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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
72/194

知性と野生

 黄色の竜の背中は以前よりも大きく見えた。

 パワードレイクを纏っているから実際に巨大化しているのだが、それ以上に中身である飯山力が人間として、戦士として逞しく立派に成長し、頼り甲斐が溢れているせいだろう。

 今の今まで怒髪天を衝きそうだった神代藤美は感極まって、ちょっと泣きそうになった。

「……任せていいのね?」

「はい!メタルヤーマネが背中から腕を生やした時は戸惑いましたけど、どこかザッハークと似ているなと気づいてからは、結構余裕を持って対処できたんで。かなりタフだったから、力入れて殴ったのは心を痛めましたけど」

 リキの言葉通り、彼が相手していた鋼の獣はシェヘラザードと相対していたメタルビトントのように、頭部の生身の部分を強打されて、絶賛夢の世界へ旅行中だった。

「ダメージがないのは、わかったわ。でも、ワタシよりあなたがメタルラリゴーザを相手にすべき理由は」

「前に霧が立ち込める森の中で、キマティースと戦った時と同じですよ。全力を出せないボスでは、丈夫さに定評のあるラリゴーザと戦うのは分が悪い。ここは力だけが取り柄の自分の出番です。まぁ、あの時のボスの不調は嘘でしたけど」

「……最後に嫌味を足せるくらい頭も回っているようね。了解したわ、あなたの指示に従う。ワタシは……」

「ボスの相手はもちろん敵のボスです。諸悪の根源をとっ捕まえてください」

 シェヘラザードとパワーはメタルラリゴーザの警戒を解かないまま、こちらを生意気にも見下ろす松田に視線をやった。

「隊長さんの実力もさることながら、部下も優秀なようだ」

「ワタシにはもったいないくらいよ」

「そこについては正直羨ましいね。表の仕事でも、裏の仕事でも私が心から信頼できる人間は榊原しか現れなかった」

(はっ!どの口が言ってんだ!俺のことも、大して信じてねぇ癖に)

 榊原は平気で嘘をつく雇い主の態度に呆れ苦笑いを浮かべた。

「じゃあ、その信頼できる部下に自分を守ってって、泣いてお願いしたら?」

「いざとなったらそうするさ」

「今がその“いざ”じゃないの?」

「違うね。まだうちには在庫が残っているから」

 もう何度目かわからない松田の指パッチン!今回出てくるのは……。

「…………」

「…………」

「キィィィィィッ!!」

「ニャアァァァッ!!」

 今まで倒してきたP.P.ドロイド版ルードゥハウンド、ダーティピジョン、メタルビトント、メタルヤーマネが勢揃い!最高傑作らしいメタルラリゴーザを中心に横並びになった。

「本当に……在庫一斉セールって感じね……!」

「せっかくシュヴァンツ一の力自慢と、我が社一番のパワーファイターとのバトルだ。ゆっくり観戦させてくれ」

「少しの間だけね。すぐにあなたにも戦いの喜びと恐怖を教えてあげるわ」

「そうなるといいがな」

「「………!!」」

「キィィィィィッ!!」

「ニャアァァァッ!!」

 純正の機械鎧と、半機械の鳥と獣は一斉にシェヘラザードへと襲いかかった!

「リキ!あいつの言う通りになるのは癪だけど、こいつらはワタシが引き付けておくから、メタルラリゴーザはお願いね!!」

「押忍!!」

 こうして場にはパワードレイクとメタルラリゴーザ、巨大な闘士が二人残された。両者は真っ直ぐと対戦相手と対峙する。

「ウホオォォ……!!」

「ラリゴーザ……!」

 ラリゴーザの本来の巨体を鋼の装甲で覆い、両腕には盾を装備、顔はビトント達と同じく半分は銀色の仮面に侵食されていた。その姿にリキは改めて憤慨する。

「今すぐ君を解放してあげるからね……!だから大人しくしていてくれ!!」

 リキの想いに応えるように背中から伸びる円形に並んだ銃口が高速回転し始める!そして……。

「パワーDガトリング!!」


バババババババババババババババッ!!


 そこから絶え間なく弾丸を発射!端から見ると、黄色の竜の両肩からまるで流星群が発生しているようだった。

「ウホオォォォッ!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 しかし、両腕の盾によって全て弾き返されてしまう。

(昨日の傭兵のようにはいかないか……さすがに最高傑作を謳うだけはある。だが、遠距離戦ではこっちに分が……)

「ウホオォォォォッ!!」


ビシュウゥゥゥゥッ!!


「――ッ!?」

 メタルラリゴーザの仮面の部分からビームが発射される!咄嗟にパワーは頭を動かし、事なきを得たが、一瞬でも遅れていたら、額に穴が開いていただろう。

「そりゃそうか……ビームは標準装備だよね。そして、相手の体勢を僅かでも崩したら、自分なら……」

「ウホオォォォォォォォォッ!!」

「やっぱり……!!」

 メタルラリゴーザは地面を力強く踏み込み、一気に距離を詰めてきた!勢いそのままに成人男性の胴ほどある腕を振りかぶると……。

「ウホオォォォォッ!!」

 黄色の竜の顔面に向かって撃ち込んだ!

「パワーDナックル!!」


ドゴォン!!


「――ウホッ!!?」

「――くっ!!?」

 パワーはそれを一回り大きくした拳で正面から迎撃したが、結果は引き分け、両者の腕は反動で跳ね上がる!

(あんな雑なフォームでこれだけの威力……!元々そうなのか、強化されたせいなのかわからないけど、まともに喰らったら、パワーでもヤバい……だが!!)

「ウホオォォォォォォォォッ!!」

 鋼の巨獣は懲りずにおもいっきり腕を振り上げ、すぐさまそれをパワーに向かって、撃ち下ろす!けれど……。


ブゥン!!


「そんな大振り!!」

 パワードレイクはあっさりと回避!パンチに伴い巻き起こった風だけが、黄色のマスクを撫でた。

「ウホオォォォッ!!」


ブンブンブンブンブンブンブンブン!!


 メタルラリゴーザはその余裕の態度に憤りを覚えたのか、両腕を全力でぶん回した!まるで拳の暴風雨!しかし、パワードレイクはその全てを余裕を持って躱していく。

(まるで昔の自分、ボスに鍛えられる前の自分みたいだ。力任せで隙だらけ……これなら!!)

「ウホオォォォッ!!」


ブゥン!!


「――ウホ!?」

 一際大きく振りかぶったパンチを躱すと、次の攻撃に行くまでの僅かな間にパワーは鋼の巨獣の懐に入り込んだ!

「もらった!!」

 パワーは踏み込みと同時に、メタルラリゴーザの顎にアッパーカットを……。

「ウホ」

「……え?」

 アッパーを放とうとした瞬間、メタルラリゴーザと目が合った。刹那、リキは理解する……自分はまんまと嵌められたのだと。

「ウホオォォォォォォォォッ!!」

 メタルラリゴーザは瞬く間に体勢を整えると、今までとは全く違うコンパクトなモーションでボディーブローを繰り出した!

「この!?」


ドゴォ!!ドゴオォォォォン!!


「――がはっ!!?」

 脇腹に凄まじいパンチを受けた黄色の竜はその巨体を浮かせ、吹き飛び、壁に叩きつけられ大きなクレーターを作り出した。

「……ッ!?くそ……やられた……!!」

 壁にバウンドし、そのまま前のめりに倒れるかと思われたパワードレイクだったが、なんとか両足で地面を掴み、かろうじて立っていることができた。

(多分、以前の自分だったら、パワードレイクでも一発ノックアウトだった……ボスに耳がタコができるくらい相手の動きに注意することと、防御について、教えられたから……)

 リキの脳裏に訓練室で自分を指差し、半ギレで話す上司の顔が思い浮かんだ。


「自分の丈夫さに自信があるからって、正面から攻撃を受けようとしない!避けられるものは、できるだけ避ける!避けられないなら、場合によるけど……力を抜きなさい。下手に身体を強張らせて攻撃を喰らうよりもマシになる。流れに身を任せなさい!自分が宙に舞う紙になったと思ってね」


(……ボスの言う通り、咄嗟に力を抜いたおかげでダメージを最小限に抑えることができた……とはいっても、この感じだと下手したら、肋骨何本かもっていかれたかもしれないけど……)

 黄色の竜は砕け、ひび割れた脇腹の装甲を労るように優しく擦った。

(それにしてもさっきのフェイントにモーション、まるでボクサーそのものだ。単純に肉体だけでなく、頭脳の方も強化されているのか……昔の自分と似ていると思ったのは勘違いだったな。あの時の力の使い方を知らなかった自分よりも遥かに賢い。野生と知性が見事に融合している……!)

 悔しいが、リキはメタルラリゴーザの完成度に感心を覚えてしまった。もちろん同時にまた怒りの炎が更に燃え盛ったのだが。

(ただ悲しきモンスターという点ではかつての自分と一緒……ならば、今の自分が負けるわけにはいかない……!!)

 パワードレイクは脇腹から手を離すと、足を開き、両腕を上げ、ファイティングポーズを取った。

「そっちが野生と知性の融合なら、自分だってそうだ!この生まれ持った怪力と最新のマシン!そしてボスのトレーニングで鍛えられた飯山力こそがシュアリーで二番目のインファイターだってことを教えてあげますよ!!」


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