至高の兵器
サーヴァの乗る謎の球体マシンによって、ターボドレイクはシェヘラザードから大きく離され、孤児院の片隅まで連れて来られてしまっていた。
「この!どこまで行く気だ!?」
「もちろん地獄まで……なんてな」
「ふざけるな!行くなら一人で行け!!」
ガン!ファサ……
「おっと」
「くっ……!」
苛立ちを脚に込めて、力任せに蹴りを入れる。衝動的にやったから球体マシンにはダメージを与えられず軽く揺らしただけ、自分自身も反動で落下、雪のおかげで事なきを得たがいつものクウヤらしからぬ行動であった。
「そんなにあの女隊長さんが心配か?」
「そんなんじゃない……そんなんじゃないが、いつも肝心な時に力になれないなら……何がチームだ!何がシュヴァンツだ!!」
かつてベルミヤタワーでの戦いであろうことか操られ、フジミの敵に回ったこと、黒幕との最終決戦で側にいてやれなかったこと、それが彼らに暗い影を落としていたのだ。
「そうだ!一刻も早く姐さんのところに戻るために!」
「ちゃっちゃと終わらせましょう!!」
クウヤの想いに呼応するように、マルとリキも合流!命令にはプロとして従ったが、本心ではあの時の後悔を繰り返さないためにも隊長の下に馳せ参じたいと強く願っている。そのために……。
「アサルトDクロー!!」
「パワーDナックル!!」
新雪を舞い散らしながら、必殺の武器を手に、謎の球体マシンに飛びかかった!
鋭い爪が容赦なく切り裂き、巨大な拳が無慈悲にサーヴァのマシンを……。
「ふん……それがどうした!!」
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
「――ッ!?」
「ぐあっ!?」
闇夜がチカチカと明滅した。球体マシンの全身から電流が迸り、二匹の竜を迎撃したのだ。
「勅使河原!飯山!!」
自分と同じように白く柔らかいマットに墜落した同僚の下にターボは慌てて走り寄った。
「……自分は大丈夫です……」
「おれも……電気ビリビリには慣れてるからな……」
口では強がっているが、見事にカウンターを食らった赤と黄色の竜の足元はどこか覚束なかった。
「ちっ!ここは俺がなんとかしないと駄目か……!!」
「おい!」
「副長!!」
せっかく合流できたというのに、ターボはすぐに仲間に背を向け離れて行った。そして先ほど発射を邪魔されたライフルを頭上をプカプカと浮かぶ謎のメカに向ける。
「接近戦が無理なら、遠距離から……撃ち抜く!!」
バン!バン!バァン!!
立て続けに弾丸を三発発射!適当に乱射したのではない、回避運動を予測した上で必ずどれかが確実に命中、致命的なダメージを与えられるように計算して放たれた選ばれし三発だ。
だが、それはクウヤの記憶の中にある、知識を持っているマシン相手の場合、頭上を飛んでいる球体は……。
「『サーヴァカプセル』に小細工は通じんよ!!」
スカッ!バキッ!フワ……
「――!?何!?」
弾丸は二つは回避、一つはカプセルの周りに展開された光の膜によって弾かれ、全て夜空の闇に飲み込まれてしまった。
(俺の狙撃が……バリアで弾かれる可能性は予想していたが、回避……スピード任せじゃない……俺はあの動きを知らなかったから……あれは一体……?)
「フッ……興味津々だな、我がカプセルに。見たこともない動きだったろ?」
「――ッ!?」
心の中を見透かされ、クウヤは更なる衝撃を受ける。
対してサーヴァは青のマスクの下でいつものポーカーフェイスを崩している彼の顔を想像し、上機嫌になった。
「フフッ……落ち込むことないさ。シュアリーではまずお目にかかることはないだろうからさ」
「その口振りだとトランスタンクの亜種……ではないようだな」
「時代の仇花と呼ばれるそれよりも、もっと古くからあり、現代科学によって駆逐された存在……」
「……!!?ストーンビークルか!!」
「イエス!!」
サーヴァはとても嬉しそうにクウヤの言葉を肯定すると、まるで同士を見つけたように、さらにはしゃぎ出す。
「ストーンビークル!コアストーンを動力に動かす古のマシン!だが、ストーンソーサラー同様個人の技量に大きく左右されることから、ピースプレイヤーやトランスタンクの発明と共に闇に葬られた悲劇の存在!」
「そんな骨董品で何を……」
「当然、あのゴミ虫ども!エヴォリストの殲滅だよ!!私はこのストーンビークルこそ強大な力を持つ奴らに対する切り札になると信じている!!」
カプセルの中で大演説をかますサーヴァ!肌は興奮で赤らめ、額からたまのような汗を浮かべる。
そんな彼の姿を見て、クウヤは冷静さを取り戻す、というよりめちゃくちゃ冷めていった。
「よくわからんがお前がストーンビークルにご執心なのは理解できた」
「わかってくれたか!!」
「あぁ、そもそもそれが何であれ……俺達のやることは変わらん!!」
ターボは再びライフルを構える!そして……。
「アサルトDマシンガン!!」
「パワーDガトリング!!」
サーヴァの熱弁の間にダメージから回復した赤と黄色の竜もそれぞれの遠距離武器を自分達を見下ろすくそ球体に向ける!
「シュヴァンツ!一斉射撃!!」
ババババババババババババババッ!!
また夜の闇が明滅した!無数の弾丸が逆走する流星の如く天に昇り、サーヴァカプセルを数の暴力で圧殺しようとする!しかし……。
「だから!無駄だって!!」
シュン!フワ……バキッ!!
カプセルは先ほどと同様、時に回避し、時にバリアで弾いて、傷一つつけることなく弾丸の雨をやり過ごした!
「くっ!?あのバリア……硬いな!!」
「バリアもそうですけど、動きが独特で……」
「あぁ、俺でも予測できない……!どこを狙えばいいか……わからない!」
弾丸がいとも容易く対処される度に、焦りが募り、その焦りを拭い切れないまま攻撃をするとさらに簡単に防がれる……シュヴァンツは最悪のループに陥っていた。
「このままでは……」
「そうだな。このままお前達のマシンエネルギーが底をつくのを待つのも悪くないが……生憎私はせっかちなんだ!!」
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
「くっ!?」
「またかよ!!」
「ちいっ!?」
雪を蒸発させながら、稲妻がシュヴァンツに降り注いだ!だが、警戒していたこともあり、今回は皆無事に躱すことに成功する。
「雷とバリア……光属性と無属性のコアストーンを積んでいるようだな……」
「え?何?属性?」
「詳しく知りたいなら、帰ってから栗田女史に訊くなり、自分で調べるなりしろ!」
「そうです……それよりもあいつをなんとかしないと……」
「なんとかって言ってもよ……あの動きじゃギードライブを当てるのも難しいぜ?」
「でも、回避しているということは、自分達が感じているよりも防御力に自信がないのかも……」
「確かに……おれ達が直接殴りかかろうとしたら、電撃で迎撃してきた……アサルトやパワーの直接攻撃はバリアじゃ防げないのか?」
「だったら!我那覇副長!奴の注意を!!」
「承知した!!」
短い通信を終えると、三匹の竜は散開した。皆まで言わずとも、彼らにはそれで十分だった。
「サーヴァカプセル……自分の名前をつけるってどんだけだよ!!」
「特級ピースプレイヤーの適合率を上げるために自分の名を冠し、マシンと自らを同一視するという方法を知らんのか?」
「え?そんな方法あるの?へぇ……勉強になった……って、感心してる場合じゃねぇ!!喰らいやがれ!勘違い野郎!!」
ババババババババババババババッ!!
アサルトは両手のマシンガンをひたすら乱射した。しかし……。
「物覚えが悪いな。我がサーヴァカプセルには効かないと言うておろうが!!」
シュン!バキッ!フワ……
躱され、弾かれ、やはり赤き竜の攻撃は無駄に終わる。いや……それでいいのだ!
「隙あり!!」
「――ッ!?」
視界の外、認識外からターボドレイクが背部の突起から火を吹き出し、猛スピードでサーヴァカプセルに突撃してきた!
「特攻!?自棄になったか!?だが、命を懸けたくらいでどうにかなるサーヴァカプセルではないわ!!」
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
全身のどこからでも放電できる雷を真っ直ぐと突撃してくる青い竜に一点集中させた!これではターボは特攻どころか無駄死に……。
ブオン……
「な!!?」
「ターボDホログラム」
体当たりをかましてきたターボは幻であった。本体はその後ろに隠れて、心待ちにしていた……本命の攻撃が、パワードレイクの渾身の一撃が放たれる瞬間を!
「はあぁぁぁッ!!」
「しまった!?」
気づいた時には黄色の竜はすぐ側まで迫っていた!当然、サーヴァの戸惑いなどお構い無しにパワーは一回り大きくなった拳を全力で撃ち下ろす!
「バリア!全開!!」
苦し紛れに光の膜を張る。けれど、そんな薄い壁でパワードレイクを止められるはずがない!
「無駄だ!!」
バリィン!!
「な!!?」
バリアを砕き、ついにパワーのナックルがサーヴァカプセルに炸……。
「特級でもないピースプレイヤーに!やられてたまるか!!」
ガチッ……
「――!?なんだと!?」
サーヴァカプセルはパワーのナックルに合わせて、器用に動き、その衝撃を全て受け流した。
千載一遇のチャンスを不意にしてしまった絶望に打ちひしがれながらパワーは、飯山力は純白のマットに再び墜落した。その様子を息を整えながら、サーヴァは見下ろすと不敵な笑みを浮かべる。
「完璧なタイミングだったのに……!!」
「本当にな……!私も終わったかと思ったよ……」
「あそこまで動けるなんて……!」
「意志や感情をエネルギーに変えるコアストーンを動力にしたストーンビークル、それ故に使い手を選ぶが、使いこなせれば、トランスタンクにはできない繊細な出力操作で、見た目に反した緻密な機動が可能……理論では理解していたが、今初めて実感できた!やはりストーンビークルこそ至高のマシンだ!!」
「くうぅ……!!」
敵を倒すどころか調子づけてしまったことにリキは歯噛みした。
「君達に出会えて本当に良かった……私の仮説が正しいことを証明してくれたんだからね!!」
「それはそれはとても残念です……!!」
「フフ……是非君達にはこの世界の、エヴォリストというゴミのいない素晴らしい世界の礎になれたことを誇りに思って欲しい」
「差別主義者が……!!」
「感謝の気持ちを込めて……苦しまずに逝かせてやるよ!シュヴァンツ!!」
「丁重に断らせてもらう!飯山!!」
「はい!」
パワーが胸の装甲を展開!姿を現したのは二対のフィン。それが高速で回転し始めると二本の渦が生まれ、それが……。
「パワーDサイクロン!!」
ブワッ!!
「くっ!?」
降り積もった雪を舞い上げる!サーヴァの視界は一瞬で真っ白に染め上げられた。
そしてその白のカーテンが風に流され、目の前が晴れると、三匹の竜は見る影もなくいなくなっていた。
「因果応報……目眩ましし返されたか……まぁいい。ほんのちょっと寿命が伸びただけだ」
「……うまいこと姿を眩ませられたわけだが……」
「現状、寿命がほんの少し伸びただけだな」
「どうしましょう?」
サーヴァカプセルから離れた場所でごっつい機械鎧で完全武装した大の大人三人が膝を突き合わせて、作戦会議を始める。情けなさで胸の奥に押し込めながら。
「奥の手のホログラムも使っちまったしな」
「そんな大層なもんじゃないが、初見殺し以上でも以下でもないからな。同じ手は通じないだろう」
「では打つ手なしですか?自分は多分警戒されて、もう接近できないかと……」
「いや、一つだけある」
「「ん?」」
ターボはどこからともなく弾丸を取り出し、同僚に見せつけた。
「それは?」
「我らが天才メカニックからの餞別だ」




