もう一つの本命
「……そんなデカいだけのガラクタで俺を倒せると思っているなら、お前はアホだ」
ターボドレイクは今日何度目かのライフル召喚、そして素早く、正確に狙いを定めると小気味よく引き金を引いた。
バン!バン!バァン!ドゴオォォン!!
発射された弾丸はビグファントの重厚な装甲の僅かな隙間、関節部と青の竜を撃ち抜くはずだった銃口に潜り込み、一瞬でクウヤの言葉通り、巨大兵器をただの邪魔くさいデカいスクラップに変えてしまった。
「……トランスタンクは火力や装甲には目を見張るものがあるが、小回りではピースプレイヤーに圧倒的に劣る。結果、今のように脆弱な関節などを狙われ、破壊され続けた結果、戦場の主役をピースプレイヤーに奪われた。俺のターボはピースプレイヤーの中でも特に機動力、敏捷性に優れたマシン。しかも装着者である俺自身も遠くから小さな標的を射抜ける射撃の腕を持っている。トランスタンクとの相性で言えば最悪の部類……長々と語ったが本来は武器商人であるお前にわざわざ説明してやる必要などないはずなんだがな」
クウヤが心の底から呆れていると、ビグファントのハッチが開き、中からまた“パチパチ”と音が聞こえて来た。
「素晴らしい!!満点の解答だよ、君の説明も、行動も!!」
出て来た松田の顔に動揺した素振りは見えなかった。というか、サイバーフィロソファー本社ビルで会った時よりもハイテンションで興奮しているように見える。
我那覇空也はそれに言い知れぬ不安を覚えた。そしてそれは悲しいかな見事に的中してしまうことになる……。
「……ん?ずいぶんと饒舌だったのに、急に黙り込んで、どうしたんだい?お腹でも壊したのか?」
「……お前が本物の松田輝喜与かどうか確認していただけだ。また騙されてはたまったもんじゃないからな」
「そういうことか!安心したまえ!私は本物!本物の松田輝喜与だ!黒子も作り物じゃない!」
そう言いながら松田は額のホクロを中指で弄って見せた。
「……マロン」
当然、すでに一回痛い目を見ているクウヤが松田の言葉を鵜呑みにするわけもなく、ターボドレイクにリンクした高性能AIに真偽のほどを確かめるように訴える。
「……我那覇副長……本物です」
「……確かに今、スキャンしたお前の顔とサイバーフィロソファーでの松田の顔、そしてテレビに出ていた成金社長の画像データ、全てが一致した」
「だから言っただろ?私は本物だって!!」
「……だな。その不快感は本物にしか出せない」
「ひどいな!」
「ひどいのは、お前の存在だ。オリジンズを改造するなど……外道の所業としか言いようがない……!!」
改めて言語化すると、また沸々と怒りが沸いて来た。一見、冷たく無感情に見えるが、実際の我那覇空也という男はシュヴァンツの中でも随一の感情的で優しい熱血漢なのだ。
「ふん!わかってないな、わかってない」
そんな彼の刺し殺すような鋭い眼差しに当てられても、松田は怯むことはなかった。さすがに一企業の社長、肝が座っている……というより、恐怖を感じる心の大事な部分が麻痺しているような……。
「研究者には倫理観など不要なのだよ!そんなもの、大いなる成功を妨げるゴミでしかない!!」
「……百歩譲って、お前の言う通り研究者には倫理観など必要ないとしよう。だが、そのお前の発明品は結局、全て俺達に負けた。それはつまり倫理観どうのこうのという前にお前は単純にセンスがないということだ」
「……反論できないね。メタルオリジンズが君達に敗北したのは事実だから」
「そうだ……メタルオリジンズは失敗だったんだ。人としても武器の開発者としてもやるべきじゃなかった」
「……耳が痛い」
「お前の作品も悪巧みも失敗に終わった……大人しく投降しろ、松田輝喜与。これが最後通牒だ」
松田に対して最後のチャンスをクウヤは与えた。しかし、今までの経験からそれが無下にされるであろうことを予想していた。そして実際に……。
「丁重にお断りさせてもらう」
「……だろうな」
やはり想像通りの返事が返って来て、クウヤは辟易した。一方の松田は不快な笑みを絶やさず、楽しそうにトランスタンクから降りる。
「往生際の悪さが私の長所だ。これのおかげで私はこのポジションまで上り詰めた」
「長所と短所は背中合わせだと言うが……反社会的組織を成り上がるために使うなら、短所以外のなにものでもない」
「その評価……こいつでひっくり返してやろう」
「……?」
松田は懐から指二つで摘まめるほど小瓶を取り出した……空の。
「……とんちか何かか?それともマジックでも見せてくれるのか?」
「マジック……ある意味そうだな。この瓶の中身は私がビグファントから出る前に飲み干した。我が社がメタルオリジンズと平行して開発していたもう一つの本命商品……新薬『ハオマ』を!!」
「新薬……だから、やたらとテンションが高かったのか……」
「あぁ、精神を高揚させるのは、このハオマの改良前の薬と同じだな」
「改良ま……え!?」
クウヤの脳裏に突然、恩師の顔が過った。身を滅ぼす薬を使って、決戦に挑み、そして破れた大栄寺クラウスの顔が……。
「……ヘルヒネか……!!」
「ご名答」
松田を瓶を投げ捨てると、新たに懐から指輪を取り出し、それを嵌めた。
「万能薬として開発されていたヘルヒネはどういうわけか摂取すると、一時間ほどで絶命させる劇薬になってしまった。そこで終わっていたらただの新種の毒で終わったのだが、それには世にも奇妙な副作用が付随していた」
「……飲んだ者は本来使い手を選ぶ特級ピースプレイヤーを装着できるようになる……ありとあらゆるな……!」
「正確には装着だけじゃなく、特級の最終到達点でもある完全適合まで可能になる……だ」
「それに目をつけたのか……!」
「あぁ、このハオマは飲んでも死ぬことはなく、それでいて全ての特級ピースプレイヤーと完全適合できるようになるという夢の薬だ!!」
松田は指輪を嵌めた手を突き出した!そしてその真の名前を高らかに叫ぶ!
「私の才能を証明してくれ……『アパオシャ』!!」
指輪は光の粒子に分解、それが黒い機械鎧に変化すると松田の全身を覆っていった。
広い地下室に現れたのは、今度こそ松田の切り札、彼の狂気の具現化、特級ピースプレイヤー、アパオシャである!
「……それがお前の余裕の理由か……」
「その通り!ハオマの力を使って装着したこのアパオシャで君を倒し、薬の有用性を証明する!!さすれば、それを製造できる私はヴァレンボロス本体に合流しても出世できるはずだ!!」
「……夢を見るのは構わないが、それは叶わない幻想だ!!」
ターボドレイクは再び素早く、正確に狙いを定めると躊躇うことなく引き金を引いた!
ギン!ギン!ギィン!!
「――!?」
「渇きの盾」
しかし放たれた弾丸はアパオシャが召喚した盾によって全て弾かれてしまった。
「特級ピースプレイヤーの力を恐ろしいが、中身がIT企業の社長なら自分の敵ではない……とか思ってる?」
「…………」
「図星だったようだね。だけど残念、私は自分の開発したピースプレイヤーは自ら装着してテストするんだ。そんじょそこらのチンピラよりも動けると自負している」
「……そのようだな」
「それでもさすがにシュアリーが誇る特殊部隊の副長様には敵わないが……ハオマは私の感覚を鋭くしてくれている!!」
アパオシャは地面を力強く蹴り出し、ターボドレイクに突撃した!
「渇きの剣!!」
そして新たに剣を召喚し、それを竜の頭に撃ち下ろした!
スカッ……
「――なっ!?」
けれどターボはスケーターのように床を滑らかに滑り、斬撃を回避、アパオシャの側面に回り込んだ。
「想像を超えた実力を持っているのは認めてやる。だが、俺を倒せるなど……思い上がりも甚だしい!!」
ターボは腕から鰭のような刃を生やし、逆にアパオシャを斬りつけ……。
キン!!
「――ッ!?」
斬撃は剣によって受け止められた。所謂つばぜり合いの状態になり、両者の視線が至近距離で交差する。
「ハオマで鋭敏になった感覚を、さらに特級ピースプレイヤーの完全適合で強化……少なくとも反射速度では君には負けてないようだな」
「その減らず口……いつまで訊けるか!!」
キンキンキンキンキンキンキンキン!!
「――ぐうぅ……!!?」
もう一方の腕からも刃を生やした青の竜による全力のラッシュ!アパオシャは剣と盾を使って本体への攻撃を防ぐことで精一杯だ。
「カッターばかりに気を取られていいのか?」
「え?」
ドスッ!!
「――ぐはっ!?」
無防備になったアパオシャの腹に前蹴り炸裂!さらに……。
ギャルギャルギャルギャルギャル!!
足下に付いたタイヤが回転!腹部から胸元へと竜の脚が駆け上がる!
「歯を食いしばれ。さもなくば舌を噛むぞ」
ゴォン!!
「――がっ!!?」
竜の爪先がアパオシャの顎を捉えた!
頭が跳ね上がり、仰け反りながら、後退するアパオシャ!
ターボドレイクは勢いそのままに一回転して着地すると、追撃のために両足に更なる力を込めた!
「うちの女王様が徹底的にやると言っていたからな……徹底的にやらせてもらう!!」
そして力を解放し、アパオシャに突……。
ガクッ……
「……何!?」
ターボドレイクがアパオシャの懐に飛び込もうとしたが、さっきまであんなに躍動していた足が突如として動かなくなり、追撃することは叶わなかった。
「ターボが俺の言うことを聞かないだと?」
「これが完全適合したアパオシャの能力だ!!」
「――!?」
ギィン!!
「ちっ!」
体勢を立て直したアパオシャの反撃!しかし、これはカッターで弾き返す。これは……。
「さすがにこれだけではまだ届かないか……ならば!もっと削り取ってやる!!」
キンキンキン!ギィン!キン!ギィン!
「――くうぅ……!?」
攻守逆転!アパオシャが先ほどの意趣返しにと、渇きの剣とやらで猛攻を仕掛ける!
いまだに動きが鈍っているターボはカッターで応戦するも捌き切れずに、本体に傷を刻まれてしまう。あくまでかすり傷としか言えないような薄く小さな傷だったが、我那覇空也の心は、プライドは大きく抉られた。
(この俺がこんな訓練しかしてない、実戦経験は皆無の奴の攻撃を受けるとは……!!)
悔しさからマスクの下で歯噛みするクウヤ。だが、そんなことをしていても気が晴れることがないことを彼は知っている。彼のこの気持ちを鎮めることができるのは勝利だけなのだ。そしてそれを得るために気持ちを切り替え、この状況を打破する方法をひねり出そうと頭を回転させる。
(奴はこれが特級の力だと言った……それが事実だとしたら、奴の能力は何らかの方法でターボの動きを阻害……シェヘラザードを戦闘不能に追い込んだイーヴィルドレイクのようにコンピューターウイルスを俺のマシンに……)
ビーッ!ビーッ!ビーッ!!
「――な、なんだ!!?」
鼓膜を張り裂こうとせんばかりの警告音が耳元で鳴り響いた!それがクウヤが探し求めていた“正解”。青の竜の仮面裏のディスプレイに解答が映し出される。
「……エネルギー残量……15%だと!?」
ターボドレイクの残存エネルギーは僅かしか残っていなかった。クウヤはそのあり得ない表示にただただ驚愕する。
(連戦続きとは言え、まだ十分にエネルギーには余裕があったはずだろ!?何故こんな……いや!これが……!!)
「そうだ!これが完全適合したアパオシャの能力!触れた者からエネルギーを吸い取る吸収能力だ!!」
ガキィン!!
「――ッ!?」
正解発表と共に勢いよく振り下ろされた剣が先ほどよりも深く大きい傷を青い装甲につけた!それと同時にディスプレイの表示もさらに12%まで減少する!
「くそ!急激なエネルギーの減少で一時的な機能停止を起こしたのか!!?」
「その通り!そしてエネルギーを吸い取れば、何らかのトラブルを起こすと予想して、私はあえてお前に攻撃をさせていたのだ!!」
「くっ!?」
「お前は自分が攻めていると勘違いしていたようだが、最初から私の手のひらで踊っていたに過ぎない!!」
「この……!!」
それ以上は言葉が出て来なかった。悔しいが、クウヤはまんまと敵の術中に嵌まってしまったことを、内心では認めてしまったのだ。
「マシンだけでなく、中身の元気もなくなったようだな?大人しく投降するなら、悪いようにはしないぞ」
「!!」
瞬間、クウヤの中で何かがキレた。
「許しを乞うべきなのは、お前ら悪党の方だろうが!!」
渇きの盾の一撃を躱して、カッターでカウンター!今までのアパオシャの動きから迎撃も回避も不可能!これが決まれば一発逆転だ!……決まればだが。
ガギィィィィィィン!!
「フッ……」
「……な!?」
アパオシャは今までよりも遥かに速いスピードで動き、カッターと今までで一番の力で剣で撃ち合うと、そのまま粉々に粉砕してしまった。
「エネルギー吸収だと言ったじゃないか……アパオシャは君の愛機から奪った力でパワーもスピードもアップしているんだよ!!」
アパオシャはこれまた素早く剣を引くと、直ぐ様大気を切り裂くような鋭い突きを放った!




