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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
74/194

ドッキリ

「リキ!!」

 戦いを終えたパワードレイクの下に同じく勝利をもぎ取った赤と青の同胞がやってきた。

「マルさん……大丈夫でしたか?」

「あたぼうよ!誰に言ってんだ!……と、言いたいところだけど、かなりしんどかったぜ。今まで戦ったことのない相手だったからな」

「我那覇副長は……?」

「俺もだ。殺害してもいいなら、もっと早く終わらせられたんだが、罪なき者を手にかけるのは人として、プロとして失格だ」

「そうね……この子達は何にも悪くないもの」

「ボス!!」

 少し遅れて、白い隊長機も合流。再びシュヴァンツ全員集結だ。

「ワタシも、あなた達もへとへとだけど……もう一踏ん張りよ」

「うっす!」「押忍!」「ふん」

「では、諸悪の根源を捕まえましょうかね!」

「ひっ!!?」

 松田はシュヴァンツに一斉に睨み付けられると、あっさりと気圧され、恐怖し、背を向けて一目散に逃げようとした。しかし……。

「散々好き勝手しといて……自分は傷一つ負わないなんて許されるわけないでしょうが!!」

「ひぃぃっ!!?」

 シェヘラザードが残った力をふり絞って全力で追う!ぴょんぴょんと簡単なアスレチックをクリアするように、階段を登り、松田の眼前に着地する。

「ちょ!ちょっと待ってください!」

「あんたには……どんな些細な願いだろうと口にする資格はない!!」


ドン!!プチッ!!


「――うぐっ!!?」

 シェヘラザードが松田の首根っこを掴んで、そのまま地面に押し倒し、拘束した。勢いをつけ過ぎたせいで、額からほくろが千切れ飛び、白のマスクの横を通過する。

「……え?」

 額からほくろが千切れ飛び、白のマスクの横を通過する。

「え?」

 額からほくろが千切れ飛び、白のマスクの横を通過する。

「ええぇぇぇぇっ!!?」

 額からほくろが千切れ飛び、白のマスクの横を通過した!

「ボス!!?」

「ど、どうしたんですけどか、姐さん!!?」

「何事だ!!?」

 上司の後を追ってきた部下達は悲鳴を耳にすると、疲れた身体に鞭を打って、全速で馳せ参じた!

「み、みんな……松田のほくろが……」

「「ほくろ?」」

 赤と黄色の竜が上司の下敷きになっている悪徳社長の顔を見下ろすと、印象深い額のほくろがきれいになくなっていた。

「…………早速ですか、姐さん」

「まぁ、自分の知る不死身のフジミなら本当にやると思っていましたが、武装してない人間のほくろをピンポイントで千切るのは、不当に痛めつけたって、後々問題になるかもしれませんよ」

「じゃあ、他のところもいたぶって、抵抗したから不可抗力でこうなったと……じゃなくて!勝手に取れたのよ!勝手に!ワタシは何もしてない!!」

「「……本当に?」」

「うっ!?びっくりするくらい信用ない!!」

 リキとマルの疑惑の視線は、どんな攻撃よりもフジミの心を傷つけた。

「お前ら……疲れているのはわかるが、もう少し冷静になれ」

「クウヤ?」

 一連の同僚のやり取りを見て、副長であるクウヤは一人呆れ、情けなくなっていた。

「よく見てみろ。千切れ飛んだというのに、額から血が一滴も流れていない」

「「……あっ」」

「……本当だ……!」

 クウヤの指摘通り松田の額はツルツルできれいなものだった。

「じゃあ……付け黒子だったってこと?あれをおしゃれで……」

「フジミ、お前……!!」

 この期に及んで、見当違いも甚だしいことを口にする上司に苛立ちを募らせた。それを敏感に感じ取ったフジミは必死に取り繕おうとする。

「お、怒らないでよ!冗談よ、冗談!」

「そうは聞こえなかったが?」

「うっ!?」

「はぁ~……まぁ、昨日からの連戦の疲れで頭が回らなくなったということにしておいてやろう。だとしてもターゲットの顔を見間違うのはどうかと思うが」

「どうもありがとう……って、ターゲットじゃない!!?」

「うえっ!?」

「そんなバカな!?」

 フジミと同じく脳ミソが正常に稼働してない部下二人は改めて松田の顔を観察した。そしてその結果、彼女達が出した答えは……。

「「「松田じゃない……」」」

 捕まえた男は松田ではなく、松田っぽい男だということだった。

「あ、あんた!一体何者!?」

「ぼ、ぼくはただの松田社長のそっくりさんですよ!友達に言われて、付け黒子をつけてテレビ番組に出たのを、松田社長が見てくれて、今日会社のレクリエーションでドッキリを仕掛けるから来てくれないかって!報酬は弾むからって!でも来てみたら人はいないし、なんかドンパチうるさいし、ようやく出番が来たと思ったら、見たこともないピースプレイヤーに押し倒されて!今に至ります!!」

「そう……あなたは松田輝喜与じゃないのね……」

「はい!!」

「人騒がせ!!」


ゴン!!


「――ぐぎゃ!!?」

 シェヘラザードの怒りの鉄拳炸裂!松田のそっくりさんの意識は一撃で完全に断たれた!

「ボス!その人、何の罪もない一般人!」

「あっ、ヤベ、つい」

「ヤベ、つい……じゃないですよ!どうするんですかこれ!!」

「リキ、大丈夫だ」

「マルさん……」

「明日は明日の風が吹く!」

「大丈夫じゃないじゃない!!」

「飯山、気持ちはわかるが、今は切り替えろ。本物が動き出した」

「本物?……本物!?」


バババババババババババババババ……


「「「!!?」」」

 突然、耳に届くけたたましい音!この音の正体にはすぐにピンと来た。テレビで見たし、ここに入る前にその話をちょうどした!

「ヘリコプター!!」

「屋上にあったって奴か!」

「くそ!逃がさないわよ!!」

 シュヴァンツはそっくりさんを置いて、サイバーフィロソファー本社から飛び出した!

 外に出ると、ヘリコプターは市街地に向けて悠々と移動していた。

「ちっ!!あの位置だと……」


ガチャリ……


「――!!?クウヤ!!?」

 シェヘラザードの隣で彼女の右腕である青の竜、ターボドレイクがライフルを構える。その凶行にフジミは戸惑うしかなかった。

「あんた!自分が何やっているのかわかってるの!?」

「わかっている。ヘリを狙撃しようとしている」

「わかってないじゃない!あの場所でヘリを撃ち落としたら、下にいる人達に被害が!!」

「それはわかっている」

「だったら!!」

「何度も言わせるな、冷静になれ。俺は狙撃するとは言ったが、撃ち落とすとは……言ってない!!」

「えっ!?」


バァン!!


 躊躇なく引き金を引くと、発射されたそれはヘリコプターに見事命中!しかし、ヘリは落ちる素振りすら見せずに、その後も何事もなく飛んで行ってしまった。

「……あれ?」

「発信器だ。これで追跡できる」

「あぁ……そういうこと……」

 不可解な部下の行動にようやく納得いった上司はのんきに胸の前で手をポンと叩いた。

「まったく……いつにも増して重症だな」

「いつにもって何よ、いつにもって」

「そのままの意味だ。とにかく俺は奴らをこのまま追跡する」

「そうね……おしゃべりしている暇はない!さっきは堂々と生身で姿を現す不敵さや、榊原とかいうボディーガードのことをむやみに警戒して手を出すのを躊躇しちゃったけど、今度は……」

「やはり頭が回ってないな、フジミ。俺が追跡するとは言ったが、俺達とは言ってない」

「え?」

「お前達は待機だ」

「……自分達が」

「待機……」

「はあぁぁぁぁぁっ!!?てめえ何寝ぼけたこと言ってんだ!?」

 赤の竜は青の竜に頭を上下させながら詰め寄った。しかし……。

「俺は大真面目だ。フジミと勅使河原は昨日の今日で万全じゃない上に、今の戦いでさらに疲弊した」

「「うっ!?」」

「飯山もあのデカブツ相手にダメージを負った。パワードレイクのエネルギーもかなり消耗しているだろう?」

「それは……そうですけど……」

「以上のことから、お前らはついて来ても足手まといになるだけだ。俺一人で行った方がスムーズに事が運ぶ」

「……うぅ……!?」

 ぐうの音も出ないとはこのことを言うのだろう。三人ともクウヤの意見に「一理ある!」と思ってしまい、反論したくてもまったく言葉が出て来なかった。

「……わかったわ。今回はあなたに頼らせてもらう」

「今回“も”だろ?」

「そうね。隊長はワタシなのにいつも副長のあなたに頼りっぱなしね」

「それが俺の仕事だ……別に最近は嫌でもないしな」

「ん?何か言った?」

「言ってない。ナーキッド!!」

 クウヤは誤魔化すようにスーパーバイクの一号機を呼び、それが来るや否やすぐさま跨がった。

「待機とは言ったが、休んでもらうわけではない。身体が動かせないなら、頭と口を動かせ」

「こっちとしてもそれくらいの仕事があった方が気が紛れるわ。何をして欲しいの?」

「お前らは……」

 クウヤは三人に今後の行動を指示した。

「……了解。すぐに手配するわ」

「頼む。特に“切り札”については、神代藤美じゃないと動かせないだろうからな」

「いや~、ワタシでも……どうだろう?」

「まぁ、駄目だったら駄目だったで、その時はその時だ。なるようになるし、なるようにしかならない」

「今の感じ、ボスにそっくりですね、我那覇副長」

「……出撃前に士気を下げるな、飯山」

 青いマスクの下でクウヤは顔面を真っ赤にした。この場にいることが恥ずかしくなり、ナーキッドのアクセルに手をかける。

「……なんだかやる気が削がれたが、行って来る」

「ちょい待ち!」

「……なんだ?これ以上、テンション下げるな隊長殿」

「そんなつもりは更々ないけど、さすがに本当にひとりぼっちは可哀想だから……」

 フジミは全身を覆っていた白い装甲を、愛機シェヘラザードを脱いだ。そして手帳型デバイスになったそれをクウヤに差し出す。

「これを、マロンをお供に連れていきなさい」

「……いいのか?」

「あんたの言う通り、ワタシはもう限界だから、今日はもう戦えって言われても、意地でも戦ってやらない……だから今のワタシにマロンのサポートは必要ないわ」

「わたくし的にはさっきマスターといつでも一緒です的なことを言っておいて離れることに、若干の羞恥心を覚えますが、ここは我那覇副長の補佐に回るのが、ベストだと判断しました」

「……わかった。では、ありがたく相棒を借りていく」

 彼女達の心意気を察したクウヤはマロンを手に取ると、大切そうに懐にしまった。

 そして前を向くと今度こそアクセルを捻った。

「では、改めて……シュヴァンツ副長我那覇空也、ターボドレイク!」

「同じくシュヴァンツサポートAIマロン!」

「違法武器製造諸々の容疑者、松田輝喜与の追撃の任に入る!」

 ナーキッドは轟音を鳴らしながら、ヘリの向かった方に走り出して行った。


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