとも簡単に受け止め、また掴んだ。

「今の状態ならアルザングに傷をつけ、ウイルスを流し込むこともできないし、それができたとしても何も問題ないのだが……あまりに鬱陶し過ぎて我慢できななくなってしまったよ!!」


ブゥン!!


「――ッ!?」

 イーヴィルの身体が宙に浮いた!アルザングが力任せに尻尾を振り上げたのだ!そして……。

「落ちろ!仙川!!」


ドスウゥゥゥゥン!!


「――がはっ!!?」

 地面へと叩きつけた!雪の中に叩き落とされ、衝撃でジンの口から強制的に空気が排出される!

 マシンにも中身にも大きなダメージを与えた会心の一撃。しかし、アルザングは納得いかないと小首を傾げた。

「……今ので意識を断つつもりだったが……雪がクッションになったのか?」

「残念……だったね……」

「そうだな……君の方がね!!」


ブゥン!ドスウゥゥゥゥン!!


「――がっ!?」

 アルザングはまた尻尾を引っ張り、地面から空中に、そして空中から地面へと叩きつけた!

「一撃で気を失っていれば、これ以上苦しまずに済んだのに……自分のタフさを呪うんだな!!」


ドスンドスンドスンドスンドスン!!


 アルザングは右に左にまるで壊れた玩具のようにイーヴィルを振り回した。雪と共に銀の装甲が砕け、ひび割れ、そしてその間から真っ赤な血液がにじみ出た。

 ものの一、二分で美しく銀色に輝いていたイーヴィルドレイクは使い古された雑巾の如く、ボロボロになってしまった。

「ここまでやれば……うっ!?」

 自らやったにも関わらず、デルクは友人の変わり果てた無惨な姿から思わず目を背けた。

「ふん!これでわかっただろ?君は間違っていたんだ。モラティーノスに歯向かうなんて愚かな真似を……」


ガシッ……


「――!!?」

 アルザングの足首に何かが絡みつく感触がした。いや、何かではない……ここでそんなことできるのは彼しかいない。

「ま、まだやる気なのか……?」

「……当然……!」

「ひっ!?」

 自らの足にしがみつく満身創痍の銀色の竜の姿に、デルクの生命体として根源的恐怖が呼び起こされた。

「来るなぁぁぁッ!!」


ゴンッ!!


「――がっ!?」

 こいつを少しでも遠くに、自分から遠くにやらないとと、反射的にもう一方の足で竜を蹴り飛ばした。

 イーヴィルは銀の破片と赤い雫を垂らしながら、5、6メートルほど先に落下する。

「はぁ……はぁ……まったく!静かに眠っていればいいものを!!」

 狼狽え、取り乱すその姿はとても勝者のものには思えなかった。いや、それは当然か、まだ勝負は終わってないのだから。

「……そうだね……」

「!!?」

「自分でも今、驚いてる……どうやらシュアリーでバカな大人達に感化されていたらしい、ボク……」

 銀竜は身体を小刻みに震わせながら、立ち上がると、足を引き摺り、雪に線を刻みながら進み出した。

 その姿はデルクには恐怖でしかなかった。

「来るな来るな……来ないでくれ!!」


バババババババババババババババッ!!


「ぐっ!?」

 アルザングは髪の毛を針にして飛ばした!無数の針がイーヴィルに刺さり、まるで人型の剣山のようになった。しかし、それでも……。

「ぐうぅ……まだまだ!!」

「なっ!?」

 イーヴィルドレイクは止まらない!ゆっくりと、だが確実にアルザングに近づいていった。

「何でそこまで……」

「ボクにもわからない……でも、きっとあの人達ならこうすると思う……だったら……!!」

 ジンの脳裏に、今まで敵として、そして頼れる仲間として見続けてきたシュヴァンツの姿が映し出される。それが彼の身体に、心に不思議な力を漲らせていた。

「ボクは諦めない……この心の炎が消えるまで……君を……助けるまで……!」

「僕を助けるだと!?」

「あぁ……最初に行ったじゃないか……ボクは君を呪縛から解き放ちたいんだ……」

「だからそれは弱者の戯言だと!!」

「賢い君なら本当はわかっているはずだ……そう必死に思い込もうとしている自分に!!」

「うっ!?」

 ついにイーヴィルはアルザングのすぐ目の前、手の届く場所までたどり着いた。

「素直になるんだ、デルク・ヴェイケル!!自分の心に向き合った先にしか本当の幸せはない!!」

「知った風な口を訊くな!!僕は強くなきゃダメなんだ!誰よりも強くないと、ダメなんだよ!!」

 アルザングは拳を必死に握り込み、必殺の爪を露出!それを眼前の竜に……。

「判断が遅い!!」


ガッ!ガァン!!


「……え?」

 一瞬何が起きたか理解できなかった。

 いや、繰り出した拳をあっさり捌かれ、カウンターのパンチをもらったと正確に事実を認識したらしたで、余計にわからなくなった。

 今まで自分に手も足も出なかった奴に何故いいように殴られたのか、まったくデルクには理解できなかった。

「何でアルザングのよりも速く……君のマシンも特級だったのか……?」

「何から何まで違うよ、デルク。ボクとイーヴィルが速くなったんじゃない……君が遅く、弱くなったんだ!!」


ガァン!!バキッ!!


「――ッ!?」

 再び竜の拳が鬼の顔を捉える!そしてあろうことか今まで小さな傷一つつけられなかったその拳がアルザングの角をへし折った!

「僕が弱く……?」

「そうだ……特級ピースプレイヤーは感情や強い意志を力に変える……だが、その特性がマイナスに働くこともあるって君なら知っているだろ?装着者の迷いがマシンに伝播し、弱体化したんだ!!」


ガァン!!


「……がはっ!?」

 ジンの言葉を証明するようにイーヴィルのナックルが白髪鬼のボディーに突き刺さると、中身のデルクは悶絶し、白い装甲がパラパラと雪の上に落ちた。

「ぼ、僕が迷っている……!?感情を捨てろと、それが完璧な戦士だって教えられたこのまま僕が……!?」

「もし君が本気で、完全適合した特級で、ボクを殺しに来てたなら、とっくの昔に殺されていたよ。実際にチャンスはいくらでもあったしね。でも、ボクはこうして……かなりギリギリだけど生きている」

「それは……」

「手加減してくれていたんだろ?意識的にか無意識でやっていたかはわからないけど……君はボクにとどめを刺すことを躊躇していた」

「――ッ!?」

 デルクは反論できなかった……心当たりがあるからだ。

「ウイルスで動けなくなっている時にもっと早く追撃していたら、息の根が止まるまで地面に叩きつけていたら、心臓の動きが止まるまで針を撃ち込んでいたら……君はチャンスをことごとく無駄にしてきた。ボクの知っているデルクはそんな間抜けじゃない……!」

「それは……」

「もしかしてホテルで他のみんなをけしかけたのも、君の案なんじゃないか?彼らをシュヴァンツに保護させるために」

「!!?」


「ダナ院長、僕さえいれば他のみんなは必要ないでしょ?この際ですからシュヴァンツとやらの奇襲に全員参戦させましょう。在庫の処分にはちょうどいい」


「僕はそんなつもりで……」

「やっぱり」

「僕は……僕は……僕は!!モラティーノス孤児院が生み出した最高傑作!最強の兵士なんだ!!」

「それこそ戯言だ!そうなりたいと望んでもいない奴に!そこは誰かの言う通りになって、嫌々で目指せる頂きじゃない!!」


ブゥン!!


「!!?」

 考えもなしに、ただ目の前の現実を否定したいがためだけに出した拳など当たるはずもなかった。イーヴィルはアルザングの豪腕を完全に見切り……。

「自分の意志の込もってない拳は軽いんだよ!!」


ガアァァァァン!!


「――ッ!?」

 クロスカウンター発動!そして炸裂!鬼の顔面を見事に捉えるとそのまま吹き飛ばした!

 白いボディーは光の粒子に分解され、デルクが仰向けになって地面に落ちる時にはアルザングは待機状態である腕輪の形に戻っていた。

 そしてアルザングと共に、デルクの闘争心もすっかりと消えてなくなっていた。

「君は君の望む道を歩いていいんだよ、デルク」

「僕の望む道……」

「わからないなら探せばいい。時間はある。とりあえず……まずは絵描きでも目指してみれば?訓練の合間によく描いていたじゃないか」

「絵描きか……まだ何もピンときてないけど……今日の雪景色は描き甲斐がありそうだ」

 戦いの余熱が残るデルクの顔に雪が落ちると、たちまち融解し、一滴の雫となって頬を伝い落ちた。


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