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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
89/194

正義対正義

「くうぅ!!」


チッ……


 完全に虚を突かれたシェヘラザードだったが、持ち前の敏捷性を発揮し、かろうじて銃弾をギリギリで回避した。

「ほお……出会った頃のお前だったら、今ので終わっていたはずだが……成長したのか、それともそのマシンのおかげか……」

「そんなもの両方に決まっているでしょ!!」

 上から目線で語りかける恩師に、怒りの反撃を開始!……と、行きたいところだったのだが……。


バァン!!ガァン!!


「――くっ!?」

 再び目にも止まらぬスピードでコマンドの発砲!出鼻を挫かれ、今度は避けることができずに必死になってガードした。

「これでも無理か。お前の言う通り、マシンもお前自身も一級品だって証明だな」

「本当……別の機会に聞きたかった言葉ね……!」

「おれだってできることならこんな卑怯な真似をしたくない。ジェット機に流れ弾が当たることを恐れて、銃を使えない奴を一方的に遠くからいたぶるなんて真似をよ……!!」

「くっ!?アドバンテージっていうのは、やっぱり……!」

「あぁ、突かせてもらうぜ!お前らの弱み!使わせてもらうぜ!このリーチの差!本来なら射程距離じゃ、お前や副隊長さんには全然敵わないが、今の状況なら話は別だ!!存分に遠くから一方的に叩き潰してやる!!」

 シュヴァンツの面々が徒手空拳にこだわっていたのは、全てはソボグ行きの飛行機に万が一の被弾があってはいけないから。

 そこをズラチォークは容赦なく突いてきたのだ!

「この……!!だったら!こっちは無理矢理にでも懐に……」


バァン!!ガァン!!


「――ぐっ!?」

 シェヘラザードが接近を試みようと、脚に力を加えたその瞬間に新たな弾丸が飛んできた!その神速の一射にまたらしくないガードポジションを取らされる。

「速い……!!」

「忘れたとは言わせねぇぞ……かつてお前に格好つけ過ぎってバカにされたおれの異名を……!」

「速撃ちの……ヤマさん……!」

「そうだ!しょうもないおれの唯一の取り柄!こいつのおかげでおれは今まで刑事としてやってこれたんだ!!」

「ぐっ!?」

 ヤマさんから、ガヨーマルト・コマンドから今まで感じたことのない熱とプレッシャーを感じ、シェヘラザードは思わずたじろいだ。

「おれの速撃ち……存分に味わわせてやるよ!神代藤美!!」



「Gパワーガトリング」


バババババババババババババッ!!


「くそ!?」

 林田パワーの背部から伸びる回転銃口から、暴風雨のように発射された弾丸を、マルアサルトは不恰好に地面を転がりながら避けた。

「防戦一方では勝てませんよ」

「この!反撃できねぇことはわかってるだろうが!!」

「意地悪し過ぎましたね。あなたはアサルトDマシンガンの流れ弾が飛行機に当たることを恐れて使えない。そんなことになったら、この戦い自体意味のないものになってしまいますから」

「くそ……!!」

 改めて言語化されると、自身の置かれている状況がさらに絶望的に思え、マルは悔しさから赤いマスクの下で唇を噛みしめた。

 そんな彼にズラチォーク副隊長のロルフ林田は更なる追い打ちをかける。

「まぁ、仮にマシンガンを使えたとしても、事態は何も好転しないのですけど」

「なんだと!!」

「あなた自身が一番わかっているはずですよ……あれではパワードレイク、改めガヨーマルト・パワーの装甲には全く通じないことを……!!」

「ッ!?」

 マルの脳裏に模擬戦で涼しい顔してアサルトDマシンガンを弾くパワードレイクの堂々とした姿が蘇った。

 それと同じ性能をしたものが、今自分の目の前に立っていると再認識すると、さらに心が深い闇に沈んでしまったような気がした。

「くそが!!だったら接近戦で!!」

 マルアサルトは姿勢を低くし、ジグザグと回避運動を取りながら、突進した!避け切れずに銃弾が赤の装甲を砕き、抉るがお構い無しだ。

「スピードは想定以上……ですが……!!」

「ウラァ!!」


ガアァァァン!!


「――ッ!?」

「パワーが想定内なら、何ら問題ない」

 射程に入ると同時に撃ち込まれた拳は林田パワーを直撃したものの、その分厚い装甲はびくともせず、むしろ殴ったマルアサルトの腕がジンジンと痺れる。

「パンチやキックも通用しません。残念でしたね」

「なら!本来は味方のあんたに使いたくなかったが!アサルトDクロー!!」

 赤き竜は爪のように三本並んだ刃を腕に召喚し、それを振り上げた!しかし……。


ブゥン……


「――ッ!?」

 覚悟の一撃は何もない空間を通過した。林田パワーがあっさりとバックステップで回避したのだ。

「あなたがこのガヨーマルト・パワーを倒すには、そのクローを使うしかない。それがわかってさえいれば、それしかないというならば、対処など簡単です!Gパワーナックル!!」

 林田パワーの拳が一回り大きくなる!それを……。

「はっ!!」


ゴォン!!


「……がっ!?」

 おもいっきりマルアサルトに叩き込んだ!



「鬼さんこちら!ってね!!」


バァン!!


「くっ!?」

「あら?中々動けるじゃない」

 風祭はるかは自身の狙撃を回避したリキパワーを素直に称賛した。その程度で自分の優位が揺るがないことを理解しているからである。

「そののろまなマシンじゃアタシのガヨーマルト・ターボには近づけない。そして、遠距離攻撃を使えないあなたはGターボライフルには為す術がない」

「それは……」

「あら?使えるの?使うの?飛行機に当たっちゃったら、どうするの?」

「ぐっ!?」

 クウヤとの戦いでたまりにたまったストレスを発散しているのか、それとも天性のものなのか風祭ターボはリキの心を逆撫でるように、挑発的な言葉を口にしながら、彼の周りをフィギュアスケート選手のように優雅に旋回した。



「Gアサルトマシンガン」

 火浦アサルトは機関銃を呼び出すと、クウヤターボにその銃口を向けた。

「アサルトの攻撃など……!!」

 青の竜は足元のタイヤを回転!そのまま高速で移動し、銃弾を華麗に回避!……なんてことには、悲しいかな全くならなかった。

「いいんですか?後ろに飛行機がありますけど」

「!!?」

 クウヤターボの動きがその一言でピタリと止まる。自分が動いたら、弾丸は飛行機に向かい、当たりどころが悪かったら、航行不能になると思うと、動くことはできなかった。

「データ通り……迷いましたね!!」

 その一瞬の隙を見逃さず火浦アサルトは一気に間合いに踏み込んだ!

「しまった!?」

「後悔してももう遅い!!Gアサルトクロー!!」


ガギィッ!!


「――ぐっ!?」

 竜の青い鱗を鋭い爪で抉り取る!自身の欠片に彩られながら、クウヤターボはその場を必死になって離れた。

(こうなってしまっては仕方ない……ライフルで一撃で仕留める!!)

 意を決して、クウヤは彼の最も得意とする武器を召喚……。

「そこから撃ったら、ぼくの後ろにある飛行機に当たっちゃいますよ?」

「な!?」

 クウヤの決意を嘲笑うかのように、火浦はジェット機が自分の背後に来るように移動していた。またシュヴァンツの副隊長の動きが僅かに乱れた。

「せっかくなんですから……もっと側に来てくださいよ!!」


ガギィィン!!


「この!!ターボDカッター!!」

 そう言いながら爪を突き出してきた火浦アサルトをクウヤターボは腕から鰭のように生やした刃で受け止めた。

「接近戦での攻撃力ではアサルトの方が上です。普段のあなたならそれがどうしたと一笑に付すのでしょうが、ジェット機という今日限定の最強の盾を利用すれば……この通り」

「そんな浅知恵で!!」

「そう思うなら、どうにかしてみてくださいよ我那覇副長……!!」



「ほれほれ!どんどん行くぜ!!」


バァン!!ガンガン!!


「――!?一度に二発!?」

 発砲音は一回だったのに、シェヘラザードが受けた衝撃は二つ……その事実にフジミは驚愕した。

「横で見るのと、実際に食らってみるのとじゃ全然違うだろ?」

「ええ……できることなら一生経験したくなかったけどね……」

「だったらそろそろ降参してくんねぇか?お前の部下も手詰まりのようだしよ」

 目の前の白のマシンへの警戒は決して解かずに、視線だけを動かし、周囲の様子を確認する。ついに、今度こそ勝負は決したと確信を覚える。

 しかし、フジミはそうは思っていないようで……。

「なんか……さっきから親バカならぬ部下バカみたいで嫌なんだけど、手詰まりどころか、多分もうすぐあいつら勝っちゃうわよ」

「……何?」

「あなたの部下が勝つ方法は、あの子達が自分と同じマシンを使う相手に戸惑っている間に速攻をかけるしかなかった。変に頭を回して、マッチアップを変えたのは悪手よ。散々訓練でやり合ってるし、ワタシも困っちゃうくらいあいつらお互いのことライバル視してるからね」



「オラァ!!」


ガリッ!!


「ぐっ!?」

 マルアサルトの爪が黄色の装甲を抉り取った!目の前を舞う自分の破片を見て、ロルフ林田は血の気が引いた。

「どうして……!?こんなにもあっさりと……!?」

「それはお前が飯山力じゃねえからだよ」

 マルの頭にとある訓練後にしたアンナとの会話が蘇った……。


「パワードレイクの弱点を教えて欲しい?」

「そう!今日の訓練でボコボコにされたからな!リベンジのためにお願い!!」

 両手を合わせて、自分を拝むマルの姿にアンナは呆れたような、感心したような、不思議な感覚を覚えた。

「意外と勉強熱心なんだね」

「意外とは余計だが、このままやられっぱなしは性に合わねぇ!」

「気持ちはわかったけど、パワードレイクの弱点は……」

「まさか……ないのか?」

「ノンノン。この世に完璧なものはないよ。特に兵器なんて日に日に進歩するんだから、次の日になったら、天敵とも呼べる存在が突然生えて来るなんて可能性もある」

「兵器云々はともかく、あるんだな、弱点」

「というよりカスタムドレイクの中で最も弱点が多いのはパワードレイクだよ」

「え?そうなの?」

「そうなの。あれはその名の通りパワーに全振りしているからね、普通の人間が使うとマシンに振り回されて、すぐ疲れるし、隙もたくさんできちゃう」

「でも、リキはそんな素振り全然……」

「ひとえにリッキーが凄いからだよ。わかってるでしょ?このシュヴァンツで一番戦士としての素質に恵まれているのは、フジミちゃんでも我那覇副長でもなく、彼だってことを」

「それは……認めたくないけど、おれよりは遥かに……」

「だから頑張って追いつくしかないよ。近道はない」

「了解……」

 その日はマルは結局何も得られず、肩を落として帰宅した。


「リキじゃないお前相手なら!!」


ガギィィン!!


「――ッ!?」

 先ほどよりも深い三本線が林田パワーに刻まれた!赤の竜の攻撃は敵を完全に捉えている。対して……。

「この!!」


ブゥンブゥンブゥン!!


「あくびが出るぜ」

「はぁ……はぁ……くそ……!!」

 林田パワーは破れかぶれで拳を繰り出すが、マルアサルトに掠りもしない。ただ体力を無駄に消耗しただけだ。

「もうへとへとじゃねぇか。やっぱリキは凄かったんだな」

 肩で息をする林田の姿を見て、改めてリキの才能と、アンナの言葉の正しさを実感した。

「同僚を誇るのはいいが……私だって!!」

 プライドをおもいっきり踏みにじられた林田パワーは残る全ての力を拳に乗せて振り抜いた!しかし……。

「リキに比べて、モーションがデカ過ぎ」


ブゥン!!


「――ッ!?」

 またまた拳を空を切る。そして……。

「それじゃあ……カウンターし放題だぜ!!」


ガギィ!ガギィィィィン!!


「……がっ!!?」

 鋭い爪が分厚い黄色の装甲を十字に切り裂いた!ダメージ限界を超え、ガヨーマルト・パワーは待機状態に戻り、ロルフ林田はその場で膝をついた。

「あいつと訓練して、あいつを倒すために努力してきたんだ……お前なんかにゃ負けてらんねぇよ」



「何で……何で効いてないのよ!?」


バン!バン!キン!キン!


「くっ!?」

 風祭は自分の狙撃をものともしないリキパワーの予想以上の丈夫さに取り乱した。

「訓練の時に嫌というほどターボの狙撃を受けています。全然避けられないから、そのうち少しでもダメージを抑える攻撃の受け方を考えるようになりました。これが、その成果です」


バン!キン!!


「くっ!?」

 自身の言葉を証明するように、リキは弾丸を受ける装甲の角度を調整し、最小限のダメージでそれを彼方へと弾き飛ばした。

「まぁ、最近の副長はそれを見越して、狙撃してくるんですけど……その心配はあなたにはいらないようですね」

「言わせておけば!!」


バン!バン!バァン!!


 風祭ターボはライフルを乱射した。狙いなどまともにつけずにただ引き金を引き続けた。リキの狙い通りに……。

「そんな雑な射撃なら……守りに徹しなくてもいいですね!!パワーDナックル!!」

 黄色の竜が両拳を一回り大きくして突撃した!降りかかる弾丸は全く気にしていない!

「でやぁ!!」

 そして射程距離に入ると、ハンマーの如く右拳を撃ち下ろした!しかし……。

「ガヨーマルト・ターボのスピードを舐めるな!!」


ブゥン!!


 風祭ターボは足元のタイヤをフル回転させ、超速バック!竜の拳は空振りに終わった。

「そ、そうよ!アタシの攻撃が効かなくても、あいつの攻撃もアタシには当たらない!焦ることなんてない!」

 攻撃を回避したと思っている風祭はリキパワーから十分な距離を取ると、足を止め、息を整えた。

 この瞬間、勝敗は決した。

「一度言ってみたかった言葉を言わせてもらいます……チェックメイトです」

 勝利を確信したリキパワーは左手の人差し指で風祭パワーを指差した。いつの間にか元のサイズに戻っている左手で。

「何がチェックメイトよ……!まだ戦いは……って、あなた左のナックルは……?」

「すぐわかります」

「はい?」


ゴォン!!


「………かっ!?」

 風祭の頭に衝撃が走る!どさくさ紛れに射出していたナックルがいたずらした子供に拳骨でお仕置きするように、頭上から強襲したのだ。

 完全ノーガードを脳を揺らされて、耐えられる人間はいない。風祭はるかは夢の世界へと強制的に送還された。

「うちの副長に比べれば、まだまだ。でも、それは伸び代があるってことですから、へこたれないで精進してください。押忍!!」



「データデータと言っているが、財前邸でのことも知っているのか?」

「え?知りませんが……」

 突然わけのわからない質問を投げかけられ、火浦偉音は思わず素直に答えてしまった。

「そうか……ならばターボDライフル」

「!!?」

 混乱が収まっていない火浦に、さらにクウヤは畳み掛ける!今まで頑なに召喚しなかった自分が最も愛する得物をその手に取ったのだ!

「は、はったりだ!!ぼくの後ろに飛行機がある!!」

 取り乱しながらも、決してジェット機を背にすることを怠らない。これさえ徹底していれば、この勝負は勝てるはずなのだが……。

「知っているか?狙撃手を名乗る身としてはどうかと思うが……銃にはこんな使い方もあるんだ……ぞ!!」

「な!?」

 クウヤターボは火浦アサルトに愛銃を投げつけた!

「何をするかと思えば!!」


ザンッ!!


 データにない行動に一瞬驚いたが、ライフルを投げられたくらいなんてことはない。その腕に連なる三本の爪で一撃で斬り伏せた!けれど……。

「――!?いない!?」

 その文字通り一瞬きの間に青き竜は姿を消していた!

「ど、どこに!?」

「こっちだ、後輩」

「――!?」

 背後から声が聞こえ、慌てて振り返るとクウヤターボが無防備に佇んでいた。

「何で……!?」

「今、攻撃していたら俺の勝ちだったのに……か?ここまで頑張った健気な後輩へのささやかなサービスさ」

「こ!?この野郎!!」

 データを重んじる火浦らしくない感情に任せた一撃!しかし、自分を見失った一撃でどうにかできる相手ではなく……。


ブゥン!!


「くっ!?」

 あっさりと回避されてしまう。それだけには飽き足らず、さらに青き竜は追撃の構えを取る。

「サービスは終わりだ。アサルトの方がインファイトで分があるというなら、ターボは……手数でその甘い考えを凌駕する!!」

 竜の両腕から生えた鰭のような刃が、未だに体勢を立て直せていない後輩に迫る!

(これは……避けられない!だが、カッターでの攻撃ならアサルトの装甲で二、三発は耐えられる!耐えてからカウンターのカウンターで仕留めてやる!!)

 覚悟を決め、火浦は来るべき痛みに備え、歯を食いしばった!


ザザザザザザザザザザザザンッ!!


「……え?」

 火浦の体感的にはほぼ同時に全身の至るところから衝撃を感じた。二、三発どころかその何倍もの斬撃が一瞬で彼に襲いかかったのだ。

「……まさか……ここまでとは……!?」

 限界を迎えた火浦が意識を失い、倒れると、後を追うようにガヨーマルト・アサルトも待機状態に戻り、眠りについた。

 それを勝者であるクウヤターボが静かに見下ろす。

「ここまでじゃない……これくらいだ。これくらいできないと、シュヴァンツの副長は務まらないんだ。あの程度のラッシュ、うちのバカなら対応できるからな」



「ほらね」

 フジミは部下の勝利をこれ見よがしに誇った。

「もうちょっとやれると思ったんだがな……」

 対照的にヤマさんは部下の敗北に強く心を痛める。

「団体戦なら、これでシュヴァンツの勝ち越し……ってことで、ワタシ達も終わりにしない?」

 かつての教え子の提案に、恩師は首を横に振った。

「それはできない」

「部下達が最後まで頑張ったから、上司である自分が降参することなんてできない……とか思っちゃってるの?」

「それもあるが、ここで退いたらおれの正義が揺らぐ」

「ヤマさんの正義……お言葉ですけど、子供達を食い物にするクソどもを懲らしめに行くワタシ達を邪魔することのどこが正義なんですか!?」

 不意に恩師の口から出た“正義”という単語によって、フジミの感情のダムが決壊した。彼女の正義はこの感情の昂りと共にある。

「子供を助けることは悪くねぇ。ただその手段が性急過ぎるって言ってんだ。正しいことをするために、場合によっては法を破っても構わない……そんな歪んだ考えが引き起こす惨劇をおれはこの目で見続けてきた」

 一方、ヤマさんの正義は理性と、他人によって作られたルールの中にある。それを逸脱しようとする奴は例えかわいい教え子であっても見逃すことはできないのだ。

「ヤマさんの言っていることは正しい……だけど、その正義に殉じた結果、犠牲になるものがあるというなら……ワタシはその正義を踏み超えて行く……!」

「お前はそれでいい、フジミ。お前にしかできない正義を貫け。おれも今、できることを全力でやる……!!」

「ヤマさん……あなた……」

 フジミはここに来て、漸く彼の真意を察した。彼は自分達の邪魔をしようとしているのではなく……。

「マロン……ヤマさんの想いに応えるわよ」

「了解。システム・ヤザタ、ドライブ」

 フジミの覚悟に呼応するように、シェヘラザードの装甲が展開、全性能を解放する。

「それがお前のマキシマムか……なら、おれとコマンドも見せてやる!これがマキシマムスターシュート!!」


バァン!!


 発砲音一つに対して、五つの弾丸がシェヘラザードの頭部、両腕、両足、まるで星の頂点を射抜くように放たれた!しかし……。

「ワタシのマキシマムの方が上だったようですね……!!」

 システム・ヤザタはその弾丸に全て反応、そして回避、さらにガヨーマルト・コマンドの懐に一気に潜り込んだ。

「……とっくに抜かれてるとは思ってたが、いざこう目の当たりにすると悔しいな……」

「ヤマさん……ありがとうございます。一夜天昇断!!」


ガギャアァァァァァン!!


「――ッ!?」

 下から斬り上げられた無骨な鉈はコマンドの白と藤色の装甲を一撃で破砕した。


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