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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
97/194

餞別

 それは我那覇空也が仲間と共にソボグに旅立つ前日のこと……。

「クウヤ、ちょっといい?」

 帰り支度をしている彼に白衣のポケットに両手を突っ込んだアンナが声をかけた。

「ん?俺に話しかけてくるなんて珍しいな。こういう時は大抵……マッドな実験には付き合わんぞ」

 これまでの彼女との苦い経験を思い出し、クウヤはあからさまに嫌そうな顔をした。

「違う違う。あたしはただ餞別を渡そうと思っただけだよ」

「餞別?」

「旅立つあなたにプレゼント……ってね」

 アンナがポケットから手を出し、握り拳を開くと、手のひらの上にはちょこんと銃弾が二つ乗っていた。

「……やっぱり実験じゃないか……」

 それを見た瞬間、クウヤは眉間に深いシワを刻み、まるでとても汚らわしいものを見るように顔をしかめた。

「だから違うって!これはあたしの作品じゃないよ」

「そうなのか?じゃあ、その銃弾は……?」

「ヴァレンボロス・カンパニーの商品だよ」

「……何?」

 空気が一気に冷え込んだ気がした。半分はメカニックのことをからかっていただけのクウヤの顔が戦闘時と同様の真剣なものに変わり、全身からプレッシャーを放ち始めたからだ。

 これにはいつもは傍若無人に振る舞っているアンナも背筋が凍った。

「……お仲間に向ける眼差しじゃないよ、クウヤ……!」

「そう思うんなら、詳しく説明してもらおうか?何で闇社会御用達のブラック会社の商品をお前が持っている?」

「持っているって……君がボコッたサイバーフィロソフィーの松田社長の別荘から接収したものだよ、これ」

「松田輝喜与の?……なるほどな」

 その名前を聞いて合点がいったのか、クウヤの身体から放たれていた威圧感は収まっていき、アンナは胸を撫で下ろした。

「少し考えればわかるでしょ?さすがのあたしでもヴァレンボロスなんかと取引なんてしないって」

「そうだな……そうかな?」

「想像以上に信頼がない!!」

 クウヤのあんまりなリアクションにさすがの彼女も大いに傷ついた。

「まぁ、あたしがみんなにどう見られているかは置いといて……ソボグで戦闘になった場合、役に立つと思うから持っていってよ」

「そこまで君が言うなら……」

 アンナに促され、クウヤは銃弾一つを摘み上げると、電灯に翳し、目を凝らした。

「……俺の目から見て、君が太鼓判を押すほど特別な作りでもないように見えるが……」

「うん。構造自体は普通の弾丸と何ら変わりないよ」

「……その言い方だと、製造方法ではなく……素材が特別なのか?」

「イエス」

「まさか……“国際硬すぎて加工なんてムリムリ素材”か?」

「わかり易くていい名前だと思ってたけど、やっぱ緊迫感がなくて駄目だね、それ。そして不正解。そこまでの硬さはその弾丸にはないよ」

「そうか……考えてみれば、それにカテゴライズされているオリジンズの爪や牙を使っているなら、もっと歪に、一目でわかる異様な形になっているはずだもんな」

「その通り。でも、その弾丸に使われている素材もかなりの硬度を誇る。多分アジ・ダハーカレベルの防御力でもないと、まず防げないよ」

「だとしたら……これ以上ない餞別だ」

 クウヤは銃弾を強く握り締めた。

「フジミちゃん曰く、財前京寿朗は道具自体に善悪はない、使う人間次第だって思想の持ち主らしいけど、あたしも同じだ」

「俺もさ。ドレイクの顛末を間近で見て、今も愛機として一緒に戦っているんだからな」

「平和をもて遊ぶ者“PeacePlayer”になるか、それとも平和を祈る者“PeacePrayer”になるかはその人次第。この弾丸も人を傷つけるためのものだとしても……」

「俺なら人のために有意義に使ってくれる……」

「あたしはそう信じている」

「その期待裏切らないように努めるよ」

 クウヤはアンナの目を真っ直ぐ見つめ、そう宣誓した。

「まっ、色々言ったけど、その餞別を使う機会が遭遇しないことが一番なんだけどね」

「違いない。ここに帰って来て、君にそのままこれを返せればベストだな」



「……なんて、話をしていたんだがな……」

 結局こういうことになるんだなと、自分の血塗られた運命をクウヤは自嘲した。

「でも、結果としてアンナさん大正解です!」

「あぁ!こいつなら、あのくそカプセルを……!!」

 対照的に勝機が見えたリキとマルの士気は高まった。

「奴は俺達の遠距離攻撃、特に俺のターボドレイクの攻撃ではバリアを貫けないと思い込んでいる。その思い込みを撃ち抜……」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「「「――ッ!?」」」

 三匹の竜に再び雷が降り注いだ!反射的に身体が動き、被害を受けることはなかったが、話し合いは中断させられてしまった。

「見つけたぞ!旧時代の遺物が!!」

 サーヴァカプセルがふわふわとまるで綿毛のように浮かびながら、三人を傲慢に見下ろした。

「ちっ!勅使河原!飯山!わかっているな!!」

「おう!!」

「ばっちしです!!」

 作戦会議は途中で打ち切られたが、やるべきことはわかっている。ならば、各々そこに至るまでの自分の考える最善の行動をするだけだ。

「まずは……!!」

 ターボはライフルを構えた。虎の子である銃弾を握り締めながら……。


バン!バン!キン!キン!


 アンナからの餞別ではなく、通常の弾丸はやはりカプセルを覆う光の膜を突き破れず、弾かれ、新雪に吸い込まれた。

「馬鹿の一つ覚えが!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「……どの口が言っているんだ」

「何!?」

 反撃の雷はあっさりと避けられた。我那覇空也相手にいくらなんでも見せ過ぎたのだ。完全に回避方法を確立させてしまった。

「この!!ならば疲労させて集中力を切らしてやる!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


(集中を切らすのはお前の方だ……もっと熱くなれ!通常弾で俺の攻撃はバリアで弾けると改めて印象付けた……あとは……)

 視線だけを動かし、仲間の状況を確認すると、彼らはすでにクウヤの望んでいる行動を取ろうとしていた。

「おいおい……おれ達のことも!!」

「忘れてもらったら困ります!!」


ババババババババババババババッ!!


 アサルトとパワーはありったけの弾丸をただただ撒き散らした!闇夜に激しくマズルフラッシュが点滅する!

「ちいっ!何度も言わせるな!お前らの攻撃などこのサーヴァカプセルには通じないと言っているだろうが!!」


シュン!バキッ!フワ……


 しかし、カプセルは今まで通りバリアでの防御と独特の動きを織り混ぜて、弾丸の雨をやり過ごす。

 それを我那覇空也はじっと全神経を眼球に集中させて見つめていた。

(二人ともそれでいい……俺に奴の動きを観察させろ。初めて見る動きで狙いがつけられないというなら、その動きを見切れるくらいまで見続ければいい。あいつらが作ってくれたこの時間、一秒たりとも無駄にしない……!)

 サーヴァカプセルの一挙一動を見逃さないように、どういう時に回避し、どういう時にバリアを張るのか……集中力を極限まで高めたクウヤの世界にはもはやカプセル以外の存在は消えていた。

「……あいつ、さっきから何を……?」

 そんな何もせずに佇む青の竜にサーヴァは目敏く気づいた。しかし、ほんの少し遅かった。

「……データは十分、あとは……仕上げだ……!!」


ガチャ!ガチャン!!


 ターボは流れるような動きでライフルにアンナの餞別を装填すると、銃口を向け、スコープを覗き込んだ!

(大きな回避運動の後、わずかに動きが鈍る……狙うはそこだ!!)

「ウラァ!!」

「ハアァァッ!!」

 クウヤの想いに応えるように、アサルトとパワーがさらに猛攻を仕掛けた!結果……。

「この!!」


フワ……


 サーヴァカプセルが大きく動いた!待ちに待ったチャンスが来たのだ!

(今だ!!)


バキュン!!


 ヴァレンボロス特製弾がついに発射された!空気を切り裂き、雪を蹴散らしながらターゲットに真っ直ぐ進む!

 このまま行けば、シュヴァンツの勝利だ!このまま行けば……。

「バリア!一点集中!!」

「何!?」

 瞬間、サーヴァカプセルを覆っていた光の膜が無数の四角い板になると、まるでミルフィーユのように折り重なり、弾丸の前に立ちはだかった!そして……。


バキッ!バキッ!バキッ!バキィン!!


 弾丸に触れるとあっさり砕け散っていく。特殊素材で製造されたそれを防ぐ耐久性はなかった……なかったが。

「うりゃあぁ!!」


シュン……


「「「外れた!?」」」

 わずか、わずかコンマ何秒、本体であるサーヴァカプセルが逃げるまでの時間を作り出すことには成功した。シュヴァンツの希望は闇の彼方へと飛び去ってしまう。

「一点集中したバリアを突き破るとは……やはり切り札を隠し持っていたか……」

「ちっ!あいつ……俺のことを警戒していたのか……!」

 我那覇空也は少し遅かったのだ。

 もしサーヴァに勘づかれる前に、もう少し早く特製弾を放っていたならば、この戦いはシュヴァンツの勝利で終わっていただろう。

 クウヤは遅かったのだ。

「惜しかったな!紙一重で勝利を逃すとは……さぞ悔しかろう!」

「くっ!?」

「ならば!この優しい副院長様が!痛みでその感情を塗り潰してやる!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「くそ!!」

 今日何度目かの落雷注意報発令!絶望に打ちひしがれるクウヤであったが、それでも身体は反応し、雷を避け続ける。

「俺が……俺の決断が遅かったせいで……!!」

「そうだ!全てはお前のせいだ!自らの愚かさを恥じろ!そしてくたばれ!」

「くっ……!!」

 クウヤの心が頭上に広がる夜空よりも暗く黒い絶望の闇の中に沈んでいく。きっと彼一人だったら、そこから抜け出すこともできずに為す術なくサーヴァの手にかかっていたことだろう。

 しかし、彼には多くの苦難を共に乗り越えて来た仲間がすぐ側にいる!

「我那覇!!まだ終わってねぇぞ!!」

「――!?勅使河原!?」

「姐さんが財前のところから帰って来た時に話してくれたことを思い出せ!!」

「財前……」

 クウヤの脳裏にその時の光景が鮮明に映し出される。


「財前のところの執事の大杉さんと小平さんってのが、凄かったのよ。器用に前衛と後衛を入れ替えてね」


「――!!なるほど!お前にしては上出来だ!!」

 クウヤの心がたちまち光に照らされる!勝利への道筋が再び目の前に現れたのだ!

「お前にしてはってなんだ!素直に褒めろよ!!」

「ふん!俺がこういう言い方しかできないとわかっているだろうが!」

「ちっ!めんどくせぇ奴。まぁ、いい!まずは……リキ!ぶちかませ!!」

「はい!!」

 二人の会話を聞いていたパワーは再び胸の装甲を展開!二対のフィンを高速回転!もちろんそうなれば先ほどと同じように……。

「改めて……目眩ましさせてもらいます!!」


ブワッ!!


「懲りずにまた!?」

 降り積もった雪を大量舞い上げると、サーヴァの視界はたちまち、そしてまたまた真っ白に染め上げられた。

「姿を隠し、狙撃をする……スナイパーの基本に立ち返ったか……!だが……」

「生憎もっといい方法がある!!」


バシュン!!グルン!グルン!!


「――何!?」

 雪を突き抜け、得体の知れないものが飛び出し、サーヴァカプセルの周りを回る。それには細い糸、ワイヤーが繋がっていた。

 風に流され、白いカーテンが消えるとその先には初対面の灰色ピースプレイヤーがワイヤーを掴んでいた。

「ルシャットⅠ改!!てやぁ!!」


グイッ!!


「うおっ!?」

 灰色のルシャットがワイヤーを引っ張ると、ワイヤーで描かれた円は一瞬で縮まり、カプセルをぐるぐる巻きにした!

「そう言えば……情報では青い奴以外のピースプレイヤーも所持していると……!!」

「それがこいつだ!!」


グイッ!!


「くっ!?そんな旧式のアンティークごときで我が最新最強のサーヴァカプセルを止められるとは……」

「思っていませんよ!!」

「――!?」


グイグイッ!!


「ぐうぅ!?」

 パワードレイク参戦!シュヴァンツナンバーワンの力自慢がルシャットと並び、綱引きの要領で引っ張ると、細いワイヤーはサーヴァカプセルにメリメリと食い込んでいった。

「このままワイヤーで潰すつもり……いや!まだ残り一体!!」

「おれのことを呼んだか!!」

 アサルトドレイク強襲!月明かりに自慢の爪を輝かせながら、カプセルに向かって跳躍……。

「させるか!!最大出力で放電だ!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「ちっ!」

「「ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!!?」」

 サーヴァカプセルから放射状に稲光が迸る!アサルトは攻撃をやめ、後退。パワーとクウヤルシャットはワイヤーづたいに電撃を食らい、悶絶した。

「動きを止めてからの爪によるアタック……これも中々悪くなかった。だが、悲しいかなまた私にはその刃は届かなかった。このまま黄色と灰色を感電死させてから、嬲り殺しにしてやる!赤いの!!」

 今回も自分が、自分の発明品がわずかにシュヴァンツを上回ったと思っているサーヴァは勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべ、アサルトドレイクを見下ろした。

「アサルトドレイク解除。ターボドレイク」

「……え?」

 一瞬で笑みが消え、困惑の表情に。

 赤い竜が光ったかと思ったら、青い竜に様変わりしたのだ。

「何でお前がそれを……」

「そんなもん……てめえを倒すために決まってんだろうが!!」

 マルターボはライフルを召喚すると、手に持っていた特殊弾を装填!銃口をワイヤーに絡まり動けずにいるサーヴァカプセルに向けた!

「あの目眩ましの時に渡していたのか……!?」

「そうだ。俺達の目的は任務を達成すること……最後のトリガーを引くのは誰だっていい」

「おれは姐さんや我那覇ほど射撃の腕に自信はないがよ……さすがにのんきに宙に浮いているデカい的には当てられるぜ!!」

「ぐうぅ!?この離れろおぉぉぉッ!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 サーヴァの恐怖さえ取り込み、闇夜を照らす雷光!しかし……。

「離すわけ……ないでしょ……!!」

「当たり前だ……!勝利が目の前まで迫っているのに、易々と見逃すバカはシュヴァンツにはいない……!!」

「なっ!?」

 パワーとクウヤルシャットは決してワイヤーから手を離さない!つまり……。

「終わりだよ、副院長様」

「やめ……」

「やめるわけねぇだろ」


バキュン!!


 サーヴァの懇願を無視し、再び特殊弾は闇夜に発射された!

「バ、バリア!!一点集中!!」

 身動き取れないサーヴァカプセルにはそれにすがるしかなかった。また光が無数の四角い板になり、ミルフィーユのように折り重なると、弾丸の前に立ちはだかる……が。


バキッ!バキッ!バキッ!バキィン!!


「くぅ!?」

 やはり特殊弾を止めることはできない。光の板を貫き、今度はワイヤーでがんじがらめでにっちもさっちもいかなくなっているターゲットに……。


ギィン……ドゴオォォォォォン!!


 見事命中!サーヴァカプセルは夜空に大輪の炎と煙の花を咲かせて、爆散した!

「ジベ・エリート!!ぐあっ!?」

 けれども、往生際の悪いサーヴァは着けていた腕輪を機械鎧へと変え、それを装着!すんでのところで脱出し、無様に雪の上を転がった。

「くそ!?私のサーヴァカプセルが!?だが、開発者である私さえ生きていれば!このサーヴァ・コルガノフさえ健在ならば!T.r.Cとストーンビークルの未来は明るい……」

「逆でしょ。そんな暗い未来……自分達が阻止してみせます!!」


ドゴッ!!


「……がはっ!!?」

 恥も外聞も投げ捨てて、逃げようとするジベ・エリートの腹部に黄色の拳が突き刺さった!パワードレイクが嫌になるくらいしぶとい毒虫を完全に葬りに来たのだ。

「私の才能の偉大さが……わからんのか!!」

 ジベ・エリートは二本の剣を召喚するや否や、躊躇なく黄色の竜に撃ち下ろした!しかし……。

「わかりません!!」


バキバキィン!!


「……へ?」

 剣はパンチ一発でまとめて砕かれてしまう。いや、それだけでなく彼の心も、目の前を雪と共に舞う刃の破片を見て、サーヴァの闘争心も粉々に粉砕した。

「……あの今さら虫のいい話だとは思うんですけど、降参……しても、宜しいでしょうか?」

「ん?何か話しているみたいですけど……どうやらさっきの電撃でパワーの聴覚センサーがやられてしまったみたいで」

「さ、さっきまで散々、おしゃべりしたじゃないか!?」

「あ~あ~、聞こえない。何にも聞こえない」

「嘘をつくんじゃないよ!このくそ脳筋!!」

「誰がくそ脳筋だ!!!」

「やっぱり聞こえ……!」

「でりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!


「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 パンチ!パンチ!キック!パンチ!ジャブ!ジャブ!ストレート!フックにアッパー!ボディーブロー!前蹴り!回し蹴り!膝蹴り!さらにパンチ!パンチ!パンチ!パンチ!!

 目にも止まらぬスピードでありとあらゆる打撃がジベ・エリートに撃ち込まれる。舞い散る装甲の破片、砕ける骨の音、悪の副院長は刹那でボロ雑巾と化した。

 誰が見ても勝負は決した……決したのに、それでもパワーは止まらず、比喩ではなく実際に拳を一回り大きくすると両腕を引いて力を込める。

「これで仕上げ!パワードレイク!ダブルハンマーナックル!!」


ボボォン!!


「――がっ!?」

 撃ち出された二つの拳が立っているのもやっとなジベ・エリートにぶつけられると、装甲が粉々に砕き散り、液体を撒き散らし、白い雪を赤く染めながらサーヴァが宙を飛ぶ。

 そのまましばらくしてドサッと地面に落ちると、一切動かなくなってしまった。

「ふぅ……」

「やったな!リキ!!」

「マルさん!」

 完全勝利を収めた黄色の竜に武装解除したマルが駆け寄って来た。

「あぁ……ひどいな、ありゃ」

「やり過ぎ……ましたかね?」

「まぁ、あいつのやっていたことを考えると、命を獲られないだけマシだろ」

「………」

「……何でそこで黙るんだ、リキさんや?」

「………」

「手加減したんですよね!?」

「………」

 リキは頑なに口を開かなかった。

「あいつのことは……とりあえず大丈夫だということにしておこう、そうしよう」

 同じく武装を解除したクウヤが合流したが……新たな問題からは目を背けた。

「それでいいのかよ……」

「いいも何もまだ俺達の、シュヴァンツの戦いは終わっていない」

「「!!?」」

「まずはそれを片付けてからだ」

「ですね」

「おう!一秒でも早く姐さんとジンの奴の手助けに行かねぇとな!」

「ならば行こう!この戦いを終わらせるために!!」

 雪に抱かれたサーヴァに背を向け、三人は雪原を駆け出した。


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