新たなる力
覚悟を決めたパワードレイクはガードポジションを取りながら、力一杯地面を蹴り出し、鋼の巨獣に突進した!
「ウホオッ!!」
当然、それをメタルラリゴーザは指を咥えて見ているわけもなく、カウンターのパンチを放つ!最初の大雑把なスイングは見る影もなくなり、洗練され、最短距離で敵へと向かう極上のストレートだ!
チッ!
「ウホッ!?」
「くっ!ちょっとかすったか……!!」
しかし、パワードレイクもまた最小限の動きで回避……することはできなかったが、ダメージは頬を僅かに削られるだけで済ました。
「さっきは虚を突かれましたけど、わかってしまえば!!」
「ウホオォォォォッ!!」
ブゥン!!
「避けられない動きではない!!」
宣言通り僅かに顔を逸らして、巨獣の豪腕フックを今度は完全に回避!推測が確信に変わる!
「さっきの一撃……それで決められなかった時点で勝負は着いた。自分はあなたに負けることはない」
「ウホオォォォォォォォォッ!!」
ブゥン!ゴン!ブゥン!ブゥン!ゴォン!
まんまと挑発に乗って、怒り狂ったように見えるメタルラリゴーザは絶え間なくパンチを撃ち続けた。けれどもそれを全てパワードレイクは時に避け、時にガードし、完璧に捌き切った。
(皮肉だね……動きが洗練されたことによって逆に読み易くなった。何をしでかすかわからない、さっきの方が精神的プレッシャーは大きかったよ。これもボスの言った通りだ)
「敵の意図を汲み取りなさい。それさえわかれば、かなり戦闘が楽になるわ。何をするか見当がつかない相手が一番厄介で怖い」
(メタルラリゴーザが何をしようとしているのかわかる……さっきの攻撃、隙あらば背後に回り込もうとする動き……後ろを取るのは定石通りだけど、ドレイク相手にそれを狙うってことは……!)
「ウホオォッ!!」
刹那、これまたリキの推測の正しさを証明するように鋼の巨獣はそのバカデカい身体に似つかわしくない細かいステップで、パワーの後ろに……。
グルッ!!
「――ホッ!?」
「取らせないよ」
ゴォン!!
「――ッ!!?」
黄色の竜は巨獣に合わせてターン!改めて正面から向き合うと、パワーDナックルを装備してない方の拳でジャブを撃ち込み、見事に敵の顔面に命中させた。
「木真沙組経由で、ドレイクは背中が弱点だということを知ったんですね……ですけど、生憎うちの優秀過ぎるメカニックがすでに改善済みです」
パワードレイクを始めとするシュヴァンツのカスタムドレイクは全て栗田杏奈によって、改修されていた。これで名実ともにシュアリー屈指のピースプレイヤーとなったのだ、ドレイクは。そして、今それを更に確かなものにしようとリキは拳を繰り出した!
「まぁ、大丈夫だからといって殴らせるつもりはありませんけど!!」
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴォン!!
「――ウホォッ!!?」
鋭く、それでいて重い拳がリズミカルにメタルラリゴーザの上半身に襲いかかった!なんとか盾で防御しようと試みるが、それを避けて、ジャブは獣を叩き続ける!
(ジャブはコンパクトに!力を入れ過ぎずにテンポよく!)
「ウホオォォッ……!!」
黄色の竜が絶え間なく撃ち込むジャブに為す術がない巨獣。しかし、あくまでジャブ、決定打には程遠い。
(想像通りのタフネス……小技をいくら当ててもKOは無理か……なら!)
「次の一手を考えて動きなさい。そしてその一手を実現させるために相手を動かしなさい。主導権を握るの。あなたのパワーなら、それができるはず」
(ジャブは布石……上半身に注意を引き付けて……)
「ホッ……!!」
メタルラリゴーザは更にガードを固め、盾で上半身を、そして自らの視界を覆った。
「今だ!!」
完全に敵は自らの下半身のことなど忘れたと判断したパワーはしゃがみ込み、足を伸ばして、ターン!足払いだ!
「ウホオォッ!!」
ブゥン!!
「……なっ!?」
しかし、直前で気づいたのか、野生の勘で勝手に身体が動いたのか、メタルラリゴーザはその場で軽く跳躍!足払いを見事に避け切った!
(やられた!まさかこの攻撃が避けられるとは……)
渾身の作戦が失敗し、ショックで頭が真っ白になりそうになるリキ。そんな彼に記憶の中の上司が再度声をかける。
「まぁ、狙った通りにならないこともあるわ。でも、落ち込む必要ない……というより戦闘中にそんな暇はないわ。すぐに気持ちを切り替えて、次の手を考えなさい」
(そうだ!次だ!!)
ほんの一瞬の時間、けれど脳ミソをフル回転させたリキにとっては世界はスローモーションに見えた。
(この状況、自分に、パワーがすべきことは!)
空中でこちらを見下ろす巨獣の姿を見て、リキは決断した……。
「パワーDホーン!!」
ドゴォン!!
「――ウホオォォォッ!!?」
落ちてくる巨獣をその立派な角でかち上げ、より高く吹き飛ばすことを!
「空中なら身動きは!!」
さらに追撃!パワードレイクは容赦なくナックルを巨獣に撃ち出……。
「……いや!違う!」
撃ち出そうとした瞬間、身体中に悪寒が駆け巡った。リキは咄嗟に全ての行動をキャンセルし、再び思案に入る。
(このまま撃っても当たらない気がする……ただの勘だけど……勘はバカにはできない!)
「一瞬の閃きとか、直感を蔑ろにしちゃ駄目。それなりに場数を踏んでいくと、本能か経験則か、反射的に最適解を出せるようになるものよ。余裕があるなら、熟考して、しっかり言語化してから行動に移すのがベストなんだけどね」
(このままでは当たらないと思った理由……それは相手が“メタルオリジンズ”だから……自分がさっき戦ったヤーマネと同類ならきっと!)
「ウホオォォッ!!」
ブシュウッ!!
「ビンゴ!!」
メタルラリゴーザもまたスラスターを使い、空中を移動できた。もしさっきのタイミングでナックルを撃ち出していたら、きれいに空振っていたことだろう。
「案の定って奴ですね。そしてその巨体はヤーマネほど軽々と動かせないことが、今の動きでわかりました。それさえわかれば今度は自信を持って撃てる!!」
ドン!!
今度こそのナックル発射!巨大な拳は炎を勢いよく噴射しながら、メタルラリゴーザの移動先へ先回りする!
「当たれ!いや、当たる!!」
ガァン!!
「――ウホッ!?」
ナックルは見事命中!しかもそのまま鋼の巨獣を吹き飛ばすのではなく、乗っけて空中を飛び回っている!
「さぁ……総仕上げだ!!」
「戦う場所は大切よ。できるだけ自分が有利な場所で戦うことを心がけなさい。敵が苦手な場所でもいいわね。その両方を満たしている場所なら……最高にハッピーね」
「自分と、パワーにとって最高にハッピーな場所は……そこだぁぁッ!!」
バリィィィィン!!
メタルラリゴーザはナックルと共にガラスを突き破り、海へと飛び出す!そして、ある程度沖に出ると……。
「ウホォッ!?」
バシャアァァァァァン!!
叩き落とした!メタルラリゴーザは自分の身長を遥かに越える水柱を上げて、海中へと沈んでいく。
「ウ……ボオォォォォッ!!」
巨獣は慣れない水中に慌てる……ことなく、冷静に体勢を立て直す。
そんなメタルラリゴーザの前に、彼をこんな場所にエスコートした黄色の竜が両拳を巨大化させて、潜ってきた。
「これもどちらか判断に困りますね。元からラリゴーザは泳げましたっけ?まぁ、なんにせよちょっと泳げるくらいじゃ、海中でパワードレイクには勝てませんよ。個人的にはいまだに理解できないんですけど、天才メカニック曰く、“黄色のパワー担当は水中戦が強くないと駄目!”……らしいです!!」
「ウボォ!?」
メタルラリゴーザの回りを、パワードレイクが高速で旋回し始めた!そのスピードは地上にいた時よりも遥かに速い!
「シュアリー二番目のインファイターと言いましたけど……ここではパワーは文句無しのナンバー1です!!」
ボンボンボンボンボンボンボンボン!!
「――ウボォ!!?」
水の抵抗をものともせず、パワードレイクは囲むように、巨獣を殴り続ける!あまりのスピードに、動きが鈍っているメタルラリゴーザはガードも回避もできない!
「だいぶ弱ってきた……それじゃあ再び地上に戻りましょうか!!」
パワーは巨獣の下に潜り込むと、胸の装甲を展開する。そして姿を現したのは二対のフィン。それが高速で回転し始めると、二本の渦が生まれ、メタルラリゴーザを巻き込んでいった!
「パワーDサイクロン!!」
ブオォォォォォォォォォォォッ!!
「――ウボオォォォォッ!!?」
渦の力で装甲が砕け、三半規管が乱れ、高性能センサーがショートした!そしてそのまま地上へと押し出される!
バシャアァァァァァン!!
先ほどとは逆に激しい水しぶきを上げながら、メタルラリゴーザが海中から放り出された!
そしてやはりその後を追ってパワードレイクも飛び出し、鋼の巨獣の眼前に……。
「心を縛られし、悲しきモンスターよ……元には戻れないかもしれないけど、必ず平穏に過ごせる場所に戻して上げますから……少しの間、眠っていてください!!」
黄色の竜は巨大化した両拳を同時に撃ち込んだ!
「パワードレイク!ダブルハンマーナックル!!」
ドゴオォォォォン!!
「――ッ!!?」
パワーの全力の一撃を喰らった、メタルラリゴーザはこれまた今までの動きを巻き戻すように、破れたガラス窓から、ダイナミックにサイバーフィロソファー本社に帰宅した。そして帰るや否や、身体を大の字にして、穏やか……とは言えないかもしれないが、とにかく眠りについた。
「よいしょ……」
少し遅れて勝者である黄色の竜も戻ってくる。
「すいません……自分が至らぬばかりに、こんな乱暴な手段しか取れなくて。必ずあなたをこんな風にした奴を自分が、シュヴァンツが懲らしめますから、それで許してくれると嬉しいです」
パワードレイクは両拳をガチャンと勢いよく合わせると、鋼の巨獣にありったけの謝罪と尊敬の念を込めて、頭を下げた。




