出発させない!
「あれがシュヴァンツ……見た目はデータ通り……いや、服装のせいかデータよりも強そうには見えないか?」
「実際大したことないんじゃない?噂に尾ひれがつくってやつで」
「油断するな。彼らが数々の強敵と対峙し、勝利してきたのは事実なんだ。カスタムドレイクの第一人者であることもな」
ヤマさんの傍らに控える見たこともない男女があれやこれやとシュヴァンツを品評する。本来ならこういう行為に対し、明らかに不快感を示すフジミ達であったが、今は今日はそうはならなかった。
彼女達の意識は真剣な顔でこちらを見据えるヤマさんに集中していたから……。
「……どうしてここにいるんですか、ヤマさん?」
「それはこっちのセリフだ、フジミ……てめえ自分が何をしようとしているのかわかってんのか?」
「ヤマさん……あなたは……!!」
フジミはその一言で悟った。恩師は全てを知っているのだと。
「どうやって気付いたんですか?」
「ジンの様子がずっとおかしかった」
「ボクが?」
「ずっと何か思いつめているような……それがここ数日、突然何かスッキリしたような感じになって……気になって部下に見張らせた」
「私のことです」
ヤマさんの横で一際背の高い男が手を上げ、自分がやったと主張した。
「で、そしたらあの財前の家を訪ねたっていうじゃねぇか。これはただごとじゃないと、ジンやこの前の木真沙組の事件の情報を改めてデータベースで調べた」
「調べたって……そんな簡単にアクセスできるようにはなってないはず……」
「お前んとこのメカニックと同じくらいパソコンに強いんだよ、こいつは」
「恐縮です」
横にいた別の男が軽く会釈をする。それを隣の女が苦虫を噛み潰したような顔で睨んでいた。今のところ彼女の成果と呼べるものはないから、気にしているのだろう。
「情報さえあれば、おれの刑事の勘でよく知ったお前とジンの行動パターンを予測してやればいいだけのこと」
「それで見事に正解を当てた……と?」
「今回ばかりは当たって欲しく……なかったけどな……!」
「っ!?」
ヤマさんは一瞬だけ、本当にがっかりしたような寂しい表情を見せた。しかし、すぐに切り替え、多くの犯罪者を震え上がらせた鬼の刑事の顔に戻る。そしてその鋭い眼光は本来向けるべきではない、向けたくない者達を射抜く。
「自分達のやろうとしていることが間違っているってわかっているだろ?今からでも遅くない。考えを改めろ」
「ご忠告ありがとう。でも、ワタシだって適当にやっているんじゃない。散々考え抜いて出した答えよ。もう変わらない、変えるつもりはない」
「……まぁ、お前はそう言うだろうな」
「わかっているなら、退いてくださいヤマさん」
「いいや、断る!どんな些細な罪も見逃さない!その為のおれ達『ズラチォーク』!“瞳”の名を冠するおれ達の使命だ!!」
「ズラチォーク……?」
「お前らシュヴァンツがかなりの成果を上げたからな。だからお前らに倣って新たな遊撃部隊を作ることになったのさ。んで、どういうわけかお前の恩師ってことになっているおれに白羽の矢が立った。この部隊の隊長として、おれの正義のため!力づくでもお前らを止めさせてもらう!!」
「「「なっ!!?」」」
覚悟を決めたヤマさんは懐から見慣れた手帳型のデバイスを取り出した!フジミ以外のシュヴァンツメンバーが持っているそれとほぼ同じ形のものだ!
「それはまさか……!?」
「違う。これはドレイクではない!こいつの新しい名は……『ガヨーマルト』!!」
ヤマさんの咆哮に応じ、デバイスは光の粒子に分解、そしてすぐさま白と藤色の装甲へと変化し、彼の全身を覆っていった。
眩い光が収まると、そこにはどこかドレイクに似た、しかし顔と胸の部分を中心に別物のピースプレイヤーが出現した。
「それが噂のドレイクを改修したっていう……」
「正確にはドレイクを改修したカスタムドレイクの改修版……指揮官用の『ガヨーマルト・コマンド』だ」
「ご丁寧にどうも……ってことは、他のみんなも……」
「あぁ、もっと和やかな場で紹介したかったが……」
「こうなっては仕方ありませんね、隊長」
「そういう運命だったのでしょう」
「皮肉ね。けど、嫌いじゃない……!!」
「見せてやれ!お前ら!同じ血を継ぎ、同じ道を歩いた、同じマシン操るあいつらに!!」
「「「おう!」」」
部下の三人もまた手帳型のデバイスを掲げ、愛機の名を叫ぶ!
「「「ガヨーマルト!!」」」
「アサルト!!」
「パワー!!」
「ターボ!!」
「「「!!?」」」
光とともに装甲が召喚され、ズラチォーク隊員達の全身に装着されていった。
ジンの情報を調べたというコンピュータに強い男が身に纏ったの燃えるような赤色をし、ドレイクから各所が大型化し、純粋にバージョンアップしたような姿……マルのアサルトドレイクとほぼ同一の存在だった。
一際背の高い男のマシンは隊長機や同僚のマシンよりもさらに一回り大きい印象を与える。装甲も分厚くなり、背中からガトリング砲が二門伸びている。カラーはもちろんイエロー、リキのパワードレイクと瓜二つだ。
ズラチォークの紅一点のピースプレイヤーは逆に余計なものを削ぎ落とし、細身になっていた。けれど代わりに突起が背中から生え、足下にはタイヤが取り付けられている。色は空を彷彿とさせるブルー。クウヤのターボドレイクと同じ血脈を受け継ぐマシンだというのが一目でわかる。
シュヴァンツの戦いを支えて来たマシンと同型のものが、顔と胸と名前だけ変えて、彼らの前に行く手を阻む障害として立ちはだかった。
「……とんだサプライズね……」
「何度もしつこいようだが、おれだってこんな形で御披露目したくなかったよ」
思い描いていた光景とは真逆の状況に置かれ、ヤマさんは白いマスクの下で歯を食い縛った。
「現実は思い通りにならないってことね……」
フジミもフジミで困難ばかりに見舞われる自分の人生を呪いながら、愛機を取り出した。
「フジミさん……」
「ジン、あなたは下がっていなさい。あんまり年齢のことを言いたくないけど……ここからは大人の時間よ……!!」
「――ッ!?……はい……」
フジミの背中から放たれた圧倒的なプレッシャーに気圧され、ジンは何も言えずに彼女の命令に従った。
「みんな」
「おれは準備万端です」
「自分も……少しお腹が空いてますけど」
「俺は寝たいんだ……とっとと終わらせるぞ!」
「「「おう!!」」」
シュヴァンツも自分達の模倣部隊に負けじと愛機を前方に力強く突き出した!
「シェヘラザード!!」
「アサルト!!」
「パワー!!」
「ターボ!!」
「「「ドレイク!!」」」
再び滑走路横が光に包まれた。一瞬の後、その中から出てきたのは先ほどの一団と同じカラーリングをした機械鎧の群れだった。
「さすがにピースプレイヤーを着ると、迫力が違うね」
「心強いじゃないか。本来は同じシュアリーを守る味方なのだから」
「今は絶賛敵対中だけどね」
ズラチォークは軽口を叩きながらも、自分の愛機と同じ色をしたマシンから目を離さず、静かに闘争心を高めていった。
「お前ら!事前に言った作戦の通りだ!」
「わかってますって」
「相手が相手ですから……気を引き締めて行こう」
「形はどうあれ先輩方が胸を貸してくれるっていうんだから……こっちも全力でやらないとね!!」
「よし!ズラチォーク任務開始だ!!」
「「「おう!!」」」
隊長の号令に従い、ズラチォークはそれぞれ同じ色の敵に向かって一目散に走り出した!
「お約束がわかってるわね……みんな!後輩にそのマシンの正しい使い方をレクチャーしてあげなさい!!」
「「「おう!!」」」
シュヴァンツもまた彼らの思いに応じるように、同色のマシンに突撃した!そして……。
ガギン!!
ぶつかり合う!
「フジミ!!」
「ヤマさん!!」
ガギン!!
同じ白と藤色、けれど全くの別物であるガヨーマルト・コマンドとシェヘラザードが拳を衝突させた!力はほぼ同等なようで、どちらも一歩も退かない!
「これがシェヘラザードか……大したことねぇな……!!」
「言われてるわよ、マロン」
「わたくしはなんとも思いません。すぐにそれが間違いだと証明されることになるのですから」
「その意気や良し!!一夜を!!」
「了解」
拳を引くと、すぐさまその手の中に美しい本体には似つかわしくない無骨な鉈が召喚された!それを躊躇うことなく、かつての恩師に向かっておもいっきり振るう!
「チャンバラがお望みか?なら、こっちもGコマンドダガー!!」
シェヘラザードに対抗するように、コマンドも重工な刃を持つダガーを召喚!こちらもまたそれを躊躇することなく、かつての教え子に撃ち下ろす!
ガギィィィィン!!
「「ちいっ!?」」
甲高い金属音と共に、二人の間を火花が舞った。刃は先ほどの拳と同じく正面からぶつかり合ったのだ。そして今回も同等の力だったからかギリギリと刃を押し合いながら、至近距離で睨み合う、所謂つばぜり合いの状況に陥る。
「指揮官用って言ってたからパワーは大したことないと思ってたけど……中々やるじゃない……!」
「はっ!そりゃそうだろ!こいつは本来ならお前が装着するはずだったんだからな!!」
「ワタシが?」
「偽桐江やダエーワだのなければ……いや、それがなかったら、そもそもドレイクがなかったか?って、今はそういう話じゃなくて!とにかく!本来順調に事が進んでいたらこいつは『コマンドドレイク』の名でお前のマシンになって、シュヴァンツを率いてたんだよ!!」
「どうりでその色、そしてこのパワー……」
「だが、結果はこれだ!いや!結果としては、今もこいつはお前のために動いている!!お前を間違った道を歩かせないためにな!!」
ガギィィン!!
「――なっ!?」
ヤマさんの激情が乗り移ったかのように、ガヨーマルト・コマンドはフジミの想像を越えるパワーを発揮し、一夜を強引にはねのけた!




