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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
77/194

勝利の女神

「コントロール、お借りします」

「!!?」

 その電子音声が耳元で流れると、装着者であるクウヤは命じていないのに、ターボドレイクの足下のタイヤが勝手に回転し始める。そして……。


スカッ……ドンッ!!


「何!?」

「ぐっ!?」

 全速力でバック!アパオシャの突きを回避した!その代わり勢いがつき過ぎて、壁におもいっきり激突してしまったが。

「マ、マロン……」

「お話は後ほど。すぐに目の前で大爆発が起きるので、心の準備をしておいてください」

「……は?」

「カモン、ビグファント」

「!!?」

 電子音声がついさっき破壊されスクラップにしたばかりの敵機の名前を呼ぶと、それは従順なペットのように全身から火花を散らしながら起動、そしてそのまま以前の主人である松田ことアパオシャに突進した!

「しまっ……」


ドゴオォォォォォォォォン!!


「ッ……!?」

 ビグファントはアパオシャを巻き込み自爆!マロンの宣言通り、青の竜の目の前で大爆発が起こり、地下室中を衝撃で震えた。

「……色々訊きたいことがあるが、まずは……よくやった、マロン」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「で、ビグファントはハッキングしたとして、ターボもか?」

「昨日皆さんの元にカスタムドレイクが届けられる前に我が創造主が、緊急時にはわたくしが遠隔で動かせるようなプログラムをインストールしていたんですよ。といっても、かなり近距離で、単純な動きしかできませんけど」

「なるほどな。アンナに感謝しなくてはな……フジミにもか。この機能を知っていて、俺にマロンを……」

 クウヤは二人の同僚女性の準備の良さと、判断力に素直に感心した。

「……とにかくナイスだったぞ、マロン」

「恐れいります」

「では、そろそろコントロールを返してくれるか?手負いとはいえ、特級ピースプレイヤーを倒すには、俺自身がターボを動かさなくては」

「やはりまだ決着は……」

「あぁ……残念ながらな……!!」

「うおぉぉぉぉぉっ!!」


ブシュウゥゥゥゥゥゥッ!!


 眼前で燃え盛っていた爆炎がみるみると小さくなっていった。というより、炎が人の形に……完全適合した特級ピースプレイヤーがその能力で炎を吸収しているのだ!

「この!よくも!よくもやってくれたな!!」

 炎が完全に吸収され、鎮火するとそこにはボロボロになったアパオシャが立っていた。

「……思いのほか、ダメージが入っているな」

「やはり一度に吸収できるエネルギーには限界があるようですね。そしてその能力に重きをおいているので、基本スペックはそれほどでもないのでしょう」

「かもな。だが、それでも今のターボよりは……」

「何をぶつくさ言ってんだ……よ!!」


ボオォォッ!!


「!!?」

 アパオシャは渇きの剣を振ると、吸収した炎を弓なりの形にして発射した!それは大気を焦がし、水分を蒸発させながら、青の竜に迫る!

「マロン!」

「コントロールはすでに」

「おう!!」


ドゴオォォン!!


 しかし、ターボはあっさりとそれを回避!炎は竜の代わりに壁を溶かし、破壊した!

「まだそれだけ動けるか!だが、いつまで持つかな!!」


ボオォォッ!ボオォォッ!ボオォォッ!


「少なくともお前を倒すまでは持たせてみせるさ」

「くそが!!」

 完全に頭に血が昇っているアパオシャは連続で炎の斬撃を放つ!けれど、それも全てターボはギリギリで回避し続けた。ギリギリなのはあえてのことだ。

「さすがですね、我那覇副長。エネルギー消耗を最小限にするために動きも小さく」

「そうせざる状態に追い込まれている時点で褒められたことではない」

「それでこれからどうするんですか?」

「このまま吸収したエネルギーを全て吐き出させて、仕切り直ししたいが、消耗戦ではこちらが先にギブアップすることになる」

「では、ここは一旦撤退し、応援を呼びますか?」

「そんなことをしたら、奴にも逃げられる」

「ですよね」

「それにさっきお前が言ったように、ビグファントの自爆でかなりのダメージが入っている。元から本体の防御は大したことない上に、あの状態だ……勝機はある……!」

「その口振りだと、奴を撃破する算段があるようですね」

「あぁ、選択肢はいくつかあるが……」

 瞬間、クウヤの脳裏に優しく微笑みかける女上司の顔が過った。

「……迷った時は、勝利の女神が喜んでくれそうな方を選ぶのが、正解だ!!」

 炎を避けながら、決意を固めたターボドレイクはライフルを召喚!スコープを覗いて、荒ぶる特級ピースプレイヤーに狙いを定めた!

「ライフルを撃てるのも残り……六発……俺の予想だと……ギリギリだな!!」


バァン!バァン!


 二発を立て続けに発射!光の弾丸は真っ直ぐターゲットに向かう!しかし……。

「ふん!そんな悪あがき!!」


キィン!キィン!!


 アパオシャはひびの入った渇きの盾で、あっさりと弾き返した。

「わざわざ新たなエネルギーをプレゼントしてくれたのか!?気前がいいな!!」

「そんなつもりは更々ない」


ボオォォッ!!ドゴオォォォォン!!


 反撃の炎!けれど、これもターボドレイクは展示されてあったピースプレイヤーを盾にして、事なきを得た。

「我が社の商品を……よくも!!」

「こんなところに置いてあるからだろ」

「――!!この!!」


ボオォォッ!!


 炎の奥から、人影が飛び出してくる!アパオシャは今度こそと、炎の斬撃を放つが……。

「残念……外れです」

「シェヘラザードだと!?」

 人影の正体はターボドレイクではなく、シュヴァンツの隊長機シェヘラザード!内蔵AIのマロンによって操られたそれは攻撃を回避すると、一目散に逃げて行く。

 そしてその対角線に青の竜はやはりライフルを構えて、アパオシャを睨み付けていた。

(もらった!!)


バァン!バァン!キィン!キィン!


「ちっ!」

 これまた二発発射!しかしこれもまた渇きの盾によって防がれてしまう。

「シェヘラザードが出て来たのは驚いた……が、遠隔操作はつい先ほどビグファントですでに見せられている!警戒してないわけないだろうが!!」

 黒のマシンはすぐに攻撃体勢に切り替えると、地面を蹴り出し、ターボドレイクに突進した!

「エネルギー切れを待たずに終わらせてやる!!」

 そして勢いそのままに渇きの剣を撃ち下ろす!


スカッ!ボオォォン……


「――!!?」

 青の竜を脳天から真っ二つにしたというのに手応えはなかった。それもそのはずアパオシャが切り裂いたターボは幻だったのだから。

「ターボDホログラム」

「なっ!?」

 本物のターボドレイクは幻のさらに後ろですでに追撃の準備を終えていた!

「さぁ……決着の時だ!!」


バァン!!


 今回は一発!一発だけの弾丸が、クウヤの祈りと怒りを込めて、アパオシャに、松田に襲いかかる!

「小賢しい策を練った末が、変わり映えのしない狙撃か!!ハオマによって強化された私の反射神経の前では児戯でしかない!!」

 だがアパオシャはやはり反応、盾を構えて、弾丸をまたまた弾き……いや。


ピキッ……


「……へ?」


バギィィィィィン!!


「――ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 ターボの放った弾丸は渇きの盾を砕き、そのままボロボロのアパオシャの肩を貫いた!

「なんとか間に合ったな」

「が、我那覇空也……!?」

「まだこちらに凄む元気があるか……なら、駄目押しの一発……食らっとけ!!」


バァン!!バギィィィィィン!!


「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 最後の一発は痛みで身動きが取れなくなったアパオシャのもう一方の肩を容赦なく撃ち抜いた。

 手から力が失われ、渇きの剣がカランカランと虚しい音を立てながら、床に落ちるとほぼ同時にアパオシャも指輪の状態に戻り、両肩から血を流す松田輝喜与が久しぶりに姿を現した。

「ぐっ……!?何故!?何故私が……!?」

「お前はよくやったよ、松田輝喜与」

 敗北を受け止められない悪徳社長に同じく愛機が限界を迎え、待機状態に戻ったことで生身を晒したクウヤが慰めの声をかける。ただ今の状況でそんなことを言われて嫌味でしかない。

「勝ち誇って上から……!!」

「本音を言っているだけさ。メタルオリジンズから始まり、ただの時間稼ぎかと思われたドローン軍団、そしてトランスタンク……散々ターボドレイクのエネルギーを消耗させておいてからの、アパオシャ……正直戦略面ではお前の方が上回っていた」

 言っていて情けなくなったのかクウヤは眉を八の字にして、顔をしかめた。

「やはり嫌味にしか聞こえないな……!それだけ優位を取っておいて逆転を許すバカだと言いたいのか!?」

「こうなったのはひとえにうちのAIのおかげだ。お前がいなかったら、結果は逆だった可能性の方が高かったよ、マロン」

「お役に立てて光栄です」

 クウヤの下に戻って来たシェヘラザードも待機状態の手帳型デバイスに戻り、彼の手の中に収まった。

「お前は俺には勝てたが、“俺達”には勝てなかったってことだ」

「くっ!?あのビグファントの自爆で予想以上に渇きの盾にダメージが入っていたか……!」

「それは間違っていませんが、完璧な答えではありません」

「……何?」

 松田はクウヤの顔から手元に視線を動かし、彼の言葉を否定したAIを見上げた。

「渇きの盾の耐久力が減少していたのは、事実ですが、適当に撃ったライフルで破壊できるレベルではありませんでした」

「しかし、実際に砕かれている!!」

「それは我那覇副長が最も盾の弱っている場所に立て続けにピンポイントで弾丸を当て続けたからです」

「なっ!!?」

「副長の狙撃能力がなければ、この攻略方法は不可能でした」

 松田は改めてクウヤの顔を見上げ、睨み付けた……沸き上がる怒りと憎しみを込めた眼差しで。

「そんな自分の力を見せつけるような……なんて傲慢な男なんだ!貴様は!!」

「お前にだけは言われたくないな。だが、あえて弁明させてもらうと、この方法を取ったのは、勝利の女神が一番喜ぶと思ったからだ」

「勝利の女神……?」

「あぁ、俺の女神はサディスティックなんでな」

 クウヤの脳裏に先ほどとは打って変わって醜悪な笑みを浮かべ、ゴミを見下ろしたような神代藤美の顔が再生された。

「だから、お前が一番屈辱に感じる方法を取らせてもらった。しばらくケツが自分で拭けないようにしてやるとも言っていたしな」

「そうか……そんなことまで考えて……侮ったつもりはないが、私の想像より遥かに高みにいたのだな、貴様は」

 松田はようやく敗北を受け入れ、項垂れた……ように見えたが。

「……くくく」

「……何がおかしい?」

 下から聞こえる不愉快な笑い声にクウヤは眉間に深いシワを寄せた。

「いや……念には念を入れておいて、良かったなと思ってね」

「……まだ何かあるのか?」

「私はここで捕まるが、私の発明品はヴァレンボロスの手に渡り、世界中に広がる……!あいつが!榊原が!必ず届けてくれる!」

「榊原?なんだ、あいつのことか……驚かせるなよ」

「そうだろう!驚か……へ?」

 松田は今度はきょとんとした顔で勝者の顔を見上げた。クウヤの淡白なリアクションはせめて一矢報いようとした彼の望むものではなかったのだ。

「……あんなデカくて目立つ男がいないことに気づかないわけないだろうに。逃亡中に二手に分かれるのは、定石だしな」

「じゃあ……わかっていて、わざと見逃したのか……?」

「見逃す?まさか」

 松田を鼻で笑うと、クウヤはマロンを突き出した。

「通信……接続。スピーカーモードで通話します」

『あっ!もしもし!我那覇副長っすか!?』

 マロンから流れて来たのは、妙にテンションの高いフジミともアンナとも違う女性の声だった。

「我那覇だ。そっちの首尾はどうだ、メル?」

『あっ!ちょうどついさっき終わったところですよ!“切り札”の大活躍の大暴れで!!』


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