出発したい!
「でりゃあ!!」
真紅の脚が空気を切り裂く!シュヴァンツのアサルトが鋭いキックを放った!しかし……。
「データ通りですね……よっと」
ズラチォークのアサルトはそれをいとも簡単に回避した。
「ちっ!猪口才な!!」
続けてマルアサルトはパンチを繰り出す!……が。
バシ!
「――ッ!?」
「これもデータ通り」
またあっさりはたき落とされてしまった。
「素晴らしいスピードとパワー、見事にアサルトを使いこなしてますね。データ通りです、勅使河原丸雄さん」
「さっきからデータ、データって!おれのことを勝手に調べてんじゃねぇよ!後輩アサルト!!」
マルアサルトはまたまたパンチを撃ち込む!
「失礼。まだ自己紹介がまだでしたね。ぼくはズラチォークの『火浦偉音』、ご覧の通り『ガヨーマルト・アサルト』の使い手です。あなたを始め、シュヴァンツの皆さんを調べていたのは、偉大なる先輩としてリスペクトしてるから……ってことで、許してください!!」
けれどこれも火浦アサルトはあっさり躱し、さらに反撃の蹴りを放つ!
ブゥン!!
「遅いな……そんなんじゃ偉大なる先輩には一生追いつけないぞ!!」
だが、マルアサルトが今までのお返しにと言わんばかりにしゃがんで回避!そのまま脚払いを敢行する!
ブゥン!!
「――!?」
「やはり……データ通り」
だが、火浦アサルトはその場で跳躍し、いとも容易く真紅の脚を跳び越した。しかもそれだけには飽き足らず……。
「では、その偉大なる先輩の胸を貸していただきましょう……か!!」
ガァン!!
「――ッ!?」
カウンターでマルアサルトの顔面を蹴り上げた!
「こいつ……!!」
「このままだと追いつくどころか、追い抜いちゃいますよ、先輩」
「ウラァ!!」
「はっ!!」
ゴオォォォォン!!
二体のパワーが正面から拳をぶつけ合う!その衝撃で大気は揺れ、鈍い衝突音が滑走路に響き渡った!
「まだまだぁ!!」
「こっちだって!!」
ゴオォォォォン!!
二度目の衝突!その重厚なボディーを支える強靭な足で全力で踏み込んだからか、今度は大地も鳴動した!
「……パワードレイクと正面から殴り合えるのは、オリジンズやエヴォリスト、特級ピースプレイヤーだけかと思っていました」
「実際にはすぐ側にいた」
「盲点でした……同じマシンなら、当然やり合える……!」
「見落とすのは当然です。本来ならこうして向かい合って、戦うことなど想定されていないのですから。私も、ズラチォーク副隊長『ロルフ林田』と『ガヨーマルト・パワー』もできることならこんな形であなた方と対面したくなかった」
「じゃあ、今日のところはここでお開きにして、後日改めてやり直しませんか?」
「……冗談とか言うんですね……ですが、あまり面白くありませんよ!!」
ゴォン!!
「――ッ!?」
林田パワーの右フックが見事にリキパワーの顎を捉えた!
「それそれ!そんなスピードじゃ、この『風祭はるか』と『ガヨーマルト・ターボ』に触れることはできないわよ!!」
風祭ターボは自分の力を誇示するように、クウヤターボの周りを猛スピードで疾走した!
「……フジミのおかげで、女にも慣れたと思ったが……やはり苦手だな」
クウヤターボも足元のタイヤを全開で回転!アスファルトを滑るようにして、風祭ターボに追いついた!
「苦手とはいえ、女を殴るのは気が引けるが……俺達の前に立ちはだかるというなら!!」
そして勢いそのままにストレートを放った!
ブゥン!!
「――!?」
しかし風祭ターボは何事もなかったように、簡単に回避!クウヤターボの拳は空を切った。
「女だからとか言ってる場合じゃないわよ。アタシはあなたの隊長さんと同じくらい強くて、速い……!!」
「……性格の悪さは確かにあいつ並みだな……!」
「どうやらこっちの方が優勢みたいだ……なっ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
ガヨーマルト・コマンドは横目で部下達の動向を確認しながら、ダガーでシェヘラザードと切り結んだ!
「よそ見するなんてずいぶん余裕じゃない!!」
ガァン!!
「おっと」
僅かな隙を突かれ、シェヘラザードに斬撃を弾き返された!
「お前相手に、ちょっといい気になり過ぎたか」
「部下の活躍が嬉しいのはわかるけどね」
「あいつらは実戦はまだ早いと思っていたが、あの分なら大丈夫そうだな」
「ワタシも同意見よ。彼らなら十分やっていける」
「ほう……お前こそ敵を褒めるなんて、ずいぶんと余裕じゃないか!!」
コマンドは先ほどのお返しにと、全力を込めたダガーを撃ち下ろした!しかし……。
「ええ!余裕よ!!」
ガギィィン!!
「――ッ!?」
これもまたシェヘラザードの一夜に弾き返されてしまった!
「あなたの部下は確かに強い……だけど、ワタシが焦らなきゃいけないレベルでは……ワタシの部下に勝てるほどではないわ!!」
「オラ!!」
マルアサルトが左ジャブを放つ!けれど……。
「これもデータ通り」
やはり火浦アサルトを捉えられない!最小限の動きだけで躱された!
「だったら!」
続いて右脚を振り上げる!強烈なハイキックによる追撃だ!
(ジャブで意識を左に集中させてからの、右のハイキックで仕留める。勅使河原丸雄の黄金パターン。だが、ぼくには通じない)
データに倣い、火浦アサルトは左ガードを上げ……。
「引っかかったな」
「…………え?」
ガァン!!
「……がはっ!?」
マルアサルトの脚は軌道を変え、ガードの下、火浦アサルトの無防備な脇腹に炸裂した!
全く予想だにしない一撃に空気が強制的に追い出され、思わず腹を抑えて、後退りする。
「ハイキックに見せかけて、ミドルだと!?そんなデータなかったのに……」
「そのデータちょっと古いんじゃねぇの?」
「……何……!?」
「この勅使河原丸雄、現在進行形で成長期真っ只中!今この瞬間が最強の全盛期だ!!その役に立たないデータに書き込んでおけ!!」
ガァン!!
「――ッ!?」
容赦なくアッパーカットを振り抜く!見事にヒットし、火浦アサルトは天を仰いだ!
「なぜだ……!?」
いつも冷静沈着なロルフ林田が狼狽する。火浦と同じく自分の想像を超える現実が彼を襲っていた。
「もう一丁!!」
「くっ!?この!!」
リキパワーの拳を、こちらも拳で迎え撃つ!同じマシンを駆っているのだから、当然相討ちになる……はずだったのに。
ゴオォォン!!
「……ぐっ!?」
完全に力負けした。ぶつけ合った拳は一方的に吹き飛ばされ、衝撃で肩が抜けるかと思った。
「パワーの性能は自分が一番よく理解してます。だからこれくらいしても大丈夫ですよね?」
「今まで手加減を!?」
「よくよく考えると、失礼でしたかね?でしたらここからは全力でお相手させていただきます!!」
「ひっ!?」
ガヨーマルト・パワーの黄色い仮面の下でロルフ林田の顔はみるみると青ざめていった。
「この!!」
「ふん」
ブゥン!ブゥン!ブゥン!!
風祭ターボが矢継ぎ早にパンチやキックを繰り出すが、クウヤターボには掠りもしなかった。
「やはりフジミ並みなのは性格の悪さだけだったな。スピードもテクニックもうちの隊長には遠く及ばない」
「くっ!?そんなに女隊長の尻に敷かれているのが、嬉しいのか!?」
「お前を相手にしているよりは、マシだな」
「――ッ!?こいつ!!」
怒りに身を任せて、風祭ターボは大きく拳を振りかぶった!
そんな大振り、クウヤターボにとってはカモでしかない。
「ふん」
ゴッ!
「――ッ!?」
風祭とは真逆に無駄と呼べるものを全て省いた最速のパンチが最短距離で青の仮面を軽く小突いた。無駄だけではなく、力も省いていたのだ。
「これは警告だ。好き好んで女の顔を殴りたい人間じゃないからな、俺は。ただ必要とあらば女だろうと子どもだろうと容赦しないのも、我那覇空也だ。それが嫌なら、自慢のスピードでとっとと逃げるんだな」
「普段相手するようなチンピラ相手にあいつらが全力出すのはオーバーキル過ぎるからね。自然と最初はギアを下げて、戦うことが身体に染みついちゃった。スロースターターなのよ、シュヴァンツは」
ようやく主導権を握り返した部下の姿を確認して、呆れたような、ほっとしたような複雑な感情を抱いた。
「でも、エンジンがかかったあいつらに勝てる奴はいないわ。もう勝負は決したわよ、ヤマさん」
恩師に降伏を促すフジミ。彼女としても一刻も早くこの不毛な戦いを終わらせたい。しかし……。
「おいおい、まだ序盤も序盤、始まったばかりじゃねぇかよ。エンジンが暖まったっていうなら、本番はここからだろ」
ヤマさんは拒絶した。その声に不安や自暴自棄になっている様子もなく、フジミは再び気を引き締める。
「その感じだと……こうなることがわかっていたようね」
「あいつらは生意気だが、ドレイクもといガヨーマルトに一日の長があるお前ら相手に簡単に勝てると思っているほど、傲慢じゃないぜ」
「じゃあ……」
「あぁ……!お前らプラン通りチェンジだ!!」
「「「――!!了解!!」」」
「「「何?」」」
ヤマさんの声を聞いたズラチォークのメンバーは一斉に移動!
林田パワーはマルアサルトの下に。
風祭ターボはリキパワーの前に。
そして火浦アサルトはクウヤターボと相対した。
「マッチアップをシャッフルした……!?」
「同じ土俵じゃ、経験で圧倒されるのがわかっていた。だからここはセオリー通り、自分の強みを生かし、相手の弱みをつく!さらにこの場所、この状況でのおれ達にあるアドバンテージを最大限使わせてもらうぜ!」
「アドバンテージ……?」
「こいつだ!Gコマンドガン!!」
「――!?」
バァン!!
目にも止まらぬスピードでコマンドの召喚した銃から発射された弾丸がシェヘラザードに容赦なく襲いかかった!




