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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
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予定変更

「…………黄昏てる場合じゃないか」

 ジンは胸を支配するモヤモヤとした感情を奥に押し込んで、仲間と合流しようと動き出す。

 けれど、その必要はなかったようだ。

「ジン!」

「ジンくん!!」

「フジミさん!リキさん達も!!」

 ちょうどシュヴァンツの中間地点に位置していたイーヴィルにみんなが集まるのは必然であった。

 時間的にまだ一時間も経っていないが、体感的にはもっと長い時間ぶりの全員集合に皆喜び、そして胸を撫で下ろす。

「フジミさん、大丈夫だったんですか?」

「ええ、この通り」

 シェヘラザードは傷一つない美しい白と藤色の装甲を見せつけた。

「まっ、最後の最後でしてやられたけどね。まんまと逃げられたわ」

 そして、みんなに自身の無事を認知させると、すぐさま反省。コンコンと額を小突いて、自らを戒めた。

「でも、ケガがないなら何よりです」

「ワタシのことを心配してくれるのはいいけど……あなたの方はどうなの、ジン?」

「ボク?ボクも何の問題もありません!」

 ジンは銀色の装甲に覆われた胸をドンと叩いて、健在をアピールした。しかし、フジミが訊いているのはそういうことではない。

「身体のことも心配してたけど……あなた、仲間と戦ったんでしょ?心の方は平気なの?」

 シェヘラザードは周囲に倒れているジベを見回す。できることなら、これだけは、この状況だけは少年の精神衛生のために避けたかったのだ。

「あぁ……そっちですか……大丈夫です!幸か不幸か年の割に色々と経験しているので、肉体以上に心はタフですよ、ボク!」

「……そう」

 少年はもう一度力強く胸を叩いた。その姿はあからさまに強がっており、見ていて痛々しかったが、彼の自分の心配をさせたくないという思いを汲んで、フジミはそれ以上追及しなかった。

「ジンの方は問題なし……あなた達は?」

「見ての通りだ」

「こちらも……」

「問題ナッシング!!」

 アサルトとパワーがビシッと親指を立てた。その後ろでターボが腕を組んで呆れる。つまりいつもの光景、多少装甲に傷が見えるが、マシン、装着者共に活動に支障はなさそうだ。

「あの数相手にしても平気だったんですか?」

「さすがに最初は苦戦しましたよ」

「逆に言えば最初しか苦戦しなかった」

「慣れない足場にも慣れ、数が減って来たら、あんなくそピースプレイヤー、怖くもなんともねぇよ。全員ぐっすりおやすみだ」

 アサルトは立てていた親指を後方に向ける。その先にはおびただしい量のジベが寝転がっていた。

「うわぁ~、あんなにいたのジベちゃん……」

 シェヘラザードは初めてその存在を認識し、驚嘆の声を上げる。そしてこれからのことを考えると、億劫になる。

「……あれ、どうする?」

「それなんですよ、姐さん……」

「このままにしておくわけにはいきませんからね」

「なんとかしないと。あとこの騒ぎを撮影している野次馬どももな」

 ピースプレイヤーのカメラでズームすると、ホテルの窓からこちらを撮影している宿泊客の姿が見えた。

「仕方ないとはいえ、穏便に済ます計画が水の泡ね……」

 シェヘラザードは改めて肩を落とした。さっきの会議は何だったんだろうか……。

「宿泊客はもう諦めるとして、このジベは本当にどうしましょう?」

「ソボグの警察に連絡して、保護してもらうか?奴らと繋がっている可能性もあるが、これだけ騒ぎになっていれば、下手に手を出せないだろう」

「そうね……それしかないかしら」

「いえ、彼らは私が責任をもって預からせてもらいます」

「「「!!?」」」

 突然、雪の闇夜に響く聞き覚えのない声!シュヴァンツは臨戦態勢に移行しながら、そちらを向いた。

 すると、そこには一人の男性が立っていた。

「あなた……いつの間に?」

「今来たばかりです」

「全然気配を感じなかったが……」

「そうでなければ、できない仕事に就いておりますゆえ」

「……はぁ?」

「どういう職業か存じかねますが……」

「問題はボク達の敵なのかどうか……」

 シュヴァンツは話ながらもジリジリと広がり、男を包囲するように移動した。

「このままでは袋叩きにあいそうですね」

「そうなりたくなかったら、ワタシ達に害を為す存在じゃないって証明させてみなさい」

「もちろん、そのつもりですよ。私は『中原』、こういうものです」

「「「!!?」」」

「――ッ!?……ん?」

 中原はシュヴァンツに向けて、拳を突き出した。一瞬攻撃してくるのかと、ならば迎撃しなければと、シュヴァンツは一斉に反撃に動こうとしたが、その指にはまっているものを見て、急停止した。

 それはゴールドの指輪。丸印の中に“財”の字が描かれた珍妙なデザインの指輪であった。

 それを視界に捉えた刹那、ベルミヤ空港でのメイドとの会話が全員の脳内で再生された。

「それ……」

「メイドから説明を受けているでしょ?私は財前京寿朗のエージェントとして、各地で情報収集している者です」

「じゃあ……味方?」

「当然。私達はあなた方の味方以外の何者でもありません」

 そう言う中原の側にどこからともなくお揃いの指輪をつけた年も性別もバラバラの四人組が集まって来た。

「このソボグ周辺で活動していて、すぐに集まることができたのは、私を含めこの五人。明日の朝にでも、ご挨拶をと思いながらあなた方を監視していましたが、緊急事態だったようなのでこうして出て来た所存です」

「どうも……ご丁寧に……」

 深々と頭を下げる五人組にシュヴァンツの五人もお辞儀し返した。

「で、話は戻りますが、この子達は私達が保護させていただきます。今回のお話をいただいた当初から信頼できるソボグ国内のマスコミ、財前ゆかりの政治家にも接触していますので、撮影していた宿泊客の件も含めて、その辺の事後処理はお気になさらず。シュヴァンツは心のままに行動してくださいませ」

「……はい」

 懸念していたことが一気に解決して、呆気にとられたフジミはマスクの下でポカンと口を開けた世にも間抜けな顔になった。シェヘラザードを装着していて、本当に良かった。

「……前言撤回。財前京寿朗を頼って大丈夫かと言ったのは、間違いでした。彼以上に頼りになる男をボクは知りません」

「……ワタシもよ」

「……まぁ、なんかいきなり過ぎて色々と混乱するが、俺達がやること自体はシンプルになったな」

「いつも通りとも言いますね」

「結局正面からの殴り込みが、シュヴァンツ流ってことなんだな……」

 マル達は思わず自分達のあんまりな運命を自嘲した。そして、それをどこか心地いいと感じている自分の本心に気づき、心底愚かだとさらに口角を上げる。

「じゃあ、そのシュヴァンツの流儀に則って、あっちがその気なら、こっちだって!売られたケンカを買わせてもらうわよ!!」

「よっしゃあ!!」

「押忍!!」

「なんにしてもめんどうごとが早く終わるなら、大歓迎だ」

「では!シュヴァンツ!予定変更して、今からモラティーノス孤児院に殴り込みに出発!!」

「「「おう!!」」」

 決意を固めた白の姫と三匹の竜の咆哮が冷たい夜に熱くこだました!

「……いい感じに盛り上がっているところ悪いんですけど、このままみんなで仲良く歩いて孤児院に向かう気ですか?」

「…………あ」

「まさかタクシーでも呼ぶつもりですか?」

「そ、それは……」

「私の車が近くに停まっています。それをお使いください。五人が乗るには少し窮屈ですが」

「……本当に財前様々ね」

「まったくです」


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