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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
95/194

少年の帰省

 ホテルからおよそ一時間、繁華街や住宅街から離れた郊外にモラティーノス孤児院はポツンと建っていた。喧騒とはほど遠いこの場所、ここの裏の顔を知っているかどうかで印象が大きく変わる。

「……立派な建物ね」

「周りには住人もいない……一見すると、子供を育てるにはもってこいだな」

「けれど、実際は教育云々はどうでもよくて、周りに人がいることを嫌ったんでしょうね」

「はっ!胸を張ってできねぇことをやるんじゃねぇよ!」

 この施設に対して思い思いの言葉を口にしながら、シュヴァンツは車から降りた。そして最後に満を持して……というわけではないが、ここの出身者である仙川仁が出てくる。

「モラティーノス……ボクは帰って来たよ……!!」

 もう二度とくぐることはないと思っていた門を見上げると、自然と拳に力が入った。

「……気合入ってるわね」

「そりゃあね……ボクはここに思い出に浸りに来たわけじゃない、思い出をぶっ壊しに来たんですから!!」

 そう高らかに宣言すると、ジンは愛機を胸の前に突き出した!彼の周りのシュヴァンツも倣い、各々の愛機を懐から取り出す!

「皆さん!殴り込みです!!」

「「「おう!!」」」

「イーヴィル!」

「アサルト!」

「パワー!」

「ターボ」

「「「ドレイク!!」」」

「紡げ……シェヘラザード」

 五人を眩い光が包んだかと思うと、すぐに収まり、その中から色とりどりの機械鎧が再びソボグの地に降臨する!

 そして少年は過去と決別するために、シュヴァンツは彼の未来を守るために、最終決戦の地に堂々と足を踏み入れる!

「……まぁ、殴り込みと言っても、まずはこそこそと息を潜めて……なんですけどね」

 訂正。恐る恐るできるだけ身体を小さくしながら、足を踏み入れた。

「……ジンの話の通り、俺達を襲撃した奴らがここのほぼ全戦力だったみたいだな。気配がない」

「ええ、レーダーにも反応が……ありません」

「あの庭のど真ん中でワタシ達を待ち構えている院長先生以外はね」

 雪が降り積もる真っ白な空間に、対照的な真っ黒コーディネートで妙齢の女性が微笑んでいた。

 この話を聞いた時から、シュヴァンツは最重要ターゲットとして記憶に焼き付けた顔、そしてジンにとっては忘れたくても忘れられない顔だ。

「ダナ・モラティーノスね?」

「ええ、そういうあなたは神代藤美」

「襲撃された時から思っていたけど……ジンよりもワタシにご執心のようね。まったく嬉しくないけど……!!」

 白いマスクの下で顔をしかめるフジミと反比例するように、ダナは口角を上げて、さらに醜悪な笑みをその顔に浮かべた。

「商品を売った相手のことは、気にかけているの。だから仙川仁の敗北、そして木真沙組の壊滅のニュースもすぐに耳に入ったわ」

「で、ついでにワタシ達シュヴァンツのことも知ったというわけね」

「ええ、素晴らしい戦績をお持ちのようで」

「誇るようなことじゃないわ。それだけ面倒ごとを押し付けられたり、首を突っ込まざるを得ない状況に追いやられたってことなんだから」

 白の姫の後ろで、三匹の竜がウンウンウンと激しく首を縦に振った。

「でも、その全てをあなたは乗り越えて来た。改めて……素晴らしいわ」

「心にもないことを……あなたが素晴らしいと思っているのは、ワタシじゃなくてワタシのマシン、シェヘラザードでしょ」

「……察しがいいわね」

「副院長様の話を聞いていれば、よほどバカじゃない限り気づくわよ。そもそもワタシ自身はどこにでもいるか弱い女の子だし」

 先の三匹に加え、銀色も合わせて、計四匹の竜が「いやいやいや!」と首を横に全力で振って、フジミの言葉を否定した。

「そう、あなたの推測通りワタクシの狙いはそのシェヘラザードよ。完全適合した特級ピースプレイヤー、スーパーブラッドビースト、そしてエヴォリストにさえ比肩しうるマシンなんて……T.r.Cへの手土産にこれ以上のものはないわ」

「ホテルでの襲撃での惜しみ無い戦力の投入……どうやらここでの商売を畳んで、夜逃げする気満々のようね」

「あなたもピースプレイヤーを使う身なら気づいてるでしょ?人間を必要としないP.P.ドロイドは今、この瞬間も凄まじい進化を遂げ続けている。近いうちに超常の力を発揮できる特級適合者と、あなたのように特殊な技能を持った装着者以外は駆逐されることになる」

「だから、子供を戦士として鍛えるなんて、もう割に合わない……と」

「ええ。だからちょうどいいからあなた達相手に在庫を一斉に処分させてもらったわ」

「――!?」

「在庫……!!」

 その一言がシュヴァンツに、神代藤美にダナ・モラティーノスという人間を完全に敵だと認識させた。この女は必ずここで捕まえ、ブタ箱にぶち込まなければいけないと。

「一応、建前上言わなきゃならないから、言うわ……大人しく投降しなさい」

「当然、答えはノーよ」

「そう言ってもらえることを……祈っていた!!」

 シュヴァンツは完全に戦闘態勢に移行した!この吐き気を催すくず女を叩き潰す覚悟を決めたのだ!

「ではワタクシも……」

 ダナはどこからともなく腕輪を取り出し、手首にはめ、見せつけるように高々と掲げた。そして……。

「愛でてあげなさい、『パリカー』……!!」

 名前を呼ばれると、腕輪は真の姿を解放!漆黒に金のラインの入った絢爛豪華な機械鎧に変わると、ダナの全身を覆っていった。

 それこそが稀代の悪女、鬼母ダナ・モラティーノスの愛機パリカーだ!

「この感じ……」

「ボス!!」

「ええ……あんだけ饒舌に語っていたんだから、そりゃあ特級ピースプレイヤーを使うわよね……!」

 フジミを始め、シュヴァンツは目の前に現れた漆黒の魔女の姿が、かつて戦った紫の竜と重なって見えた。彼女から発せられる圧倒的プレッシャーはあの時感じたものと同質のものだった。

「まぁ、遥々ここまで来たんだから、退くつもりなんてないわ」

「いや、お前は下がっていろフジミ。奴の狙いはシェヘラザードなのだから」

「忠告ありがとう、クウヤ。あんたぐらいね、ワタシを不死身のフジミとして扱わないのは」

「別に俺は……」

「だけど!こいつは!子供を商品としか見てないこいつは!一人の女として、一発ぶん殴ってやらないと気が済まないのよ!!」

「フジミ!?あのバカ……!!」

 クウヤの心遣いを無下にすることに罪悪感を覚えながらも、フジミはその身に滾る激情に、怒れる母性の迸りに身を任せた!

 シェヘラザードは一目散に自身と同じ純白の雪を巻き上げ、真逆の黒、パリカーに突進する!

「そうこなくっちゃ」

「あんたを喜ばせるためにやっているんじゃない!!泣いて許しを乞え!ダナ・モラティーノス!!」

「そうなるのはあなたの方よ!神代藤美!!」


ドゴオォォォォォン!!


 白と黒、相反する拳が正面から衝突する!その凄まじい余波で天から降る雪が、逆に空に昇っていった!

「さすがね。基本スペックは特級の中でも控えめだとしても、このパリカーに押し負けないとは」

「さらに欲しくなった?でも、絶対にあげないわよ」

「じゃあ、悪党らしく力づくで……!!」

「そんなこと!おれ達がさせねぇよ!!」

 赤の竜、アサルトドレイクの強襲!パリカーの真横に回り込むと、躊躇することなく、その必殺の爪を突き出した。


スカッ……


「ちっ!?」

「女子会に入ってくるなんて無粋な男ね」

 しかし、パリカーはそのおぞましい黒いボディーを華麗に翻し、いとも簡単に回避。さらに……。

「そういう男には……お仕置きが必要ね!!」

 回避運動の勢いを利用して、カウンターの蹴りを放つ!けれど……。

「させません!!」


ガギィン!!


「くっ!?」

 パワードレイクが両者の間に割って入って、盾になる!しかし、パリカーのキックはリキの想定を超えていたようで、思わず後退りした。

「へぇ……イエロードラゴンはお友達思いなのね。そんなにお仲間が傷つくのを見たくないなら……まずはあなたから地獄に落ちなさい!!」

 パリカーは体勢を崩したパワーに……。

「と、その前に欠陥商品の廃棄ね」

「――ッ!?」

 パリカーはくるりとターン!背後から奇襲をしかけようとしていたイーヴィルと視線が交差する!

「あなたを鍛えたのは、誰だと思っているの?何をするかぐらい手に取るようにわかるわよ」

「だとしても!このイーヴィルの性能なら!!」

 銀色の竜は手にバチバチと電気を帯電させて、憎き育ての母の頭部を……。


バシッ!


「……な?」

 イーヴィルの手はあっさりとはたき落とされた。それこそ悪戯した子供を母が叱るようにピシャリと。

「手癖が悪い、そして鈍い。やるならもっと上手くやりなさいな」

「くっ……!?」

「あと友達は選びなさい。お話中にライフルを向けてくるような人とは……」


バァン!!


「付き合うべきじゃないわ」

 ターボの狙撃もあっさりと躱す。パリカーはくるりくるりと新体操の選手のように純白のマットの上を移動し、再びシュヴァンツと距離を取った。

「いい連携ね。ワタクシでなければ、今の攻撃で終わっていたわ」

「なら、あんたの命運が尽きるまで続けるだけだ……!」

「在庫処分なんて言って、子供達を全て奇襲作戦に投じたことは悪手だったんじゃないですか?」

「反応速度、回避能力は完全適合した特級らしく一級品」

「でも、それだけです。それ以外は上級以下のピースプレイヤーに毛が生えた程度……この数の差をひっくり返せるほどではない!!」

 一連の攻防でパリカーに対して、シュヴァンツは確かな勝機を見いだしていた。このままやれば勝てる!……そう間抜けな勘違いをしていたのだ。

「数?それを言うなら、高々五人程度で我が分身達を相手にできると思って?」

「分身!?」

「出でよ!パリカスター!!」

「「「!!?」」」

 瞬間、パリカーの周りに同じ黒色をした小型のメカが十機ほど展開した!これこそが彼女の余裕の理由、特級ピースプレイヤー、パリカーの真骨頂である!

「知性も品性もないガキの手助けなど、パリカーには必要ない。従順で頼もしい……この子達がいるんだから!!」

 パリカーが腕を動かすと、それに合わせてパリカスターとやらが縦横無尽に動き回り、シュヴァンツに襲いかかって来た!その姿は良く言うと、オーケストラを指揮するマエストロ、悪く言えば子分をけしかけるチンピラのボスのようだ!

「この小虫が!!」


シュン!ガギィ!!


「――くっ!?速ぇ!?」

 アサルトの爪はまた空を切った。パリカスターは刃と刃の間を器用に掻い潜ると、赤き竜の鱗に突撃!逆に傷を刻みつけた。

「鬱陶しいんですよ!!」


ガギィン!!


「な!?パワードレイクの拳を受け止めた!?」

 シュヴァンツナンバーワンの力自慢が渾身の力を込めて放ったパンチは、小さなパリカスターを砕くどころかひび一つも入れることができなかった。その事実にリキは黄色のマスクの下で青ざめる。

「ちっ!こいつら……」


バン!キン!バン!シュン!


「想像よりも遥かに厄介だ……!!」

 ターボの狙撃でも無理だった。弾丸は時にその硬い表皮に弾かれ、時にその大きさの関係でより速く見える無軌道な動きであっさりと躱されてしまう。

「くっ!来るな!!」


バン!バン!バン!バァン!!


 イーヴィルに至っては逃げることで精一杯だ。召喚したランチャーをひたすら撃ちながら、雪の中を後ろ向きに疾走する。とある場所に誘導されているとは知らずに、ただ必死に……。

 そしてシェヘラザードには……。

「感謝しなさい!あなたはワタクシが直々に相手をしてあげる!魔斧!パリカーアックス!!」

 本体である黒き魔女が斧を召喚しながら、飛びかかって来ていた!

「あんたに感謝なんてするわけないでしょ!!マロン!!」

「一夜、ドライブ」


ガギィン!!


 白と黒の機械鎧がそれぞれの得物、鉈と斧をぶつけ合い、火花を散らしながらまた睨み合った!

「フジミ!ちっ!狙いはあくまでシェヘラザードか……ならば!!」

 ターボドレイクは今も自分の周りを忙しなく飛び回るパリカスターを無視し、再びライフルの銃口をパリカーに向けた。

「要は本体を叩けばいいってことだろ!!今度こそ……撃ち抜く!!」

 この戦いを終わらせるため、そして隊長を守るために青き竜は引き金を……。

「私も混ぜてもらおうか!シュヴァンツ!!」


ドゴオォォン!!


「――!?」

 突然、孤児院の離れが吹き飛んだかと思うと、中から巨大な球体が飛び出して来た。半透明のキャノピーの奥には、これまたシュヴァンツが事前に顔を覚えさせられた男、サーヴァ・コルガノフが乗っていた。そして……。

「院長ばかりじゃなく、私も構っておくれよ!!」


ドゴオォ!!


「――がっ!?」

「クウヤ!?」

 狙撃に集中し、無防備になっていたターボに突進!青き竜を連れて、そのまま飛んで行ってしまった。

「副長が!?」

「あのバカ……!!」

「リキ!マル!あなた達はクウヤを追って!!」

「ボス!?」

「姐さん……でも!!」

 シェヘラザードはパリカーと切り結びながら、部下に命令を下す。しかし、今の状況で隊長から離れるのは……と、肝心の部下達は動かなかった、動けなかった。

「あなた達プロフェッショナルでしょ!命令は絶対!!ワタシのことを心配しているなら、とっととクウヤを連れ戻して来なさい!!」

「くっ!?」

「……了解……!!」

 命令に心の底から納得はできない。それでも上司の言葉に従うのは、フジミの言う通り、彼らがプロだからだ。

 アサルトとパワーは後ろ髪を引かれながらも、上司に背を向け、青き同胞の後を追った。

「マルさんリキさんはクウヤさんを救出……だったらボクは……!!」

 パリカスターに翻弄されっぱなしだったイーヴィルもフジミの檄を聞いたおかげで、気持ちを落ち着けることができた。

 今、自分にすべきは彼らの代わりにフジミと合流すること。そう思い来た道を逆走……。

「君は僕に会いに来たんだろ?」

「――!!?」

 走り出そうとした銀竜を呼び止める懐かしき声。そうだ……仙川仁は彼に会いに来たのだ。

「さっきの続きをしようっていうのか……デルク・ヴェイケル!!」

「その通りだ!!この孤児院最後の出身者として、どちらが最強か決めようじゃないか、仙川仁!!」

 三色ドレイクチームとモラティーノス孤児院副院長サーヴァ・コルガノフ。

 この院で親交を深めた仙川仁とデルクヴェイケル。

 シュヴァンツの隊長神代藤美と院長ダナ・モラティーノス。

 かくしてソボグ連邦での最終決戦のマッチアップが決まったのであった。


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