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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
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少年の再会②

 二人の少年の間を一際冷たい風が吹き荒んだ。まるで今の彼らの隔絶した立ち位置を象徴するように。

「……悪いけど、今は君と話している時間はない」

「そんなにあの女隊長さんが大事か?」

「あぁ、こんなボクの話をちゃんと聞いてくれた優しい人だ」

「仙川仁ともあろうと人が、そこまで絆されているとは」

「人を信じるな、信じさせて殺すのがあなた達の役目……そう教えられてきたあの頃のボクとは違うってことだよ」

「ふーん、なるほどね……」

 無表情を装っているが、デルクは明らかにジンの発言に苛立っていた。自分達からは遠く離れた場所に行ってしまった彼のことを激しい嫌悪感を覚える。

「そもそもそのイカれた教えを盲信している君がボクなんかと話をする気なんて更々ないだろ」

「ん?心外だな。僕は君と思い出話で旧交を温めようと……」

「なら、背後から忍び寄って来ているこいつは……何なんだよ!!」


ドスッ!!


「――ッ?」

 背後からの奇襲を銀色の竜は看破していた!振り向くと同時に息を潜め、一撃必殺を狙っていたジベを回し蹴りで逆に一発KOする。

「今の声、ロペか!?じゃあ……」

「ええ、わたし達もいるわよ」

「メイジー!」

 一難去ってまた一難!剣を持ったジベが飛びかかってきた!

「ドレイクダガー!!」


ガギィン!!


「くっ!?」

 しかし、それをイーヴィルは召喚した刃で弾き、さらに……。

「こんなこと……したくないけど!!」


ガァン!!


「――ッ!?」

 アッパーカットで旧友の意識を天高く吹き飛ばす!

「さすがね仙川……!」

「連携でやるぞ、シドニー!」

「シドニーとアロイス!君達もか!」

 シドニージベはこれまた剣を召喚、姿勢を低くして突進してくる!それをアロイスジベがライフルで援護する!


バン!バン!バァン!!


「くっ!?」

 弾丸を避けるために体勢を崩すイーヴィル!そこに……。

「もらった!」

 シドニージベが斬りかか……。

「その程度でイーヴィルは落とせない!!」


ブゥン!ザッ!!


「何!?」

 斬撃を躱すと同時にいつの間にか生やした刃のついた尻尾で反撃!シドニージベの装甲に小さな傷を刻む。

「はっ!脅かして!この程度の傷、なんとも……」


ガクッ!


「――な!?」

 追撃に入ろうとしたシドニージベが突然膝から崩れ落ちた!身体が、というより身体を覆っている機械鎧が言うことを聞かなくなったのだ。

「ジベ!?何で動かない!?」

「いいからとっとと眠れよ!!」


ガァン!!


「――ッ!?」

 ちょうどいい場所にあったシドニージベの頭をサッカーのボレーの要領できれいに蹴り抜く!先ほどメイジーと同じくシドニーもまた夢の世界に旅立った。

「ちっ!接近戦では分が悪いか……ならば!!」


バン!バン!バァン!!


 アロイスは邪悪なる幼竜に近づくのは危険と判断し、後退しながら銃を乱射した。けれども……。

「だからそんなんじゃイーヴィルは止められないって!!」

 銀色の竜は弾丸の雨を掻い潜り、アロイスジベを逆に追い詰める。

「昔は君の射撃は天下逸品だと思っていたけど……大杉さんやヤマさんに比べたら狙いもスピードも甘過ぎる!!あくびが出るよ!アロイス!!」

「くそぉ!!?」


バァン!ガァン!!


「……がはっ!?」

 ライフルを銀色の腕ではね除け、もう一方の腕で強烈なボディーブローを放つ!それは見事に炸裂し、アロイスの意識も断ち切ることに成功した。

「これで正真正銘二人っきり……話をするつもりはやっぱりないけど」

「すごいすごい!ニューマシンの力は伊達じゃないね」

 デルクはぱちぱちと手を叩き、銀色の竜を称賛した。そこに何の焦りも恐れもない。

「この結果を予想して……いや、望んでいたのか?」

「まぁ、これくらいやらないと、こいつを使う甲斐がないってもんだからね」

 デルクはポケットから腕輪を取り出すと、手首にはめた。

「それは……」

「君と同じく僕も新しい力を手に入れたんだよ、仙川仁」



 時を少し遡り、ジンが旧友と邂逅するとほぼ同時に、シェヘラザードとジベ・エリートの戦いが始まっていた。

「ジベブレイド!ていっ!!」

 ジベ・エリートは上位互換であることを誇示するように、ジベのものより大きく鋭い剣を召喚、そしてそのまま目の前にいる白の姫に振り下ろした!……が。

「はっ!」

 シェヘラザードには触れることさえできない。風圧で新雪が舞い、彼女の強さと優雅さをより鮮明に彩るだけだった。

「エリートって言う割に大したことないのね」

「所詮はマシン自体は量産品をちょっといじくっただけのもの、プリンセスの一級品のオーダーメイドとは違うさ」

「あら?あっさり認めるのね。このまま降参もあっさりしてくれると、ありがたいんだけど」

「まさか!ジベブレイド!!」

 ジベ・エリートはもう一本剣を召喚した。所謂……。

「二刀流!?」

「正解!!」


ザン!ザンッ!!


「ちっ!」

 二本の刃が月明かりを反射しながら、立て続けにシェヘラザードに襲いかかった。それでも先ほどよりも大きなモーションを取り、攻撃を躱す。しかし……。

「まだまだ!!」


ザン!ザン!ザン!ザン!ザンッ!!


 ジベ・エリートの攻撃は止まず!上から下から右から左から斬撃を絶え間なく放ち続ける!

 シェヘラザードはぴょんぴょんと雪の上を器用に跳びはねながら回避する……回避しかできない!

「降参するのは、君の方じゃないのか、プリンセス?」

「ん?何を言っているの?そのセリフを言うべきなのは、未だにあなたの方よ」

「この期に及んでまだ強がるか!我が二刀流をどうすることもできないくせに!!」

「どうにか?できるわよ!!」


バギィィィィン!!


「……へ?」

 サーヴァ・コルガノフの目の前に広がるのは雪の結晶と銀色の破片がキラキラと輝く幻想的な光景。それが彼を無骨な鉈によって自慢の剣を二本まとめて砕かれたという最悪な現実から目を背けさせた。

「てりゃ!!」


ゴォン!!


「――がっ!?」

 そんな彼に喝を入れるようにシェヘラザードの前蹴りが鳩尾に炸裂!身体中の酸素を吐き出しながら、ジベ・エリートは宙を飛んだと思ったら、柔らかい新雪のマットに墜落、そして無様に転がった。

「ぐっ!?私の攻撃をこんな短時間で見切るとは……!!」

「こちとら肩から頭が生えているような奴と散々やり合ってきたのよ。今さら二刀流くらいで驚かないわ。シェヘラザードを倒したいなら腕を六本にでもしてくるのね」

 シェヘラザードは鉈を手元でくるくると回しながら、なんとか立ち上がろうとするが、ダメージからできずにいるジベ・エリートにゆっくりと近づいた。

「ここまでか……」

「勝機がないことを悟れる頭はあるようね」

「あぁ、今は……な」

「ん?」

「ここは退散させてもらう。決着はモラティーノス孤児院で!院長もお前を待っているぞ!」


カッ!!ボシュ!!


「――ッ!?」

 ジベ・エリートは球らしきものを取り出すと地面に向かって投げつけた!それが雪に触れると同時に強烈な光と大量の煙を放出し、シェヘラザードの視界を覆い尽くした。

 それが収まり、視界が開けると、そこにはジベ・エリートは見る影もなく、消え去っていた。

「ちっ!やられた……!」



 そして再びジンとデルク、二人の戦いに、いや彼ら二人は戦うことはなかった。

「ん?」

「……残念」

 ジンは旧友の背中越しに、デルクは自らの肩越しに閃光と立ち上る煙を確認した。

「どうやらここでの戦いはお開きみたいだ」

「そっちから仕掛けておいて、一方的に……勝手過ぎるだろ!!」

「お叱りはごもっとも。お詫びにモラティーノス孤児院で院長ともども丁寧にもてなさせてもらうよ」

「モラティーノス孤児院……」

 その名前を旧友の口から聞いた瞬間、辛い訓練の思い出が、人として扱われなかった地獄の日々が脳裏に過り、ジンの身体は恐怖で硬直した。

「僕の新しい力のお披露目と、決着はそこで。楽しみにしているよ」


カッ!ボシュ!!


「――!?しまった!!」

 少年の身体が過去のトラウマに蝕まれている一瞬の隙を突かれ、デルクもサーヴァと同じく閃光煙幕弾で姿を眩ました。

 ジンは気を失ったかつての友人の中に一人残されてしまう。

「デルク……君の望みは本当にそれなのか……」

 天を仰ぐ銀色の竜の頬にしんしんと雪が落ちてきた。


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