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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
84/194

少年の試練①

 財前本邸から少し離れた場所に、ピースプレイヤーの訓練や実証試験を行う施設が建てられていた。フジミ達は財前に連れられてそこに移動する。仙川仁の真の力を見定める為に……。

「自分のことを棚に上げて言わせてもらいますけど、この国の人達って、なんでもかんでも暴力で解決しようとし過ぎじゃないですか?」

 バトルフィールドの中で、ジンは率直に思ったことを恨めしげに、皮肉を込めて目の前のフジミに問いかけた。

「ワタシも自分のことを棚に上げて答えさせてもらうと、この国というか人間という種がみんなが思っているより進化もしてなければ、理性的でもなく、賢くもないってことなんでしょうね」

「スケール大きくしてきましたね……」

「暴力や権力で相手を屈服させるのが、原始的だけど、だからこそ一番手っ取り早くて楽なのよ。人を言葉で納得させて動かすのは、口で言うよりもずっと根気がいるし、知性が必要な大変なこと。だから怠惰な人類は今も戦い続けているし、パワハラなんかもなくならない」

「それがわかっているフジミさんはこの状況をおかしいとか思わないんですか?」

「それはそれ、これはこれ。時にはぶつかり合って、傷つき傷つけをしないとわかり合えないこともある」

「人間という種が賢くないから?」

「イエス。そういうことだから気張りなさい。セコンドはここで退散させてもらいます」

 そう言うとフジミはトコトコと扉の方に歩いて行き、そのまま部屋の外へ。メイド二人を背後に立たせ、超強化ガラス越しにこちらを見下ろしている財前の隣に座った。

「まるでVIP席だな。見せ物にされるのはごめんなんだけど……」

 ジンはフジミ達から視線を移動させ、間合いを取ってこちらを静かに見つめている執事二人を見返した。

(確か大杉さんと小平さんだったよな?バトルマニアで有名な財前京寿郎がボディーガードにしているくらいだから、かなりの実力者なんだろうな……)

 一見するとそこまで強そうに見えない。それはジンの戦闘経験が不足しているからか、それともやる気なさそうに見えて、内心かなり高揚しているからか……。

(だけど……こいつとなら、どんな相手でも!!)

 後者だった。ジンは愛機と再会して、イケイケ状態になっていた!もう我慢なんてできないと、手帳型のデバイスを力強く突き出し……その名を呼んだ!

「久しぶりに……暴れようか!イーヴィルドレイク!!」

 眩い光が彼を包み込むと、銀色に黒いラインが入った装甲が装着されていく!そして光が収まると、そこにはあの夜以来となる邪悪なる幼竜が降臨していた!

「……うん。やっぱりしっくり来る。問題も……なさそうだね」

 肩を回したり、その場で跳び跳ねたりなんてしてみる。感触を確かめるためだったが、そんな心配などする必要ないと言われていると感じるほどに、動けば動くだけジンの身体に馴染んで行った。

「……小平」

「あぁ、久しぶりの装着と聞いていたが……」

「調整の時間は必要なさそうだな」

「ならば!」

「我らも!!」

 イーヴィルの好調ぶりを確認した二人も、同じく手帳型のデバイスを取り出し、胸の前に突き出した!

「「ブランジェント!!」」

 二人の呼びかけに応じ、デバイスは光の粒子に分解、そしてそれがまた機械鎧へと変わり、各部に装着されて行く。

 現れたのは光沢のある銀色のイーヴィルとは真逆のマッドな黒色をしたピースプレイヤーであった。

 その姿が目に入ると、ジンの脳内検索エンジンがフル稼働し、その正体を瞬時に弾き出した。

(『ブランジェント』……その名前はよく覚えている。モラティーノス弧児院にいた時、有名どころのピースプレイヤーの特徴については嫌というほど教え込まれたけど、『ウィーデン』社のブランジェントは使用者が好みでカスタマイズしやすいように特徴と呼べる特徴を無くしている……ってことはあれも……)

 ジンは改めて黒いブランジェントを下から上に舐めるように観察した。

(……形は出荷仕立ての状態と変わりがないように見える。なら改造されているのは、あの黒の装甲か、はたまた召喚してない武装の方か……ん?)

 ジンの視線と思考が止まる。小平ブランジェントが人差し指を上に向け、ちょいちょいと動かしたのだ。つまり……。

「かかって来いってか……まぁ、ボクの実力を見るためだから、先手を取らせようってのはわかる。わかるけど……その態度はいただけないなぁッ!!」

 怒りに身を任せて、銀色の幼竜は身の丈ほどもある巨大な銃を召喚!そして……。

「イーヴィルランチャー!シュート!!」


バシュ!バシュ!バシュ!バシュウ!!


 躊躇することなく引き金を引いた!銃口から発射された弾丸は二体のブランジェントに真っ直ぐと進んで行く!

「小平!」

「あぁ、散開だ」

 しかし、執事ズは左右に分かれて回……。

「ホーミング」


バシュ!バシュ!バシュ!バシュウ!!


「――な」

「にぃ!?」

 弾丸は方向転換!二体の黒のマシンを追尾した!

「ちっ!?」

「セコい手を……!!」

「だが!!」

「その程度で!!」


ザン!ザン!ザン!ザンッ!!


 けれど、ブランジェントはナイフを召喚し、弾丸を全て切り払ってしまった。

「少々驚いたが、想定を超えるほどでは……」

「まだボクのターンは終わってないよ」

「――なっ!?」

 大杉ブランジェントの眼前にすでにイーヴィルは迫っていた!ホーミング弾は避けられる前提、彼の本来の目的は執事を分断し、各個撃破することだったのだ!

(一対一ならともかく、数で負けている相手に悠長に様子見してる暇なんてない!出し惜しみなしの全力で、まずは一体……確実に落とす!!)

 イーヴィルが凄まじい勢いで敵に背を向けた!尻尾を巻いて逃げる為?否!尻尾で切り裂き、敵を屠る為にだ!

「イーヴィルテイル!!」

 ターンする竜の腰の周辺から尻尾が伸び、その先っちょについている刃がすぐさま最高速度に到達!ブランジェントを薙ぎ払う!

「当たるかよ!!」


チッ……


「何!?」

 しかし、大杉ブランジェントは身体を仰け反り回避運動を取った!結果、刃は僅かに胴体を掠めることしかできなかった。

(まさかイーヴィルテイルを初見で対応して来るとは……だけど、惜しかったね。少しでも触れれば、それで十分!!)

 きれいに必殺の奇襲攻撃がヒットしなかったことは不満だったが、最低限の成果は上げたとジンは銀のマスクの下でほくそ笑んだ。

 かすり傷でもいいから、イーヴィルテイルで触れることさえできれば、特製のコンピューターウイルスが敵機を蝕み、自分の勝利は確定……。

「勝ったと思っているなら、とんだ思い違いだぞ、少年」

「……え?」

 大杉ブランジェントは今まで変わらぬ、いや今まで以上の機敏な動きでバックステップ!距離を取ると銃を召喚した!

「わたしのターンに移行させてもらう!!」


バン!バン!ガァン!!


「――ッ!?」

 立て続けに放たれた三発の弾丸が幼竜を襲う!かろうじて最初の二発は躱したが、三発目は太腿の外側の装甲を軽く抉った。

(な、何で……!?)

 ジンは激しいショックを受けた。銃撃を避けられなかったことではない……大杉ブランジェントが銃撃という行為ができていることにだ!

(イーヴィルテイルに当たれば、斬撃と同時に流れ込んだウイルスによって機能停止、そこまでいかずともマシンに不具合が発生して、動きに異常をきたすはずなのに……こいつは!?)

「おかわりはまだまだあるぞ、少年」


バン!バン!ガァン!!


「――くっ!?」

 今度は二の腕を掠めた。これでコンピューターウイルスに毒されていないことが確定。一度目はまぐれでもいいが、二度目となるとそうもいかない。

(間違いない……きちんと狙いをつけられている!正常にカメラや照準システム、動作補助が働いているんだ!イーヴィルテイルが不発……どうして!?)

 混乱する少年。それが収まるまで待ってくれるほど大杉という男は気が長くない!

「次行くぞ」


バン!バン!ガァン!!


「――ッ!?」

 今度は脇腹!三度目のダメージは必殺攻撃が無効化されたジンの心に別の事実を認識させた。

(この人……うまい!最初の二発はボクの動きを誘導するためのもの……三発目を確実に当てるための布石だ!口で言うには簡単だけど、実際実行するとなると、かなりの技量が必要なはず……この人は強い人だ……!!)



「……うまいわね、あの大杉って男」

 超強化ガラス越しに戦いを見守っていたフジミもジンと同じ感想を抱いた。

「大杉は元々とある国の特殊部隊にいた。そこで順調に出世し続けていたのだが、あのアホ……強さを求めて、傭兵に転職、流れ流れて、今はわしの執事をやっておる」

 財前はどこか得意気に、同時に呆れながら執事の経歴を説明した。

「変人なのね」

「そうとしか言えんな」

「だけど実力は……」

「確かじゃ。あいつは銃火器のエキスパート。少年はどこまで食らいつけるかな?」



「一方的に……やられてやると思うなよ!!」

 イーヴィルは反撃の為に再び巨大な銃を召喚した!

「喰らえ!!」


バン!バン!バァン!!


 大杉のお株を奪うような三連射!しかし……。

「狙いが甘いな」

 漆黒のマシンはあっさりと全てを回避してしまった。

「くっ!?付け焼き刃で真似をしても無駄か……だったら!バーストモード!!」


バババババババババババッ!!


 三連射でダメなら、さらに弾を増やせばいい!という短絡的な思考で散弾を放つ!けれど……。

「久しぶりで勘が鈍っているのか?わたしは射程の外だぞ」

「――!?しまった!?」


キン!キン!キン!!


 散弾は大杉ブランジェントの少し前で勢いを失い、これまた回避。避けきれなかったものはガードされ、弾き返された。

「自身の得物の有効射程を見誤るとは……初歩的なミス」

「くっ!?」

「戦場で冷静さを失ったら……終わりだぞ」

「な?」

 大杉ブランジェントは新たな銃を召喚!先ほどのものより明らかに大きな銃口をイーヴィルに向けた。そして……。


ボォン!!


 そこから出るに相応しい巨大な弾丸を発射した!

「この!ドレイクダガー!!」


ザンッ!!


 しかし、大した弾速ではないそれをイーヴィルはいとも簡単に切り落とした。

「迂闊だな」

「……え?」


バシュウゥン!!


「――ッ!?煙幕!?」

 両断された弾丸から勢いよく白煙が吹き出し、一瞬で辺り一面を白いカーテンで覆いつくした。

(あの人の言う通り、迂闊だった……!反射的に切り払ってしまったけど、煙幕じゃなくグレネードや他のものだったら、こうやって反省することもできなかったかもしれない……!)

 もしもの最悪の結末が頭を過り、ジンは小さな身体を身震いさせた。

(でも今はのんきに悔やんでいる場合じゃない!まだ戦いは……ん!?)

 視線の端で白煙が揺らいだ……戦闘再開の合図だ!

「ウラァ!!」


ガァン!!


「――くっ!?危ないな!!」

 ブランジェント強襲!しかし、イーヴィルは冷静に放たれた拳をガードし、距離を取る……いや!

「逃がさんよ」

「うっ!?」

 ブランジェントは地面を抉れるほど踏み込むと、ぴったりとイーヴィルに張りついて来た!

「ウラァ!ウラァ!」


ガン!ガン!!


「この……!?」

 それでもなんとか幼竜はパンチを捌き、反撃に出る!

「お返し!!」


ブゥン!!


「……何をだ?」

「うっ!?」

 けれども漆黒のマシンは銀のマシンが突き出した刃をしゃがんで回避!そして再び立ち上がる勢いを利用して……。

「カウンターとは……こうやるんだよ!!」


ガァン!!


「――ッ!?」

 アッパーカットを繰り出す!それは見事にイーヴィルの顎を捉え、白煙のドームの外に吹き飛ばした!

「ッ!?ぐうぅ……!!」

 それでもイーヴィルは空中で体勢を立て直し、足から着地した……が。

「自分のパンチに合わせて、自ら顎を跳ね上げ、ダメージを最小限に抑えたか。センスはあるようだな。だが、まだ自分には届かない」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「――ッ!?」

 遅れて白煙から飛び出して来たブランジェントは間髪入れずにラッシュを開始!最小限とはいえ、ダメージを受けたばっかりのイーヴィルは身体を丸めて防御に徹するしかなかった。

(この人も……うまい!!さっきの銃の人のブランジェントには不意をつけばあっさり懐に入れた。この人の機体も同等の性能だとしたら、マシンの機動力自体は大したことない。でも、スペック以上に速く感じるのはきっと中の人の身体の使い方がうまいから……伊達に財前京寿郎のボディーガードをやっているわけじゃないってことか!!)



「小平は元プロの格闘家じゃ。その後P.P.バトル、至近距離でゴリゴリ殴り合うタイプの奴な、それに転向して、そこでも連戦連勝だった」

「さっきの大杉が銃火器のエキスパートなら、小平はインファイトの申し子ってわけね」

「あぁ、その後なんやかんやでわしの執事になるわけじゃが、あの二人が側にいて危険を感じたことはない。とてもじゃないが年端のいかない少年にどうにかできる相手ではないよ」



「パンチだけだと思うなよ」

「!!?」

「オラァ!!」


ガァン!!


「――がはっ!?」

 イーヴィルの脇腹に小平ブランジェントのミドルキックが炸裂!そのまま吹き飛び、竜は無様に地面を転がった。

「く、くそ……!!」

 腹を抑えながら立ち上がると、小平ブランジェントの横に大杉ブランジェントが合流していた。そして彼はこの戦いの始まりを再現するように手のひらを上に向けて、人差し指をちょいちょいと動かした。

 あの時はその行為はジンの怒りを駆り立てたが、今は恐怖の方が強かった。

「この人達……滅茶苦茶強い……!!」


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