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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
78/194

切り札は……

 時を少し遡り、クウヤが松田の別荘に到着した頃、シュアリーのたくさんのコンテナが積まれたとある港に大きなトラックが来着する。運転していたのは、松田のボディーガードの榊原だ。

「逃走用のクルーザーは……と」

 松田に頼まれ、彼の発明品をヴァレンボロス・カンパニーに届けるために彼はここにやって来た。しかし、そこに忠誠心は一切なく、あくまでビジネスとして、報酬のためにやっているに過ぎない。

「これを届けたら、そのままヴァレンボロスの上層部に召し抱えてもらえればいいんだが……ん?」

 トラックの前方に二つの人影が見えた。

 それはトラックが来ても、避けることなく、仁王立ちでまるで行き先を塞いでいるようだった……というより、彼らはそのために来たのだ。

「……そう簡単には出し抜けないか……」

 榊原は自嘲しながら、トラックを止めると、運転席から降りた。

「お前ら、シュヴァンツの差し金か?」

「そうで~す!!」

「わかっているなら、大人しく~!あっ!お縄につけ~!!」

「あ?」

 妙にテンションの高い女と、見得を切った仰々しい男に榊原の怒りのボルテージは一気に頂点まで上り詰めた。

「お前らみたいなふざけた奴らがこの俺を止めるために派遣されたとしたら……舐めるのもいい加減にしろよ……!!」

「いやいや!舐めてませんよ!舐めてません!」

「他の逃走ルートにも人を派遣してますけど、シュヴァンツ的にはあなたが来る確率が一番高かったのはここ!だから最も信頼されているオレ達が来たってわけよ!」

「照れちゃいますね~」

「ほんと、照れちゃうね~」

「「ははははははははっ!!」」

 勝手に盛り上がる彼らを見て、榊原は確信する……こいつら苦手だと。

「……性格はともかく、そういうことなら腕は確かというわけか」

「犯罪者に性格はとか言われたくないっす!」

「うんうん!そもそも我那覇副長曰く、“わざわざあえてこのコーダファミリーとシュヴァンツの決戦があった港から逃げようとしたなら、そいつのプライドはベルミヤタワーより高く、俺よりも性根がねじ曲がっている”……らしいですからね」

「うっ!?」

 榊原は内心を詳細に言い当てられて、言葉を失った。

「あれあれ?あの感じ、図星だったみたいっすね!」

「さすが我那覇副長!傲慢な性格くそ野郎のことは誰よりもわかってる!」

「残念でしたね!他の場所ならもしかしたら包囲網を突破して、逃げることもできたかもしれませんが……」

「この後藤と!」

「不死身のフジミの次に可憐で強いメルちゃん相手ではそれは不可能!!」

「だから!大人しく~!あっ!お縄につけ~!!」

 再び後藤に見得を切られた榊原の頭は完全に怒りに支配される。

「……もう松田とかヴァレンボロスとかどうでもいい……今の俺はお前らを殺すことしか考えられない!!」

 そう怒気のこもった声で宣言すると、サイバーフィロソファー本社で松田がやったように指をパチンと弾いた。すると……。

「「…………」」

「「…………」」

 トラックの荷台からルードゥハウンドとダーティピジョンが二体ずつ降りて来た。

「P.P.ドロイドっすか」

「やっぱりいざという時のために別のところに戦力を隠しもっていたか」

「ヴァレンボロスに届けるようにと言われた商品だが……関係ねぇ!!今の俺はお前らが穴だらけになるのを見れればそれでいい!!」

 主人の願いを叶えるべく、機械人形は一斉に銃を召喚!そしてメル達に狙いをつけると……。


ババババババババババババババババッ!!


 容赦なく発砲した!けたたましい音と共に大量の弾丸が降り注ぎ、白煙が二人を包み込んだ!

「……やったか?……いや、そう簡単にはいかねぇか……!」

 白煙が風に流されると、そこには両腕に装備された盾から光の幕を展開する黒いピースプレイヤーと、その後ろで守られている腕と背中から計四門のキャノン砲を伸ばした桃色の機体が姿を現した。

「オレのシールドドレイクにはそんな豆鉄砲効かないですよ」

「後藤のシールドはカスタムドレイクの中でも特に防御力はすごいっすからね」

「ノンノン!少し違う。シールドドレイクは……防御力“も”凄いんだ!!」

 黒の竜は盾を投げると、高速回転するそれから光の刃が発生し、まるで丸ノコのようになった!向かう先はもちろん機械人形の群れだ。

「避けろよ、お前ら」

「「…………!!」」

「「…………!!」」

 言われるまでもないと、ハウンドとピジョンは散開!しかし……。

「逃がすか!シールドDシールド!ヨーヨーモード!!」

 投げられた盾は光の糸によって本体と繋がっていて、黒の竜はそれを巧みに操り、機械人形を追跡させた!

「まずは……」

「…………!?」


ザンッ!!ドゴオォォォォン!!


「一体目!!」

 一体目のルードゥハウンドを上半身と下半身に切断!さらに……。

「もう一匹!!」


ザンッ!!ドゴオォォォォン!!


 軌道を急転換させたシールドヨーヨーはもう一体の逃げるハウンドの頭上から強襲し、今度は右半身と左半身に分け、爆散させた!

「残りは……お空をお散歩中のあいつらか!!」

 黒の竜は盾を引き戻すと、空を悠々と飛ぶダーティピジョンに狙いを……。

「おっと!残りはわたしとキャノンちゃんに譲ってもらいますよ!」

 黒の竜が動く前にすでに桃の竜がすでに動き出していた!先ほどのお返しにとキャノンドレイクはその四つの砲口を機械人形に大雑把に向けると……。

「まとめてバイバイ!!キャノンDキャノン!!フルシュート!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「…………!?」

 四つキャノンから放たれた光の奔流は圧倒的な攻撃範囲と破壊力で、二体のダーティピジョンをまとめて消し炭にした。

「……P.P.ドロイドじゃ力不足か……」

「どんなもんだい!!」

「これがオレ達の……ドレイクの力だ!!」

「あぁ、そうですか」

 榊原はメル達に付き合っていても精神が蝕まれるだけだと学習したのか、軽く流すとまた指を鳴らした。

「……じゃあ、こいつらの相手も頑張ってくれや」

「キィィィィィィィッ!!」

「ニャアァァァァァッ!!」

「ウホオォォォォォッ!!」

 続いて荷台から出て来たのは、シュヴァンツを苦しめた松田肝いりの新商品、メタルオリジンズだった!野生と科学の融合した歪な姿にメル達も思わず気圧される。

「話には聞いてましたけど……」

「直接相対すると迫力が違うな……」

「さっきまでの威勢はどうした?」

「恥ずかしながら完全に消失しました」

「した」

「ほう……では降参か?」

「それはさすがに」

「ただバトンタッチするだけですよ。ちょうど“切り札”が到着したみたいですからね」

「切り札?」

「やれ、剛烈なるアクラヴァズ」

「ウホオォォォォォッ!!」


ボゴン!!


「――ウホッ!?」

「――何!?」

 メタルラリゴーザを空から降って来た普通のラリゴーザが殴り飛ばした!

 榊原はその突然の来訪者がやって来た空を見上げると、巨大な翼を持ったオリジンズが飛んでいて、それからまた別の人影が落ちて来た。

「よっと」

 その人は一見普通の青年だった。だが、どこか品があり、そして妙な迫力を纏っていた。

「待たせたな」

「全然!むしろタイミングバッチリ!ドンピシャっすよ!!」

「マジ、今のは神がかってました!パーペキ!パーペキ!!」

「そ、そうか……」

 男はメル達の味方なのだが、どうやら彼女達のことは榊原同様苦手なようだった。

「……で、あいつらを倒せばいいのか?」

「キィィィィィィィッ!!」

「ニャアァァッ……!!」

「ウホオォォッ……!!」

 視線を鋼の獣達に向けると、三匹とも見事に荒ぶっていた。特に登場直後に殴られたメタルラリゴーザは今にも飛びかかって来そうなほど怒り狂っているように見えた。

「……戻れ、剛烈なるアクラヴァズ、妖艶なるイヴォー」

 男はそれを見て、何か思うところがあったのか、自分が使役する二体のオリジンズを懐から出した小瓶の中に戻し、もう一本加えて計三本をメルに投げ渡した。

「うおっと?これ使わないんすか?」

「オリジンズを無理矢理戦わせるのは性に合わん。やっていることは目の前のくそ野郎と同じだ」

「確かに」

「言ってくれるね……!」

「あの時はわからなかったが……あいつもそれが嫌でオレにそいつらを押し付けたんだな……」

 それはベルミヤタワーでの決戦の後……。


「獣封瓶、持っていきなさい」

「……何のために?」

「遠慮しないで」

「いや、オレが訊いているのは……」

「ワタシには頼れる部下がいるから!遠慮しないで!あっ!めんどくさいけどきちんと屈服させてね!」

「そうじゃなくて、オレは……」

「じゃあ、任せたわよ」


「……神代藤美に伝えておけ、戦力として使うにしても、山にでも返すにしても、自分で判断しろと。他人に、少なくともオレには委ねるなと」

「うっす!」

「あと……借りはきっちり返したぞとな……!!」

「――ッ!?」

 男の纏うプレッシャーがさらに一段階上がる!足を肩幅に開き、呼吸を整えると、男はもう一つの姿に変わる合図を呟いた。

「蛇王降臨……!!」

 男の全身がおどろおどろしい紫色に染まっていき、どこか気品を漂わせていた顔が見る者全てに恐怖を与える恐ろしいものに変わる。そして、最後の仕上げに彼の代名詞とも言える二匹の蛇が両肩から生えてきた。

「哀しき獣達よ……貴様らの相手はこの桐江颯真、いやザッハークだ」


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